↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷鳴士、世界を救う  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第2章 オイルリグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/63

第52話 トリセツ

「カオリ! 殴ったら下がれ! シルバはすぐにカオリの前に出られるように! アリサはいつでもカバーできるようにしてくれ!」


 俺の指示が九層の薄暗い部屋に響き渡る。


「おっしゃぁぁぁあああ!!」


 カオリが咆哮し、獣のように突っ込む。その勢いはまさに猪突猛進――否、制御不能な暴走列車だ。


「カオリ! 前に出すぎだ! ヘイトを集めたらシルバの後ろに下がれ!」


 だが、彼女はまるで聞こえていないかのように拳を振るう。敵が怯もうが、反撃しようが関係ない。ただ前へ、前へと突き進む。


「ちっ……! シルバ、カオリの前に出ろ! アリサは援護だ!」

「「了解!」」


 アリサとシルバが即座に動き、懸命にフォローに回る。


 アリサはカオリの隙を突こうとする魔物の首を刎ね、シルバは素早く距離を詰め、彼女に《ヒール》を唱え、カオリの前で巨大な盾を地に突き立てた。


 俺も魔法を使い、魔物たちを焼き払う。

 

 戦闘を終えると、カオリは我に返り、苦笑いを浮かべる。


「そんなことをやっていたら、いつか命を落とすぞ?」


 少しはマシになってきたが、それでもまだ猪突猛進が過ぎる。


「分かってはいるんだけど……なんか……こう……たぎっちゃうんだよね」


 カオリは困ったように笑いながら、拳をぎゅっと握る。


 自覚はあるのだろう。無鉄砲すぎることも、無謀な戦い方をしていることも。だが、それでも彼女は戦場で最前線を駆け抜ける。血潮がたぎり、理性が吹き飛び、ただ己の拳を叩き込むことだけを考えてしまうのだ。


「カオリ、パーティを抜けたら……やっぱり迷宮に潜るつもり?」


 アリサの問いに、カオリは少し視線を逸らす。


「たぶんね。なるべく目立たないようにするつもりだけど……」


「でも、ファンの子たちもどんどん迷宮に入ってるよね? そうなったら、カオリはさらに深い層で戦うしかなくなると思うけど……それ、本当に大丈夫?」


 鋭い指摘だった。夢野香織のファンの中にも戦闘職を選んだ者は多数いる。それだけではない。もともと戦闘職ではなかった者たちすら、職を変えたり、強者にキャリーしてもらったりと、あらゆる手を尽くして迷宮に挑み始めている。


 彼らの目から逃れようとすれば、選択肢はひとつ――より危険な深層へ潜ること。


 そして、今の彼女の戦い方のままでは、いずれ必ず命を落とす。


 そんな結末は――同じパーティを組んだ仲間として、絶対に見たくない。


 九層では少し危険な場面も増えてきた。だからこそ、今のうちに何とかしてあげたい。


 だが、その解決策が見つからないのだ。


 どうすれば、カオリが豹変せずに済むのか。あるいは、豹変しても元に戻せるのか。答えが見つからず、もどかしさばかりが募る。




 悩みを抱えたまま、セントラルシティへと戻る。


 すると、いつものように彼女のファンたちが集まり、少し沈んだ表情のカオリに駆け寄った。


「カオリン!? どうしたの?」

「もしかしてその男たちに嫌なことでもされた?」


 カオリは、一瞬だけ驚いたように瞬きをする。だが、すぐに完璧なアイドル――夢咲香織としてスマイルを浮かべた。


「そんなことないよ? 私はとっても元気だよ♡」


 ――やはり、そこはプロ。


 どれだけ心の内に悩みを抱えようとも、彼女はファンの前で絶対に崩れない。


 彼女と別れると、俺たちもそれぞれの帰路に就いた。




 アリサが夕食の支度をしながら、ため息混じりに呟く。


「どうしてああなっちゃうんだろう」


 その問いに、俺は肩をすくめて答えた。


「ハンドルを握ると豹変する人間もいるだろう。あれと同じようなものかもしれない」


「うん……分かるけど……一人じゃいつ死んでもおかしくないから、最終手段は私たちのパーティに入れることになる?」


 彼女の言葉に、一瞬考えたが、首を横に振る。


「いや、それだけはないな。自制できるようになるか、最悪でもあのバーサーカーモードを解除できる手段さえ見つかれば、パーティに迎えてもいい。だが、それができないなら――Noだ」


