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第115話 剣とカジノ



「レヴォス殿! ついに、ついにジクナ殿の刀が出来上がったのでございます! ぜひ、その目でご覧になってください!」


 グリンベルの視察を兼ねて歩いていた俺の元に、オコタが息を切らせて駆け寄ってきた。

 ジクナの頬を赤くさせ、期待に胸を膨らませているようだ。

 その様子から、よほど会心の出来なのだろうと推測できた。

 

「ジクナがか。あいつ、意外と真面目にやっていたようだな」


「ええ! ジクナ殿は真面目に取り組んでおられましたよ! さあ、早く鍛冶場へ!」


 ジクナはグリンベルに身を寄せて以来、ずっとオコタに弟子入りして鍛冶を学んでいた。

 

 魔族が打った刀……か。

 その響きには、好奇心をわずかに刺激するだけの魅力があった。

 どのような物が生まれているのか、確かめてみるのも悪くはない。

 

 俺が鍛冶場に足を運ぶと、(すす)で汚れたジクナが建物の外で待ち構えていた。

 俺の姿を見るなり、ジクナは眩しい笑顔を浮かべ、自慢げに胸を張る。


「ぬははー! どうだぁ! 見て驚けぇ! この私が、魂を込めて作り上げた逸品だぞぉ!」


 ジクナは瞳をキラキラと輝かせ、褒めろと言わんばかりの喜びを表現している。

 だが、その手に握られている『それ』を見た瞬間、俺の期待は別の意味で裏切られた。

 

「おい……なんだ、ソレは」

 

 俺の刀の長さは、90センチ程度。

 これでも一般的な刀よりは大振りな部類だ。


 しかし、ジクナの手に握られている刀は、控えめに言っても2メートルを優に超える巨大な鉄の板。

 それは刀というにはあまりにも大きすぎた。

 ジクナの身長よりも圧倒的に大きく、刀の中では『大太刀』の部類だろうか。


 しかし、さすがは魔族の膂力(りょりょく)と言うべきか。

 並の人間なら持ち上げることすら不可能なその巨塊を、ジクナは軽々と、それでいてしっかりと握りしめていた。

 

「おい、ジクナ。そんな無茶苦茶な寸法の代物、まともに扱えると思っているのか? 戦いは見栄を競う場ではない。ただ大きければ良いというものではないぞ」


「大丈夫だって! この重さと長さこそが、最強の証なんだから! へへー、いくぞー!」


 ジクナが巨大な刀を豪快に振り回し始めた。

 

 ブン、と空気を切り裂く轟音が周囲に響き渡る。

 だが、その扱いはあまりにもお粗末だった。

 力任せに振るたびに、ジクナの小さな体が刀の遠心力に振り回され、重心がガタガタに崩れている。


「あ、あぶないでございます! ジクナ殿、止まってください!」


 オコタが悲鳴のような声を上げる。

 だが完成の喜びに酔いしれ、全能感に包まれているジクナには、その警告は届かない。


「うへへ~! 最高だぁ、なんでも斬れそうな気がするぞぉ~!!」


「ぬわー! 止まるのでございますよ~!」


 ……まったく、完全に道具に遊ばれているな。本末転倒とはこのことだ。

 やがて、激しすぎる回転に耐えかねたのか、ジクナの足取りが千鳥足に変わっていく。

 

「ぬわ~……? なんか、地面がグニャグニャして、フワフワしてきたぞぉ?」

 

 ジクナは目をぐるぐると回し、焦点の定まらない瞳でふらつきながら、なおも凶器を振り回し続ける。

 もはや一歩間違えれば、建物を破壊しかねない危険極まりない状態だ。


「レヴォス殿! 危ないでございます!」


 オコタの鋭い声。

 バランスを完全に失ったジクナが放った横一文字の薙ぎ払いが、吸い込まれるように俺の首筋を狙って迫ってきた。


 ……やれやれ。ジクナには教育が必要だな。


 俺は眉一つ動かさず、静かに言葉を放つ。

 

「おい。『ジクナ、止まれ』だ」


 俺の首を掠める直前で、巨大な刃が物理法則を無視したかのようにピタリと制止した。

 俺はそのまま無防備に止まった刃を素手で掴み、力なく握られていた刀をジクナの手から強引に奪い取る。

 

