第46話 敗北しても祭典は終わる
次の門が、左右へ重く開いた。奥には広い守護区画がある。黒鉄の名札を下げた八体のゴリ子ジュニアが、二列に分かれて待っていた。その後ろに、城門のような盾が立っている。
盾の上から、ゴリ子本体が顔を出した。
〈ゴリ子:きたよー〉
「我が守護神、参戦を確認した!」
〈本体ログイン済み〉
〈ジュニア八体もいる〉
〈初回から満員編成〉
「大きいですね」
夜帳ヨルカの声から、第一防衛線を越えた喜びが消えた。
「公開されていた数値より、盾が大きく見えます」
「遠近感の問題では?」
配線ミナトが自分の画面で距離を測る。
「いえ、実寸です。ガンジさんより幅があります」
「よき盾だ!」
「相手の装備ですよ」
鍋島こむぎに言われても、鉄砦ガンジは感心したままだった。
ゴリ子が盾を床へ下ろす。石床が一度揺れ、八体のジュニアへ守護領域の光が広がった。
「一体ずつなら本体の四分の一くらい、でしたよね」
「守護領域が乗っています。表示上の耐久は、それより少し高いです」
ミナトが答える間に、作戦変更時刻が近づく。二十時三十三分十秒。
「まずジュニアを減らします」
「俺とミナト殿が前へ出よう!」
「ネムさんは二人の間を守ってください。こむぎさんとヨルカさんは、その後ろで」
「作戦は?」
眠井ネムが尋ねた。
「前の二人がガンガン行け。後ろの三人はサポートでどうでしょう」
「賛成です」
五人の選択が切り替わった。ミナトの斥候とガンジの戦士が、同時に守護区画へ入る。
◇
先にジュニアへ届いたのはミナトだった。小さな短剣が、一号の盾の縁を叩く。傷は浅い。だが一号が斥候を追って向きを変えた。
空いた横から、ガンジの石槌が入る。一号の体力が三分の一近く減った。
「効いている!」
「もう一度、同じ向きへ誘えれば倒せます」
ミナトの斥候は次の一撃を避け、二号と三号の間へ入った。ジュニア二体が振り返る。ガンジも追う。
「増えました!」
「同じ向きへ誘えとは言いましたが、二体追加しろとは言ってません」
「攻略アバターに聞こえておらぬぞ」
三森はパイプ玉座から身を乗り出した。
三体のジュニアがガンジを囲む。石槌を振るうたび一体は下がるが、別の一体が肩へぶつかった。ガンジの体力が削られる。
「回復、行きます」
こむぎの杖から光が飛んだ。一度目はガンジへ届く。二度目の光は、途中へ割り込んだミナトへ移った。
「私、今どっちを治してます?」
「体力の減った方を自動で選んでいます」
「二人とも減ると交互になるんですね」
「私が間へ入ります」
ネムの盾役が前へ出た。ガンジへ向かっていた一撃を丸盾で受ける。押し戻されても、眠そうな顔は変わらない。
「攻略アバターの私、すごく働いてる」
「本人も時刻を見ておる。十分働いておるぞ」
「褒められたので、あと五分はいけます」
後方から、ヨルカの術が飛んだ。黒い光が一号の背へ当たる。一号の体力が赤へ変わった。
「倒せそうです。もう一発」
術士は杖を構える。その前へ、ゴリ子本体の盾が動いた。黒い光は盾へ吸われ、傷一つ残らない。
「本体、動くんですか?」
「守護神であるぞ」
「置物であってほしかった」
〈無茶言うな〉
〈守護神が守りに入った〉
〈ジュニア一号あと少し〉
視聴者の支援光が、五体の武器へ重なる。ガンジの石槌が一号を捉えた。一号の姿が光へほどけ、イベント枝の待機地点へ戻される。
〈一号撃破!〉
〈初めてジュニア倒した〉
〈いけるぞ〉
「まだ七体おる!」
三森が言うと、五つの配信から同時に笑い声が返ってきた。
◇
二十時三十八分十秒。五人は作戦を変えなかった。前衛二体が進み、後ろの三体が支える形は崩れていない。
二号はヨルカの術で倒れた。三号はミナトが背を向けさせ、ガンジが石槌で仕留めた。
三体を失ったところで、残るジュニアの動きが変わる。四号と五号がネムの盾へ体当たりした。六号はミナトを追わず、こむぎの補助役へ向かう。
「後ろを狙ってきました」
「こむぎ殿!」
ガンジの戦士が戻ろうとする。その進路へ、ゴリ子本体が入った。城門盾と石槌が正面からぶつかる。
ガンジの体力が、一撃で半分近く消えた。通話から声がなくなる。
「まだ立っている!」
最初に叫んだのはガンジ本人だった。
「次も受けられますか」
「同じ威力なら無理です」
ミナトの答えと同時に、こむぎの回復が飛ぶ。ガンジの体力は少し戻った。
だがゴリ子の二撃目は、回復した分ごと石人の戦士を吹き飛ばした。大きな体が床を滑り、壁へ当たって止まる。
『鉄砦ガンジ、戦闘不能。復活処理なし』
「見事!」
倒された本人が、誰より大きな声で笑った。
「次は、あの盾を持つ側をやりたい!」
「抽選である。選べぬ」
「ならば引き当てよう!」
前衛を一体失い、ジュニアが後衛へ届いた。ネムの盾がこむぎを守る。ヨルカの術が六号を止める。ミナトは本体の横へ回ろうとした。
