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その殿下と誰かの企み

「は~……」



「辛気臭いため息つくのをやめてくれないか殿下」



「……ため息の1つも吐きたくなるわよ。アリアのことが全然わからない」



「あいつマジでどうなってんだ? 顔が何個もあるとかの話じゃねえぞ」



「多分、アリアそのものを探すとアリアにたどり着いて、アリアの身辺から始めると違う人にたどり着くようになってる。これ、あの子1人の力じゃ無理よ。アリアを審査した国の人間や下手すればお父様すら関わっていないと実現できない」



「なんだそりゃ、国単位でアリアを守ってるのか?」



「……いいえ、お父様はアリアを知らなかったわ。だからどこかで捻じれているんだと思う。ああもうっ! アリスのことを調べるためにダンテミリオを調べていたらまさか一切痕跡がないとか思わないじゃない」



「俺だって思ってなかったよ。アリアは成績も悪く、魔法使いの才能もない。ないんだよな?」



「んなわけないでしょ。あの子はずっとうわ手な魔法使いよ、あの子は覚えていないかもしれないけれど、私、幼い頃にあの子とアリス、それとその師匠に会ったことあるのよ。その時のアリアは当時のノーブルラントより優れた魔法使いに思えたわ」



「嘘だろ?」



「あんた、小さい時に私が誘拐されかけたこと覚えているでしょ? あの時助けてくれたのがアリアよ」



「……おい待て、解決したのはノーブルラントじゃなかったのか?」



「知らないわよ、いつの間にかそうなっていたんだもの」



 学園の校庭をウロウロしながら、ノアが石を蹴り上げながら悪態をついていた。

 リュードウィスもそれに付き合いながら、小動物のはずの少女に想いを馳せていた。



「お前がノーブルラントに一切懐かないのと、アリアに必要以上に構うのはそれが原因か」



「……そうよ。その時、私はアリアのために王になるって決めたんだから」



「私情で王になるなよなぁ」



 膨れ顔でそっぽ向くノアに、リュードウィスはため息を吐いた。



「しっかし、そうなるとアリスを殺したやつを捜すのも困難になるぞ。怨恨の線で探っても一切情報が出やしねぇ。誰があいつを――」



「……それに関してはもうどうでもいいのよ」



「は?」



「多分アリアはたどり着いてる。でも問題はその理由(・・)よ」



「なんでだよ、アリスを殺したやつを見つけるのが最優先だろうが」



「そうよ、そうだけれど、調べている内に無視できない内容が見つかったんじゃないかしら?」



「無視できない?」



「あの子は悪人じゃないわ、善人でもないけれどね。でも優しい子なの」



「それが――」



「アリスを殺した相手をどうにかしてはい終わり。ってことにはできない程度にはちゃんと周りにも気遣える子なのよ。私を助けた時みたいにね」



 だからこそこんなに遠回りしなければならない。と、ノアが頭を抱えるのだが、そんな2人に近づく影が1つ。



「殿下? どうかなされましたか?」



「……シェリル」



「何かひどく悩んでいるようですが?」



「あ? ああ、殿下が悩むことなんてアリアのこと以外ないんだわ」



「……アリア=ダンテミリオ先輩、ですか」



「お前も会っただろ。あのすっとぼけた小動物だ」



 リュードウィスは気が付いていないようだが、アリアの話が出た途端、シェリルの顔が一瞬だが歪み、ノアからはチリと殺気が漏れた。



「そういえば、殿下は聞きましたか?」



「……なにをよ」



「昨夜、そのアリア先輩とミアベリル=ヴァンガルドさんが襲われたらしいですよ」



「は――っ!」



 ノアがシェリルにつかみかかり、濃い殺気を彼女にぶつけた。



「お、おい殿下、ノーブルラントに当たってもしかたねえだろ!」



「……」



「でも大丈夫みたいですよ。今朝ミアベリルさんがアンメライア先生に助けてもらった(・・・・・・・)と話していました」



 ノアはシェリルから手を離し、安堵したように息を吐いた。



「……取り乱してごめんなさいね」



「いいえ、それほど殿下に取ってアリア先輩は大切な人なんですね。ところで殿下、殿下がそれだけ目をかけるアリア先輩、それほど優れた魔法使いなんですか?」



「あら、あなたもアリアに興味を持った?」



「ええ、とても」



「……でも残念、あなたが期待しているような子ではないわよ。私があの子を好きなのはただ可愛いだけ(・・・・・)だもの」



「そうなのですか? でもそれにしては随分と魔物や魔石について詳しかったので」



「アリスのおかげでしょう。あんたアリスと話したことないでしょ? あの子魔物とか魔石の研究もしてたのよ」



「へ~……」



 ノアはシェリルに背を向けると後ろ手に手を振った。



「それじゃあそろそろ行くわ。アリアが襲われたって言うのならそれは可愛いからね、あんたは別にかわいくないけれど、襲われるかもしれないから気をつけなさい。一応、ノーブルラントなんだからね」



「……ええ、お気遣いありがとうございます」



 シェリアが頭を下げてノアたちから離れていくのだが、リュードウィスが訝しんでおり、ノアはそんな視線を流して振り返り、シェリル=ノーブルラントの背を睨みつけるように追っていた。



「おい、アリスがそんな研究をしてたなんて聞いたことねえぞ」



「その方が都合がいいのよ。リュード、ノーブルラントから目を離しちゃだめよ」



「……わかった」

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