No010 アイリの野望、番外編 「この国のこと」 アイリの日記から。3歳
少し前後します。
アイリの異世界生活日記。3歳時の世界事典での記録。
この国は、日本に近いなんちゃって日本文化のようだ。
言葉は日本語が通じ、方言もあるようだ。
前世日本でも土地の違いだけで、日本語と思えない言語を話す人もいた。
東北とか沖縄などは、訛りのレベルを超えている。
歴史を遡れば、さらに日本語の変化は多い。
アイリの持つ英知の加護のせいだろうか、方言も全部標準語になる。
歴史
残されているわずかな木簡などの過去文字は漢字に近い。
漢字主体の文字文化であることはわかる。
残念だが、書物などは全くない。
パピルスや羊皮紙文化は、この国になかったようだ。
今、和紙があるが、非常に珍しく貴重品だ。
口伝で、伝えられている歴史はある。
しかし、歴史記録が少ない世界に来てしまったのは事実だ。
歴女として歴史がわかんないのは辛い。溜息が漏れる。
紙が広がれば、そのうちだれかが歴史本を作るだろう。
太陽も月も1つしかない。
見た感じは、前世の記憶より大きく見える。
星も大きくて、数が多い。
空気が綺麗だからだと、勝手に解釈した。
異世界小説にありがちな、月2つとかじゃない。
複数あったら月のウサギさんが、困ってしまう。
実は、ここでいうウサギとは、兎ではない。
セーラー何某さんのことだったりする。
オタクにブレはない。
異世界小説の、地球じゃなく、異星というパターンはある。
ここは、前世とは違う世界だ。
可能性がないと言えない。
気になっていた暦は、一応あった。
初代皇王様が設定したらしい。
太陽暦とか、太陰暦とか、歴に関する記録がないため不明だ。
関係ないが、地動説とか天動説とかいう学者はいない。
大体、地球という名称の概念も無ければ、丸いなんて誰も気にしない。
ひと月は30日で、1年は12か月という単純なものだった。
確かにこの国のレベルなら単純がいいと思う。
ただ計算すると360日だ。
365日設定じゃないことが、少し気になった。
でも、異世界だから関係ないかと割り切るつもりだった。
しかし、日本の正月のようなものが、休日で5日あった。
聖祭日とかいうらしい。
要は、12か月プラス5日で、365日となる。
冬の時期だから、休めという感じもいいかもしれない。
じゃぁ閏年はどうなってんの?余計なお世話なのだが、
前世の記憶があるから気になる。
月々の呼び方は、数字呼びだった。
前世日本の歴史では、月は数字で呼んでなかった。
卯月とかいう感じのやつだ。
ここでも、何故かウサギ押ししておく。
しかし別の読み方があった、「いろはにほへと」だった。
旧月の呼び方らしいけど文字に直すと漢字だ。
これにはびっくりだ。
位月、呂月、葉月、荷月、穂月、経月、途月
地月、里月、濡月、瑠月、御月、
聖祭日は、御月の次になる。
ちなみに、私の名前 アイリを文字にすると愛里となる。
里月の生まれだったりする。
何という親の安直さだ・・前世に続き名付が適当な親だった。
一応、名前に愛が入っているから、許しておくことにする。
また、四季があっても、季節の正式な呼び方は存在しない。
一応、春夏秋冬で通じるようだ。
曜日も存在しないみたいだ。だから1週間という概念が無い。
日曜日がないから、正月休みいやもとい、聖祭日の存在は大きい。
時間は、かなり曖昧だった。
前世の昔の日本のような、十二支によるものもない。
大体十二支自体の概念がない。
時に関するのは、いつ頃という感覚らしい。
朝時とか昼時とか夜時。
おい、夕方はどこにやった!と少しツッコミしてみる。
しかし不思議なことに1時間というのは理解してもらえるようだ。
全くなんて曖昧な文明なのだろう。
時に関する感覚は、食事時間と比例しているようだ。
一日3食。前世現代並みだ。
前世歴史のように、2食だったら悲しい。
この国は結構裕福だと思った。
ちなみに、おやつの概念はない。残念だ。
