No034 アイリの野望、領主編 「侵攻作戦」 隣領攻略を行い、3郡を占拠する。7歳6月、
北に位置する隣領との外交のための使者が戻ってきた。
とりあえず、相手側も同意した。
相手も、意味もなく南下する必要は、ないからこれは問題ないだろう。
東の動きはない。
「皆さん、作戦通りに行きましょう・・ふふふ」
2軍が港への移動を開始したのを見届けると、アイリは木曽川に向かう。
やや大きくなってしまった仔馬がアイリの愛馬だ。
大きくなっても愛着があるから手放せない。
馬のほうもよく言うことを聞いてくれるから、不都合は感じてはいない。
馬の背に跨り、メイド隊と共に軍を率いて移動する。
予想通り、長島を渡っても何もない。
今度ここにも砦を置いて、郷と称して領地に加えよう。
命名はそのまま、ナガシマ郷。
アイチへ使者を出して、官吏院に対応させることにした。
そのまま、長良川、揖斐川を移動。
桑名方面の北側に軍を配置すると息を整える。
情報ではまったく豪族はこちらの動きを捉えていないとのこと。
領民は、アイリの到着を歓迎したいと言っているらしい。
「この一戦我に勝機あり!」アイリは叫ぶ。
このセリフ一度言ってみたかったのよね。
「全軍、速やかに進行せよ!」
一斉に軍が移動を開始する。
領堺を簡単に突破し、何事もなかったように侵攻していく。
郷役場をいくつか占拠した頃、特殊諜報員から連絡が入る。
豪族が慌てて兵を集めだしたとのこと。
主力は郡役場から、こちらの侵攻上にある郷へ向かっているらしい。
次の郷で初戦が始まる可能性が出てきた。
しかし敵は100程度、途中で増えても倍にはならないだろう。
戦場になる場所は、領民の迷惑にならない放置地区を選ぶ。
荒れ地に陣を敷き、待ち構えることにした。
陣には愛一文字の旗が立ち並ぶ。
アイリの本陣はウサギと花丸だ。
「投石兵、弩兵は準備。射程内に入ったら順次発射。」
「その後、弓兵が続いて曲射。」
「歩兵突撃は、敵が接近してからですよ。」
アイリの指示が次々と飛ぶ。
敵兵が見えてくる。装備もろくに揃っていない。
思い思いの格好で、隊列もなく小走りで進んでくる。
「敵の指揮官は、豪族ではない。」との情報が入る。
200メートルほどの距離に来た時。
太鼓で合図をする。
一斉に矢と砲丸サイズ程度の石が飛ぶ。
第一射だ。投石兵は歩兵の後ろから石を飛ばしている。
弩兵は、歩兵の前だ。弩兵の後ろに弓兵がいる配置。
一瞬で戦況は決まってしまった。
混乱状態に陥っているのを見て、歩兵突撃を実施。
再び太鼓が鳴る。弩兵・弓兵は左右に分かれて中央を開ける。
太鼓が連打されると歩兵突撃だ。
槍兵が前面で、後ろに刀兵が続く。
これは蹂躙に近い、逃げ惑う相手を刀兵が機動力を生かして
追いかけ各個撃破していく。
再び太鼓が鳴る。
それと共に、射兵部隊は前進する。
アイリは、後方の投石兵に並んで前進だ。
さほど時間がかからず、敵のほぼ全員が降参した。
逃げきったのは、敵の指揮官とその周囲の僅か数人だ。
此方の被害は軽傷程度、転んで擦りむいた者がいたくらいだ。
何の歯ごたえもなく初戦完了。
敵の戦死者は、20人ほどいたらしい。
アイリが見ないように、気を使って戦場は片づけられた。
敵の負傷者は、皆助けるように指示を出す。
重傷者は助からないかもしれないが、治療兵に頼んだ。
降参した兵は武装を解除して、解放する。
「戦いたいなら、何度でも来なさい。」
「戦うつもりが無ければ、私の領民として迎えます。」
アイリがそう言うと、敵兵がみな平伏した。
皆殺しにされる可能性があるこの国の戦いでは、
例え降参しても捕縛されて、その後重労働に駆り出される。
まるで奴隷のような扱いになるという。
アイリは、敵であっても傷兵をいたわり
自分たちを捕縛もせず、即座に開放するという。
とんでもない武器を持っているにもかかわらず。
勝敗が決まれば、それ以上は攻めようとしないのも感動したらしい。
自分たちの主である豪族より、信頼できるというのだ。
領民もアイリの味方だ。
これでは、戦う気になるわけがないという。
中には旗を持たせてくれという投降兵もいた。従軍する気らしい。
