異変
マッシュの麻痺毒をもろに浴びたセレナだったが何事もなく、それどころかマッシュの急所に短剣を突き刺し相手を倒してしまった。
何がどうなってんだ?
「ふふふ、不思議そうな顔をしているわね」
「うん、体は大丈夫なの?」
「ええ、何ともないわよ」
「よかった。でもどうしてなの? まともに麻痺毒を浴びたよね? もしかしてさっき飲んだあの液体の影響?」
「察しがいいわね。正解よ」
やっぱりカラクリはあの液体のようだ。
それについてセレナが俺に丁寧に説明してくれた。
結論から言えばあの液体は麻痺毒の解毒剤だ。
飲めば10分間は麻痺毒を受け付けず、だからマッシュの胞子をまともに浴びてもなんともなかったと言うわけだ。
麻痺にさえならなければマッシュは文字通りの雑魚なので10分もあれば倒し切るのはそう難しくない。
魔法や投げナイフが使えない初心者冒険者達にしてみれば一番簡単で且つ安全な討伐方法なのだ。
「分かった? これがマッシュの倒し方よ」
「うん、よく分かったよ! ありがとう!」
「ふふ、いいのよ」
「でも次からは事前に言ってね。マッシュの麻痺毒を浴びた時はひやりとしたよ」
「あらあら、心配してくれたの? 嬉しいわね」
そう言いつつ悪戯っぽく笑うセレナに対し俺は黙って睨むことしかできなかった。
一緒にいる時間は短いけど心配するぎらいの仲には当然なっているからな。
「ふふ、ごめんね坊や。次からは気をつけるわ。だからもう睨まないで」
「はっはっは! 本当お前ら随分仲良くなったもんだな!」
「本当の姉と弟みたいじゃのう! ガハハハ!」
「そ、そんなんじゃないよ!」
戦闘後とは思えないほど場が和んでいるが先を急ぐ俺たちはさっさと作業を済ませて奥へ進むことにした。
奥へ進むにつれ魔物の出現も増えたが、全ての敵を瞬殺した俺たちの進行は予定より遅れることもなかった。
それなのに今俺たちは足を止めて目の前の光景に唖然としている。
なんじゃこりゃ。
今俺たちは大きな森の広場とも言える場所に立っているが、見渡す限りのキノコきのこキノコ。そう、マッシュの群れである。
「珍しいな。マッシュはそんなに群れないはずなんだけどな」
「ええ、アタイも初めて見るわ。これはちょっと異常ね」
「それに奥のアレはやっぱアレかのう」
「・・・だろうな」
マッシュは派手な外見をしているから知ってさえいれば発見するのは難しくない。目の前でじっとしている大量のキノコがマッシュであるのは間違いないだろう。
だからこそ奥にポツンと生えている巨大な緑色のキノコの違和感が半端ないのだ。
きっとあれは変種だ。
これだけマッシュがいる中であんな不気味なキノコが生えているはずがない。そもそもあんな馬鹿デカく毒々しい緑キノコなんか存在して堪るか。
《はい、あの魔物は変種で間違いありません》
お、なんか久々だな・・・
《マスターがセレナの足に夢中だったので控えていました》
っおい!?
本当かもしれんが、それを直で言うか!?
まぁセンセイとは一心同体みたいなもんだからいいっか。
《・・・》
でもやっぱりそうか。
能力とかは分かるか?