日にちは、文字にすると壱、弐、参、の昔の数字式だ。
4以降は同じなのでややこしくなくていい。
あ、い、う、だったら、どうしようかと思った。
日にち計算が面倒すぎる。
建築物は、木と石と藁が混在して出来ている。
決して、三匹の子ブタの家ではない。
建材として、適材適所に使われ、それなりに作られた古民家風の家だ。
ただ、屋根は板葺きや藁ぶきが多い。
前世歴史の知識で、木板屋根の上に石が乗せてある民家の記憶があるが
こちらにもある。台風とかあるのだろうか。
どこの家の周囲も石垣で囲まれている。板塀ではない。
たまに板塀や竹柵を見かけるが、それらはどうやら家畜がいるところらしい。
石垣と言っても、普通の民家は、単に石積みの垣だ。
ここには、自分が知る範囲に城がない。
城を作るという概念も無いようだ。
領主館は、広いけど木造平屋。
2階建ての家も、どこにもない。
戦国大名も住居は、城ではなくその横にある大名館だった。
家臣を集めた評定なども、館内で行われた。
武田信玄なんて、城を立てなかった。
城の中で、城主が生活をしているのは、時代劇くらいだ。
実際には、戦争の時だけ城を使う。
平時の城は、武器や兵糧の保管庫だ。
まぁ城を使うというのは、籠もる必要がある場合で、
攻め込まれて、ほぼ負け戦の時なんだけどね・・。
だから信玄は、攻められる前に、攻める戦争の仕方をしていた。
それができるなら、城がなくてもいいわけだ。
信玄に攻められて、城に籠もって我慢して痩せこけたという
徳川家康像を思い浮かべた。
この国は、四季があって日本に似た作物がある。
葉菜、根菜、穀物などが畑で作られる。
大根もカブも人参もゴボウも全部根菜と呼ぶからややこしい。
一応、丸とか赤とか長とか太を付ければ通じる。
人参なら、赤根菜という感じだ。
これは絶対前世の言葉を広めたい。
ちなみに芋類は、根菜ではなく、すべて芋と呼ぶ。
ジャガイモはない。
前世で、お世話になったジャガイモのポテトチップスは、食べられない。
あれは、オタクの友と呼べる存在だったのに・・・残念。
トマトやカボチャは、何故かなかった。
ナスは、花菜と言われていた。
花から実がなる感じから取ったのかもしれない。
紫花菜と言えば、高確率でナスが出てくる。
苺は野苺だ。桑の実も苺扱いされている。
スイカはないがウリはあった。
何故かウリも花菜だ。
柿や蜜柑や無花果は、そこら中にある。
民家の庭に植えまくっているからだ。
領主館の敷地内にもある。
林檎や梨は見かけない、ごくたまに行商人が持ってくるらしい。
栽培しているところはあるのだろう。
お茶はある、茶葉といって通じるから同じ呼び方だ。
紅茶やウーロン茶なんて、ナニソレの世界だ。
ちなみに、庶民が飲むのは、白湯らしい。
水田があり、稲を育てている。
稲作りは、この国の農家の主産業だ。
麦や粟、稗、豆などが混じっている五穀米のようなものが主食。
米は、赤黒い色をしている古代米のような感じだ。
これは、健康食品だと思えばいい。
母乳や離乳食からやっと脱却して、普通の食事が出来たとき
「白米が食べたい」と心の中で、ぼやいたのは忘れた・・ことにする。
異世界小説によくある、主人公が米を探す冒険話
ここは、冒険などしなくても米文化だ。
白米は、ないが・・。
領主一族だから、かなりまともな食事ができる。
調味料類も昔の日本程度にはある。
無いのは香辛料の類。
胡椒やトウガラシは無い、カレーが食べれないのは、少し悲しい。
山椒と山葵はあった。
醤油っぽいのもあった。少しドロッとしたものが混在してはいるが・・。
何故か魚醤は見たことがない。
海の近くに行けば、刺身は食べられそうだ。
ただ、生食は聞いたことはない・・・寄生虫予防なのかな。
味噌もあった。まぁ醤油があるからあるんだろう。
これもドロッとした感じなのだが・・・。
大豆があるから大豆製品もあるんだと思う。
魚と鳥と豚があるから、お肉類は十分満足。
異世界小説にでてくる魔物の肉とかありえない。
