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魔王に婿入り!?  作者: 虚幌須
六章 『勇者』への尋問
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尋問終了

どのくらい泣いただろうか。最後に泣いたのいつだろうかと考えてみる。元彼に振られたときは自棄酒だけだったから、泣いてはいなかった。やはり、お母さんが死んだとき以来だ。アリスはそう回想する。

「ヒカル・・・」

アリスは今一番の想い人の名前を口に出す。普段は周りの女の子にデレデレだが、ここ一番というときに自分を大事にしてくれていると感じる。今回も、自分のために尋問を交代してくれた。だが、ふと思う。もしも自分でなく、サターヌやマーモンでも同じ事をしたのだろうか。そんな、ネガティブな考えが浮かんでも来る。

「ヒカル、早く戻ってきて。寂しい。嫌なことばかり考えてしまう・・・」







「神が選ぶのはわかった。だが、納得いかないな。選ぶ基準と言うのが解らない」

「それは、俺も、わかり、かねない。な、なにせ、俺様も何で、え、選ばれたか、解らない」

しどろもどろで答える勇者。

「『機動兵器』についてだ。アレはなんなんだ?」

痒みに耐えながら、次の説明を始めようとする。

「『機動兵器』あれに、関して、言うならば、我々の『つるぎ』だ。む、昔はきちんと、した、魔族退治よ、ようの剣だったが、時代の流れから、『機動兵器』に変わった」

しばらく考える。すると、文字通り痺れを切らした勇者が鉄格子の向こうからすがりつく。

「は、早く、解毒薬を・・・」

「まだだ。まだ、話は終わってない。気になることが一つ。今までの勇者はどうしたんだ?」

「ど、どうしたも・・・。全員『魔王』に殺された」

「最後の質問だ。『神』とは何だ?」

勇者は顔をしかめる。無理は無い。国家の根本を聞こうとしているのだから。いくらこちらが優位に立っているとはいえ、話が聞けるとは思えない。

「我らに知恵と進むべき道を示す『全能』の何かだ」

「何か・・・か。ほら」

光は持っていた薬瓶を勇者に投げ渡す。それを難なくキャッチする勇者。

「一気に飲めば痒みは収まる。情報提供感謝する」

後ろで何かを飲む音が聞こえてくる。その後、後ろから光に声がかかる。

「小娘、我らの『神』が居る限り、勇者は居なくならない。魔族が滅ぶまでな」

振り向くと痒みに悶え苦しんでいた勇者の姿ではなく、不遜な態度の姿だった。

「そこまで魔族を嫌うんだ?」

「さぁな。だが、これだけは言える。『神』がお前らを許さないから、な」

光はその言葉を最後に牢獄から外に出た。






階段にはアリスが未だに座り込んでいた。

「すぅすぅ」

どうやら泣き疲れたらしい。さすがにこのままにするのはまずいと思い体をゆする。

「おい、風邪引くぞ」

肩をゆすっても起きない。頬っぺたを左右に引っ張ってみる。女性特有の柔らかさを感じつつ引っ張る。年頃の女性が見せられないような顔になる。

「お~い、起きないとひどくなるぞ?」

それでも引っ張り続ける。パッと目を覚ますアリス。お互い見詰め合う形になってしまう。

「・・・」

ジト目でにらんでくるアリス。光は手を離そうと考えた。だが、体が反応しなかった。やばい、そう思った光は言い訳を考える。そしてひらめく。

「・・・、おはよう。とってもいい感触だよ」

わなわなと震えて無言の鉄拳制裁が飛んできた。光は避ける事も出来たが、あえて受けることにした。

「いっつつ」

赤くなった鼻頭をさすりながらなみだ目でアリスを見る。アリスの表情は前髪で隠れて解らなかったが、いきなり抱きついてきた。

「お、おい・・・」

「ごめん。少し、少しでいいからこのままにさせて」

身長差がかなり有るため、光にもたれるようになるアリス。光は居心地悪そうな顔をしながら、アリスの頭を撫でることにした。

「ったく・・・。勇者の尋問、終わったぞ。落ち着いたら報告に行くぞ」






アリスと光は魔王がいる執務室の前まで来る。そこで報告を行うことだったが、問題が一つだけあった。今回の尋問の主体はアリスである。それなのに、光が報告をするとアリスが尋問を行っていなかったことが父であり魔王であるプルーガにばれてしまう。アリスにとってそれだけは避けたいことらしい。

