表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役貴族レヴォス・ムーングレイの戦略 ~悪役転生した俺、原作知識で主人公の仲間(予定)を全員引き抜こうと思います~  作者: 水乃ろか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/73

第42話 紅蓮流との手合わせ



「で、俺と戦う気になったか?」

 

 巨岩を粉砕した俺を凝視し、ポカンと口を開けていたエリザが、俺の冷ややかな声に弾かれたように肩を震わせた。

 あからさまな動揺を隠そうともせず、エリザは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「こ、こんな岩……! たかだが、岩を砕いただけですし!? 驚くに値しませんわ! ……まあ、わたくしの慈悲で、素人さんと戦うのは免じて差し上げてもよろしいですわよ!?」


 強がりなのは明白だ。エリザの膝が微かに震えている。

 そんなエリザの背後から、双子のリンとレンが必死に追従する。

 

「お嬢様、さすがです!」

「お嬢様、お優しい!」


 エリザの逃げ腰の言葉にリンとレンが、ここぞとばかりにヨイショを重ねる。

 おそらく主人の逃げ腰を察してのフォローだろうか。


「ほう、逃げるのか。紅蓮流というのは、看板ばかりの『腰抜け』だったというわけか」


 ――ピクリ。

 

 俺の言葉にエリザの眉が跳ね上がる。


 俺の挑発の『腰抜け』という言葉。

 この言葉を聞くと、エリザはキレるのだ。


 本来のシナリオでもエリザとゼノスの対決において、この言葉でゼノスが挑発しエリザは冷静さを欠いてしまう。


「……腰抜け? 今……わたくしに向かって『腰抜け』と言いましたの!?! ええ……ええ、いいでしょう!!! その増長した自信、わたくしがギタギタにブチ壊して差し上げますわあああああ!!!!!」


 エリザの鼓膜を劈くような絶叫が山々に響き渡る。

 その怒りの凄まじさに、隣にいたリンとレンは「ひゃっ!?」と声を上げ、たまらず猫耳を両手で塞いでいた。

 

 しかし、これでエリザがやる気になったな。

 凄まじい気迫だ。

 俺が岩を砕く実力を見せつけた後でもなお、この闘争心を維持できるのは大したものだ。


 そして、エリザ自体が弱いわけではない。

 ただ、この沸点の低さと自制心の欠如こそが、エリザを敗北へと導く致命的な弱点なのだ。


 ならば、その弱点を徹底的に叩かせてもらおう。

 教育には、実体験を伴う痛みが不可欠だからな。


「ふむ。よかろう。だが、お前一人では退屈だ。三人まとめて掛かってこい。そこの二人も格闘家なのだろう?」


「ふぇ?」

「わたし?」


 リンとレンが困惑したように顔を見合わせる。

 だが、すでに頭に血が上りきったエリザが、有無を言わさず命令を下した。

 

「ふふん! 言いましたわね! わたくしたちの紅蓮流の神髄、その身に刻んで地獄へ持っていくがいいですわ!! やりますわよ! リン! レン! 三人の連係奥義で、この無礼者を粉砕しますわよ!」

 

「承知でございます! ほわたぁ!」

「覚悟しろ! うわたぁ!」


 先ほどまでの緩い雰囲気は消え、三人は横一列に並んで鋭い構えを取った。

 その立ち姿には、長年の修行に裏打ちされた確かな重みがある。

 

「威勢がいいな。では――俺から行くぞ」


 俺は宣告すると同時に、中央のエリザに向かって真っ直ぐに地面を蹴った。


 まずは挨拶代わりだ。

 俺は大きな予備動作を交え、あえて隙の大きな大振りの蹴りを放つ。

 

