第85話 夕方の音楽会
夕方、茶トラ青年の提案で音楽会が開かれた。
「せっかく美久さんがいるんだから」
「ちゃんとしたコンサートをしよう」
広間に集まって、即席のコンサート会場に。
座布団を並べて、観客席。
前の方に、小さなステージスペース。
茶トラ青年が、まず歌い始めた。
今度は、準備して選んだ曲。
相変わらず歌詞はないが、メロディーは美しい。
「〜♪」
夕日が差し込む広間に、歌声が響く。
切なくて、でも希望に満ちた旋律。
聴いている猫たちの目が、潤んでいく。
人間だった頃の、何かを思い出しているような。
そこに、他の猫たちも加わる。
「にゃ〜にゃ〜にゃ〜」
ハーモニーになっていく。
高音、中音、低音。
それぞれが、自分のパートを見つけて。
美久も、思わず口ずさむ。
「ら〜ら〜ら〜」
人間と猫の声が、不思議と調和する。
言葉はないけど、心は通じる。
音楽に、種族の壁はない。
誰かが、箱を叩いてリズムを刻む。
誰かが、缶を振って音を出す。
即興の楽器が、次々と加わる。
即席のオーケストラ。
でも、息はぴったり。
夕日が、みんなを金色に染める。
美しい光景。
幻想的な時間。
演奏が終わると、大きな拍手。
パチパチと、前足を叩く音。
人間の拍手とは少し違うけど、気持ちは同じ。
「ブラボー!」
「アンコール!」
「もう一曲!」
茶トラ青年は、照れくさそうに頭を下げた。
人間の仕草で、でも耳は後ろに倒れている。
猫の照れ方。
「じゃあ、もう一曲...」
「今度は、みんなで歌おう」
「美久さんも」
そして、全員で歌った。
それぞれが知っている歌を、思い思いに。
童謡、演歌、ポップス、ロック...
ジャンルはバラバラ。
歌詞もバラバラ。
でも、なぜか一つの音楽になる。
不思議な一体感。
祢古町の魔法かもしれない。




