冒険者の現実
少しだけグロテスクな表現があります。
苦手な方はご注意を。
「はっはっは! ビビってんなぁルイ!」
「うふふ、私たちが初めてゴブリンに遭遇した時を思い出すわね」
っちょ!
なんでそんなに呑気なん!?
このゴブリン明らかにおかしいっしょ!
ドーピングしてるよね?
こんなもん絶対低ランクじゃねーよ!
俺の動揺とは裏腹にロイスもマリーも平然としている。
それどこらか俺をからかう余裕すらある。
そりゃベテラン冒険者だから当たり前なのかもしれないけど、普通怖いからな?
「大丈夫よルイ、ゴブリンはとても弱いから声で相手を威嚇するのよ」
「はっはっは! そうだぜルイ、ありゃただの見掛け倒しだ」
え?
ハッタリ?
ゴブリンの方を見る。
じー・・・。
また目が合った。
「ギャゥッ!? ギャァアアアオオオオォォォオオオオ!!!」
や、やっぱ怖ええぇぇぇぇええええええ!
・・・あれ?
さっき一瞬ゴブリン動揺してなかったか?
恐る恐るもう一度ゴブリンの方に目をやる。
じー・・・。
「ギャォッ!?」
ササッ! ガサガサガサ!
あ、逃げた。
こ、っこいつ!
やっぱハッタリだったのかよ!?
「うふふ、弱い魔物はね、工夫して生存率を上げるの。威嚇して相手が怯めば攻撃するし、怯まなければあーやって逃げるのよ」
「はっはっは! ビビるルイもなかなか新鮮だったぜ」
「そうだったんだ・・・」
どうやら魔物の生存本能は動物より賢く凄まじいらしい。
でもまさかあの絶叫がハッタリとは思わなかった。
聞けばこの世界の冒険者はゴブリンにビビることから始まるらしい。
くっそー。
ビビらせやがって。
弱い犬ほどよく吠えるってもんじゃなかったぞ。
次会ったら絶対にシメる。
うん、決めた。
「次は私たちが倒すからよく見てて」
「さて、奥へ行くか」
そして俺たちは更に森の奥へと進む。
進むこと5分、再び気配のようなものを感じる。
ササッ!
ガサガサッ!
今度は二匹のゴブリンが俺たちの前に現れた。
「ファイアボール!」
「うりゃ!」
威嚇する前にマリーが魔法を放ち、ロイスが剣でゴブリンを切り捨てる。
次の瞬間には丸焦げと真っ二つになったゴブリンの死体が地面に転がっていた。
うっ、ちょっとグロいな。
「す、すごいね」
「母さんも捨てたものじゃないでしょ?」
「はっはっは! ゴブリンぐらいで大袈裟だな!」
いや。
そっちじゃなくて、死体と匂いのことを言ってるんだけどな?
でもまぁ一瞬で魔物を倒すこの二人も確かにすごいけど。
ゴブリンだけどな。
さっきシメると言ったけど、呆気なく倒される姿を見ると少し同情する。
「ルイ、今可哀想って思ったでしょ?」
え?
うん。
「こいつらはな、森に迷い込んだ人を平気で殺すし、女なら孕ましてから殺すんだ」
「そうよ。だから見つけたら倒すのが冒険者の義務よ」
「こいつらを見てると反吐が出るぜ。まぁこの森には人は滅多に来ねーから被害はほとんどないけどな」
あ・・・
そっか。
前世の知識で知ってたじゃないか。
こいつらは弱いとは言え、れっきとした魔物だ。
人々にとって百害あって一利なし。
これまで殺された人達のことを思うと同情が一気に消えていく。
ゴブリン悪い。ゴブリン殺す。
オーケー。
「うん、分かったよ」
「分かればいいのよ。魔物を殺すことに躊躇したら自分が死ぬし冒険者になる資格もないわ」
「まぁ、すぐに慣れるさ」
日本人だったからか、どうしても生き物を殺す行為には躊躇してしまうが、この世界で生きていくからには克服しなきゃいけない。
ロイスが言うように慣れていくしかないだろう。
そう思っているとマリーとロイスが死んだゴブリンに近寄る。
これって、まさか・・・
「じゃあ討伐証明と魔結晶を回収しないとね」
「ルイ、よく見て覚えろよ」
うん。
スプラッター映画よりきつかった。
片耳を落とすまではまだなんとかいけた。
マリーがゴブリンから魔結晶を回収とこはトラウマもんだったよ。
だって美女がいきなりナイフでゴブリンの胸部を切り裂き、心臓を取り出したかと思ったらまたナイフでぶった斬り、手で小さな結晶を引っこ抜くんだもん。
両手を真っ赤な血に染めながら笑顔で俺に「ね? 簡単でしょ?」って言われても困るわ。
やっべー。
冒険者思った以上にハードル高いかもしれん。
ないわー。
「ルイ、これが討伐部位と魔結晶よ」
とマリーがホクホク顔で俺に見せつけてくる。
討伐部位は過去に小説で読んだ通りゴブリンの右耳だった。
毎回討伐した魔物をそのまま運ぶわけにはいかないので、各魔物にはギルトで決められた討伐部位があり、それを冒険者ギルトに持ち帰ることで討伐を証明できるのはこの世界も同じらしい。
そして魔結晶は俺が知っている魔石と同じようなものだった。
魔物と動物の違いはこの魔結晶があるかないかで区別される。
魔結晶の用途は魔道具や儀式魔法で使用されるみたいで、これも俺が予想していた通りだった。
もっともゴブリンの魔結晶は小さく、込められている魔力も少ないから大した用途では使えないみたいだけどな。
「はっはっは! 最初はキツイかもしれねーがそのうち慣れるもんさ」
「うふふ、私も最初は苦手だったのよ。今はもう見ての通りだね」
うん。
マリーさんや、少し見る目が変わりそうだぜ
そしてロイスが横で真っ二つになっているゴブリンでもう一度俺にお手本を見せてくれた。
時間差で解体するのはきっと俺への親切だと思うが、吐くかと思った。
「よし、終わったな。後は後始末だな」
「ルイ、魔物を倒したらそのまま放置しちゃだめなのよ」
あぁ、放置すると更に強い魔物を引き寄せたりアンデット化するあれだろう。
案の定、俺が思っていた通りの理由をマリーが説明した。
「だから回収が終わったら埋めるか燃やすかしないといけないの」
「ルイは魔術が使えるから燃やした方が手っ取り早ーな」
「そうね。見てて」
マリーがゴブリンへファイアボールを放つ。
説明では通常の魔物は死んでしまったら魔法への抵抗が一切なくなり、ファイアボールでも簡単に燃えるそうだ。
でも上位の魔物には例外もいるそうで、その場合は分解して即座に埋めなければいけないことも教えてくれた。
まぁ俺の場合よっぽどの事がない限り魔法で対処できると思う。
そして、俺は目の前で異臭を放ちながら激しく燃えるゴブリンに目を向ける。
うん。
俺冒険者無理かもしれん。
お読み頂き有難うございます。
次話は明日17:00に投稿予定です。