「甘いですわ! お素人さん! 紅蓮流・反転撃!」


 エリザが鋭い眼光を放ち、俺の足を流れるような動作で受け流した。


 『紅蓮流・反転撃』は、いわゆるカウンター技だ。

 エリザは俺の蹴りの威力を殺さず、逆に加速させて横に逃がす。

 蹴りという攻撃は、標的に当たる直前が最も速い。

 その最高速度にエリザの力が加わり、俺の体は制御を失ったかのように大きく泳がされた。


 俺が無防備な背中を晒した瞬間、左右から殺気が膨れ上がる。


「紅蓮流!」

「挟撃掌!」


 タイミングを完璧に合わせたリンとレンが、俺の両脇腹を狙って掌底を突き出す。


 だが……その手応えは虚空を掴んだ。


「うわっ!?」

「消えた!? って危ない!」


 全速力で踏み込んだ二人の目の前から、俺の姿が霧のように掻き消えた。

 勢いを止められなかった二人の正面には、互いの顔があった。


「あべしっ!」

「たわばっ!」


 正面衝突した二人は、滑稽な悲鳴を上げながら左右に吹き飛んだ。


「リン、レン! 大丈夫ですの!?」


「うぅ……だ、大丈夫です!」

「ま、まだやれます!」


 俺は離れた場所で悠然と立ち、「ふん」と鼻で笑った。


 エリザがカウンターを決めたのは、俺が放ったフォルテ直伝の技『幻影飛ばし』だ。

 実体を持っているため、触れても偽物だとは気づけない。


「小癪な技を……! では、こちらも本気でやらせてもらいますわ!! リン、レン! あの方に『紅蓮流・噴気流連撃』を仕掛けますわよ!」

「おう!」

「よし!」


 三人は瞬時に立て直し、縦一列の陣形を組んだ。

 リンを先頭に、猛烈なスピードで俺へと突っ込んでくる。


「「「 喰らえ! 紅蓮流・噴気流連撃! 」」」


 先頭のリンが右拳を振りかぶる。

 だがそれは見え透いたフェイントだ。


 リンは鋭く腰を落とし、地を這うような足払いを繰り出した。

 俺はそれを軽やかに跳躍して回避する。


「もらったぁ!」


 空中に逃げた俺を逃さず、二番手のレンが跳んだ。

 俺の胴体を真っ二つにするような、渾身の横蹴り。


 だが。


「はにゃっ!?」


 リンの間抜けた声が響く。

 俺は空中でレンの蹴りを受け止めるのではなく、下で姿勢を崩していたリンの頭を『踏み台』にしてさらに上へと跳ね上がったのだ。

 

「なっ!? リンを踏み台にしたぁ?!」


 屈辱と驚愕に満ちた絶叫。


 そしてその遥か上空、俺を見下ろす位置にはエリザがいた。


 『紅蓮流・噴気流連撃』。

 下段と中段で標的を釘付けにし、その間にエリザが天高く舞い上がり、滑空の衝撃と共にすべてを粉砕する必殺のトリプルコンビネーション。


「喰らいやがれですわあああああ!!!」


 空気を切り裂く轟音と共に、エリザの飛び蹴りが迫る。

 エリザの足先からは猛烈な炎が噴き出しており、まるで紅蓮の彗星だ。

 これこそが紅蓮流の由来たる所以か。


 回避不能の超速度。


「これは……避けられんな」


 ――ドゴォッ!


 重低音が響き、エリザの蹴りが俺の胸板を捉えた。

 だが、エリザの攻撃はさらに加速する。

 

 上空から得た加速を維持したまま、俺の体を地面へと叩きつけ、そのまま圧殺しようという腹づもりだ。


 だが……詰めが甘いんだよ、エリザ。


 激昂に任せた攻撃は、往々にして細部への注意を欠く。

 

「このまま叩き潰してさしあげますわ!! ……って、あれえええ!?」


 エリザの足の下にいた俺の感触、そして姿が消える。

 今、エリザが攻撃していたのは、またしても俺の『幻影飛ばし』だ。


「わわわわわわっ!?!? 止まらない! 止まりませんわああああ!!!」


 空中で俺の姿が消えた事で焦ったエリザが、空中で制御できなくなり無様に手足をバタつかせる。


「お嬢様!?」

「あぶない!」


「きゃああああっ!!! 死ぬ、わたくし死にますわあああ!!!」

 

 エリザは垂直に、しかも頭から地面へと落下していく。

 その慌てぶりは、先ほどの高飛車な態度が嘘のようだ。

 

 ――ガシッ。


「ひいい! 死んだぁっ! 今わたくし死にましたわっ! ……あ、あれ?」


 死を覚悟して目を瞑っていたエリザが、恐る恐る目を開ける。

 いくら鍛えた格闘家とはいえ、この高さから頭部を強打すれば再起不能は免れない。


 俺には、エリザを鍛え直してゼノスに勝たせるという『計画』があるのだ。

 ここで死なれては困る。


 俺は落下するエリザを、軽々と横抱き――いわゆるお姫様抱っこで受け止めていた。


「お嬢様!」

「助かった……!」


 エリザは呆然としたまま、至近距離にある俺の顔を見つめている。

 その頬が、屈辱からか赤く染まっていく。


「俺の勝ちだな、エリザよ。これで少しは、俺の言葉を聞く気になったか?」

 

 俺が冷徹に問いかけると、エリザはようやく自分が抱きかかえられている状況を理解し、弾かれたように暴れ出した。


「ちょ、ちょっと! わたくしに何してますの!? すぐに降ろしてくださいまし!」


 俺が地面に降ろすと、エリザは顔を真っ赤にしたまま、着崩れたドレスの裾を必死にポンポンと叩いて整え始めた。

 リンとレンもまた、乱れた髪や服を直しながら、気まずそうにこちらを伺っている。

 

「で、負けを認めたか?」


 俺が腕を組み、冷徹な視線を投げかけると、彼女たちは一様にうつむいた。

 エリザの肩が、悔しさと敗北感で微かに震えている。


「戦いの最中、事もあろうに敵に助けられるとは……わたくしも、紅蓮流の継承者として、まだまだ未熟……ええ……認めますわ。わたくしの負けです」


「くやしい!」

「でも、認めちゃう!」


 うつむいていたエリザが、意を決したように顔を上げ、俺を真っ直ぐに見据えた。

 その瞳には強い意志と、そしてどこか奇妙な高揚感が混じっている。


「わかりましたわ……あなたのその強さ、そして窮地でわたくしを救ったその器。認めざるを得ません。あなたの要求を受け入れましょう」


「ふん。そうか。では、話が早いな」


 素直に聞き入れる気になったようで何よりだ。

 そう満足げに頷こうとした、その時。


 エリザは頬を林檎のように赤く染め、今までにないほど力強く、そして凛とした声で宣言した。


「このエリザ・グレン……あなたがそれほどまでに望むのであれば、あなたの『妻』になって差し上げますわ!!!」


「我らも!」

「妻に!」


 三人は恥ずかしそうに身を捩りながら、期待に満ちた目で俺を見つめてくる。


「……は?」


 静まり返った山の中に、俺の呟きだけが虚しく響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