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アメリはノエと結婚したい(1)

「ほら、これならどう?」


 にっこりとほほ笑んだ少女に、青年は「却下」と微笑み返した。


 ろくに中身も読まず即答。そんな保護者代わりの態度は、少女―アメリをいらだたせるのに十分だった。貼り付けられた笑顔が急速に消え、しかめ面に変化する。

「いい加減にしてよ、ノエ。何が不満だっていうの。家柄も肩書も立派、あなたがうるさいから、今度はたった20歳しか離れていないし、そりゃあ多少ふくよかな体格をしてるけど、ガリガリのやせっぽちに比べればはるかにいい人を見つけてきたって言うのに!」

 ぎゃんぎゃんとわめく少女に、ノエは小うるさいとばかりに手を振る。

「アメリちゃん、君18歳でしょ。その年にたった20歳を足してごらんよ。38歳だよ。オジサン手前だよ。しかもでっぷり脂ぎった38歳、しかも昔からの男爵家なのにその年まで未婚って、どう考えてもワケアリ物件でしょうが。なんでそんな縁談ばっかり拾ってきちゃうのかなあ」

「ノエだってもうオジサンじゃないの!」

「そうだよ、だからオジサンはダメだって言ってるの」

 はい、話は終わり。ランチにしようね。ノエが呆れたようにそう言って会話を終わらせると、アメリは不満げに頬を膨らませた。


 あの日から、もう5年か経とうとしている。


 父と母の愛に包まれて、幸せに暮らしていた日々が唐突に壊れた。そのために絶望と悲しみに目の前が真っ暗になっていたアメリに、ノエが「一緒にいる」と抱きしめてくれたあの日。

 彼はその日アメリに告げた通り、ずっと彼女のそばにいた。片時も離れずに、暗くて寂しい夜の日も、寒く切ない日も、陽だまりのあたたかさに涙があふれそうな日も、ずっと。そして5年の月日が流れた。


 もうあと1月もすれば、アメリは18歳になる。つまり、成人を迎えるのだ。そうすれば彼女は、正式に大人として認められる。父母が築いた財産も継ぐことができるし、後見人の許可なく婚姻を結ぶこともできる。もう、だれかに――ノエに支えられずとも、一人で生きていくことができるのだ。


 だからこそ、彼女は今婚約者探しに躍起になっていた。


 ノエは、あの日からずっとアメリを守ることだけを考えて生きてきている。彼自身の人生を、輝かしい日々を、アメリがノエから奪ったのだ。成人を迎えようとしている今、アメリにできることは一刻も早く彼を自分自身から解放してあげることだ。アメリはそう信じている。


 だが、アメリが探し出してくる婚約者候補に、ノエは首を縦に振らない。最近は一瞥もせずに「だめだよ」と否定するまでになっていた。

「アメリ。バカなことを考えるのはもうやめな。俺は君が本当に結婚したいと思う男が現れるまで、君のそばにいるんだと決めてる。君が好きで、君を愛して、君を幸せにしてくれる男が現れるまでね。そんな無理に探してきた男との結婚なんて、俺は絶対に認めない。あきらめなさい」


 ノエの言葉を、アメリは泣きたくなるくらい嬉しいと思いながら、同時に心臓がわしづかみにされているほどの痛みも感じていた。


 私が好きで、私を幸せにしてくれる人。そんな人は、この世でただ一人しかいない。


「だったら、ノエ、あなたが私と結婚してよ」

 小さく呟きながら微笑みを作ってみせると、ノエもまた小さく微笑んだ。

「ばかなことを言うんじゃありません、可愛いアメリちゃん」

 

 ほらね。あなたは私を愛してない。

 それなら、大好きなあなたを、私のそばから解放するしか、ないじゃない。


申し訳ございません…

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