初めての魔法
※内容修正 2017年11月3日
「ルイ、じゃあママが魔法を見せてあげるね」
そう言ってマリーは俺をベッドに戻し、人差し指を向けてくる。
「火よ闇を照らせ、ライト」
呪文を唱えると人差し指の先から小さな火の玉が生まれ宙に浮かぶ。
すげー!
本物の魔法だ!
「あう! あいー!」
「はは、ロイス分かった? ルイはやっぱり魔法に興味があるみたいね」
マリーは子供っぽく笑い、ロイスはなんとなく悔しそうな目をこちらに向けてきた。
「ふん、もう少し大きくなって一緒に剣術を始めたらきっとルイも剣術の良さが分かるさ」
完全に負け惜しみである。
そんなロイスを無視して俺は再び火の玉に目を向ける。
小さな火の玉が指先に浮かび光を発しており、特に熱は感じられない。そしてマリーが指を動かせば火の玉もそれに合わせて一緒に動いた。
おぉ!
多分レベルの低い魔法なんだろうけど、目の前の魔法に感動せずにはいられない。
あれ?
なんだこれ?
火の玉をよく見ると周りにダイヤモンドダストのようにキラキラ輝くものが見えた。
そして次の瞬間マリーが出した火の玉にも変化が起きる。
「あら? 今日は魔法の調子がいいみたいね」
火の玉は先ほどより少し大きくなり、発していた光も若干増した。
調子で魔法の強度が変わるのか?
《いいえ、今の現象はマナとの共鳴によるもの》
共鳴?
どういうことだ?
《この世界はマナの力により維持されており、空気と同じように至るところにマナが存在しています》
ふむふむ。
《そしてシャルワーナ様の加護を持つマスターがいるとその周辺のマナは活性化されます》
うーん、そもそもそのマナの活性化ってなんだ?
《現在世界のマナは休眠状態にあります。その状態から呼び覚ますことを活性化と言います》
なんかよく分からんな・・・
なんで休眠状態になったんだ?
《その問に答える権限がありません》
なんじゃそりゃ。
まぁあの女神も詳しい理由は言えないって言ってたしな。
じゃあ俺がいるだけで休眠状態のマナが活性化されるって訳だな?
《その通りです》
なるほど。
だからあの少女は俺がいるだけでも活性化が進むと言ったのか。
じゃあさっき言った共鳴ってのは何だ?
《魔法は術者の魔力により現象化されますが、活性化されたマナは魔法を強化させる力を持っています。このことをマナの共鳴と言います》
んー、じゃあ共鳴したらそのマナは消えるのか?
《はい、魔法と共に消費されます》
だめじゃん!
なら魔法使ったら活性化した分どんどん無くなるんじゃ!?
《いいえ、マナは空気と同じように世界に広がっています。無限ではありませんが、個々の魔法ぐらいでは使い切れません》
そ、そうか。
俺がいくら酸素を吸っても自然界の酸素が無くならないようなもんか。
なら俺がいると周りで使われた魔法全て共鳴が起きて強化されてしまうのか?
《共鳴させるかはマスターの意思次第です。先ほどは無意識による共鳴ですが、対象も強度も制御可能です》
だよな。
そうじゃないと俺がいるだけで敵まで強くなっちゃうもんな。
あれ? 敵? いんのかなぁ。
あと制御は意思次第と言ってもまだ魔法についても全く分からんからな。
後回しにするか。
いや、待てよ?
じゃあマナの活性化って結局は女神の加護のお陰じゃないのか?
《活性化の根本は確かにシャルワーナ様の加護ですが、それを起こすのは加護を持つマスターです》
なんか哲学っぽい事言うな・・・
じゃあ女神の加護を持ってれば誰だって同じことができるんじゃ?
《いいえ、マスターのように特別な魂を持つ者でないと加護に耐え切れず魂が崩壊を起こします》
今さらっと魂が崩壊するとか怖いこと言ってるけど、かなり危険なんじゃ・・・?
俺、大丈夫か?
《既にシャルワーナ様の加護はマスターの魂に刻まれていますので問題ありません》
本当かよ!?
でもまぁ今更か。
大丈夫だと信じるしかないだろ。
大丈夫。きっと大丈夫。よし。
それにしても本当にいるだけでマナを活性化できるんだな。
なら俺はただ普通に生活してるだけで世界は力を取り戻せる・・・のか?
《・・・っふ》
小馬鹿にされた!?
今バカににしたよな!
世界の声ってそんな感情まであんのか!?
《今ここで活性化されてたマナは微々たるもので到底世界に影響を与えられる規模ではありません》
さらっと流しやがったな・・・
なら世界の力を取り戻すにはどうしたらいいんだよ。
世界のマナを活性化させるには何をすればいいんだ?
《その問に答える権限はありません》
使えねー!
