2、
「────とりあえず、今日はそれだけやってくれたらいいから。」
とりあえず彼に出張旅費の精算処理を頼むことにした。うちの会社は海外と国内どちらもあるが、精算方法はシステムが管理しているので入力するだけなので簡単。
・・・ただ、量が半端ないけど。
「あの、」
「はい?」
暫くして、栗栖川くんが声をかけてきた。私はノートパソコンのスクリーンから目を離さずに返事をする。栗栖川くんに仕事の説明していたから自分の仕事がまだ終わらなくて、このままじゃ今日は定時に帰れないかもしれないからだ。
まぁ、定時に帰っても夕御飯作って食べて寝るだけなんだけど。
「都築さんて、今いくつですか?」
「え、」
質問内容があまりにプライベートで、絶句してしまった。
(失礼すぎるでしょ、この人。)
「さ、30ですけど?」
少し声が小さくなる。当たり前だ、もう年を堂々と言えるほど若くないのだから。
なのに彼は、それを聞くと嬉しそうに口元を綻ばせた。
・・・・なぜ?
「あ、僕は24です」
──うん、聞いてないよ?
そっか若いねと乾いた笑いで答えながら、私は心の中で苦々しい気持ちを抑え込む。
───で、何かな?喧嘩売ってるのかしら?
「栗栖川病院って、知ってますか?」
「知ってるもなにも、この辺りで一番でかい病院でしょ・・・」
そこまで自分で答えて、気が付いた。
「え、もしかして───、」
「あ、分かります?」
目を輝かせて、栗栖川くんが言った。
いやいや、誰だって分かるでしょ普通。苗字、珍しいもの。
そう思いながらも、同時に疑問が浮かぶ。
大病院の息子、となれば普通医者になるものなんじゃあ?
そんな人材がどうして────。
「どうして、こんなところに・・・?」
思わず口から出てしまった私の言葉に、彼は傷付いたように少し目を伏せた。
(あ、もしかして私・・・何か失礼なこと────)
踏み込むべきではなかったのに。
なぜ口走ってしまったのだろう。
ごめんなさいと言うつもりで口を開きかけた私に、彼は少し悲しそうな目で言った。
「都築さんはどうしてだと、思います?」