ゴリ子の盾が、斥候の進路をふさぐ。
二十時四十三分十秒。
「逃げろ以外なら何でもいいです」
ヨルカが言った。
「命を大事にへ変えましょう。倒した三体は戻りません。残ったまま、どこまで削れるか見ます」
ネムの提案で、四人が命を大事にへそろえる。攻略アバターは互いの近くへ集まり、攻撃を受ける回数を減らした。それでも、守護区画から出ようとはしない。
ミナトが七号の足を止める。ヨルカが撃ち、こむぎが回復する。
ネムの盾が割れた。次にミナトが倒れ、こむぎ、ヨルカと続いた。
最後まで残ったネムの盾役は、割れた丸盾を構えたままゴリ子本体の前へ立つ。
「逃げろへ変えます?」
ミナトが聞いた。
「あと一分あります」
ネムは自分の変更時刻を見た。
「じゃあ、このままで」
ゴリ子の盾が振り下ろされた。
『眠井ネム、戦闘不能。攻略側全員の敗北を確認』
守護区画に立っているのは、ゴリ子本体と五体のジュニアだった。
◇
「我が守護神の前に、外より来た城主どもも――」
三森は片手を上げた。五つの攻略画面には、倒れた攻略アバターの代わりに本人たちの配信画面が戻っている。
ガンジは笑っていた。ヨルカは自分が倒した二号の場面を巻き戻している。こむぎは全員の体力が減った順番をメモし、ミナトとネムは、次に作戦を変えられたはずの時刻を確認している。
三森は上げた手を、そのまま五人へ向けた。
「――退けられはしたが、第一防衛線を越え、我が守護神の配下を三体まで崩した」
ゴリ子本体が、背後で盾を立て直す。
「配線ミナト。道と罠を見つけた。夜帳ヨルカ。逃げた先で敵を覚え、二体目を倒した。鍋島こむぎ。前衛が倒れるまで回復を切らさなかった。鉄砦ガンジ。守護神の盾を正面から受けた。眠井ネム。散れた作戦の時刻をそろえ、最後まで仲間の前に立った」
「一体目は俺とミナト殿とヨルカ殿の共同戦果だ!」
「細かいな」
「大事なところだ!」
「では共同戦果と記録せよ」
『修正した』
三森は、六つの配信に流れるコメントを見た。
「五つの城より戦力を送り、我が領民とともに祭典を見届けた者たちにも礼を言う。此度の勝者は我が迷宮である。だが、この戦場を最後まで動かしたのは、ここにいる全員だ」
〈主催できてる〉
〈最初は全員動かなかったけどな〉
〈三体倒せたの普通にすごい〉
〈第二回やってくれ〉
〈ゴリ子:おつかれさまでしたー〉
「我が守護神も、よく務めた」
イベント枝の青い光が消えていく。ゴリ子とジュニアは通常迷宮へ戻り、倒された攻略アバターも無傷の記録へ戻された。
第一回クリエイターレイドは、中止も切断もなく終了した。
◇
迷宮画面を閉じても、六人の通話は残った。
「反省会まで配信へ含めております。すぐに通話を切らなくて大丈夫です」
デミタスから文字が届く。三森は、終幕の挨拶を言いかけた口を閉じた。
「ガンジさん、普段は戦略ゲームもされるんですよね」
ミナトが尋ねる。
「無論だ! 今日の動きを盤面で再現してみたい!」
「迷宮の簡略図なら私が作れます。今度、二人で検討配信をしませんか」
「受けよう!」
「ヨルカさんは、配信中いつもあんなにびっくりするんですか?」
こむぎが別の話を始めた。
「今日はまだ少ない方です」
「じゃあ、怪談を聞きながら夜食を作る配信とかどうです? 私、怖い話を聞くと黙っちゃうので、代わりにしゃべってほしいです」
「私も黙ると思います」
「ネムさんにいてもらいましょう」
「午前二時以降なら起きています」
「時間が怖いです」
次の配信の話が、三森を通さずに決まっていく。
「我が迷宮で、同盟が結ばれておる」
「それが主催っすよ」
ノーラは六人分の連絡先が入った管理表を保存した。
「迷宮ミモリさんも、次は攻略側でどうですか?」
こむぎに声をかけられ、三森は少しだけ返事に詰まった。
「我が、自ら迷宮へ侵入するのか」
「普通の協力ゲームでもいいですよ」
「それならば……検討しよう」
「やった。六人で遊べるもの探しておきますね」
通話の向こうで、五人が次々に候補を挙げ始めた。ラプラスだけは会話へ加わらず、イベント枝に残ったログを見ている。
通常迷宮、六つの配信、五体の攻略アバター、防衛アバター群。開幕から終了までに積み上がった記録が、目玉の周囲を何重にも回っていた。
『分類単位が粗い』
「何か申したか」
『次回までに分ける』
ラプラスはそれだけ答え、また記録の輪へ目を戻した。
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迷宮運営記録
- 配信回:第69回(終幕)
- 次回配信:2026年7月7日(火)20:00
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