「きゅ~……」

 

 武器を失い、ジクナが糸の切れた人形のようにその場にバタリと力なく倒れ込んだ。

 どれだけ目を回せば、そんな情けない声が出るのか。


 地面に転がり、手足をピクピクとさせているジクナ。

 それからというもの、ジクナの意識がはっきりするまで、オコタが献身的に介抱する羽目になっていた。



 ――――――

 

 

「ちぇ~。おかしいなぁ。もっと上手に扱えると思ったんだけどなー」


 ようやく意識を取り戻したジクナが、力なく唇を尖らせた。

 どうやら、自分の脳内シミュレーションでは完璧に使いこなせていたらしい。

 自信満々だった分、今のジクナの背中からは隠しきれない落胆が滲み出ている。

 

「ほら、何度も申し上げたでしょう? 武器には、使う者の体格に見合った適正な長さというものがあるのでございますよ」


 オコタが呆れ顔で説教を垂れると、ジクナは力なく頷いた。

 

「なるほどなー。道理で、今まで集めた剣もうまく扱えないわけだぁ。……なぁなぁ、レヴォス様」

 

 ジクナは、フォルテや他の連中が俺を「レヴォス様」と呼ぶのを真似て、いつの間にかそう呼ぶようになっていた。

 

「なんだ。まだ懲りていないのか」


「私の集めた剣を取りに行きたいんだけど、いいかなー? けっこうな数があってさ、この前乗ってきた馬車とかに詰め込まないと、運べないくらいなんだけど」


 ジクナの集めた剣……だと?

 原作では、剣を集めていたという話はあったが、ジクナの集めた剣のコレクションなどは見た事がない。

 

 魔族が、それもジクナのような感性を持つ者が集めた剣。

 一体、どんな業物……あるいは珍品が眠っているのか。


 ……悪くない。俺の好奇心が、わずかに疼くのを感じた。


「ジクナ。お前の剣とやらは、いったいどこにあるんだ?」


「えっと、かなり北のほうだなぁ」


「お前な。北と言っても広い。そんな漠然とした答えで理解できると思うのか」


「えっと、地図があれば分かるぞ! 地図、あるかぁ?」


 俺はすぐさまフォルテに命じて、詳細な広域地図を持ってこさせた。

 ジクナは地図を机に広げると、眉間にシワを寄せて「むむむ」と唸りながら、必死に記憶を辿っている。

 

 やがて、ジクナの表情がパッと明るく弾けた。

 

「ここだ! このあたりに間違いないぞ!」


「確信はあるんだろうな。本当に、ここで間違いないのか?」


「間違いない! ほら、ここにある山の形、ドラゴンの口みたいだろぉ? その『口』のど真ん中の洞窟だ!」


 ジクナが指し示した場所。


「……随分と、厄介な場所を選んだものだな」


「レヴォス様。いささか……いえ、非常に危険かと存じますが」


 普段は俺の決定に異を唱えないフォルテが、険しい表情で進言してきた。

 無理もない。


 ジクナが示した場所。

 それは、魔王領の中だ。


 魔王領と言っても、魔王が統治しているわけではない。

 数多の強大な魔族たちが独自の規律と暴力で割拠する、いわば無法地帯。


 魔族同士ならばともかく、人間が足を踏み入れれば、即座に『外敵』として排除の対象になる。


 だがもし、このグリンベルから行くとしたら……

 地図上のルートを指先でなぞり、再確認する。

 

 ある一点の場所が、目についた。


「この場所は……面白い。実に興味深いな」


「……レヴォス様、いかがされたのでしょうか」


 フォルテが困惑した声を漏らす。


「フォルテ、直ちに出発の準備を整えろ。用意が済み次第、急行する」


「……承知いたしました」


 俺が目をつけたのは、魔王領へと至る直前にある、特異な都市だ。

 原作『エル戦』においても、その独特のシステムでプレイヤーを熱狂させた場所。

 

 カジノ都市、ガンティーノ。

 欲望と金が渦巻き、運命すらもチップとして賭けられる享楽の街。


 そこには、グリンベルをさらなる高みへと押し上げるために不可欠な『エル戦』の仲間キャラがいるはずだ。

 そいつがいれば、我が領土グリンベルは更に発展するだろう。

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