↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昔拾った人外から自立したいっ!!!  作者: 君影想


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/18

第一章 雨が歌えば

本当に、本当にお久しぶりです。『花園』シリーズ。もし、まだ待っていてくださった方がいらっしゃるのならば…本当にお待たせしました。

この回だけ少しだけ残酷な描写ありです。苦手な方はお気をつけください。

「…げ、雨だ。」


 和窓に打ち付ける雫にうぇっと眉を顰める。

 今日は傘を持ってきてないから濡れ鼠になって帰ることになる・・・。

 そんな憂鬱な雨をじぃっと見つめているとふと、水色のあの子が瞼の裏にちらついた。


「…こんな日だったな。」

「…なにが?」


 なんとなく気だるげな雰囲気を持つ男は火鉢に夢中でこちらに少しも目を向けない。


「あの子と出会った日。」

「あの子って、あの四大貴族の?」

「そう。」


 四大貴族の一角、ルレザン家が当主クレマチス。またの名をサファイア。

 サファイアはなによりも美しくて…そして強い。肉体的な強さももちろんあるけど、心のずっと奥にある部分がとても強い。サファイアはなによりも気高く、なによりも優しいのだ。

 そんなサファイアに、私は…



  +  +  +  +



 サファイアと出会ったのは八年前の雨の日だった。十日間雨が降りやまなくて、みんななにか悪いことがあるんじゃないかと不安がっていた。私は学級閉鎖になってラッキーと思っていた。部屋に引きこもるのが趣味の私がなんでそんな日にでかけたのかはよく覚えていないが、学校に弁当箱でも忘れたのだと思う。


「…大丈夫ですか?」


 学校帰りの私が見つけたその黒い塊は大雨のなか傘もささずに地面に蹲っていた。黒い外套を頭からすっぽりとかぶっているから本当に怪しい人にしか見えなくて正直話しかけるのを悩んだ。


「…。」

「…もし、よかったらこれ…どうぞ。」


 カーディガンを差し出しても動かないので勝手に肩にかける。あったかくなる系の魔道具だから、すぐに温まるだろうし凍死は少なくとも免れるだろう。うっかり見つけてしまったから、このまま凍死されても嫌だ。

 すると突然、黒い塊がこちらをむいた。


「…。」


 サファイアだ。

 フードのなかから零れた水色の髪を見た瞬間、そんな言葉が頭に浮かんだ。瞳を宝石に例えることはあるが、髪をみて宝石だと思うのはこれが初めてだった。それほどまでに美しい髪だった。


「…あの、さ。部屋…置いてくれない?」


 図々しいな。先ほど頭に浮かんだロマンティックな言葉もすべて消し飛んだ。


「…交番にご案内しましょうか?」


 これは別にポリ公に突き出すぞとかいう脅しではない。親切心だ。こんな不審者家に泊められるかよと思ったわけでは決してない。決して。


「…迷ってるわけじゃないの。…帰る場所ないから。」


 でしょうね、という言葉を飲み込んでなんとか考えている風を装う。


「えっと…寮ぐらしなので…。」

「一人部屋でしょ?」

「あなたストーカーですか。」


 今度こそ言ってはいけない言葉が口にでてしまった。なんで知ってるんだこの人。怖すぎる。


「ち、ちがうけど。」


 どもってる時点で怪しいんだよ!


「あの…えっと…ごめんなs

「お願い!お願いだから連れてって!!!!」


 土下座された。水たまりに顔つっこんでるけど息できるのかな…。


「そ、そんなこと言われても…。」

「連れて行ってくれるまで僕土下座やめないから!!!」

「死んじゃいますよ!!」


 私の静止の言葉も聞かずに再び水たまりに顔をつっこんだ。いくらゆすってもゆすってもブクブクと水たまりから空気の塊が浮き上がってくるだけでなんの反応もない。


「わ、わかりました!!じゃあ、一日だけですからね!!」

 

 このままほっといて死なれたらたまらない。実際、二人部屋を一人部屋として使わせてもらってる…というよりこの学年が奇数だったから抽選で選ばれてボッチにされたのでベッドは余っている。声的に女の子だろうし…まぁ、一日くらいだったら…。


「ありがと!!」


 そのとき初めて見えたあの子の顔と月を思わせる金色の瞳のあまりの美しさに思わず息をとめてしまったのは秘密だ。そして、泊めていいと約束した過去の私に感謝したのも秘密だ。



  *  *  *  *



「どりーどりーどすこいどすこいどりーみんぐ♪」


 彼女は名前をクレマチスと名乗った。私よりちょっと年上に見える彼女はもう働いているらしい。職業はまさかの歌手。安直な感想だが、やっぱり芸術家は生計をたてるのが難しいのだなと思った。