何となくこの流れは予想してたけど。
《・・・》
何となく世界の声の機嫌が下がった気がしたが無視した。
「ルイ、ママの魔法見た? すごいでしょ。ルイが見てるからママも張り切っちゃった」
マリーが魔法を解除して再び俺を抱き上げる。
笑顔を向ける彼女を見るとやはり美人だ。前世の俺なら目を合わせることすらできなかっただろう。
「お腹もいっぱいになったし、またおねんねしましょうね。早く大きくならないとね」
俺の頬にマリーがキスし、再びベッドに戻す。
赤ん坊の体だからかその瞬間から睡魔が襲ってきて俺はそれに逆らわず瞼を閉じた。
――その日の夜――
目を覚ました時は既に日が暮れていた。
赤ん坊をこんな風に放置しても大丈夫なんだと初めて知ったよ。
改めて現状と今後のことを整理してみる。
俺は異世界に転生し、これから新たな人生を迎えるわけだ。
前世のような悔いは残したくない。
通常、赤ん坊の時は何も出来ずにただ時間を過ごすだけだが、前世の記憶を持っている俺はできることも多いはずだ。
剣と魔法が行き交うこの世界は前世と違い死と隣り合わせであることも多いのだろう。充実した人生を送るには大きな力がいる。
これまで読んできた小説から使える知識を探す。
ベタだが、やっぱり幼少時代から魔力を鍛えた方が成長は早いのだろうか。
《はい、成人より幼少時代の方が魔力成長率は高いです》
お、おう。
いきなり話しかけられてびっくりしたぜ。
どうやらこの世界でも同じらしい。
センセイがそう言うならそうなのだろう。
ちなみにセンセイって世界の声のことだ。
分からないことを教えてくれるし、世界の声って呼びにくいし、だからセンセイと呼ぶことにした。
魔力強化が可能なら、それを第一にこれからの生活を送ろう。
赤ん坊に筋トレができるわけもないしな。
《いいえ、赤ん坊時代からでも筋力を鍛えることは可能です》
こらこら、普通赤ん坊に筋トレを勧めるか?
お前は鬼か!
《今は手足を動かすだけで筋肉を付けることが可能です。体の成長に合わせて負荷を増やしていくことで効率よく筋力を向上させられます》
あ、なるほど。
普通の赤ん坊には無理だが、俺ならやり方によっては可能になるのか。
理屈は分かるがセンセイが鬼であることに変わりはないな。
《・・・》
でもセンセイが言っていることは理に叶ってる。
魔力と筋力をここまで早い段階で鍛えられるのは大きなアドバンテージになるはずだ。
実践する価値は大いにあるだろう。
ところで、筋トレは分かるが、魔力はどうやって鍛えたらいいんだ?
《魔法を使い魔力が消費されると回復すると同時に魔力量は増加します。筋肉痛の後で筋肉が増加するのと同じ原理です》
分かっとるわ!
その魔法の使い方がわからないんだろ!
肝心の時に使えねーな。
《・・・魔法は言葉やイメージに魔力を乗せ現象化させる技術です》
なるほど。
ようわからん。
《まずは魔力を感じるところから始めます》
感じればいいんだな?
魔力、魔力、魔力、まりょく、まry・・・
当たり前だが、何も感じない。
魔力を感じるにはどうすればいいんだ?
《今日マリーが魔法を使用した時に見たマナを思い出してください》
ふむ。
《魔法の周りでキラキラしていたものがマナです》
ふむふむ。
確かにあったな。
《体内にもマナと同じようなものが存在します。それが魔力です》
なるほど。
《まずはマナを感じ、そして自分の中にある魔力を感じ取ってください》
考えてもよく分からないから、まずはやってみよう。
思い出せ。
今日見たキラキラをイメージしながら周りをじっと見つめる。
しばらくして俺の周りで小さな光が現れ、キラキラと輝きだした。
おお! 見えた!
《それがマナです。その感覚で体内の魔力を探ってみてください》
昼間は魔法に興奮してあまり気にしていなかったが、マナに集中するとしっかりその存在を感じとることができ。
今度は目を閉じ、自分の体に意識を集中する。
魔力、魔力、魔力、魔力、まりょk・・・
ん?
集中していると俺の体内にもマナと同じような暖かい存在があることに気づく。
そして更に集中するとその存在が大きくなっていくのを感じた。
おおお!
これが魔力か!
《はい、それが魔力です。そして魔力を練る感覚を体で覚えてください。当然難しい魔法程必要とする魔力も多いです》
まだぎこちないけど、何となく分かったぜ!
これで魔法が使えるんだな!
《はい、では呪文を詠唱して魔法を発動させてみましょう。マスターの知らない魔法の呪文は教えられないため、マリーが使用した魔法で試してください》
センセイから何でも教えてもらえると思っていたがそうじゃなかった。
魔法の呪文なんかは自分で覚えていくしかないようだ。
これも権限による制限ってやつか?
まぁ、それでもセンセイがいるのといないのでは大きく違うだろう。
マリーが使っていた火の玉の呪文は確か【火よ闇を照らせ、ライト】だったか。
集中して魔力を練り上げる。
これであの火の玉が使えるわけだ!
「あぉあいおえあえ、あいお!」
・・・何も起きなかった。
《まずは言葉を話せるようになりましょう》
やかましいわ!!
お読み頂き有難うございます。
おぉ・・・190PV!皆さんありがとうございます!
拙い文書ですが頑張ります!