その姉と出なくてよかった品評会
「ノアとリュウくんは今日もお休み。っと」
(お姉ちゃんがあからさまな含みを見せるから、みんな忙しくなっちゃったんでしょ。この悪女め)
「失敬な。あたしはただ、みんなの危機をみんなで乗り越えましょうね~って独り言を呟いただけだもん」
(みんなの危機って、僕の仇を捜してるんじゃなかったの?)
「……問題は、どうしてアリスだったのか。だよ」
(どゆこと?)
「……」
授業が終わり、クラスにいる生徒がそれぞれ次の授業の準備をする中、アリアはリュックサックに筆記用具やノートを突っ込み、帰り支度をしているようにも見える。そんな彼女が小声でアリスと会話をしていた。
そしてアリアはリュックを背負うとそのまま教室から出ていく。
のだが、教室を出た辺りで突然持ち上げられてしまい、アリアは首を傾げてその持ち上げた相手に目をやる。
「ダンテミリオ、どこに行くつもりだ。まだ3限目だぞ」
(アッシュ先生の抱っこだ。お姉ちゃん相手ならセクハラにならないということが証明されたね)
「……なるよぅ」
「誰と話しているんだ。それでダンテミリオ、一体どこに行く気だ?」
「え~っと、ちょっと実家に教科書を取りに行こうかと~」
きゅっと指を握るアリアにアッシュランスはため息を吐き、そのままアリアを抱えたまま校舎を歩き出した。
「あ、あのぅ?」
「授業に出ないのなら少し手伝いなさい」
「えっと、ほかの先生に頼めばよろしいのでは~?」
「どこかの生徒がしっちゃかめっちゃかにかき回すおかげで、手伝いを頼もうと思っていたイクノスの手が空かなくてな」
「……むぅ」
「なに、難しいことを頼むわけではない」
(自分で蒔いた種なんだから、ここは大人しくアッシュ先生のお手伝いしようね)
アッシュランスはそう言って歩き出し、校舎から出るために教員用の出入り口に向かうのだが、周囲の視線がどこか和やかな物であり、聞こえてくる生徒の声は、アッシュランスが可愛い物を持っている。というもので、アリア含めて癒しの風景と化していた。
「ところでダンテミリオ、今週に開かれる行事については覚えているか?」
「お休みですよね?」
「違う。確かに全生徒強制ではないが、魔法使いにとっては様々な魔法、世代ごとの魔法の成長をこの目で見られる貴重な会だ」
(あ~……そういえばそうだった)
「君の妹、アリス=ダンテミリオが一期生の代表として立つ晴れ舞台だった品評会だ。当然君も出席するのだろう?」
「あっ、アリスはそのことをまったく覚えてなくてあたしには言っていなかったですよぉ」
「……君たち姉妹はまったく」
(ごめ~んアッシュ先生、正直魔法使うだけだったから特に準備してなかったし、ぶっつけ本番でも十分かなって)
「アリスはまったく準備してなかったので、行き当たりばったりで魔法使うつもりだったと思いますよぅ」
「それなりに栄誉ある役目なのだがな」
相変わらずアリアを抱っこしたままのアッシュランスは学園を出た脚で、街へと向かう馬車に乗り込むのだが、最初にアリアを腕から荷台に乗せ、その次に荷台に乗り込んだ。
「君の前でこういうことを言うべきではないのだが、品評会に選ばれた生徒はそれなりの予算と設備が与えられる。君の妹はまったく申請していなかったが」
(いやだってそんなにお金と設備があっても持て余すし、別に現行の魔法って呪文と場所さえあればそれなりに研究できない?)
「まあ、そのおかげで代わりに出る生徒への引継ぎがスムーズではあったがね」
「えっと、うちの妹がご迷惑を」
「いや、個人的な話になるがアリス=ダンテミリオの研究を私もみたかっただけなのだよ」
(あっぶね、活性魔法を人体に与え続けると暴走して爆発するのかっていう説を披露しようとしてたから、阿鼻叫喚間違いなしだったんだけれど、出なくて正解だったなぁ)
「……体の中の細胞が元気になりすぎて、体が耐えられずに破裂するから絶対にやらないようにね」
(は~い)
馬車から外を覗きながらつぶやくアリアに、アリスは元気よく返事をした。
「ダンテミリオ、街に着いたらそれなりに連れまわすから覚悟しておくように」
「は~い」




