第38話 プロローグ
ベリグランド大陸が新たな息吹を得てから百二十余日――
その異形は、突如としてレイクタウンの北、ベリグランド湖の中央に現れた。
漆黒の巨塔――異形の要塞。
鋲打ちされた黒鉄の巨大な四本の柱が湖水を滴らせながらそびえ立ち、無機質な骨組みが天を裂くように伸びる。幾重にも組まれた足場は、まるで蜘蛛の巣のように絡み合い、見る者に底知れぬ不安を抱かせた。
塔の上層では巨大な歯車が軋みながら回転し、煤けた煙突から黒煙が絶え間なく噴き上がる。赤黒い燈火が無数に灯り、その不吉な光が湖面に影を落とすたび、湖全体が魔の領域へと変貌したかのように思われた。そこには生気のない影ばかりが伸び、静寂と恐怖が支配する。
風が吹けば、レイクタウンまで届くのは焦げた油の臭い。機械が擦れ合う金属音がかすかに響き、不気味な唸り声が湖から漂ってくる。それが風の仕業なのか、それとも塔そのものが発する呻きなのか――誰にも分からなかった。
それでも、先住の者たちは変わらぬ日常を繰り返す。
湖の管理をする者。観光の案内をする者。周辺の遊歩道を散歩する者。船を浮かべる者……。
彼らはただ、決められた動作をなぞるだけだった。毎日同じ時刻に現場へ赴き、毎日同じ行動を取り、毎日同じ言葉を紡ぐ。
たとえ、目の前に脅威が迫ろうとも。
結果、彼らは要塞を守る魔物たちの手にかかり、無情にもデータの藻屑と化した。
それ以降、湖畔には新たな者たちが次々と挑み始める。
最初に挑んだのは、レイクタウンを拠点とする冒険者たち。しかし、彼らでは話にならなかった。
次に、セントラルシティのベリグランド迷宮最前線に立つ攻略組からあぶれた者たち。
さらに、迷宮最深部を目指す精鋭たちも挑戦したが、黒鉄の要塞に近づくことすら叶わず、撤退を余儀なくされた。
そして今――新たな挑戦者が、その前に立つ。
彼らもまた最前線にいた者たち。
だが、十一層以降の攻略についていけず、脱落した三名。
彼らの名は【雷光】。
十層の階層ボスを討ち果たし、もっともクリアに近い者と呼ばれていた者たちだった――
20時にもう一話投稿します。
以後20時に投稿するのでよろしくお願いします。