 包丁を握るアリサの手が、一瞬止まる。


「彼女が無謀に突っ込むたびに、俺たちまで命の危険にさらされる。パーティメンバーが危険にさらされたら……アリサ、お前は放っておけないだろう?」


 彼女は静かに息をつき、再び食材を刻み始めた。


「……うん。放っておけない」


 その声音には、迷いも戸惑いもなかった。


「ハンドルを握るから性格が変わるのであれば、武器を取り上げれば正気に戻るんじゃない?」


「それも考えたけど、あの状態のカオリを止めるのにもリスクが伴う」


「じゃあ最初から武器を持たなければいいんじゃない?」


 確かに、それは試してみる価値がありそうだ。

 何より、カオリが豹変し始めたのは、浄怒のメリケンを装備してからだ。


 ただ、ずっと武器を持たせないというのは、彼女にとって酷な話だろう。

 アイドル夢咲香織としてのストレスを唯一発散できる場所が、この迷宮なのだから。


 ――ん?


 待てよ? アイドル?


 彼女はプロだ……なら、もしかして……。


「アリサ、もう一つ試してみたいことがある」


 包丁を持つ手を止め、アリサがこちらを向く。


「明日の戦闘中に……」


 俺の考えを聞いたアリサは、一瞬驚いたあと、ゆっくりと頷いた。


「ええ……それなら、もしかして……」




 そして、翌日――


「ミンチにしてやんよぉぉぉおおお!!!」


 九層の部屋にカオリの咆哮が轟く。


「カオリ! そいつを倒したら回復を挟め!」


 だが、いつものように彼女は止まらない。

 戦場を駆け、拳を振るい、敵を薙ぎ倒す。その動きには迷いも恐れもない――ただ突き進むのみ。


 やっぱりダメか……ならば、こっちでどうだ――


()()()()! みんなを《エリアヒール》で癒してほしいな」


 すると――


「はぁ~い♡」


 俺のリクエストに、夢咲香織は即座にアイドルスマイルで応えた。

 拳には血みどろのメリケンサック。その手を上に掲げ、猫なで声で魔法を唱える。


「《エリアヒール》♡」


 淡い光が広がり、傷ついた仲間たちを包み込む。


 ――見事、予想は的中した。


 夢咲香織はプロのアイドル。

 ならば、戦闘中であっても、ファンからのコールには無意識に反応するはず。要望に完璧に応えられなくとも、リアクションはする――そう踏んだのだ。


「よし! ()()()! やれ!」

「しゃー! んなろぉぉぉおおお!!!」


()()()()! 後ろに下がれ!」

「分かったよ~」


 指示が通る。戦闘が噛み合う。カオリの暴走は、こうして制御可能になった。


 ――そして戦闘後。


「カオリ、ナイスじゃない!」


 カオリは少し驚いた表情を見せたが、素直に頷く。

 そして実戦――結果は予想通りだった。


 さらに武器を外せば、彼女は暴走することなく、冷静にヒーラーとしての役割を果たす。

 戦闘への衝動はあるものの、理性で抑え込むことができている。


 これで、カオリの取り扱いは完全に把握した。


 準備万端――いざ、九層ボス部屋へ。


 そして――苦戦することもなく、俺たちは見事に突破。

 ついに、約束の十層カタキ村へと辿り着いたのは、ゲーム開始から一九五日目――あっくんが造船を始めてから五日後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。