第39話 三毛屋食堂
次に向かったのは「三毛屋食堂」。
木製の引き戸。
ガラスの部分から中を覗く。
テーブルと椅子が並んでいる。
普通の食堂...のはずだった。
でも、椅子の配置がおかしい。
すべての椅子が、窓際に向けられている。
テーブルを無視して、全部窓の方を向いている。
まるで、日向ぼっこをするために...
そして、テーブルの上には...
皿?
いや、よく見ると猫用の餌皿。
ステンレス製の、底の浅い皿。
各テーブルに、2〜3個ずつ置かれている。
中身は空っぽだが、使用感がある。
(これも調査で見た『猫の生活様式』の情報通りだ)
「ペット同伴OKなのかな?」
美久は、都合よく解釈した。
もう、それしか心の平穏を保つ方法がない。
すると、厨房から音がした。
カチャカチャという食器の音。
誰かいる。
料理をしている?
「すみませ〜ん!」
音が止まった。
静寂。
そして、厨房の小窓から、顔が覗いた。
今度は完全に人間の顔。
30代くらいの女性。
普通の人間...
ただし、耳だけが猫。
ぴょこんと頭の上から生えている、三毛模様の猫耳。
本物の耳のように、ピクピクと動いている。
音を集めているような動き。
(ネットで見た『部分的に猫化』って、これか!)
「あ...えっと...」
美久が言葉に詰まっていると、猫耳の人は慌てて引っ込んだ。
バタバタという足音。
何かをひっくり返したような音。
ガシャン!
皿が割れる音。
「きゃっ」
女性の悲鳴。
でも、その悲鳴の最後が...
「にゃあぁぁ」
猫の鳴き声になっていた。
そして、「準備中」の札が掛けられた。
内側から、カチャリと鍵をかける音。
「あ〜、準備中かぁ」
美久は、額の汗を拭った。
冷や汗が、びっしょり。
手が震えている。
(普通じゃない。ここは普通じゃない)
でも、その思考を振り払う。
「コスプレイベントかな?気合入ってる〜!」
声に出すことで、自分を納得させようとする。
でも、声が震えていて、全然説得力がない。




