第63話 二度目の特設迷宮は少し軽い
八月二十日、午後七時五十八分。三森の画面へ、五人分の接続欄が並んだ。
夜帳ヨルカ、配線ミナト、鍋島こむぎ。第一回の迷宮を知る三人。
碁盤シキ、鍵森メイズ。今回、初めて入る二人。
『Creator Raid Branch v2、合同接続試験を開始する』
青い門の上で、ラプラスもどきが宣言した。
「二度目であるのに、まだ試すのか」
「二度目だから、前回から直したところを試すんです」
配線ミナトの返答は早かった。
「初回は二人だけの公開試験でした。本番で五人そろってから分かったこともあります。今回は最初から全員で壊しにいきます」
「壊すな。確かめよ」
「同じ意味です」
〈技術者の壊すは試す〉
〈ミナトが帰ってきた〉
〈今日は本番じゃないぞ〉
画面の向こうで、鍵森メイズが小さく笑った。
「壊れた時に出口が開くか、私が見ます。脱出ゲーム配信者なので」
「迷宮から出る試験に熱心であるな」
「閉じ込められるよりは」
◇
五人の前へ、第二版の操作画面が開いた。中央に攻略アバターと周辺地図。上に体力。下に現在の作戦。その隣へ、次に作戦を変更できる時刻が大きく表示される。
常に見える情報は、それだけだった。
「前はどうだったんですか」
碁盤シキが尋ねる。
「十六項目が常に出て、攻略アバターより数字の方が広かったです」
夜帳ヨルカが答えた。
「体力を探している間に敵が来ます」
「ホラーですね」
「一番怖かったです」
『必要なら詳細欄へ全項目を残してある』
「ラプっち、まだ未練あんじゃん」
ノーラの声が運営側から入る。
碁盤の表示だけ、胸元にあるはずの所属事務所のロゴがなかった。代わりに、シルカが作った青い共通紋章が付いている。
「ロゴの表示は本番だけ、という許可だからです」
ヴェルナが確認する。
「今日の試験では、許諾済みの活動名、色、外見上の特徴だけを使用します」
「本番で急に完成するわけだな」
碁盤は、紋章のない自分の攻略アバターを回して見た。
「仮駒みたいで、これはこれで戦略ゲームっぽいです」
試験だからと本番用の素材を先に使わない。三森は前なら、後で消せばよいと考えていた。今は、表示されていないことも正常の印だと分かる。
◇
最初に試すのは、作戦切替の時刻だった。
「全員、二十時十二分に作戦を変えます」
碁盤シキが五人へ告げた。
「選ぶ作戦は別でも、押す時刻をそろえる。次の変更可能時刻も、二十時十七分でそろいます」
「なぜ同じ時に変える必要がある」
「前衛だけ先に突っ込んで、後衛が四分前の作戦で動いたら困るからです」
三森は防衛側の画面を見た。領民側にも同じ共有時刻がある。
二十時十二分。
五人が一斉に作戦を切り替えた。ガンガン行け。命を大事に。サポートの動き。選んだ内容は違う。それでも全員の欄に、次回変更可能、二十時十七分と表示された。
「一人、押し遅れた場合は?」
鍋島こむぎが尋ねる。
「その人だけ、次の時刻がずれます」
配線ミナトが答える。
「名前の横へずれが出るので、声で共有する。無理に全員を待たせるかは、その場で決めます」
「時刻が見えるだけで、号令の意味が変わるのだな」
三森が言うと、碁盤が頷いた。
「五分後、では人によって時計が違います。二十時十七分なら同じです」
◇
次は、音声だけが切れた場合の試験だった。鍵森メイズの声が突然消える。配信と攻略アバターは動いたまま、名前の横へ黄色い印が付いた。
音声未接続/映像・作戦入力は継続中
鍵森が代替連絡欄へ文字を送る。
聞こえています。音声だけ戻し作業中。進行を続けてください。
「メイズさん、聞こえてる。続行希望です」
鍋島こむぎが、短く全員へ伝えた。
「第一回なら、通話で『聞こえますか』を重ねてたところですね」
夜帳ヨルカも応じる。
『音声断を配信断と誤判定せず、攻略代理体を維持。代替連絡の受信、正常』
ラプラスは鍵森の声を作らなかった。本人が入力した文字だけを、運営欄へ出した。
三十秒後、音声が戻る。
「出口、ありました」
「よく戻った。次は完全に切れよ」
「歓迎の言葉に聞こえないですね」
◇
鍵森の接続欄が、今度は灰色になった。事前に決めた退避手順が作動する。
攻略アバターは新しい敵を追わず、近くの味方を守りながら安全地点まで下がった。発言はしない。勝手に作戦も変えない。最後に受けていた「命を大事に」の範囲だけで動く。
「切れた本人を置いて進むか、全員で止まるかは?」
三森が尋ねる。
「本番では、復帰見込みと戦況を確認して、運営から選択肢を出します」
デミタスが答えた。
「一名の離脱で全配信を即時停止はいたしません。ただし、続行すると本人の不利益になる場合は止めます」
ヴェルナの台帳では、接続断、代替連絡、AI退避、復帰までの時刻が一列に記録されていた。一分後、鍵森が戻る。安全地点にいた攻略アバターへ接続が戻り、次の作戦変更が可能になる時刻も、そのまま引き継がれた。
「閉じ込められませんでした」
「当然だ。我が迷宮は、客人の出口まで管理しておる」
『前回の事故記録から実装した機能だ』
「我の管理である」
『我の実装だ』
〈そこ張り合うな〉
〈退避成功〉
〈前回組が説明してくれるの安心感ある〉
〈碁盤の時刻管理、本番で強そう〉
五人分の接続欄が、すべて緑へ戻った。
第一回の特設迷宮は、必要なものを全部見せるところから始まり、参加者を情報の中へ埋めた。第二回は、必要な時に必要なものだけを開く。表示も、連絡も、退路も、少し軽くなっていた。
「八月二十二日、二十時」
三森は青い門の上へ、本番日時を掲げた。
「五つの城より来る侵入者を、今度こそ守護神の前まで通してみよ!」
「通したいのか、止めたいのか、どちらですか」
碁盤シキに問われ、三森は一瞬だけ黙った。
「我の領民を越えられるものなら、越えてみよという意味だ!」
合同試験は、停止も権利事故もなく終了した。
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迷宮運営記録
- 配信回:第89回・第二回合同接続試験
- 次回配信:2026年8月22日(土)20:00・第二回クリエイターレイド
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