第63話 最深部
階段を下り続けること一時間――
灯りは徐々に頼りなくなり、視界が悪くなっていく。
ガーディアンビーストの姿は一切なく、ただひたすら降下を続けた。
そして、ついに辿り着いた最下層。
そこに広がるのは、圧倒的な数の――いや、山と表現するのが相応しいガーディアンビーストの残骸。
百や二百ではきかない。
一時間前、俺が放った《チェインライトニング》の爪痕。
ゴトッ……ギギ……
不穏な音が響く。
「……故障していない奴がいる?」
ガーディアンビーストの山の中で、何かが蠢いている。
故障した機械を仕留めるのは容易い。しかし――
「アリサ、警戒してくれ。まだ動いている奴がいる。カオリ、キョウヤ、ユッカはシルバの後ろまで下がれ」
俺が指示を出した瞬間――
「ユウト! 上!!」
アリサの鋭い声に反応し、反射的に上を見上げる。
そこにいたのは、異形の影。
銀色に輝く巨躯。
三メートルを超える体躯を持ち、六本の脚をうねらせながら、前脚には巨大な鎌。
その刃には無数の棘が並び、獲物を絡め取りながら切断する意志が見て取れる。
逆三角形の頭部には、光を鈍く反射する二つの複眼。
そして、獰猛な大顎が鈍い金属音を立てながら開閉していた。
――カマキリ。
それも、機械の殺戮兵器だ。
俺を仕留めようと、鎌が閃く。
「《ライトニング》!」
咄嗟に放った雷撃が命中し、巨体が一瞬痙攣する。
だが――
「……効かない!?」
一秒ほど動きが止まっただけで、攻撃モーションの隙はあるものの、すぐに再起動する。
「ならば――!」
俺は詠唱を続け、電撃の壁を発生させた。
「《ライトニングウォール》!」
轟く雷撃の檻。
機械仕掛けのカマキリは逃げ場を失い、そのまま電撃に包まれる。
十秒間の感電を確定させた。
「全火力を解き放て!!」
俺の号令とともに、全員が一斉に攻撃を叩き込む。
アリサの剣が閃き、シルバの槍が突き立ち、カオリの鉄拳が打ち込まれる。
キョウヤの短剣での攻撃とユッカの遠距離攻撃も的確に装甲を穿ち、俺はありったけの魔法を撃ちこむ。
その間に、俺は即座に《鑑定》を発動。
【名 前】ガーディアン・ジェノサイダー
【状 態】感電
【H P】24253/30000
【M P】0/0
【筋 力】???
【敏 捷】???
【魔 力】0
【器 用】200
【防 御】???
【魔 防】300
【パッシブスキル】
・《気配遮断》
「……強い!!」
間違いない。
こいつが、このエリアのユニークモンスターだ!
これだけの強敵――雷魔法を上手く使わないと全滅まであり得る!
十秒後、ガーディアン・ジェノサイダーが、唸るような金属音と共に感電から復帰する。
ガーディアン・ジェノサイダーが感電している間、ユッカがベリグランド塩水を浴びせるが、効果はほんの少しだけ。
電気が通りづらく、錆びにくい……そして、銀色の躰――こいつ、ステンレス製か?
復帰したガーディアン・ジェノサイダーは、わずかに焦げた銀色の外殻を軋ませながら、再び鎌を振りかぶる。
その鋭利な刃が閃き、空気を裂く音が響き渡る。
俺が後退すると同時に、アリサも素早く距離を取った。
代わってシルバが前に出る。
しかし、ジェノサイダーの一撃は重すぎた。
シルバの巨大な盾が衝撃を受け、彼の巨体ですら後方に押しやられそうになる。
しかも――盾越しのダメージでさえ、200を超える。
あのシルバがまともに喰らってこれなら、カオリやユッカが攻撃を受けたら一撃で戦闘不能になる可能性もある。
戦況を冷静に判断し、即座に指示を飛ばす。
「シルバ! なるべくお前にヘイトを集める動きをしろ! カオリ! 回復に徹しろ! 左下のHPバーを常に確認! 300以上削られたら即! 二人の回復が被っても構わん、とにかく安全第一だ! MPは気にするな!」
シルバが踏みとどまり、カオリが素早く回復の詠唱に入る。
その間、俺とアリサはガーディアン・ジェノサイダーの前に立ち続ける。
俺の魔法と、アリサの剣――俺たちの火力で、この怪物を削り取るしかない。
ジェノサイダーの攻撃が迫るたびに、シルバの後ろに退避し、盾の防御を利用する。
だが、奴の暴風のような一撃は、シルバを吹き飛ばしかけるほどの威力を誇っていた。
キョウヤもサポートに入るが、何発か攻撃をかわしたところで、巨躯の鎌が一閃し、彼を弾き飛ばした。
ダメージは深刻。
俺はその間にも、詠唱を続け、CTが解禁された魔法を次々と叩き込む。
だが――依然としてジェノサイダーのHPは2万を超えている。
「……足りねぇか……!」
アリサに《シルフィード》を付与し、ヒットアンドウェイを徹底する。
しかし、風の加護が切れた瞬間、完全に無傷というわけにはいかなくなる。
シルバも、キョウヤも、アリサも――少しずつ削られ、確実に劣勢になりつつあった。
さらに、シルバとカオリの回復魔法のクールタイムが間に合わなくなってきた。
――このままでは、もたない。
その時、ジェノサイダーの蒼白い複眼が、ある一点を捉えた。
盾を構えるシルバ――まさに今、奴の標的は彼だ。
両鎌が同時に振り上げられる。
いくらシルバといえど、左右同時の攻撃を防ぎきるのは不可能。
もしここでシルバが倒れたら、即座に全滅コースだ。
――ならば、勝負をかけるしかない!!
