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第37話 一万人の改装要望

「壁紙の色を選ばせるつもりだったのだ」


 三森は色見本を机の端へ寄せた。それでも空中の受付画面からは目を離さない。


 有効要望、二万八千六百四件。読んでいる間にも数字が進む。


「領民は一万のはずであろう」


『一人一案に限定せよという指定はなかった』


「言葉の穴を見つけるたび、最大まで広げるでない!」


 ノーラがノートPCを回した。


「多かったやつだけ読むっすよ。外を回る攻略路、第二層への大階段、罠の見学室、冒険者の休憩所、モンスター側の待機所、あと大厨房。ミモリ様の『部屋一つの模様替え程度でも寛大に受け入れよう』が、完全に注文リストとして読まれてます」


「部屋の用途を聞いたのだ。なぜ都市計画が返ってくる」


「一万人に聞いたからっすね」


「厨房はあたしも一票入れとくよ」


 鍋を抱えたミラが、通りすがりに口を挟んだ。


『領民代理体に食事は不要だ。ただし、食べる動作と一時効果は実装できる』


「不要なら作らぬ」


「その却下も込みで配信にするんすよ」


 ノーラは要望画面の横へ、採用と保留と不採用の欄を並べた。


「ぜんぶ言うこと聞く企画じゃないっす。領民が案を出して、ミモリ様が採るか蹴るか決める。採ったら、その場で掘る。何で蹴られたかが見えるのが、いちばん盛り上がるんで」


「注文主ではなく、設計会議へ参加させるということか」


「そ。決定権はミモリ様に残るし」


 三森が不採用欄の先頭を開く。スーパーチャット額を賭ける闘技場、という一件だった。


「これは通さぬ。領民の金銭を賭けさせるつもりはない」


 次は、配信を終了せず永久に滞在できる睡眠区画だった。


「これも不採用である」


「理由は?」


「警告が来る」


「学習してて偉い」


「褒め方が軽いぞ」


 デミタスが採用条件を三つへまとめた。配信中に施工できること。規約と現代の決まりへ触れぬこと。使えるDPと魔力の内へ収まること。


「DPが足りぬ場合はどうします」


「形だけを土木魔術で作り、固定する区画を絞る。見た目のためだけに百層を空洞にするより、使える一層を仕上げる方がよい」


『現在の最大建設枠は百五層。造成済みではなく、大半は通路も照明もない暗い枠だ』


「……余白が多いな」


「余白っていうか、ほぼまだ何も作ってないっす」


 三森は全体図を閉じ、第一層だけを拡大した。入口の一本道。罠区画。モンスター側の待機場所。守護区画。そして、まだ線しか引かれていない外周部。


「今回はこの周辺へ限る。領民アバターも入れよ。図面だけを見て作れば、また通れぬ者が出る」


「工事中も攻略は止めないってことっすね」


「我が壁を作っている横を通れると思うなよ」


「通れたら、その道が必要だったって証明になるっす」


『ならば、攻略対象の階層を事前投票で決める仕組みを実装する』


 ラプラスが公式HPへ選択画面を追加した。一度の配信で新たに突破できる階層は一つまで。次の階層は次回配信から解放する。


 どこへ挑むかは、配信前の投票で決める。第一層と最新の攻略対象は常に候補へ入り、その間に突破済みの階層があれば無作為で候補が足された。


「なぜ第一層が毎回残る」


『新規参加者が初期区画を体験できる。最古の地形との比較資料にもなる』


「古参が一階を選んだら、単体上限が低い分、配下とパーティが大量に湧くんじゃない?」


『その認識で正しい』


 ノーラが将来予測を開いた。狭い一本道を、小さな軍勢同士が埋めている。


「もう攻略じゃなくて戦争じゃん」


『最新階層は単体上限が高い。配下は減り、恒久能力の高い本体同士が正面から戦う』


 次の予測図は広間だった。中央で、巨大なモンスターと重装の冒険者が向かい合っている。


「こっちはコロシアムっぽ」


「よいではないか。古い戦場と新しい戦場、領民に選ばせればよい」


「で、明日の候補は第一層のみっす。まだ誰も抜けてないんで」


「選べぬではないか!」


 候補欄では、第一層の一項目だけが白く光っている。


『選択肢が一つであることと、投票機能が無効であることは異なる』


「投票率一〇〇パーセント確定のアンケート、ガチで意味なくない?」


『動作確認にはなる』


 シルカが告知画像へ黒鉄の枠を入れた。旗の案だけ抜く。


「旗、なくてよくない? 第一層、暗いし。照明が先」


「推しの勇者は、周年の折に何を行った」


「記念配信とグッズっすね。……こっちは記念配信だけでいきましょ」


 ノーラは告知と要望フォームを同時に更新した。


迷宮ミモリ @MeikyuMimori ・ 6月15日

【一万人記念・公開大改装】

明日6月16日20時より開始。領民の要望と、攻略・防衛の実地状況を見ながら、第一層周辺をその場で作り変える。


採用条件:配信中に施工可能/規約違反なし/DP予算内


攻略対象は事前投票で決定する。なお今回は第一層しか選べぬ。投票機能の試験だと思え。

#ミモリ迷宮 #公開大改装


「六月十六日、二十時開始。三時間の枠で押さえました」


 デミタスは手帳へ線を引いた。そのまま顔を上げる。


「して、工事の前には地鎮祭を執り行い、その土地の神へ許しを請うと伺いましたが」


「土地の神ならば、昨日、我が任命したばかりである」


「じゃ、守護神に休みはないっすね」


「うむ。あの者は毎回来る」


---


迷宮運営記録


- 配信回:非配信回(直近:第65回)

- 次回配信:2026年6月16日(火)20:00・一万人記念公開大改装

- チャンネル登録者:10,318人(+318人)

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