ちなみに、ここには魔物はいない・・・・と思う。
いや、いたら困るんだけど。
鳥は野鳥だし、豚は猪だったりするのだが細かいことは気にしない。
熊肉や鹿肉も時々あるとは聞いた。
牛は、貴重らしく頻繁に肉になることは、ないらない。
結構、革にはなっているのだが・・・何故だろう。
森では山菜や茸などは取り放題だ。
ちなみにマツタケなるものは存在しなかった。不思議だ。
内陸部は川魚が多く、海に行けば海魚もいる、貝類もある。
領地は海に面しているし、川に囲まれているから食材は困らない。
家畜もいる。山羊と牛と馬だ。
野生の茶色い鶏もいて、放し飼いされている。
煩いし気性が荒いから嫌いだ。
飼っているのは全部農家だ。
家畜は、基本的に肉にならない。、
牛や馬は、農耕や輸送に使う。
牛はかなり多く、輸送の主力だ。
馬は少なくて珍しい。
みんな死んだら革製品になるらしい。
鶏は卵を取り、山羊は乳を搾る。
牛乳はない。乳牛がいないからなのか。
家畜とは言えないが、犬は猟犬として活躍している。
あくまでペットではない。
ペットと言えば・・何故か知らないが、猫は、見かけたことがない。
林は結構あちこちにある。
民家近くの林でも、リスやウサギが普通にいる。
臆病だが、鹿やキツネやイタチもいる。
リスは、餌付けもできて、とてもかわいい。
出来ればウサギは、食事に出してほしくはない。
悲しすぎる。
猿もいるが、森や山の中らしい。
群れて悪さをするから、危険動物認定されている。
いわゆる害獣扱いで、これは前世と似ている。
食べてもおいしくないのに、凶暴だから手に負えないそうだ。
いや、食べるのはちょっと・・・。
同じく森には、鹿や猪がいる。
思っていたより数が多いようだ。
猪は人里に来て畑を荒らすから、優先して狩りの対象となる。
狩人の仕事のほとんどは、この猪狩りだ。
猪は豚肉の代わりだからいい。
でも、ウリ坊はかわいいから可哀そうな気がする。
聞いてみたら、ウリ坊は狩りの対象外だったから少し安心した。
鹿は警戒心も強く、動きが早いからあまり狩りの対象にならないようだ。
増えすぎると害獣になるから、定期的に山狩りはするらしい。
熊や狼は、かなり山奥にいるそうだ。
狼は警戒心が強いらしく、人が近づくとすぐ逃げていく。
群れで行動することもなく、数もそれほど多くないらしい。
ニホンオオカミに似ているのかな。
狼は、異世界物小説では、
冒険者の天敵的な役割をしているが、ここでは関係ないようだ。
熊は、時々山から下りてくるとのこと。
食料問題や縄張りの関係だろうと聞いた。
見つけたら、すぐに狩人が狩ってしまうらしい。
毛皮とかは、貴重品だし、肉は食べてしまうようだ。
狩人にとってのボーナスステージキャラと言える。
気候が食材を作り、食材が生活を作り、それが文化の基本となる、
という人がいた。
確かにそんな感じかもしれない。
ジャングルや砂漠や平原しかない状況だったら、
日本風文化にはならないだろう。
アイリの領主館生活
領主館には、木造のやや大きな風呂がある。
しなびた老舗旅館の風情だ。
あれだ・・黄門様に出てくる女の人が入ってる風呂だ。
オタク歴女だけに時代劇は、完璧なほど網羅している。
屋内は土間もあるが、
部屋は土足厳禁になっているから自分にとって馴染みやすい。
部屋は畳というより茣蓙に近い、布が下に敷いてあるらしい。
部屋と部屋を結ぶ廊下は、板張りだ。
窓はあるが、窓ガラスは当然ない。
部屋から外につながる部分は、すべて雨戸のような横滑りする木板があり、
そこを開けたままにする時は、簾を垂らしておく。
サイズは違うが、ドアも窓も皆、同じ仕様だ。
時間が出来たら、襖や障子を取り入れたい。
紙は重要だ。
屋敷内には、使用人がいて掃除も洗濯も料理もしてくれる。
至れり尽くせりで、ますます老舗旅館にいる気分になる。
風呂に沸かしたお湯を入れてくれるのは、この使用人達だ。
お風呂にお湯を入れるのは、かなりの重労働だろう。
心の中で感謝しておく。
