第62話 深部へ
「ベッコベコにしてやんよぉぉぉおおお!!!」
カオリの怒声が、オイルリグの警告音をかき消すように響き渡る。
キョウヤとユッカは、初めて見るカオリのビーストモードに、ただ口をあんぐりと開けたまま硬直していた。
故障したガーディアンビーストにマウントポジションを取ったカオリは、まさにその言葉通り――容赦なく、拳で鉄塊をベッコベコにしていく。
俺はそんな二人の様子を見ながら、淡々と告げた。
「まぁ、そういうことだ。この件は他言無用で頼む」
「あ、ああ……にしても、すごいな」
キョウヤが呆れたように言うと、ユッカも頷く。
「うん……あれだけ豹変するなんて。よっぽどストレスを抱えてたのかも」
「そうだな。秘密主義の【雷光】に入りたいって言った理由が、なんとなく分かる気がするよ」
俺たちは《チェインライトニング》で故障させたガーディアンビーストをすべて殲滅し、オイルリグ内部の探索を開始した。
オイルリグには大小さまざまな部屋があり、そこではガーディアンビーストは出現しない。
代わりに、宝箱が多数配置されている。
特に広い部屋では、十個以上の宝箱が並んでいた。
その中のほとんどに入っていたのは――
【名 称】ベリグランド塩水
【重 さ】1
【詳 細】機械に浴びせると錆びる
試しにガーディアンビーストへと浴びせてみると、一瞬のうちに装甲が錆び、関節がギシギシと軋みながら鈍く動き始めた。
俺たちは雷魔法の恩恵で苦もなく倒しているが、普通に攻略しようとすれば、このアイテムが不可欠なのだろう。
さらに、今は重量制限で装備できないが、シルバ用の武器も手に入った。
【名 称】騎士の槍
【攻撃力】80
【重 さ】80
弓、矢、槌、斧――様々な武器が宝箱から見つかったが、今の俺たちにとってはどれも縁遠いものばかりだった。
このまま放置するのももったいない。そこで、俺たちが装備できない武器はキョウヤに譲ることにした。代わりに、彼らからは最新の情報と、余剰装備が出た際には優先的に譲ってもらうという条件付きだ。
探索を進めながら、宝箱の中身を回収していく。
ストレージや重量制限が問題になる場合は、一旦宝箱に入れたままにして、後で回収することにした。
もちろん、シルバとカオリの《エリアヒール》を適宜唱えながら進む。
探索開始からおよそ一時間――以外にも早くボス部屋と思われる場所を発見した。
視線の先にそびえるのは、煤煙を吐き続ける巨大な鉄塔。
その根元には、真紅に塗られた扉が威圧的に構えている。
だが、その異様な扉を前にしながらも、俺たちの関心は別のところにあった。
「なぁ……ベリグランド湖ではエアクロウもサハギンも、一度倒したら復活しなかったよな? でも、ここじゃガーディアンビーストが延々と湧いてるように感じないか?」
俺の疑問に、キョウヤが反応する。
ボス部屋付近までたどり着いたというのにもかかわらず、ガーティアンビーストが俺たちに追いすがってくるのだ。
「確かに……迷宮の魔物よりも経験値は美味しい。ボスにユウトの雷魔法が通用しない可能性もある。ここはクリアギリギリまで狩るか?」
皆がキョウヤの意見に賛成だった。
「じゃあ、ボス部屋にはギリギリで挑むとして、いったん船に戻ろう。マジックポーションにまだ余裕はあるが半分ほど使ってしまっているしな」
ガーディアンビーストの経験値は美味しいが、ここのフィールドにいる以上、常にシルバとカオリの《エリアヒール》を唱える必要がある。
俺以外の五人はすでに装備が整いつつあり、重量制限に引っかかり、余計な荷物を持つ余裕がなかった。
そのため、オイルリグで拾った装備品の回収は、すべて俺が担当することに。
本来なら、何度か船に戻り、装備品を街へ運ぶ作業を繰り返す必要があると思っていた。
しかし、船自体にアイテムストレージが備わっていることを発見。
これを利用しない手はない。
オイルリグで入手した装備品をすべてストレージに詰め込み、一度街へ戻る。
あらかじめキョウヤのパーティにも声をかけておき、彼らに不要な装備を譲渡。
その代わりとして、船のストレージには大量のマジックポーションを積み込んだ。
これで、回復のたびにいちいち街へ戻る必要もなくなる。
戦闘効率が格段に上がり、より効率的に経験値を稼ぐことができるようになった。
再びオイルリグへと上陸し、今度はボス部屋ではなく、ガーディアンビーストが湧いてくる方向へと進路を取る。
群れで襲い掛かってくる場合は、《チェインライトニング》で一掃。
五体以下であれば、俺とアリサのコンビネーションを軸に、あえて雷魔法を封じた近接戦闘で仕留める。
次々とガーディアンビーストを撃破しながら進んでいくと、やがてオイルリグを支える四本の巨大な支柱のひとつ、その真上へとたどり着いた。
その支柱は内部が空洞になっており、ぐるりと階段が張り巡らされている。
どうやら、ガーディアンビーストたちはこの下層から這い上がってきているらしい。
俺が先頭に立ち、慎重に階段を下りようとした、その瞬間――
ふっと鼻を刺す刺激臭が消えた。
違和感を覚え、ステータスを確認すると、そこには見慣れたはずの《弱毒》の表示がない。
「おい! ここから先は、弱毒効果がなくなってるぞ!」
俺の声に、仲間たちもすぐさま自身のHPバーを確認する。
その横に、ずっと表示されていた忌々しい紫色の毒マークは、完全に消えていた。
皆の表情がふっと軽くなったのも束の間――
『シンニュウシャ、シキュウハイジョセヨ』
無機質な警告とともに、下層から大量のガーディアンビーストが這い上がってきた。
それも階段からだけではない。
壁を垂直に駆け登る様は、まるで鉄製の蟲の大群のようだった。
その異様な光景に思わず身震いしそうになるが、アリサの手前、カッコ悪い姿は見せられない。
俺はすぐさま詠唱に入る。
「《チェインライトニング》!」
金色の雷撃が階段を駆け上るガーディアンビーストを穿ち、連鎖するように壁をよじ登るやつらにも伝播。
金雷が網のように広がり、下層へと轟音が響き渡る。
雷に貫かれたガーディアンビーストたちは一瞬で故障し、そのまま下層へと転落。
落下した衝撃でさらに連鎖的に破損し、エフェクトを残して次々と消滅していく。
レベルアップの音が頭に響く中、俺たちは迷いなく階段を下り続けた。




