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悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


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第50話 エルマの策



「よい、手を出すな」

 

 フォルテやクロエたちに命じた。

 

 だがフォルテもクロエも、すでに全身から剥き出しの殺気を放っている。

 無理もない。

 問答無用で斧を投げつけてくる相手だ。警戒を解けという方が酷だろう。

 

 遠距離からの、殺気を感じる前に躊躇の無い攻撃。

 フォルテですら直前まで察知できなかった――それほどまでに洗練された、躊躇のない初撃。


 俺を視認した瞬間に殺すと決め、思考を挟まず、即座に攻撃。

 相手が人間だろうが、それこそ貴族だろうが関係が無い。

 

 めちゃくちゃだ。

 

 だが、そのめちゃくちゃこそが『エル戦』の主人公。

 俺が知っている本当の原作の『エルマ』の姿そのもの。

 

 だが、俺の前に出てきたのは……妹の方のエルマだ。

 

「わあああああ!! お兄ちゃんやめてぇ! 何してんの!?」


 兄のとんでもない行動を理解したエルマが悲鳴に近い声とともに、慌てて俺の前で盾となった。


 だが、当の兄は止まらない。

 一歩、また一歩と、静かに、確実にこちらへ距離を詰めてくる。

 

「貴様、俺が誰か分かって斧を投げたのか? 万死に値するぞ」


 威圧を込めて吐き捨てた言葉に、男は初めて口を開いた。

 

「エルマ。今その男から救ってやる。待ってろ」


 言葉の最後の部分がにじむ。

 言い切る前にエルマの兄の――姿が消えた。


「爆ぜろ!」


 クロエが叫ぶ。

 俺が制止していたのに、勝手なものだ。


 クロエの杖から爆炎が広がり、目の前が炎で包まれ熱風が肌を焼く。

 

 しかし――

 

「炎が効いてない!?」


 その中を問答無用で突っ込んでくるエルマの兄。


 焦るクロエの声をかき消すように、二人のフォルテが前面に出る。

 一人はフォルテの『幻影』だ。


「武器を持たぬ者でも容赦はせんぞ!」


 フォルテが叫ぶ。

 跳躍するフォルテと、地を這うフォルテ。

 上段と下段、完璧な連携の挟撃。


「ぐおっ!?」


 エルマの兄は下段を攻めてきたフォルテを蹴り上げ、跳躍したフォルテに叩きつけ吹き飛ぶフォルテ。


「お兄ちゃん……! やめて!」


 エルマの叫びは、空しく宙に消える。

 男の猛進は止まらない。


 だが――


 俺の横を、鋭い風が走った。

 遅れて耳に届く、切り裂くようなヒュンッという風切り音。

 

「面白いねっ! きみ!」


 アイリスの細剣。

 男はそれを、信じがたいことに素手で受け止めた。

 

 だが、アイリスの勢いは止まらず、そのままエルマの兄が吹き飛ぶ。

 エルマの兄は木々をなぎ倒し、その姿は視界の奥へ消えた。


「お兄ちゃん!?」


 エルマの声が震える。


「ふう、勝手ながら参戦させてもらったよ。おそらくだけど……全くダメだね」


 肩をすくめるアイリス。

 『全くダメ』というアイリスの言う通りだ。倒しきれていない。


 土煙の向こうから、エルマの兄がゆっくりと姿を現す。


「お兄ちゃんやめてって! この人、偉い人なんだよ!」


 エルマの必死の訴え。だが、すでに貴族の命を狙った時点で重罪も重罪だ。


「こ、この人は……私の恋人だから! やめて!」


 叫ぶと同時に、エルマが俺に抱きついてくる。

 エルマの兄は……倒れて気絶してしまった。



 ――――――



「お兄ちゃん! 起きて!」


 意識を失ったエルマの兄を村の家まで運び込み、ベッドに横たえた直後のことだった。

 その気絶した兄に向かって、バシバシとビンタを連打しているエルマ。

 

「うっ……あ、あれ? エルマか……? 夢、か?」


 数回の平手打ちで、ようやくエルマの兄が目を覚ました。

 焦点の合っていない目で天井を見つめ、状況を理解できていない声を漏らす。


「夢じゃないよ! まったく! いきなり何してるのよ!」


「いや……これは夢の夢か? 悪い貴族がエルマを攫っている夢を見てな……ああ、俺の可愛いエルマ……」

 