 そして、彼女は一日だけという約束をすっかり忘れて今日も呑気に歌いながら晩御飯の用意をしている。水色のおかっぱ頭が楽し気にひょこひょこと揺れていてなんだかご機嫌そうだ。


「その歌なに?」

「僕がつくったの♪」


 …アルバム出す予定あるんだったら、たぶん自分で歌詞つくるのはやめたほうがいいと思う。歌うだけにした方がいい。


「今日の夕飯はなに?」

「ハンバーグとねぇ、コンポタージュと大根サラダ!楽しみにしててね!」


 フリルが存分にあしらわれた可愛らしいエプロンをひらひらとさせながら右へ左へと忙しい彼女は同性の私から見ても本当に愛らしい。これまで、同室の人間がいないことを寂しいと思ったことはなかったが…今、クレマチスがいなくなってしまったら正直寂しい。それほどまでにはこの賑やかで楽しい毎日に慣れてしまった。


「リナ、今日は学校で楽しいことあった?」

「うーん。楽しかったけど、特筆すべき点はなしって感じかな。」


 特に楽しいこともないなんてことない日常。


「書かなくてもいいから僕に教えてよ。」

「えー。そういえば、サクちゃんが私が貸した魔道具を壊して返してきた。」


 楽しいことじゃ全くないけどね。


「サクちゃん?」

「ああ、話したことなかったっけ?私の幼馴染。サクラカガミっていうんだよ。」


 普段はいかにも硬派!!って感じで振る舞ってて、雰囲気もどこの武家の方ですか?って感じだけど、実のところはどこかマヌケで可愛いヤツなのだ。むかしはなにかあるとすぐ泣いていたが、最近は泣くどころか表情もほぼ動かなくなってしまった。今日は珍しく昔みたいに泣きそうな顔で私に話しかけてきたからどうしたのかと思ったら、私が貸した魔道具をぶっ壊しましたという大変業腹な報告であった。


「可愛い?」

「うん。」

「僕よりも?」

「うん。」

「ちょっと〆てくる。」

「うん。」

「…止めないの?」

「うん。」

「適当にいってる?」

「まさか。」


 どうぞ、あいつをボッコボコにしてやってください。


「なんで?」

「魔道具けっこう高かったから。」


 今回に関しては殺意が沸いた。いつもはなんだかんだいってアイツが犯したトンデモなうっかりを許してきた私だが、今回はさすがにこの野郎となった。まぁ、なんやかんやいって今回も許してしまうのだろうが…惚れた弱みというやつだ。

 …あ、いっちゃった!てれるぅ!…まぁ、べつにどうせ心のなかだしいったところで特になにが変わるというわけではないが、照れるものは照れるのだ。とにかく、私はマヌケエセ武家男に恋をしている。自分でもなんでそんな男を好きになったのかはさっぱりわからない。やっぱり顏がよかったからかもしれない。世の中所詮顏なのだ。


「僕が買いなおしてあげようか?」

「それ私のお金だよね?」

「だって僕ヒモだもん。」


 結局自分のお金で自分のもの買うことになるからなんの意味もない。


「出世払いするよ!!」

「出世するご予定は?」


 クレマチスは無言で自信満々な笑みを崩さずにサムズアップしてくる。たぶん予定はない。


「まぁ、別に必需品ってわけじゃないし…大丈夫だよ。」

「そうなの?」

「うん。」


 一人分のお小遣いしかもらってないのに二人で暮らしちゃってるせいで、生活費はだいぶ苦しい。そんな生活費のなかからきりつめてだすほどの物ではない。だがサクちゃんのことは絶対に許さない。


「…ういえば、変なこと聞いちゃうかもなんだけど。」

「なに?なんでも聞いてもいいよ。」

「そもそも魔道具ってなぁに?」

「え、知らないの!?」

「うん。」


 これまでよく生きてこれたな。


「魔道具っていうのはね…。私たちってさ、一種類しか魔法使えないじゃん?」


 神様とか精霊とかは違うみたいだけど。…精霊に関してはずっとむかし神様によって完全に封印されてるらしいし、確かめるすべも何もないけど。神様は…まぁ、会えないだろうしやっぱり確かめられないか。


「魔道具はそれを補うために開発されたものだよ。…例えば、このマフラーとか、」


 洋服掛けにからまっていたマフラーを手に取り、サファイアの首にまきつける。

 突然首にマフラーをまかれてきょとんとしていたクレマチスはぱちぱちを目をしばたかせたあと、口元に笑みを浮かべた。


「…あったかい。」

「そうそう、すぐあったまるんだよ。これは、こういう系の能力の人が魔力をこめてて…私たちがスイッチとして魔力をちょっと入れると能力が発動してあったかくなるの。」

「…初めて会った時にくれたこのカーディガンも、そうなの?」


 クレマチスは羽織っていたカーディガンの袖口をさらりと撫でた。彼女はこのカーディガンがお気に入りらしく、ほぼ毎日着ている。…ちゃんと洗ってるのか?


