第10話 調査開始
その夜、美久は部屋でノートPCに向かっていた。
愛用のパソコンは、5年前に買った中古品。
キーボードの「N」と「E」の文字が擦れて消えかかっている。
猫関連の検索のしすぎだ。
検索窓に「祢古町」と入力。
Enterキーを押す瞬間、なぜか手が震えた。胸の奥で、何かが警告を発しているような感覚。でも、好奇心の方が勝った。
カチッ。
検索結果は、予想以上に少なかった。
通常、地名を検索すれば、自治体の公式サイト、観光協会、Wikipedia、地図サイトなどが上位に表示される。
でも、祢古町は違った。
検索結果:約389件(0.21秒)
公式な地名データベースにはヒットしない。国土地理院にも、総務省の自治体コードにも記載がない。観光サイトにも載っていない。
でも、個人ブログや掲示板には、断片的な情報がある。
美久は、一つ一つ丁寧に読んでいった。ノートを用意し、重要そうな情報をメモしていく。
1. 『祢古町という場所に行ったが...(2019年の記事)』
個人ブログ「放浪記」より
友人から聞いた祢古町という場所を探して、3日間山をさまよった。 地元の人に聞いても「知らない」「聞いたことがない」の一点張り。 でも、確かに古い石碑を見つけた。「祢」の文字がかすかに読めた。 その先は深い霧に包まれていて、これ以上進むのは危険と判断。 帰ってきてから体調を崩し、1週間寝込んだ。 不思議な夢ばかり見た。猫になる夢。 (これ以降、更新が止まっている)
美久の指が、一瞬止まった。
(猫になる夢...?)
でも、考えることを放棄した。考えたら、パニックになる。
「きっと、猫好きだから見る夢だよね」
無理やりな解釈。でも、それしかできなかった。
2. 『猫が異常に多い町(2021年のブログ)』
「にゃんこ大好き♪」より
偶然たどり着いた山奥の集落。 住民より猫の方が多い!? でも、なんか様子が変。 猫たちがまるで人間みたいに行動してる。 写真撮ったけど、全部ぼやけてる... 場所は内緒。また行きたいけど、道が分からない。 (写真は確かにすべてぼやけていた。でも、猫の瞳だけが異様に鮮明に写っている)
美久は、その写真を何度も見つめた。確かに、普通じゃない。猫の瞳に、人間のような知性が宿っているように見える。
「すごい〜!猫の楽園みたい!」
美久の声が、部屋に響く。興奮で、頬が紅潮している。
3. 『行った人が消息を...(2023年の掲示板)』
某大型掲示板のオカルト板
596:名無しさん
祢古町って知ってる?俺の兄貴が3ヶ月前に行ったきり帰ってこない
597:名無しさん
> 596 警察には?
598:名無しさん
> 597 捜索願は出したけど、そもそも場所が特定できないって 地図にない場所をどう探せと...
599:名無しさん (削除されました)
600:名無しさん なんで消されたの?
(これ以降、スレッド自体が削除されている)
美久の指が、一瞬止まった。
(消息を...?)
背筋に冷たいものが走る。でも、次の瞬間には都合よく解釈していた。
(きっと、猫と仲良くなりすぎて帰りたくなくなったんだ。そういうことってあるよね。猫カフェで閉店時間過ぎても帰りたくない人とか、いるもん)
自分に言い聞かせるように、ブログ記事を読み続ける。