「悪い貴族じゃないって! ほら! こちら私がお世話になっているレヴォス様! さっさと起きて挨拶してよ!」


 今度はグーでガンガンとパンチをしているエルマ。

 エルマの兄はようやく俺を認識し、目を見開いた。

 

「き、貴族じゃないか!? きさま! エルマに何をした!?」


 ガタっとベッドから跳ね起きるエルマの兄。


 ……やはりな。

 『馬車から俺とエルマが出てきたのを目撃後の攻撃』、『俺の可愛いエルマ発言』『エルマが学園に行くのを渋った』この点を繋ぐものは…

 

 過保護。それも、常軌を逸したレベルの。

 こいつは重度のシスコンだ。


 なら、やることは一つ。

 

「俺はエルマと同じ学園に通う生徒だ……エルマは平民ながら、おそろしく優秀だな」


 意図的に、淡々と、過保護な兄に向けて、妹への礼賛を込めて告げる。

 

「っ! そうなんだよ! エルマは可愛くて優秀でなぁ……! お前、分かってるな!」


 貴族相手に「お前」呼びか。

 その不敬さにフォルテが動きかけたが、俺は片手で制した。

 

「俺はレヴォスだ。レヴォス・ムーングレイ」


「レヴォスか! 俺はエルレイン。エルマの兄さ! 気軽にレインって呼んでくれ!」


 ……エルレイン。

 ゲーム内で聞いたことの無い名前だ。

 

 俺と同じくらいの背格好。

 黒髪で、いかにも『主人公』といった姿。


 主人公は男でも女でも名前はエルマで統一されていたが、双子として産まれたので二人ともエルマにならなかったということか。


「妹が世話になってたのか。すまなかった」

 

 エルレインはそう言うと、片手をすっと差し出して来た。

 笑顔のエルレイン、口調も穏やかだ。


 だが……エルレインの手は力で(こも)っている。

 明らかな敵意。


 くくく……面白い。実に分かりやすい。


「ああ。いいんだ」


 俺も片手を出し、握手をする。


 ――ビキィッ!

 

 俺も手を差し出し握手をした瞬間、エルレインが手に全力をそそぎ潰しにきている。

 こいつは笑顔だが、俺を相当に憎んでいる。


 しかし、エルレインの力は想像以上だ。まるで握力だけで炭素をダイヤモンドにでも変えそうなほど。

 俺の手で無ければ、手など簡単にへしゃげているだろう。


 俺も手に力を入れて拮抗させているため、周りの人間にはただ握手しているだけにしか見えないだろうが。

 

 だが――『力』というのものは『力』だけで成立するものでは無いという事を教えてやろう。

 

「ぐあっ!?」


 突然エルレインが叫び、握手していた手を引っ込める。


「おや? どうした? 親交の途中だろう?」


「お、俺に……何した!?」


 俺がやったのは……エルレインの手に雷の魔法をビリっと這わせてもらった。

 炎や氷の魔法というものは見た目でわかりやすい。


 だが、雷というものは視覚的にわかりにくく、さらに直接触れている相手であれば視認すら出来ない。

 何せ、腕の中に直接電流が走るのだから。


「何をしただと? 握手をさしだしたのはお前だろう? レイン」


 余裕の笑みを浮かべて言うと、エルレインは歯を食いしばり、俺を睨みつけた。


「お兄ちゃん、そういう目で見るのやめて! 本当に……本当に、やめてよぉ……」


 エルマの声が震えて、やがて涙目になる。

 そして嗚咽を漏らしながらシクシクと泣き出してしまったエルマ。


「エ、エルマ!? ご、ごめん! わかった! わかったから! でも、こんな貧弱そうな奴が恋人なんて、お兄ちゃん聞いてないぞ!?」


 慌てふためくエルレイン。完全に狼狽している。


 ……恋人?

 そういえば、エルレインが俺を襲った時、エルマが「恋人だ」といってエルレインを強制停止させていたな。

 

 それがエルマの策であり、語弊だという事を教えてやろう。

 

「俺は恋人ではない。勘違いするな」


「「 え? 違うの? 」」


 仰天するエルレイン。

 

 そして――なぜかエルマも仰天していた。

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