8 掃除屋の話8
アパートに戻るとすぐに荷造りを始めた。1時間もせずに終わったので、時間まで、少し休むことにした。
がらんとした部屋の真ん中で横になり、天井を見上げる。
久しぶりに使った体術がうまくいった。力むことなく、滑らかに。
体の奥にまだ、養父の教えが残っているのだろう。
「背筋、背筋」と何度も繰り返し、私の姿勢を直してくれた強く優しい養父。
その養父と死別してから、一年ほどになる。
私は若く浅はかだった。鍛錬の結果が自分の価値の上昇に繋がっていると過信し、街に出て強さの確認を続け、手を出してはいけない一線を越えてしまった。私は自分の捌ききれる限界を見誤っていた。作らなくてよい敵を無用に増やし、その結果が養父の死であった。
およそ1年ほど前、養父が残してくれた伝手を頼った。
その時に出会ったのが先輩だった。
正確には、養父の知人からの指示で、先輩が私を迎えに来てくれのだ。
「いまにも死にそうな顔だな」と初対面の先輩に言われたのを覚えている。
そのとおりだった。私は死にぞこないの人間だった。この部屋に住み始めたのも先輩の手配だった。
しばらくは部屋の中でじっとしていた。生きているのか、それすら判らなかった。定期的に先輩が食料を届けてくれたが、ほとんど手を付けることができなかった。先輩は何も言わず、残った食料を回収し、新しいものを補充してくれた。
しばらくして私が少しだけまともになったころ、先輩から仕事の手伝いを指示された。