領主館の同居者は、父の部下が三人、護衛を兼ねた側近。
玄関を入ってすぐ正面に、評定用の広間がある。
その広間の隣の部屋にいる。
最初、ただ飯喰らいかと思ってたが、ちゃんと仕事をしているようだ。
いつも父の後ろに控えているから、
風景だと思っていたのは、ほんとにごめんなさい。
政治仕事が苦手な父に代わり、仕事を行っている。結構忙しいらしい。
あれ?これじゃあ、父がただ飯くらいじゃないのか。
それと私専属の乳母が一人、母にも一人側仕えがいて、
共に館に同居している。
私の乳母は、私と同じ部屋に同居だ。
私が成人するまで、同じ部屋での同居らしい。
母の側仕えは、母とは別室で暮らしている。
私の乳母は、よく面倒をみてくれるし、我儘を聞いてくれる存在でもあり
すごく若いし、私はお姉さんだと思って接している。
乳母と言っても母乳を与える存在ではなく、子供の面倒を見る存在。
母乳は実母から与えるのが普通だとのこと。
要するにここで言われる乳母とは、子守役だ。友達役も兼ねてるかもしれない。
乳母という名称が悪い。これは、メイドという名称に変えるべきだ。
仕える子が成人したら、乳母は、側仕えになる。
母の側仕えがそうだ。クラスチェンジ後だ。
母の赤ちゃん時代から結婚後の今まで、ずっと仕えているというのはすごい。
側仕えのプロ根性を見た気がする。
どちらかが死ぬまで、主に仕えるというのが側仕えの使命らしい。
やっぱりプロ根性は、すごいとしか言えない。
ちなみに彼女らは、結婚はどうするんだろ。
母の側仕えは、今だ独身だ。
異世界小説で、姫様に仕えるメイドは、ずっと独身なのだが・・。
うちのお姉さんメイドには、自由に結婚してほしいと思う。
私がサヤカに苦労を掛けてるのは、間違いないから、
心の中で謝っておく。
ごめん、私が変な子で・・ホント申し訳ない。
側仕えが主に頭を下げさせるのは、禁忌とされているので
心の中で勘弁してください。
自分が悪いと認識しているだけに、反省をしておく。
人生50年とか誰かが言っていたが、
もちろん言っていたのは敦盛を踊る信長様なのだが・・。
寿命と見た目の年齢は、きっと比例するのだろう。
この世界の人は、実年齢より大人っぽく見えるのは確かだ。
年齢は、前世の歴史と同じで、こちらの世界も数え年の年齢だ。
ちなみに、私が鑑定しだした
1歳の時点での母は16歳で父は20歳だった。
母は18歳くらいで父は23歳くらいかと思っていた・・・。
もちろん前世の自分より、
両親がかなり年下だったことを知った瞬間でもあった。
年齢の誤差は、単に見た目だけではなくて
前世での常識との差異もあった。
この世界の常識において、
姫様的な存在の女性は12歳で婚約して、15歳で結婚する。
殿様的立場の男性も同じで、婚約は12歳で、結婚は15歳と聞いた。
しかも、婚約時から同居する・・・これは、同棲すると言っていい。
これでは、多少フライングなんかがあっても不思議はない。
領主館で働く使用人は、入れ替わりが激しいのか
通いなのかは知らないが、何人いるのかよくわからない。
父の部下も良く出入りするので誰が何やらわからない。
料理人の夫婦が館に同居しているというのは、本人たちから聞いた。
私が料理にケチいやもとい、注文を出すので、よく話をするからだ。
この時、使用人は皆、
領主館の隣にある離れに、まとめて住んでいることを知った。
料理人夫婦だけは、台所横の部屋に住んでいるから
大切にされているのだろう。
使用人は、20人ほどいるらしく、
多いと思ったが戦時になると兵隊にもなるようだ。
離れは、大きいとはいえ領主館より小さい。
修学旅行の時の雑魚寝部屋を想像してしまった。
領主館にいるたくさんの人たちが
私の生活を支えてくれているのをすごく実感した。
老舗旅館並みの生活ができていることを感謝する。
しかし一方で、戦争になれば
一瞬で消える存在であることの不安は大きい。
しばらくはこの生活を楽しませてください。




