仕事をする意義とは
久しぶりの更新です。主に作者自身の考えです
その日、光の身に異変が起きた。
「なんじゃこりゃぁ!!!」
今日も城内に光の絶叫が響く。
「で、今朝騒いでた理由はなんだったんだ?」
白衣を着たマーモンの向かいに座る光。その姿は、成人の姿であった。
「いや・・・、起きてみたらこの姿だったからつい・・・」
「はた迷惑ね」
静かに冷たく言い放ったのは、主治医?のレヴィである。
「それでレヴィ、診断の結果は?」
タバコを取り出しながらレヴィに聞くマーモン。火をつけて、煙を吐き出す。それを少し嫌な顔をして見つめるレヴィ。
「とりあえず、良好ね。魔力の測定結果は?」
「前回の測定値に戻ってる。後は・・・」
そう言うと魔晶装具を放り投げる。
「これに魔力を通してみ?」
光は言われたとおりに魔力を通してみる。手の中にあったのは、無骨で巨大な鋸ではなかった。
「これは・・・」
手の中にあるのは一振りの剣である。いや、見た目は剣であるが、刀身にはチェーンが張ってある。さしずめ『チェーンソード』といったところだ。
「前と・・・形が違う」
「何か心境の変化はあったか?」
「変化って言っても・・・」
光はここ数日のことを振り返る。確かに、以前は『帰りたい』と言う気持ちが大きかった。だが、最近では『この生活もいいかな』と思うようにもなった。
「あるっちゃあるな・・・。それが関係あるのか?」
「結構な。何せ、心を映し出す『魔法の杖』だからな。基本構造は変わらなくても、外見は変わることもあるしな」
タバコの火種を灰皿にこすりつけながらマーモン。
「まっ、気にすることではないさ。完治おめでとう!」
肩をバンバンと叩かれる。レヴィも心なしか、「よかったわね」という顔をしている。
「さて、仕事に戻らせてもらいますか。レヴィ、研究中のホムンクルスはどうだ?」
「ええ。順調よ。あとはそっちが開発している・・・」
二人は仕事のミーティングに入った。すでに、光は蚊帳の外となった。少しの寂しさを覚えながらも、仕方なく部屋を後にすることにした。
「なぁ、アリス」
「なに、マイダーリン?」
突っ込むべきなのかどうか悩んでしまうボケをかますアリス。あえてスルーすることにした。
「俺ってさ、ここに来て日が経つけどさ仕事しなくていいのか。と言うか仕事がしたい」
「はぃ?」
頭大丈夫という目で光を見るアリス。
「頭、大丈夫?今現在仕事してるじゃない」
言っている意味がわからない。たぶん、そんな顔をしているだろう。
「私のところに永久就職、いやん」
光の体から力とその他もろもろが抜けていく気がした。どうしようかっと考えている間にアリスが言い繕う。
「もう、冗談よ。確かにそうね・・・。でも、ヒカルに出来る仕事って無いのよね」
「そうなのか・・・」
「でも、変な人ね。普通仕事したいって言う人居ないんじゃないかな」
ため息をひとつついてアリスに説明を始める光。
「あのな、仕事って言うのはその人の生活の一部であり、社会に貢献するっていう証しなんだ。仕事をしない、したくないというのは甘えだと俺は思っている。仕事をしないということは社会から外されたということでもある。したくないという奴は、自ら社会から逃げてるとしか考えられないね。大体、少し前に流行った『ニート』って奴はだな・・・」
いきなり光の口を手で塞ぐアリス。
「ごめん、話が長い」
手で口を塞がれたまま上下にうなずく光。口を解放された光はもう一度ため息をついて一言だけ付け足す。
「要するに、『働かざる者、食うべからず』だ。この城でお世話になってるんだから、少しでも役に立ちたいんだ」
ほうほうとうなずくアリス。納得してくれたと安心する光。少し考える素振りをして、両手を合わせてそうだっと言うとアリスはどこかに行ってしまった。
「どうかしたのか・・・」
呼び止めようとしたものの、あっという間に廊下を走り去ってしまった。しばらくして戻ってきたときには、手の中に一本の竹でできているだろう棒を持っていた。
「コレ持ってて。それで、部屋に戻りましょう」
わけの分からぬままアリスに手を引かれてアリスの部屋へと行くことになった。
「ん、もうちょっと奥」
それを聞いて奥へと棒を滑り込ませる光。棒のひっかかりが奥を掻く。
「あぁ、そこ。そこをもっと・・・。お願い、もっと掻いて・・・・」
光は慣れていない様子で、戸惑いながらも棒を滑らせる。