《いいえ、変種はこの世界の理から外れています。能力までは分かりません》
そうだよな。それが変種だ。
はぁ、やっぱりフラグは立てるもんじゃないな。
センセイの助言で相手が変種だと分かり俺は気を引き締めるが、ロイスたちも同様に警戒心を高めていた。
「多分ただの麻痺毒・・・ じゃないわよね。初めて見るから面倒ね」
「あぁ、麻痺だけとは思えねーな。念のため毒の解毒剤も飲んどけよ。様子見と行きたいところだが長引くと厄介だ。瞬殺でいくぞ」
「そうじゃな。だが奥のヤツを倒すにはまずマッシュの集団を倒さんとのう」
未知の敵ほど怖いものはない。ベテラン冒険者だからこそより一層それを理解している。経験から毒系の魔物は長引くと不利になるから短期決戦を選択したようだ。
なら俺はそれを手伝うだけだ。
「それなら僕に任せて。数を相手にするのは得意だよ」
「そうだな。魔法の方が相性がいいだろう。マッシュの殲滅を任せられるか」
「うん、大丈夫だよ」
「なら任せるぞ」
「坊やの活躍に期待してるわ」
「その後のことはワシらに任せな」
ロイスの問に力強く答え、皆は俺に期待を寄せる。
できるかもじゃだめだ。やらなきゃいけないんだ。
それは俺にも分かる。
俺だってパーティの一員だ。任されたからにはしっかりやり遂げてみせる。
「じゃあ行くよ」
俺の合図に皆が頷くのを見て俺は体内の魔力を高める。
ひーふーみー・・・ 全部で30匹か。ガトリングを使うのはちょっと勿体無いな。
それなら――
「ファイアボール」
俺の頭上でマッシュの数と同じく30個ものファイアボールが生成され、俺はそれぞれのターゲットを意識しロックオンさせた。
後は発動のトリガーを引くだけだが、後ろからセレナたちの声が聞こえる。
「実際に見るととんでもないわね」
「ガハハハ! 本当フザけた坊主だわい!」
「はっはっは! まだまだルイはこんなもんじゃねーけどな」
セレナとデュートは初めてこれだけの魔法を同時発動させる光景を見たわけだから驚くのは分かるが、緊張感失くし過ぎじゃないかね?
まぁ、ロイスたちの心配は無用だろう。ベテラン冒険者が3人もいるのだ、本来俺の出る幕もなかったかもしれない。
そう思いつつ俺は魔法のトリガーを引いた。
ドドドドドドォォオン!!
30発ものファイアボールが次々とマッシュに命中し爆発が巻き起こる。直撃したマッシュを見るとそれぞれ燃え上がりあの奇妙な悲鳴をあげていた。
よし。
これで全部倒せたはずだ。
さて、ロイスたちはどう行動に出るのか。
「まずはアタイね。急所が見当たらないけどきっとどこかにあるはずね」
セレナが懐からまた飛びナイフを取り出す。
ただし今回はそれぞれの手に3本ずつと計6本のナイフを持っている。そしてマッシュの変種に向けて同時に両手のナイフを放ち変種の傘の部分と胴体に命中した。
「ブゥォォオン!!」
変種が奇妙な悲鳴をあげて苦しんでいるが、どうやら致命傷には至っていないようだ。
「あら残念、どうやらはずれのようね」
「気にすんな、ちゃんと弱ってるじゃねーか。次は俺たちの番だな」
「ワシから行くぞい」
そう言った瞬間デュートがハンマーを上段に持ち上げて変種に飛び込む。意外とスピードも早いんだな。
一瞬で変種まで踏み込んだデュートがハンマーを振り下ろそうとした瞬間、変種の傘から大量の緑色の胞子が勢いよく噴出され、堪らずデュートは後ろへと下がった。
「大丈夫か! デュート!」
「あぁ、平気だ! どうやら解毒剤はちゃんと効いておるようじゃ」
「でも胞子の量も色も違うし、同じ効果だとは思えないわ。警戒は解かない方がいいわね」
仕切り直しだ。
デュートの様子を見ると毒には犯されていないようだ。なら一体あの胞子はなんだ? マッシュと同じ麻痺毒にしては量が多すぎるような気がする。
噴出された胞子は宙を漂い、今やこの広場全体に蔓延している状態だ。
「お、おい、あれを見ろ!」
ロイスの声に俺たちも同じ方向を見るが、驚く事態が起きた。
先ほど俺が倒したはずのマッシュたちが次々と蘇り、しかも体の色が赤から緑に変色していた。
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次話は26日10:00に投稿する予定です。