「そうそう。」

「高くないの?」

「そこまではしないよ。」

「へー。」


 …そうだ、忘れるところだった。

 

「ねぇ、クレマチス。目、つむって。」

「どーして?まさか、僕を暗殺しようと…!!?」

「クレマチス殺していいこと特にないし。」


 あ、生活費が楽になるかも?…いやいや、だからって殺しはしない。


「…まぁ、そうよね。」


 クレマチスが薄目を開けたりしていないことを確認して、クレマチスの後ろに回り込む。そして、クレマチスのサファイアのような髪にゆっくりと指をからませる。


「なにしてるの?」

「秘密。」

「えー。」


 よしっ、できた!


「目、開けていいよ。」

「うん。」


 あ、これだと目あけただけじゃなにもわからないか。


「はい、鏡。」

「…ありがと。」


 クレマチスは不思議そうな顔で鏡をじっくりとのぞき込む。まぁ、見にくい位置にあるから仕方ないか。


「…あっ!ありがと!これなぁに?可愛い!!」

「知らないの?シュシュっていうんだよ。家庭科の授業でつくったんだ。」


 今時の女の子、って感じの見た目なのにシュシュを知らないのか。なんか意外。そういえば、クレマチスは意外なことを知らないことが多い。変なところでは博識だが、さっきみたいに魔道具の存在を知らなかったりする。


「つまり、リナの手作り?きゃー!嬉しい!」

「へたっぴだけどね。」

「いいのいいの!リナが僕のためにつくってくれたってだけで幸せ!」


 へたっぴに関してはフォローをくれないのか…。


「いやん♪本当に嬉しい!毎日つけちゃお。」

「え、そこまでしなくても…。まぁ、ありがとう。」


 まさかこんなに喜んでもらえるとは思わなかった。どうせだったらもっとちゃんとつくるべきだった。次実習系の授業があったら、サクちゃんとかの存在は無視してクレマチスのためだけにつくろう。今回は不器用なのに調子にのってサクちゃんのために別のものまでつくっちゃったからな・・・・。


「…ねぇ、クレマチス。」

「なぁに?リナ?」

「あのね。」

「うん。」


 …大切なことだから落ち着いてちゃんと伝えよう。


「…ごめん、ちょっと待って。」

「もう、もったいぶらずに教えてよ。」


 これをいったら、クレマチスはどんな顔をするだろう。なにをいうだろう・・・。

 でも、言わなきゃ。


「…鍋、あふれてるよ。」

「え?…ぎゃあああああああああああああああ!!!!!」


 クレマチスは普段の可愛らしい声を脱ぎ捨てて野太い声で絶叫した。そして、チーターも驚くレベルのスピードで鍋にむかって走っていった。


「な、な、な、なんでもっとはやくいってくれないのさ!?」

「そういう料理なのかな?って思ってたんだけど…こぼれてきたあたりで、あっ、違うな…って。でもそれぐらいのときにいっても、絶対クレマチス今みたいな感じで怒るだろうな…って思ったから、クレマチスが気づくまで待とうと思ったらもう引き返せない感じに。」

「だからってさぁー!!!!」


 こんな感じで私とクレマチスの日々は穏やかに幸せに過ぎていった。



  *  *  *  *

 


「…リナ。あのさ、ちょっと…一緒にきてくれない?」


 ある雨の酷い日。クレマチスから突然のお誘いがかかった。


「…え?」


 クレマチスはこの花園学園の寮において間違いなく不法侵入者だ。見つかればもちろん私もお縄・・・までは行かないが、恐らく先生かなにかにこっぴどく叱られるだろう。だから、クレマチスが私の部屋で寝泊まりするようになってから外にでたことはほぼない。それは彼女もよくわかっているだろう。


「大丈夫。絶対にバレないようにするから。ねぇ、お願い。つきあって。」

「…そこまでいうなら、いいけど…。」


 本当に…突然どうしたのだろう。

 

「ありがと。」


 そういうと、クレマチスは普段は浮かべないようなとても大人びた笑みを浮かべた。そして、私の腕を掴みそのままバルコニーに飛び出した。


「いや、今雨だよ!?」

「いいの。」


 よくないよ!!

