第48話 主人公との決闘
今日はエルマとの決闘の日だ。
まさか、あの逃げ腰の塊のようなエルマから決闘を挑まれることになるとは……
正直、理解に苦しむ。
あの臆病なエルマが、一体どんな心境の変化で俺に牙を剥こうと思ったんだ……?
この10日間、俺はその真意を測りかねていた。
だが、エルマは『エル戦』の主人公なのだ。
その潜在能力は底知れない。
……油断こそが、最大の敵だ。慢心した瞬間、足元を掬われるだろう。
しかし、寮生活でのエルマに不審な点は微塵もなかった。
フォルテに剣を教わっている姿も見たが、お世辞にも『強者』のそれではない。
それどころか、俺の視線に気づくと「あ、レヴォス様ぁ!」と言いニコニコと手を振ってくる始末だ。
あの余裕……何か策を隠しているに違いない。
面白い。その化けの皮ごと、全力で叩き潰してやる!
「そろそろ向かうか。エルマ」
「あっ! はい! 準備してきますね、今日はよろしくお願いします! えへへ……!」
緊張感の欠片もない声で応じたエルマをよそに、俺は自室で準備を整え腰に剣を持つ。
エルマが決闘で指名した場所は……なんと、公園だった。
しかも、周りに全く人が居ない。
ここでなら、誰にも邪魔されずに秘蔵の力を解放できるというわけか?
俺は周囲を警戒し、罠の有無を確認する。
……エルマは俺より弱いという自覚はあるだろう。
では、弱者は強者に勝てないか?
答えはノーだ。
弱者は強者に勝つために工夫をする。
罠、油断、嘘、奇襲、脅迫、挑発、偽装……
あらゆる手段を講じて、最後に立っていたものこそが強者だ。
そして何より、今のエルマの格好だ。
剣も帯びず、なぜか花柄のワンピースにカチューシャという、決闘にはおよそ不釣り合いな装い。
十中八九、罠だろう。
だが俺をだまし討ちするなど、100年早い。
さっさと決闘を始めて、エルマをねじ伏せてやるとしよう。
「エルマ。始める前に確認だが、何かルールはあるか?」
「えっ!? ル、ルールですか!? えっと……う~ん……」
エルマは困ったように首を傾げた。
……とぼけるのもいい加減にしろ。
『序列戦』は決闘を申し込んだ人間が『場所』と、ある程度の『ルール』を決められる。
そして負けの共通ルールがひとつある。
それは『両肩が地面に着いたら負け』というもの。
いわゆるダウン状態だ。
「堅苦しくせず、普段通りで良いかと思いますけども……ダメですかね……?」
「……そうか。ならば『何でも有り』だということだな?」
「えひっ!? レヴォス様、それは積極的ですね……! いえ、私、そういうの好きですけども!」
頬を赤らめてそんな台詞を吐くとは、いつの間に挑発の技術まで身につけたのだ。
いや、これはもしや軍師ヒロン・イロンダルが吹き込んだ戦術か?
可能性としては有りうる。
だがこれ以上、こいつの茶番に付き合う必要はない。
一瞬で終わらせてやる。
「まあいい。さっさと始めるか」
「え、あ、はい! よろしくお願いします!」
「ああ。……開始だ!」
俺が取った手段は『奇襲』。
宣言と同時に、俺はエルマに向かって地面を蹴った。
あえて剣は抜かない。
抜刀する時間すら惜しい、圧倒的な速攻でねじ伏せる。
目を見開くエルマの懐に飛び込み、その華奢な体を両手で羽交い締めにした。
「うはぁっ!? レヴォス様、いきなりですかぁ!?」
「問答無用だ!」
エルマを逃がさぬよう力を込め、俺はそのままエルマを芝生の上へと押し倒した。
背中を地面に打ち付けたエルマの肩を、強く押さえつける。
「……俺の勝ちだな。エルマ」
勝利を宣言し、冷徹な視線で見下ろす。
エルマは驚愕に目を見開き、潤んだ瞳で俺を見つめていた。
俺の動きを全く読めていなかったようだな。
詰めが甘いのだ、貴様は。
「レ、レヴォス様……! 私のこと、好きなようにしてください……!」
エルマは観念したように、ぎゅっと目を瞑っていた。
……ん? まだ何か罠があるのか?
警戒を解かずに立ち上がると、エルマは「あ、あれ? しないんですか?」とキョトンとして上半身を起こした。
「エルマ、お前は何を言ってるんだ? 決闘は終わっただろう」
「へ……? 決闘? 決闘って何ですか?」
「……何とはなんだ。お前が俺に『序列戦』の決闘申し込み書を出したんだろうが」
「……ほえ? 私がですか? え~……?」
エルマは腕組みをして考え出したかと思うと、突然目を見開いた。
「あっ……! もしかして……先生から貰った紙の裏に書いたラブレターのこと!? あれ、決闘申し込み書だったんですかぁぁ!!?」
「……は?」
聞けば、エルマはただ俺と『デート』がしたかっただけなのだという。
日頃のお礼を兼ねて、俺とデートをして癒したい。というのがエルマの趣旨だった。
「まったく……お前という奴は」
呆れ果てて額を押さえる。
俺の警戒心は、ただの空振りだったわけだ。
「ひええ、ごめんなさいぃ! 私なんかがレヴォス様に適うはずないですって! レヴォス様は私のお兄ちゃんくらい強いんですから!」
「こんなこと、二度とするなよ…… ん? 兄……? 今、兄といったのか?」
「え? あ、はい! 私の双子の兄なんです! といっても、全然似てないんですけどね!」
なんだと……? エルマに兄がいる?
原作の主人公に兄の存在など、いなかったはず。
だとすると『エル戦』の主人公が、二人いるのか……?
そうか。ゲームでは男キャラと女キャラを選べるが、この世界では両方存在するということかっ!?
しかも、俺と同等の実力だと?
ゲーム開始前だというのに、すでにそんな化け物が潜んでいるというのか……?
いや、エルマが学園に入学していたり、イレギュラーはすでに起きている。
エルマの兄が何かしらの要因で、すでに強くなっている可能性は無くはない。
「レヴォス様? どうしたんですか? いきなり考えこんじゃって」
「……エルマ。お前の兄に興味がある。今すぐ会いに行けるか?」
「えっ!? 私の家族に会いたいって……それって、もしかして挨拶がしたいってことですか!? 家族に挨拶ってことはぁ、それって求婚ってことかなぁ……うへへ……!」
もし、もう一人の主人公がいるのであれば、今のうちにその力量を把握し敵対しておくべきだ。
それこそが俺の破滅フラグを回避するための手段なのだから。
ついでに、ルナリアも連れて行くべきか。戦力差を確認させるには丁度いい。
俺がそんな事を考えていると、エルマが不安げに眉を下げていた。
「あの……実は私のお兄ちゃん、貴族の方が嫌いでして……もしかしたら、失礼な事を言ってしまう可能性があるんですが……」
「……ああ、問題無い。むしろ、好都合だ」
貴族嫌いの主人公。
……最初から敵対関係か!
俺の心が、激しく高鳴っていた。