俺は咄嗟に右手を掲げ、最強の一手を放つ。
「《チェインライトニング》!!!」
紫電が炸裂した瞬間、ガーディアン・ジェノサイダーの銀色の躯に金色の雷撃が奔る。
稲妻は瞬時に拡散し、周囲のガーディアンビーストの残骸をも巻き込んで、空間全体を雷光が埋め尽くす。
雷鳴が轟き、部屋全体が閃光に包まれたその刹那――
【レベルアップ】
脳内にシステムの通知音が鳴り響く。
俺だけじゃない。アリサも、シルバも、カオリも、キョウヤも、ユッカも。
そう――
俺はずっと、これを切り札として温存していた。
HP、MPが全快するだけでなく、CTも上がる。
ジェノサイダーは感電から即座に復帰したものの、攻撃モーションは完全にキャンセルされていた。
――今が好機だ。
「雷魔法は本当にヤバい時だけ使う! とにかく全力で叩け!」
俺はすぐにアリサに《シルフィード》を付与。
彼女は風の加護を受け、音もなくジェノサイダーの背後へと回り込む。
正面からの俺たちの猛攻と、背後からのアリサの奇襲。
挟撃を受けたジェノサイダーは、明らかに戸惑いを見せた。
振り向こうとすれば俺たちの攻撃が、正面に注意を向ければアリサの剣が襲いかかる。
――いい流れだ。
しかし、削り切るにはまだ時間がかかる。
じわじわと回復が追いつかなくなり、ヒーラー二人の詠唱が間に合わない局面が増えてくる。
ジェノサイダーの鎌が鋭く振り上げられ、次の一撃が決まれば誰かが沈む――そんなタイミングで、俺は声を張り上げた。
「《ライトニング》!」
瞬間、黄金の雷撃がジェノサイダーを直撃する。
硬質な外殻に電撃が走り、再び痙攣するように動きが止まる。
感電によるわずかな隙――しかし、その一瞬が俺たちにとっては致命傷を防ぐ絶好のチャンスだった。
「今のうちに畳みかけるぞ!」
シルバが大盾を構え直し、アリサの剣が閃く。
俺も魔法のクールタイムを確認しつつ、次の雷撃のタイミングを見計らう。
ジェノサイダーのHPが10000を切る!
残り三分の一!
だが、ここからが本番だ。
瀕死となったジェノサイダーは、明らかに動きが激しくなる。
鎌の振りが鋭さを増し、回避する俺たちをなぎ払うように広範囲の攻撃を繰り出す。
その勢いに、シルバでさえ受け止めるだけで精一杯だった。
「チッ……! ここからがこいつの本領ってわけかよ!」
シルバが歯を食いしばりながら盾を押し返す。
衝撃で足元の鉄板が軋む音が響いた。
まずい……また回復魔法のCTが間に合わない!
すると、今度はキョウヤが叫ぶ。
「ユウト! 俺に《シルフィード》を!」
信じてキョウヤに風の力を付与すると、ジェノサイダーの懐に潜り、攻撃を二、三当てたと思ったら、突然背中を見せ、全力で戦闘から離脱する動きを見せた。
ヘイトはキョウヤに向かい、追いかけるジェノサイダー。
その間に俺たちは陣形を整え、マジックポーションをがぶ飲みし、全員のMPが全快。回復魔法のCTも上がる。
キョウヤはしっかりとCT管理をしていたのか、ちょうどいいタイミングで戻ってきた。
擦り傷が無数に見られるが致命傷ではない。
物凄い勢いで突進しながら鎌を薙ごうとするジェノサイダー。
さすがにそんな勢いをつけられたら、いくらシルバでも吹っ飛ぶに決まっている。
「《ライトニング》!」
ジェノサイダーの勢いを止め、スキルや魔法を叩き込む。
普段は、システム的硬直が残る《二段切り》や《残像剣》を嫌うアリサもここぞとばかりに叩き込む。
《残像剣》
【MP】30
【CT】120
【威力】0
【詳細】目にも留まらぬ速度で放つ四連撃。自らも残像するように動き、カウンターを受けづらい
さらに《ライトニングウォール》を使い、アリサに《シルフィード》を付与。
十秒間の感電中に、敏捷値のバフがかかったアリサの高速連撃。
このまま押し切れる!
そう思ったとき、フロアの中央付近に設置された大きな機械からガーティアンビーストが大量に吐き出される。
が、これも予測済み。
どうしてこんなにガーティアンビーストがここにいたのかを考えれば、自然と答えは絞られる。
十秒間の感電が切れると同時に、ジェノサイダーの近くにガーティアンビーストが到着。
「《チェインライトニング》!」
赤いエフェクトを残し、ようやくジェノサイダーは消滅し、ガーティアンビーストはその場で故障。
同時に、俺のアイテムストレージにNewの文字が浮かび上がり、さらにレベルアップの音。
「みんな! 撤退だ! 故障したガーティアンビーストは放置で! ジェノサイダーがいつ現れるか分からないからな!」
俺たちを追う奴はおらず、そのまま船に帰還した。




