7、
「・・・・落ち着きました?」
年甲斐もなくわんわん泣いた後、どうしたらいいものか腕の中から抜け出せないでいた私に、栗栖川くんがそっと身体を離した。
恥ずかしくて顔を上げられずにいると、頭をぽんぽんと優しく撫でられた。
確か栗栖川くん──24才って、言ったよね?
それにしては妙に落ち着いている、と思うのは気のせいなのかしら?
それともイケメンだから、手慣れてる?
そんな失礼なことを考えてしまい、慌ててその思考は削除する。
───いかんいかん。
彼は私の後輩なんだから。
しっかりしないと。
「ごめんね、なんか恥ずかしいところばっかり見られてるわね」
「いえ、むしろもっと甘えて欲しいです」
「・・・え?」
「言ったでしょう?ずっと好きだったって。僕はあの日一度死んでますから」
「───やめて、そんな言い方」
あの日死んだのは、樹なんだから。
一度死んだらもう、戻ってこないんだから。
「だからもう、僕は絶対死にません」
「・・・・何、言ってるの?」
ハッキリと宣言する栗栖川くんに、私は戸惑いを隠せない。
一瞬、昔のドラマの名台詞かと思った。
「そんなの、分からないじゃない。いつ、どうなるかなんて。」
あなたと私が同じ年月過ごせる保証なんて。
何処にもないのだから。
─────そう思うのに。
彼の目を見ていると不思議なことに、本当にそうなんじゃないかと錯覚してしまう。
「大丈夫。僕は貴女をおいて死んだりしないから」
根拠のない、自信。
確証のない、自信。
(あぁ、そうか────)
私を必死に繋ぎ止めようとしてくれているのね。
失なうのが怖くて、ずっと恋に踏み出せずにいた私を。
過去から抜け出せなくて、独りを選ぼうとしがちな私を。
「だから、強がらないで。独りになろうとしないでください。」
もう一度、人を好きになるところから。
そう、思わせてくれてるのね。
「・・・・ずっと、待ってますから」
栗栖川くんは、私よりも“私のこと”に詳しい気がした。
私の気持ちも、私より彼の方が分かっている気がする。
「ありがとう」
臆病でまだ過去に囚われたままの私に、手を差し伸べてくれて。
「じゃあ都築さん、プライベートでは百花ちゃんって呼んでも良いですか?」
「──百花さん、ならいいわ」
「・・・・じゃあ、“百花さん”」
「なあに?」
「お腹空きません?」
────恋に二度目があるのなら。
「空いた!」
私は、また笑える日が来るのかしら?