投降兵の半数ほどは家族の元に安全を知らせに帰り、
アイリがこの地を納めるようになったら仕官したいといった。
アイリはそれを微笑みながら了承した。
残りの半数は、そのまま従軍するという。
戦えなくても、元味方の兵に降参して戦うのをやめたほうがいいと
説得したいという。
これも了承して連れていくことにした。
そこから先は投降兵の説得もあり、戦いらしいものは何もなく、
郡役場まで進軍した。
郡役場前に陣を敷いて、防衛体制の敵兵がいた。
多分今頃、海から上陸した軍が南から居館に向けて進軍している頃だ。
ここでは無理に短期決戦の必要はない。
出来るだけ多くの敵兵が集まるように、にらめっこでいいのだ。
此方の射程範囲の200メートル離れた位置で太鼓や銅鑼を鳴らす。
投降兵たちが前に出て大声で説得する。
その様子を見て周辺の領民も集まって来た。
中には家族もいるのであろう、一緒になって降参を促している。
やがて、特殊諜報員から連絡が入った。
10人ほど逃げたらしい。
ほどなくして、郡役場にいた兵は降参した。
多分司令官が逃げてしまったのだろう。
彼らにも同じ処遇を与えた。
家族がいた兵は、その場で家族とともにアイリに頭を下げた。
武装解除で許すと、また半数ほどが家族の元に帰りたいというので
了承する。
従軍したい者はついて来てもいいですよ。
それ以外の人は役場で、結果を待っていなさいとアイリは言った。
膨れ上がる兵を連れて次々と郷役場を占拠。
もうこうなると占拠というより開放に近い状態だ。
領民が歓迎してくれる。
早く平和になって、豊かになりたいと懇願する領民もいた。
小競り合いがかなり長く続いていたこの地では、
皆、心からそう願うのだろう。
「安心してください、私は皆さんが安心して生活が出来る様にします。」
アイリはそう言って笑顔でこたえるのだった。
もうすぐ、豪族の居館だ。
敵側は防衛体制を敷いていると情報が入る。
南からも軍が到着しているが、想定よりアイリの侵攻が早かった。
居館につく頃には2軍合わせて敵の5倍近い兵で取り囲む形になった。
南からの軍もアイリと同様に調略しながらやってきていた。
これは、アイリが出来るだけそうしてほしいと話していたからだ。
第二軍の指揮官は、ドウキ。期待に沿う戦いをしてくれたと感謝する。
囲んだ状態で降伏勧告を行う。
戦意のないものが、どんどん逃げてくる。
もちろん投降兵や領民は皆、居館にいる兵を説得している。
最終的に残ったのは、豪族と逃げ回っていた司令官含め僅かだ。
彼らは豪族の元で甘い汁を吸っていたと報告が来ている。
アイリは指示を出す。「投石兵準備!」
「居館に向けて投射!」太鼓が叩かれる。
今度のは、石ではなく油と火薬、火藁などだ。
遠距離火計とアイリが名付けた独自の攻撃である。
火薬の爆発は、威力としては全く大したことはない。
しかし火炎は広がる。
館が燃え広がるには、そう時間はかからなかった。
降参してきても許さないだろう。
きっと黄色や赤だから。
アイリは豪族の顔を一度も見ることなく、戦いに勝利を収めた。
開戦から終了まで、わずか6日の出来事だった。
こうして、新たにアイリの支配地に2郡が入ることになった。
アイチ領の官吏院に使者を送り、人員手配と行政改革の指示を出した。
従軍した投降兵に領館跡をまかせて、南へ侵攻する。
南は1郡だけの豪族の支配地だ。
1000の兵なら、すぐに終わるだろう。
方針はそのまま調略主体で、領民には手を出さず。
降参したものは、皆許すというもの。
アイリは言う。
「赤や黄色以外は、自由にさせる。皆守るべき領民になる。」
手配が終わると、念のため歩兵を2小隊ほど残して行軍を開始した。
その後3日ほどで領境に着く。領境にいた敵兵が慌てて逃げていく。
900人近い兵が現れたからだ。
何事もないように侵攻が出来た。皆逃げてしまうからだ。
特殊諜報員から情報が入る。
居館でようやく動きが出たようだ。
「これは居館防衛戦だけになりそうね。」
ここでも領民は歓迎してくれるようだ。
敵視する者は誰もいない。事前の宣伝工作も効果があったと思う。
