第24話 献上は千人から
月曜日の朝、食卓の端末に集計の通知が出ていた。
――領民週次収入の集計が完了しました。対象領民数、百人。固定収入、百DP。
その下にもう一行あった。登録者百人到達により、第六層が解放された。三森はそこへ目を通し、DPの欄へ戻った。
「見に来ぬ領民からも、税が取れるではないか」
『徴収ではない。登録数を基準に、迷宮側から支給されている』
「領民の存在そのものが税となる。同じであろう」
訂正を聞き流し、三森は内訳を開いた。週次の固定収入の他に、少量のDPが記録されている。配信で視聴者が残っていた時間の分だという。
一度ごとは僅かだ。それでも、十二人や十四人がいた時間は消えていない。
「来て、居る。それだけで領地が育つのか」
『観測が継続した時間を、稼働として認識しているようだ』
「それは税ではなく、労役に近いな」
端末の数字へ、三森は指で桁を一つずつ足してみた。
「百人で毎週百。千人なら千。一万人なら一万。よい、実によいぞ」
「じゃ、あーしらでアカウント作りまくったら爆速じゃね?」
トーストをかじりながら、ノーラが横から言った。
『無理だ。眷属の自作アカウント、機械的な登録、購入された偽登録は領民として認識されない。公式HPと配信を同時に開いても、同一人物は二重に加算されない』
「ちぇー。ガチ判定じゃん」
「領民を作る魔術はないか」
『ない。実在する人間に登録してもらえ』
「それが難しいのだ」
台所からミラが顔を出した。
「千人来ても飯は出せないよ。鍋が足りない」
「誰も炊き出しの話はしておらぬ」
百DPは大きい。だが、一度の造成で使い切る程度でもある。他に収入はないか。三森が尋ねると、ラプラスは献上品を挙げた。
「献上品?」
『プラットフォームの配信支援機能。一般には、スーパーチャットと呼ばれる』
「それを開け」
『現在は開設できない』
管理板の上へ、収益化参加条件が並んだ。チャンネル登録者は千人。現在は百人。
直近十二か月の公開視聴時間は四千時間。現在は百時間に満たない。二つの数字を見比べ、三森の眉がゆっくり寄った。
「十倍ではないか」
『そうだ』
「そして四千時間。我一人で、半年近く配信し続けろというのか」
『配信時間ではない。公開した配信と動画を、視聴者が見た時間の合計だ』
十人が一時間見れば十時間。百人なら百時間。三森は端末の上で数字を並べ、顔を上げた。
「百人の領民全員を集め、四十時間留め置けばよいのだな」
「マスター」
皿を下げる手を止めずに、デミタスが呼ぶ。
「視聴者の皆様にも、生活がございます」
「分かっておる。例えだ」
『百人全員が同時に集まった実績はない』
「分かっておると言ったであろう!」
その日の夜、三森は最初の小部屋から配信を開いた。題は「領民を千人にする作戦会議」。
〈急に目標が現実的〉
〈世界征服は?〉
〈まず千人から征服するらしい〉
「千人は通過点にすぎぬ。しかし、通過するには道が必要だ」
配信画面の端へ、収益化の条件を表示する。
〈千人と四千時間か〉
〈条件を満たしても、審査で落ちる可能性はあるからな〉
〈というか千人集まる前に、企業の企画だってバレる方に賭ける〉
「その賭けの配当は、誰が払うのだ」
〈言われてみれば誰も払わない〉
〈登録したけど毎回は見れないぞ〉
〈同じ時間に配信した方が来やすい〉
〈予定が分かれば見に来る〉
〈スコップと魔法の切り抜き、本人のチャンネルにも置けば?〉
三森はコメントを一つずつ読んだ。
「時刻を先に告げ、長い記録を見やすく切る。それで領民が増えるのか」
〈少なくとも今よりは〉
〈不定期すぎて通知頼みなんよ〉
入口の外で、ノーラが親指を立てた。
「切り抜きはあーしが出しますって。てか、もう三本上がってるんで」
「我の許可を得ておらぬぞ」
「マスターのチャンネルへ載せる分は、今そこで取ってるっす。これが一本目」
差し出された端末の中で、スコップを構えた迷宮ミモリが土を掘っている。四十一センチ掘った末に、土木魔術を思い出す場面だった。
「その部分を切るなと言っておる!」
〈これは切る〉
〈むしろそこしか切らない〉
「領主が領民の都合に合わせて布告の時間を決めるとは……」
そこまで言ったところで、同時接続数が一つ減った。
「なぜ今、一人帰った」
〈たぶん風呂〉
〈生活があるって執事が言ってただろ〉
「毎回集まれとは言わぬ。来られる時に来ればよい。そなたらが見ておる時間は、献上品を捧げられずとも、すでに我が迷宮の力となっておる」
〈お、意外とまとも〉
〈税と労役の二重取りだけどな〉
「言い方!」
コメントはDPになるのか。ハートを連打すれば視聴時間が縮むか。公式HPと配信の二窓で、二人分になるか。続けて出た質問を、ラプラスが順に否定していく。
『コメントとハートは通常DPへ直接変換されない。同一人物の二重視聴も一人分だ』
〈ガチ判定〉
〈地道にやれという強い意思を感じる〉
「よい。ならば、本当に人を集めればよいのであろう」
〈千人行ったらパイプ玉座の補修費投げるわ〉
「そなたは、献上するまでにネジ以外の使い道を考えよ」
〈拒否された〉
〈でも覚えられたぞ〉
三森は千人と四千時間の表示を閉じた。
「それまで献上窓口は閉じたままだ。当面は、今日入った百DPと、そなたらが残した時間で造成を進める」
〈まず何作る?〉
「出口だ」
〈切実〉
〈最近、帰るのが面倒になってたもんな〉
配信終了後、ラプラスが百DPの一部を使った。帰還位置を見失わないための仮標識である。
『明日、内部から表示と帰還動線を確認する』
「すぐに済むのであろうな」
『五分もあれば十分だ』
その夜、三森は収益化の条件と配信規約を開いた。
『全文を読むのか』
「当然であろう。領地の管理条件だぞ」
窓の外が薄く白みはじめても、三森はまだ第四章を読んでいた。
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迷宮運営記録
- 配信回:第5回
- 次回配信:未定
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