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第60話 次に呼びたい者を記せ

「記入欄は二つでよい」


 火曜配信の四十分前、三森は公式HPに作られた空白の画面を指した。


「呼びたい者の名。呼びたい理由。以上だ」


『不正確だが、入力としては足りる』


 ラプラスもどきが光を走らせると、白い画面に二つの枠が現れた。次回の迷宮攻略へ招待してほしい配信者。その配信者を推薦する理由。


 送信された名前をまとめ、同じ人物への推薦数を数える。表記揺れは公開チャンネルのURLで統合し、同じ者による連続送信は一票として扱う。ラプラスは、そのまま上位から招待すれば最も多くの領民が望む催しになると結論づけた。


「よし。完成だな」


「未完成です」


 ヴェルナが、二つしかない記入欄の下へ新しい札を置いた。


「推薦された方が、参加を希望しなかった場合はどうしますか」


「呼ばぬ」


「所属先の許可が必要な方は」


「確認する」


「日程が合わない場合、活動規約が企画と両立しない場合、映像や音声を迷宮側へ表示できない場合は」


「呼べぬ」


「では、その旨を先に明記します」


 札が五枚に増えた。


 本人意思。所属許可。日程。活動規約。映像・音声・素材の権利。


『推薦数順が、なぜ参加者決定にならぬ』


「推薦は第三者の希望です。本人の同意ではありません」


 ヴェルナの返答に、三森とラプラスが同時に黙った。つい一か月前、本人の同意ではない希望を、力也が仕事の決定へ変えようとしたばかりだった。


「票が多くとも、本人が嫌なら終わりだ」


 三森が言うと、ヴェルナは頷いた。


「はい。また、票が少なくても企画に合い、本人が参加を望む方は候補になり得ます。これは人気投票ではありません」


『ならば集計順位だけでなく、推薦理由の語句を分類する。攻略、連携、反応、技術、料理、恐怖耐性――企画上の適性を抽出可能だ』


「料理は攻略に必要か」


『貴様が第一回で鍋島こむぎを呼んだ理由を忘れたのか』


「必要であるな」


     ◇


 二つだった記入欄は、四つになった。


 活動名。公式の公開URL。推薦理由。この迷宮攻略で見たい役割。


 ヴェルナはさらに注意書きを追加した。


 推薦は招待や参加を保証しない。本人や所属先へ、推薦したから参加するよう求めない。非公開の連絡先や本名を書かない。推薦欄を使って、候補者への苦情や告発を送らない。複数回送っても票は増えない。


「長い」


 三森は、画面の半分を埋めた文章を見た。


「まだ確認項目の半分です」


「これ以上、何を確認するのだ」


「主催側で活動内容と過去の規約上の問題を確認すること。参加条件、日程、素材利用の範囲は、推薦締切後に候補者本人と個別に調整すること。推薦者の情報を候補者へそのまま渡さないことです」


「領民は、名を書くまでに力尽きるぞ」


 ノーラが文章を覗き込み、注意書きの冒頭へ短い要約を付けた。


推薦は「この人を見たい」という希望です。

招待と参加は、本人・所属先への確認後に決まります。

候補者へ参加を迫らず、公開情報だけで推薦してください。


「最初にこれ見せて、詳しい説明は開く式でよくないっすか」


「内容を削らないのであれば構いません」


 長文は消えなかったが、折り畳まれた。


 三森は勝利した気分になった。


     ◇


 二十時、第八十五回の配信が始まった。


『今宵は、第二回クリエイターレイドの参加候補を、そなたらから募る!』


 画面へ、第一回で使った特設迷宮の映像が出る。崩れた防衛線、三体のゴリ子ジュニア、最後まで残ったゴリ子本体。今回は第一回の経験者だけでなく、活動分野や所属の異なる者も候補へ入れる予定だった。


〈二回目きた!〉


〈誰を書いてもいいの?〉


〈大手でも企業勢でも?〉


〈本人に出てって頼みに行っていい?〉


『最後の者、行くな』


 三森はすぐに止めた。


『これは我が迷宮から誰へ招待を送るか、その参考にするものだ。推薦された者へ押しかけてはならぬ。参加するかは、本人が決める』


 ヴェルナが用意した一文を読み上げるだけのはずだった。しかし三森は画面の向こうに、受けてもいない仕事を先に進められた自分を思い出した。だから最後の部分だけは、台本を見ずにもう一度言った。


『本人が嫌だと言えば、票が何万あろうと呼ばぬ。そこは間違えるな』


〈了解〉


〈人気投票じゃないのね〉


〈推薦理由もちゃんと書くわ〉


〈公式以外に突撃しない、大事〉


 公式HPに、推薦フォームへの入口が開いた。


次に迷宮へ呼びたい者を記せ


 送信数が、一、十、百と増えていく。ラプラスは名前とURLを統合し、理由を分類していった。


『リアルタイム順位を表示可能だ』


「見せよ」


「締切まで非公開です」


 ヴェルナが即座に止めた。


「途中順位を見た領民が、上位へ票を重ねる可能性があります。候補者への接触も増えます」


「我だけなら見てもよいのではないか」


「マスターが配信中に顔へ出さないと保証できますか」


 三森は答えなかった。見たい名が一つだけあった。その名が入っていれば喜び、なければ落ち込む自信がある。


「……締切まで待とう」


 フォームは金曜の二十三時五十九分まで開く。長い注意書きの下で、領民たちは次に見たい挑戦者の名を書き始めた。


---


迷宮運営記録


- 配信回:第85回

- 次回配信:2026年8月13日(木)20:00

- チャンネル登録者:56,421人(+1,515人)

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