「こ、こうでいいのか?」
「ああ、イイ。凄くいいよ・・・。気持ちいい」
棒を抜き取ってあらかじめ出してあった紙で棒を拭き取る。
「はぁ・・・。お願い、反対側も・・・」
「なぁ、耳掃除くらい自分でしたらどうだ?」
「え、人にやってもらった方が気持ちいいじゃない」
アリスは光の膝から上目使いに反論する。
「だからってなぁ。普通逆じゃないか?」
「そうなの?私は昔お父様にしてもらってたから・・・」
そういえば、アリスの父親はわかるが、母親はどうしたんだろうか。当たり前のように感じてしまったが、よくよく考えれば母親が居ないということは亡くなったということでいいのだろうか。
「まぁ、今の俺が聴く事でもないか」
「どうかした?」
「いや。気にしないでくれ。それより、俺の仕事は?」
「コレ」
アリスは寝返りをうって自分の耳を指さして催促をする。
「はぃ?」
「私の耳掃除をするっていう仕事。仕事なら文句ないでしょ?」
「・・・はぁ」
反論ができなかった。あんなことを言った手前、無下にはできない。仕方なく反対がわの耳掃除を始めることにした。
「んん、もうちょっと・・・。あぁそこ。そこ・・・」
だが、これは精神衛生上よくないこの上ない。時折聞こえてくる甘い声は彼女いない=自分の年齢の光にとって色々な妄想を掻き立てるきっかけになってしまう。
「色即是空、色即是空」
「どうしたの、ブツブツ言って」
頭の中の煩悩を去るために必死になるあまり、口に出していたようだ。
「気にするな。それより、もういいだろ?」
「だ~め。もうちょっとしてもらいます。仕事なんだからきっちりお願いね」
「くっ」
煩悩を取り去りながらの耳掻きなんて聞いたことがない。そんなことを考えながら、一生懸命に『仕事』をする光であった。
「はぁ、気持ちよかった・・・」
ご満悦という様子で廊下を歩くアリス。その後をげっそりとした表情で歩く光。妄想を払いながら耳掻きをするという慣れないことで精神的に疲れ果てている様子である。
「おいサターヌ、この依頼書はどういうことだ!」
「そのまんまじゃないの。そんな声を荒らげなくてもわかってるわよ」
廊下で口論をするのはデウスとサターヌだ。デウスの手には一枚の書類。それを振り回しながらサターヌに文句を言っているのだろう。それを見てアリスはすぐさま二人の間に入る。
「ちょっと、廊下では騒がないでよ」
「あ、アリス・・・」
「・・・」
二人はアリスの介入で少し落ち着きを取り戻したようだ。
「何があったか話してくれる?」
デウスはバツが悪そうに目を背け、サターヌはうなり始める。デウスが口を開く。
「実は、『常夜の森』に異変があったらしいんだ。それで、依頼書には魔獣の異常発生と書かれているんだが、何が異常発生してるのかが書かれていないんだ」
「それで、受理した私がデウスに責められていたの」
その後もデウスとサターヌが喧嘩しながら話を進めていった。要約すると、こうだ。『常夜の森』を散策していた国民が異常を感じて城に報告に来たが、その異常を詳しく聞かないままサターヌは帰してしまったと言うことらしい。魔王に報告しようにも、原因がわからなければ七賢者が動けないとのことだ。
「成る程ね。それじゃあ、調査に行くしかないというわけね・・・。お父様には私が話しておくわ」
「ごめんね、アリス」
「それじゃあ、私も同行するわ。責任をとってサターヌもね。あと、デウスも」
「お、俺もか・・・。貧乏くじ引いてしまった」
「あとは・・・「はい」、誰がいいかしら・・・。マーモンとレヴィは研究で「はい」いそがしいから無理だけど。残るはルーシーか、ベールよね・・・。「はい」ベルゼーには別の仕事「はい」・・・」
アリスは苛立たしげに光を見る。
「あのね、人が考えてるときに話しかけないでよ」
光は行きたいと言わんばかりに右手をあげている。
「俺も付いて行く。面白そうだ」
「あのね、遊びに行くんじゃないのよ」
サターヌに諭される。だが、光は折れない。
「俺だって仕事がしたい。城のみんなの役に立ちたいんだ」
「いいんじゃないか。俺は賛成だけどな」
「アリス、どうする?」
「私は・・・。うん、ヒカルも行きましょう」
「やったぜ!」
「どうなっても知らないわよ。危険が一杯あるんだから」
サターヌはプリプリしながらどこかへ立ち去ってしまった。




