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星の世界  作者: 透水ゆえ
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1.内乱前夜──元気にしておくれ

「──風の精は羊飼いに助けてもらったお礼に、月から削りだした針と流れ星から掬った糸で青絹に刺繍をした、それは綺麗な手巾を譲ってくれました。


これはね、遥かな彼方の丘の上、花と一緒に夜空を見上げながら織り上げた絹なんだ。夜の内なら君の願いをなんでも叶えてくれるさ。


そういって、瞬く間に空の彼方へ飛び去って行きました。羊飼いが空を見上げると、星が瞬いています。羊飼いはとても疲れていましたが、羊たちを朝までに市場へ連れて行かなくてはなりません。そこで、布を使ってみることにしました。


夜の手巾よ、不思議な布。私に元気をおくれ。


羊飼いが岩の上でその布きれを振ると、まあ不思議。岩が白い大理石の食卓に変わり、ほかほか湯気のたった見たこともないような豪華なご馳走が、食卓いっぱいに現れたではありませんか!」


上がる歓声。


「どんなご馳走?!麺麭パンはある?」

「もちろん!」

「お肉は?」

「肉団子がゴロゴロ入った美味しい肉鍋も、みんなの大好きな塩タレをたーっぷりつけた巨大な串焼きも、こーんな大きなマル鶏の蒸し焼きもあるわよ!」

「それは大きすぎよ~」

可愛らしい笑い声。

「ほんとよほんと。あんまりに大きいから、天まで漂ってくる美味しそうな良い匂いを嗅ぎつけた星が次々落っこってくるくらいなのよ」

子どもたちの瞳と口がまん丸に開いた。

「お、お菓子は…?」

「卓に乗りきらないほどよ。まず丸い大きなお皿の上にあんころ餅に牡丹餅、黄な粉餅、柏餅や葛餅がたくさん並べられていてね、お隣には羊羹やおはぎ、お煎餅もあるの。お汁粉のお椀もあるわ。そしてね、お皿とお皿の空いた隙間をきらきらの金平糖が埋め尽くしているのよ」

つぶらな四組の瞳が素敵な想像に煌めく。

誰かの喉がこくっと鳴った。

「羊飼いはびっくり仰天して、おそるおそる一口食べてみました。羊飼いはまたまたびっくりして、こう言いました。


なんということだろう!こんなに美味しいご馳走は、生まれて初めて食べた!


そうして食卓の上のご馳走をぜんぶ平らげてしまいました。羊飼いの体にはみるみる元気がみなぎり、美しい星空の下、羊たちと一緒に踊りながら町へ歩いていったのでした」

ここですかさず懐から手巾を取り出す。

薄い青絹に銀糸で刺繍がされた、洒落た手巾。

「わあきれいね!」

「もしかしてふしぎなぬの?!」

「あたり。見ててね」

小さな食卓の前でちょこんと正座する子どもたち。

それぞれの前に一つずつ鎮座する椀の上に、それをひらりとかざしてゆく。

「不思議な布よ、不思議な布。美味しいご飯で真珠しんじゅを元気にしておくれ」

春玉しゅんぎょくを元気にしておくれ」

小芳しょうほうを元気にしておくれ」

幸倪しんにを元気にしておくれ」

手巾をさっと懐にしまい、期待のまなざしで自分と椀を交互に見つめる子どもたちににっこり微笑む。

「ほうら、なんだか良い匂いがしてきたわ。さ、温かいうちに美味しいご馳走を召し上がれ」

「いただきます!」

子どもたちは元気に手を合わせると、匙を手にして目の前のご馳走(・・・・)を食べ始める。

「はふ」

「おいしーい!」

「いつものよりおいしい!」

「ふしぎなぬの、すごーい!」

「そうでしょう、なんたって風の精の特別製だもの」

いちばん小さい真珠の口にふうふう冷ました粥の匙を運んでやりながら、私は子どもたちにもう一度微笑んだ。



ひとりに小さい木の椀ひとつ。

中身は刻んだ青菜をほんの少し混ぜただけの、いつもと変わらない、麦の塩粥である。

育ち盛りの子どもたちにこれだけしか用意できないことが、どれほど悔しいか。

子どもたちの気持ちが楽しくなるように頭を絞る毎日に、心中は情けない思いでいっぱいだった。

(ごめんね、お腹いっぱい食べさせてあげられなくて。ごめんね。いつか絶対、あなた達が何不自由なく暮らせるようにするから。ごめんね。ごめんね...)

心の中でたくさん謝りながら、今日も私は子どもたちに笑いかける。



ここは後宮。

権謀術数渦巻く美しい場所。

令嬢達が(ひし)めき、私達がやっと息をしていた頃。

外は嵐に吹き荒れ、内乱の手は密やかに、だが確実に近づいてきていた。

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