タイランの心の内
その夜、タイランは寛いだ様子で寝床に横たわり、リンファを腕の中に抱いていた。リンファの痛みを気遣い、軽く頬や唇に口づけをするだけ。薄茶色の髪を一房指に取ってもてあそんだり、ただ優しく抱きしめたりしながら、とりとめのない話をしている。
まだ若い青年のこと、身体を求めたいのが本音であろう。だが彼はリンファのことが本当に愛しく、大切にしたいと思っていたので、焦って求め傷つけるようなことはしたくなかった。
なぜこんなにも惹かれるのか。自分でもわからないが、こうして一緒にいる、それだけで心が満たされるのだ。
昔何かの本で読んだ『運命のつがい』。リンファはきっと自分にとってのそれなのだろう。会った瞬間に惹かれ合い、何よりも誰よりも大切で、もしも失ったら生きてはいけぬ存在。だからもう、決して離さない。タイランはそう考えていた。
十一歳で王になり、何もわからぬまま権力の座に就いたタイラン。政治はコウカクが行い、タイランは後継を作るために後宮に通うことを義務付けられた。
ホアシャ、チンディエ、シアユン、そしてコウレイ。皆タイランより歳上の、用意された妃たち。好きだという感情など湧かぬまま、ただ義務として順番に訪れていく日々が続いていた。
しばらくしてタイランが成長してくると、コウカクから娘を贔屓するように執拗に催促され始めた。コウレイに最初の子供を産ませたいと思っているのは明らかだった。
だがタイランは、子供など欲しくなかった。自分のような思いをさせたくない、こんなお飾りの王など何の意味もないのだから、王朝など自分の代で終わればいい。そう思って、子供ができぬようにしていた。
そしてケイカがコウカクを倒した時、タイランはさらにその思いが強くなった。母にも愛されず、政からは遠ざけられ、ただ子供を産ませるための種馬のような自分などこの世に必要ない。だからそれ以降、妃を抱くことはやめた。
――もしも母に愛されていたら、私は自分に価値を見出すことができていたのだろうか?
答えのない問いだ。すでに母はここにはいない。私のことをどう思っていたのかなど、確かめるすべもないのだ。
やがてケイカの妹シャオリンが後宮入りした。シャオリンに子供ができてしまえば、ケイカがさらにこの国を牛耳っていくだろう。その子はまた傀儡としての人生を歩むのだ。そんなのはもう真っ平だ。ケイカに配慮して宮を訪れはするが、今後も彼女を抱くことはない。
早くこの灰色の生を終え、何も考えなくともよい場所ーーあの世ーーへ行くこと。それだけがタイランの望みだった。
そんな時に出会ったリンファ。色の無い世界でまるで彼女の周りだけ色彩に溢れているように輝いて見えた。この少女が欲しいと、初めて強い欲望を持った。だが彼女は目の前から去ってしまった。天国から地獄へと突き落とされるような虚無。
だがタイランは再びリンファに出会うことができたのだ。あの観月祭の夜、後宮で。
私はきっとリンファに出会うために生まれてきたのだ。こんなにも全身全霊で求め合う存在がいること。それはなんと甘美で幸福なことだろう。あの日から私の周りは色を持ち美しい世界に変わった。
私はリンファを必ず幸せにする。彼女を誰よりも幸せな妃にするのだ。それが私の望み――