領境から更に2日ほど南下すると居館が見えるところに来た。
あれだけ逃げていたのに、そこでは徹底抗戦の構えだ。
既に役場や関所などは全部占拠している。
報告が入る
どうやら集められたのは150人程度のようだ。
やはりここの豪族も私利私欲の人らしい。
何故こういう輩が権力を握ってのさばるのだろう。
いつの世もどこの世界も似たようなものだ。
居館を囲むとアイリは言う。
「自己廚には、鉄槌をあげましょう。ふふふ」
とりあえず、降伏勧告を先に行うように指示した。
どうやら降伏には応じない姿勢だ。
「全射兵準備!」投石兵、弩兵、弓兵が構える。
「投射!」太鼓が鳴る。
一斉に矢と石が飛び、居館の敷地に振り注ぐ。
「投石兵、第二射用意。次は火計です。」
「歩兵は前進し包囲。逃げる人を捕まえてください。」
「投射!」太鼓が二度ならされる。
居館の敷地は、火に包まれる。
「歩兵突撃!」太鼓が連打される。
混乱状態にある居館の守備兵たちに歩兵が突撃を行う。
槍兵と刀兵の混合だ。
槍兵が追い詰め、逃げる兵は刀兵が追う。
「投石兵、第三射準備。居館だけ狙って火計投射!」
「歩兵は待機、居館の包囲を継続せよ。」
銅鑼が2つなった後、太鼓が3つ鳴る。
歩兵は前進をやめ、周囲を固み逃げ惑う兵を捕らえる。
歩兵の頭上を火薬や油や火藁が居館に向けて飛んでいく。
やがて延焼しだした。
敵兵は居館から出て逃げ惑い、歩兵によりどんどん捕縛される。
ここで、最後通告が出される。
「豪族始め豪族に加担した者以外の降伏は認めます。」
アイリがそう言うと、連絡兵に敵に伝えるように指示する。・
連絡兵が居館に向かって走っていき、大声で敵に向かって叫ぶ。
アイリの言ったことをそのまま敵に伝える。
ここへきてようやく降伏する者が出てきた。
しかしアイリは、それを見て歩兵に告げる。
降伏者の何人かを指定して、即時捕縛を命じる。
捕縛対象者は、アイリの言う赤色や黄色の存在だ。
人物事典で見える。危険人物、もしくは敵視を続ける人物。
どさくさで降参して逃げるつもりだったのか。
その中に豪族を見つける。
あの人は仕方ないけど処分ですね。これは刑を下すという意味だ。
首謀者は、許すわけにいかない。後々遺恨を残すからだ。
戦争を終わらせるためには、仕方ない。
しかも、豪族は赤色と黄色の両方が交互に点灯している。
悪人の上で、敵対心を持っているとアイリは判断した。
降伏したり捕縛した兵の前で、豪族の処分を下す。刑の実行だ。
黄色は捕縛して牢へ入れ、後で処遇を決める。
赤色は、後ほど処分実行となる。
対象者を指して、そのように部下に指示を出した。
2日ほど戦後処理にかかった。
官吏院に使者を出して、この地の管理をするように連絡する。
ここへも歩兵2小隊を残し、次の地へ移動することにした。
南下は残り1郡
既に、海から軍が動いて奇襲しているはずだ。
状況から言って、第一軍を陽動として動かすだけでいいだろう。
第二軍は北の郡に戻し、残した兵と合流してもらう。
西への侵攻準備を整えるためだ。
ドウキに指示して第二軍は北へと向かった。
アイリは南へ向かう、ジョーカーを探すためだ。
皇族の血族がいる可能性が高い。
想定する彼の地に向かって移動を開始する。
合流した特殊諜報員数名に指示を出す。
「皇王家の人物らしき者の情報をかき集めてください。」
「残りの人は、西の郷で工作をお願いします。」
例のスキル持ち3人は情報取得へと南へ向かう。
その他の2人は西へ向かい、
すでに西に入っている諜報員と合流して領民への工作を行う。
アイリ率いる第一軍は、スケタカに代理司令官を任せる。
ここまでアイリと一緒に、身近で実戦を経験してきたのだ。
味方のゲンタ率いる第三軍も海路から侵攻作戦を行っている。
ここは任せても大丈夫だろう。
そうアイリは判断した。
「一刻も早く探す。」
アイリはメイド隊と共に、第一軍から離れる。
志摩半島は山林が多く、中央は深い森の中だ。
そこにきっと何かあるはず。
アイリは愛馬に跨り、その場所へと向かう。
「ここからは時間との勝負。」
珍しく自分に気合を入れるアイリだった。




