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No056 アイリの野望、領主編 「シズオカ領の旅3」 ヤイズにて 8歳5月~

アイリが疲れて休んでしまった翌日。

ヤイズに派遣してある指揮官のカンスケに挨拶に行くことにした。

募兵と兵の訓練状況の確認を含め、

久しぶりに会うので官吏院に行く前に優先したのだ。


サヤカとオイチは、南にある港に出かけるという。

食材の買い出しと共に街を見て回るそうだ。

メイド隊から数人を選んで同行させることにした。


キチョウはもちろんアイリのそばを離れるつもりはない。

最近は、アイリの部屋で一緒に食事をするくらいだ。

アイリの部屋は広い。

もう一人ルームメイトを増やしてもいいとアイリは考えている。


カンスケがいる防衛院の訓練所へ向かった。

「カンスケ、久しぶりね。軍務ご苦労様です。」

アイリがそう声をかけると、カンスケがアイリの元にやってくる。

「おお姫、こちらに向かうと聞いて待っておりましたぞ。」

カンスケが元気そうでよかったとアイリは思った。


「こんな離れた地に赴任させてごめんね。大変だったでしょ。」

アイリはシズオカが完全に支配下に置かれるまで

東伐戦から以後は、両兵衛の二人にシズオカの防衛を任せていた。


その後、行政改革と各地の開発が一段落するとともに

二人を呼び戻し、カンスケと入れ替えたのだ。

募兵を行い、人選や兵種選定などを行うのはやはり軍歴が長い者がいい。

特にカンスケは軍監の技能がある。


「いやいや、大層な役を任せていただき腕が振るえると感謝しております。」

ガハハと笑う。カンスケのこの笑いは久しぶりだ。

カンスケもアイリに会うのが楽しみだったようだ。

昔、豪族の元にいたカンスケは、のけ者扱いで左遷気味だけでなく

放逐か処分される可能性を含んだ立場にいた。


アイリの考えに真っ先に賛同し、アイリの元に来る決意をしてから

カンスケはアイリに心酔していった。

アイリは、以後事あるごとに軍事にはカンスケを頼っている。


「カンスケは、軍務において一番信頼できる側近ですから。ふふふ」

とアイリはカンスケに言った。

西伐と東伐に従軍させたのは、実力だけでなくその性格もある。

カンスケは、正直者で平民目線で領民を大切にする。

アイリの政策にとってこれは重要だと言える。


「それは至極光栄ですな。」カンスケは、ふたたびガハハと笑う。

二人は一通りのやり取りを終えて、募兵の状況と兵の訓練を視察した。

カンスケがいろいろ説明してくれるので

それを聞きながらアイリは鑑定をしていく。


気になる存在は、カンスケに教育方針を伝える。

この世界にはレベルが存在しない・・

アイリの鑑定では見えないだけかもしれないが。


しかし、人物事典で経歴や人物像、技能などはわかる。

素養がある人材は特に方向性を決めて育成させる。


募兵はやはり苦労しているようだ。

この地は広いが、領民には農耕と漁業の従事者が多い。

東伐戦の時にアイリが殲滅戦を行ったのも原因ではある。

主力だった軍官を、ほぼ全滅に追い込んだからだ。


ただ逆にアイリの強兵にあこがれる者も多くいた。

そう言った者たちが今のシズオカの兵になっている。

領内だけでなく周辺のきな臭い隣領からも人が移動してきている。

その中には、ただの領民だけでなく元兵士もいる。


信濃方面での急な領地拡大や関東方面での領地戦。

そして、今は甲斐あたりの小競り合いが影響していると考えられる。

新しく指揮官として訓練中の3人も似たような者たちだ。

中には戦争に明け暮れるだけの領主を見限る優秀な者も存在する。


アイリは将兵を集めて言う

「わが軍兵は強いだけでなく、領民を思いやる心を持つことが大切です。」

「民をいつくしみ、平和を求めるために戦をするのです。」

「決して、私利私欲で兵を鍛えるのではありません。」

「皇王様の直兵であることも心に刻み、そのつもりで励んでください。」

これを聞いた将兵たちは歓声を上げる。

あまりの勢いで、ほとんど怒号のような叫び声になった。


この様子は、この領地に瞬く間に伝えられることになった。

もちろん他領にも噂さが広がる。実は諜報院の仕業でもある。

これはプロパガンダともいえるだろう。

実態は、アイリの言葉が噂で勝手に広がるだけだ。


アイリは嘘を言ったわけでも誇張したわけでもない。

アイリが思う真実の言葉だ。

民心をつかむことは非常に大切な政策だと言える。

アイリ自身が策略的にそうしたわけでもないが部下が自然に動く。

部下も皆、アイリに賛同しているからに他ならない。


何故か、隣にいるキチョウとカンスケも感動していた。

キチョウは、半分涙目で何か一人で納得したかのようにうなずいている。


軍の視察を終えると、官吏院へ行く。

シズオカ領の中心であるこのヤイズには

官吏院長官にスキル持ちを任命してある。


シゲサダ 27歳 二人目の監査スキル持ちだ。

シズオカ領は、元の領主の政治が結構でたらめだったこともあり

私腹を肥やす輩が内務を行っていることが多かった。


アイリがここヤイズまで来る間でも役場で人事の見直しをするほど

まだ、完全に粛清が終わっていない。


ハママツの官吏院長官はスキル持ちではないが

内務技能が高く、カンドウ爺が直接鍛えた子飼いの部下だ。

そう言った意味で信頼は高い。

しかもアイチ領から近く、カンドウの目の届く範囲でもある。


ヤイズは元領主のいた領館が近い場所でもあり

戦場になっていないせいで、隠れて逃げ延びた連中もいる。

