1 掃除屋の話1
「俺たちは見えない存在だ」と先輩は言った。
街を綺麗にするために活動を許される不可視の存在。
それが、私たち掃除屋。
深夜、いつもの場所、町はずれの公園の前にバンが止まっている。
私は運転席に向かって頭を下げた。窓の向こうに不愛想な先輩の顔が見え、「おぅ」という声が聞こえたような気がする。いつもと変わらないやり取りだ。
助手席に乗ると、バンは市街地に向かって走り出した。
先輩は前を向いたまま、メモを渡してくる。
「ふたり」とだけ書いてある。
後部座席を振り返り、道具の数を確かめた。収納用の袋の数も十分足りてるので、問題なさそうだ。フロントガラスに視線を戻すと、バンは夜の街の中を走り続けている。
今日の現場は、どこかのビルのある部屋だ。
全てが終わった後の部屋の後始末が私たちの仕事である。
痕跡を全く残さずに。きっちりきれいに掃除をする仕事。
前回の仕事はなかなか厄介だった。必要な袋の数が二桁に近く、現場に液体の散布が多すぎて、作業時間がかなり押した。こういう仕事なだけに、夜が明ける前には仕事を終わらせる必要がある。「応援呼べませんかね」と先輩に言ったところ、「無理だ」と言い、黙って体を動かせと怒られた。なんとか終わらせたが、数日は体が動かなかった。それに比べれば今日は楽勝だろう。
少し安堵しながら目を閉じる。
「おい、寝るんじゃない」と先輩はこちらを見もせずに言う。いちいちやかましいなと思いながらも、目を開ける。
車は繁華街から外れ、明かりが落ちたビルの中を走っていく。しばらくすると今日の現場に到着した。