表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目王子の専属侍女── 一歩先を導く侍女と追放王子の逆転劇  作者: チャーコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/9

2 闇魔法と、王太子の空席

 ――それより半月ほど前。王宮で開かれていた祝宴の夜。


 祝宴の大広間には、燭台の光が幾重にも連なり、音楽と談笑が途切れることなく満ち溢れていた。王国の中枢に名を連ねる者たちが集い、視線と評価が絶えず交錯する場だった。


 第一王子ルチアーノ・ディ・ヴァレンティーノは、十六歳にして、その中心に立っていた。


 淡い金髪は光を受けて柔らかく輝き、整った顔立ちと相まって、否応なく人目を惹く。澄んだ青い瞳は、海を思わせる深い色を帯び、感情を抑えたまま周囲へ視線を巡らせていた。


 王太子として優秀と評され、光属性と風属性の魔法の才能を持つ王子。

 この国において、彼の存在は象徴でもあり、期待そのものだった。


「殿下、次は北方領の使節が挨拶を」


 側近のニコラス・サルヴィが声をかけてくる。


「承知した」


 短く応じて数歩進んだ、その瞬間だった。


 床の感触が、わずかに変わった。


 反射的に足を止め、魔力を巡らせる。

 風魔法の感覚が、床下の空気の流れを捉えきれない。


(……おかしい)


 次の瞬間、大広間の中央、ルチアーノの足元に複雑な紋様が浮かび上がった。幾何学的な線が重なり合い、闇色の魔力が床からせり上がる。


「――魔法陣だ!」


 叫びが上がる。


 ルチアーノは即座に光属性の魔力を立ち上げ、防御を展開しようとした。

 だが、闇魔法はそれより早く、視覚へ直接絡みついた。


 視界が、一気に崩れた。


 暗闇ではないが、形が結ばれない。

 色と光が引き剥がされ、濃い灰色の膜が視界全体を覆った。圧迫されるような感覚が、目の奥に広がる。


「……っ」


 風を操り、距離を取ろうとする。

 しかし、闇魔法は魔力経路そのものに干渉し、動きを鈍らせた。


 床が遠のき、身体の軸がずれる。


「殿下!」


 ニコラスが腕を掴み、ルチアーノの転倒を防ぐ。

 その間に、魔法陣は跡形もなく消えていた。


 残ったのは、ざわめきと、向けられる無数の視線だった。


「闇魔法だ……」

「ここまで複雑な陣を、王宮で……」


 混乱が広がる中、よく通る声が場を制した。


「過剰に騒ぐ必要はありません」


 王妃イリナだった。


「魔法陣は消え、殿下も命に別状はない。今は状況を整理するべきでしょう」


(命に、別状はない)


 ルチアーノは、奥歯を噛みしめる。


 見えない。

 視界が、何ひとつ応えない。


 それだけで、今まで成立していた判断が、次々と崩れていく。


「殿下、こちらへ」


 ニコラスに導かれ、別室へ移動する。

 周囲の気配は感じ取れるが、距離も人数も掴めない。


 医師と魔術師による診断が始まった。


「……視神経に関わる魔力経路が、完全に遮断されています」

「治癒魔法では?」

「光属性でも反応しません。闇魔法が魔力経路に深く絡んでいます」


 短いやり取りの末、さらに報告が続く。


「術者は、すでに自害しています」

「……そうか」


 逆探知は不可能。

 解除術式も残されていない。


 つまり、同様の事態が再び起きないと、誰にも断言できなかった。


(計画的だ)


 この場、この位置、この瞬間。

 王太子という立場を正確に狙った攻撃だった。


「殿下」


 ニコラスの声が、わずかに低くなる。


「視力の回復については、現時点では断言できません。ただ、時間をかければ可能性は残ります」


 希望とも猶予とも取れる言葉だった。


 ――三日後。

 王宮内で、正式な協議が始まった。


「第一王子殿下は、当面療養を」

「国政への影響を考慮すべきです」

「再発の危険も否定できません」


 誰も「追放」とは言わない。

 だが、結論は自然に一つへ向かっていった。


「離宮での療養が適切でしょう」


 王宮の中心から外す。

 その判断に、ルチアーノの意思が問われることはなかった。


「……了承した」


 今は抗う段階ではない。

 そう判断したのは、自分自身だった。


 こうして、正式な廃嫡はされないまま、王太子の席だけが空白になる。

 王宮中央から外される形で、離宮へ向かうことが決まった。


 だが、その夜。


 応えない視界の奥で、ルチアーノは理解していた。


 これは事故ではない。

 失ったのではなく、奪われた。


 視力も、立場も、判断の場も。


(……ならば)


 取り戻す。


 闇魔法で断たれたのなら、光と風で覆す。

 この一手で終わると思われるほど、甘くはない。


 闇魔法と、王太子の空席。

 それは終わりではなく、逆転のために用意された盤面だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