それをアイリは警戒して内部監視のためのスキル持ちを長官にしている。

シゲサダは、シズオカに進軍した際にアイリが見つけた人材だ。


アイチ領でしばらく内務の勉強をさせて、

ヤイズが出来るとカンスケと共に赴任させた。

アイリがいない間でも彼は見事に仕事を全うしたようだ。


「シゲサダさん。私がいない間に良くできましたね。」

アイリは、官吏院と実務直轄院を見て回るとそう言った。

シゲサダは、恥ずかしそうに頷くと顔を上げて言う。

「姫の教えの通りに頑張ってみました。」

認められたことに自信を持ったようだ。


シゲサダは下級文官の出だった。

無謀な上司の言いつけで尻拭いをする毎日だった。

その為、いろいろな悪事を目にしてきた経験もある。

悪だくみをする連中は似たようなことをするから手段を察することが出来る。


シゲサダはこれを許せない性格だった。

アイリに拾われた事は、まったく夢のようだと思っている。

実はアイリの鑑定の力なのだが、それは誰にも分らない。


アイリは下級文官でも能力があれば重く用いるという。

シゲサダは、アイリのもとで必死に勉強をした。

アイリの政策に感心し、アイリの考えに同調し、信仰するまでになった。


長官に任命されたときに、自分を認めてくれたことをすごく感謝している。

それはさらに認めてもらいたいという気持ちに変わっていった。

そして今日、アイリから褒められ、花丸マークの扇子をもらった。

花丸マークの扇子は内務官にとって名誉とされる。


シゲサダはその後、扇子を長官室に飾っているようだ。

まだまだアイリからの指示は多く、課題は多い。

しかし、シゲサダは苦労を苦労だと思わない。

アイリのいう政策を実行することはとても夢があり、楽しい。

この後も彼は努力を続けるのだった。


軍と官吏院の視察を終えるとこの日はお開きになった。

アイリの居館にカンスケを呼んで一緒に食事をする。

アイリとカンスケの出会いから西伐戦や東伐戦の話をした。


サヤカ、オイチ、キチョウも一緒に食事の場にいた。

3人とも目が真ん丸になっていた。

幼少の頃のアイリは、戦争でそんなことをしていたのかとびっくりだ。


キチョウは東伐戦では2軍の隊長として従軍していたが

それまでの事は知らない。

非凡な才の持ち主だとは知っていても

そんな幼いころから先陣を切っていたとびっくりだ。


サヤカは、従軍が出来ない。

アイリをひやひやしながら見送る日々だった。

そんなことを思い出しながら話を聞いていた。


オイチはと言えば、

アイリは自分より年下で妹みたいだと心の中では思っていた。

しかし、行動や考え方を見るたびにそれが覆される。

この旅でアイリに同行することで

自分よりもアイリのほうが、ずっとお姉さんじゃないかと思うようになった。


それからのオイチは、課題だった乗馬を頑張り

ヤイズに滞在している間に一人で馬を操れるようになった。

アイリから勉強を教わり、政治の話も少しは理解できるように頑張っている。


アイリはヤイズを拠点にして周辺地域を視察する都度、オイチを連れていく。

オイチがアイリのそばを離れなくなったからだ。

今は、キチョウも念願のルームメイトになっている。

キチョウはそれがとてもうれしくて毎日一番最初に起きて朝練に励む。


メイド隊の一軍の隊長の座は誰にも譲らない。

これがキチョウの信念だ。

アイリは自分を大切な側近として接してくれる。

実はアイリにとって、オイチもキチョウも身内同然だと思っている。


この旅でそれが伝わったのかもしれない。

サヤカもそれを感じたのか、部屋の中で4人で話す時間を楽しんでいる。

この旅について来てよかったとつくづく思った。


その後、サヤカはキチョウに教えてもらって朝練に参加している。

まだ朝早く、アイリが寝ている間にこっそり頑張っているようだ。

何故か、朝アイリを起こすのはオイチの役目になった。

アイリはサヤカのことに気づかず、忙しい日々を過ごしていく。


アイリは、この地でも何人かの人材をスカウトすることが出来た。

声をかけたのは、比較的に内政向きの人物が多い。

この領は発展途上中なのでそういう人材はいくらでも必要だ。


他にも職人の技能持ちをスカウトしている。

アイリの鍛冶工舎に雇い入れて、ここでの軍備調達を円滑にする。


面白い人材も見つけたらしい。

やはり人が多い地にはそういう人材が見つけやすいのだろう。

アイリが見つけた特殊なスキル持ちはアイチ領へと移動する。


それらの者達は、新兵器の開発や特殊諜報員として従事させる。

アイリ考案の新兵器技術の研究者と

アイリが忍者部隊と言う変に偏った固有のスキル持ち。

これらの人材確保が、この視察におけるアイリの一番の目的だったりする。


「ヤイズは、これで終わりかな。ふふふ」

アイリは一人満足したように言う。


この言葉を聞いて同じ部屋にいる3人は次への移動を確信するのだった。


次は、はるか遠い東の地

富士川の近くにある自由貿易郷、フジカワまでの移動になる。


途中2郡の役郡役場を経由して3郡めが郡役場もあるフジカワ郷だ。

そこを拠点にして4郡目の沼津あたりまで行く。

そこまでがシズオカ領の範囲となる。

豪族に丸投げして放置している伊豆へは、何かなければ寄ることはない。


「さて、明日には出発するから皆、準備お願いね。」

アイリがそう言うと、キチョウからメイド隊に明日移動との伝令が伝わる。


居館内は慌ただしくなった。







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