「見栄を張りたいのは解るが・・・。口裏あわせってのはどうも苦手でな」

隣にいるアリスは両手を合わせて頭を下げた格好でいる。

「お願い。これは私にとっての試練でもあるの。過去に打ち勝たないとだめなの」

「いや、そんな過去に打ち勝たなくても・・・。まぁいい。やれるだけやるわ」

ドアを二、三回ノックする。中から「入りたまえ」という声が聞こえてくる。二人は意を決してドアを開けて中に入る。

「二人ともよく来てくれた。それでは、報告を頼む。アリス」

書類の束が乗っている机の向こうから顔を覗かせるプルーガ。その振る舞いは一国の王の物である。光はいささか緊張した面持ちで隣のアリスを伺う。

「えっと・・・」

どうやら、いきなり話を振られてしまったためにテンパったようだ。

「あ~、アリスはですね。途中まで尋問をしていたのですけど、体調を崩してですね代わりに自分がしていました」

光はすぐさま『話を合わせろ』とアイコンタクトを送る。それを読み取って話を続けるアリス。

「そ、そうなの。体調が優れなくて・・・」

魔王はそれを聞くと無造作に立ち上がる。どこと無く震えている気がする。バレた、そう思う光。魔王はアリスに近寄る。

「どこが優れないんだ?風邪か?それとも腹痛か?だから口をすっぱくして言ってるんだ。この時期は腹を出して寝るのは良くないって」

頻りにアリスの額を触ったり、顔色を確かめたりする魔王。魔王の威厳はどこへやら。完全に心配性な父親に変わっている。

「ちょ、ちょっと・・・」

「どこが悪いんだ?」

「・・・、セクハラで私刑にしましょうか。ま・お・う・さ・ま?」

空気が変わった。アリスが放った殺気は恐ろしいまでに冷たい。魔王も冷や汗をダラダラ流しながら机に戻る。

「す、すまなかった。そうか・・・、今日は『あの日』か」

パンッ。乾いた音が一回。そして続けざまに三回部屋に鳴り響く。アリスの手に持っているのはガンドだ。

「お、おい。仮にも魔王なんだからそれぐらいにしたほうが・・・」

光はアリスにガンドをしまうように進める。渋々といった感じで収める。

「それでは報告を・・・」

光は尋問で聞き出したことを話す。







「そうか・・・。結局のところ『神』と言う存在が『勇者』を生み出しているのだな」

「はい。恐らく、その『神』が魔族に対して害があると国民に教えてきたのでしょう」

「平和的な解決は難しいな・・・」

魔王はそう言うと椅子にもたれる。

「お父様の考えは甘すぎます。侵略まがいのことまでされてるのですよ。黙っているのはおかしい!」

今まで黙っていたアリスが魔王に異議を唱える。

「すぐにでも、報復攻撃を・・・」

「それは許さない。私が玉座に就いている限り、戦争は起こさない」

「しかし・・・」

「アリスは、戦争の恐ろしさを知らないだろう。だから言えるのだ」

アリスは黙り込む。

「さて、私の意見としてはこのまま現状維持を貫くつもりだ。以上だ。報告ありがとう。下がってくれ」

光と不服気なアリスはドアを開けようとするが、魔王が光を呼び止めた。

「光君はもう少し私の話に付き合ってもらおう」

アリスだけ外に出て行く。ドアの外から足音が遠のいていく。魔王はドアを開けてアリスが部屋から離れたことを確認すると、光を近くの椅子にすすめる。どうやら、長い話になるようだ。

「光君、君だけに話しておきたいことがある」

「自分も、あなたに話しておきたいことがあります」

「ほう、それではそちらから聞くとしよう」

「はい、『勇者の行方』について聞きたいのです。あなたは『勇者』を処刑しましたか?」

ポカンとした顔をする魔王。しばらくして笑い始める。

「何がおかしいのですか?」

「いや、何。そんなことを聞くとはな・・・。答えは『ノー』だ。彼らを殺してどうなる。『殺す価値が無い』とは言わないが、そんなことをすればたちまち、戦争になるだろう」

「だったら、歴代の『勇者』は?」

「全員国境の外に放り出している。少し記憶を飛ばしてはいるけどね。さて、私の話をしよう」

椅子に座りなおす魔王と光。

「まず、お礼を言わせてもらおうか。娘を立ててくれてありがとう」

魔王は頭を下げる。上に立つものがそう易々と頭を下げていいものだろうか。

「あ、頭を上げてください。一国の王がそんなことをすれば、下に示しがつきません」

「ここに居るのは君と私だけだ。私は王であり、父でもある」

居心地悪そうに頭を掻く光。

「気づいていたのですね。どこで気づいたのですか?」

「体調を確認すると言ったときに、アリスの目が赤かった。恐らく泣いていたのだろうと思ったわけだ。君があの子を泣かすことは無いだろうと思ったからね。親馬鹿と思われるかもしれんが、強い娘でね。原因はどうあれ、そんな状況では尋問は出来ない。なら誰がやるのか?君しか居ないじゃないか」

よく娘のことを知っている。流石父親と言ったところか。と感心する光。

「ここからは私の頼みだ。娘を支えてやってくれ」

「それは『婿』になってくれということでしょうか?」

「いや、そうではない」

顔の前で手を横にふる魔王。

「その・・・友としてだ。『婿』は早い。まだ早いぞ・・・」

「は、はぁ・・・」

「だが、君になら任せれるかもしれない」

ぼそっと独り言を言う魔王。光はそれに気づかなかった。

「何か、言いました?」

「いや。それに、さすがに女装癖のある男に娘はやれないな」

「へ?」

魔王は鏡を近くにあった手鏡を光に手渡す。光はそれを受け取る。映るその姿は、尋問に出掛ける直前のままだ。

「き、着替えるの忘れてた!!」

次話からまた章が変わります。お楽しみに

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