目覚めたスイラン
翌日になってようやく熱は下がった。この三日ですっかりやつれてしまったリンファは、ビンスイに手を借りて身体を起こしなんとか白湯を飲むことができた。
「あとで重湯もお持ちしますからね。少しずつお召し上がり下さい」
肩に上衣を羽織り寝床に座るリンファ。高熱が続いたからだろう、身体全体がだるく重い。ふうとため息をついて、寝ている間切れ切れに見ていた夢を思い返していた。
(私は、リンファではない。スイランという名前だった……)
幼い頃の記憶もすべて思い出した。あの時の恐怖も何もかも。
(大好きなチュンレイが目の前で殺された。それを今まで忘れていたなんて……。私を抱いていたあの人が、チュンレイを殺した人。チュンレイを殺したあの人に抱かれていた私……)
そう考えた途端ひゅっと息を吸い込んでしまい、咳き込むリンファ。ビンスイが慌てて背中をさする。
「大丈夫ですか、リンファ様。無理なさらず、横になって下さい」
仰向けに寝かされ、心配そうに覗き込んでくれるビンスイに小さな声で頼んだ。
「ありがとう、ビンスイさん。もう大丈夫だから、少し一人にしてくれますか……?」
「……では、何かご用がありましたらこの鈴を鳴らしてくださいね」
小さな鈴を枕元に置き、ビンスイは部屋を出て行った。
横たわって天井の木目をじっと見つめていると、涙がじわりと浮かんできた。思い出すのは幼かった頃のことばかり。
(私の家はもっと天井が低くて、粗末な家で。この部屋よりも小さな家だった。ふかふかの布団もたくさんの食事も何もないけど、三人で貧しいながらも楽しく暮らしてた。それがあの日、一瞬で奪われてしまった)
チュンレイが斬られた場面がまた頭をよぎり、リンファは両手のひらで目を覆って声を殺して泣いた。
(チュンレイ……ごめんなさい……チュンレイのことを忘れて、私だけが生きてこんな暮らしをしていたなんて)
長い時間、そうやって泣いていたリンファだが、扉の向こうからビンスイの声が聞こえてそちらへ目を向けた。
「リンファ様。タイラン様がおいでになりました」
その言葉に、会いたくない、とっさにそう思った。
「ビンスイさん。まだ病み上がりで見苦しい姿をしていますから、お会いできないとお伝えしてください」
「ですが……」
ビンスイは焦った。既に王はここにいたからだ。
「リンファ」
タイランの静かな声が聞こえた。
「リンファ。私だ。目が覚めたと聞いたので来てみたのだが、まだ早かったようだ。また来るから、ゆっくり休め」
「――はい。ありがとうございます」
タイランが遠ざかって行く足音がする。リンファはホッとして布団を深く被った。
(タイランに会ったら私はどうなるかわからない。何をぶつけてしまうのか自分でも……チュンレイのことや母さまのこと……)
ハッとリンファは気がついた。
「待って……! ビンスイさん、タイラン様をお呼びして……!」