 私の心の中の必死の叫びも聞かずに、クレマチスはバルコニーでそのまま目をゆっくりと閉じた。

 な、なにしてるの!!?瞑想!!?この雨の中で!!?いや、馬鹿でしょ!!そりゃ瞑想じゃなくて迷走だよ!!


「…きた。」

「なにが!!!?」


 わけがわからないよ!!


「エ*$%ド…。」


 クレマチスがなにかを呟いた。だが、不自然にノイズのようなものがかかって聞き取れない。


【…やっとか】


 …どちらさまだ?この、アラビアンな雰囲気の奇抜な恰好の方は。顔は好みだが…そのエメラルド色の瞳からは一切の感情がきりとられているように見える。


【懐柔するのは難しいのよ。】


 クレマチスの声の雰囲気が突然変わった。そして、見た目も変わった。目の前のアラビアンな雰囲気の恰好の方と同じような服装になっている。


「えっと、クレマチス?マジックの練習中?」


 目の前の人を私を巻き込んだなんか壮大なマジック?


【…&%ラ$ド。この馬鹿を連れ出してやって。】

「バカ!!?」


 いや、あんまりクレマチスには言われたくない!!


【わかった】


 え。なにが?と、思った瞬間に頭に鈍器で殴られたような痛みが走り私の意識はそのまま消えた。

 


  *  *  *  *



 …頭が痛い。でも、眠い…。このまま…寝よう…。


【寝るな】

「った!!!」 


 うっすら開いた瞳に無数のこまかいなにかがダイレクトアタックした。これは痛すぎる。


【こんな状況でよく寝られるな】


 こんな状況?

 よくわからないので、ちゃんと目を開いてみる。…木、木、木…木しかない。あと、ぼんやりと光る二つのなにか。

 なぜか手が痛いので、目を開けたついでに手元と胴をみてみる。縄がまかれている。…縄!!!!?


「ロリコンですか!!!?」

【貴様がロリを名乗るのはもう無理だ】


 たしかに。


「誘拐?」

【…まぁ、間違ってはいない】

「顏目的?」

【自意識過剰なのか?】


 いや、平凡なのは知ってる。


「臓器売買?」

【…体の中にあるものが目当てではあるが・・・臓器ではない】

「じゃあ…なんですか?いや、目的はどうでもいいんで解放してください!!!」

【それではいわかりましたといいそうに見えるか?】

「あんまり…。」


 ドラマとかでもあんまりないよね…そういうこと…。だからってあきらめるわけにはいかない。


「…わああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

【…残念だが、ここには僕以外いない。それにここには誰もこれない】


 どういうことだ?


「…。」

【能力を使おうとしても無駄だ。…それにそもそも、貴様の能力はあまり戦闘向きじゃなかったはずだ】


 なんで知ってるんだよ!なんで心よんでくるんだよ!!


「…さ、最後に目的だけでも…


 時間稼ぎだ。時間稼ぎ…。


【断る】

 

 無理だったぁ…!

 …どうする、私。どうする…?


【さぁ、絶望してもらおう】


 なにかを考える暇もなく、私の右足の前に歯車のような形をした緑色の塊が出現した。それは空中で猛スピードで回転しながらゆっくりと私の足にむかってくる。


 ど、どういうつもりだ!!?なにを…

 訳も分からず、さけぶことしかできない私にドリルはもはや足に…


「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 いたい、いたい…くるしい!!!!!!!!


【…まだ、絶望しないのか。しかたない】


 ドリルは消え、右足の痛みも消え去り足も元通り戻った。だが、体も脳もあのときの感覚を忘れられないのか震えがとまらない。

 そして、次は…


「やめて!!!お願い!!ねぇ!!…やめて!!!!クレマチス!!!ねぇ、クレマチス!!お願い!!助けて…!!!」

【…すまないとは思っている】


 だったら…


【…もう、もうやめて!!!もう、もう無理だ!!!!!!】

【なっ!!!?サ&ァ$$!!?】


 すごいスピードで小さな水の塊がとんできて私の胴と手を縛っていた縄を引き裂いた。


【いこう!!】


 いつのまにかクレマチスが隣にいて、私の足にからまっていた縄をほどき私に手を差し出す。


「…!?」


 クレマチスに手をとられ、二人で走り出す。


【おい!!サ6%#&!!!どういうつもりだ!!!】

【ごめん!!でも、僕にはもう耐えきれない!!!!!】

【そんなの…!!!!この…裏切者…!!!!】


 風でできたフリスビーのような形のものがまわりのものを全て引き裂きながらこちらへ襲ってくる。

 私はクレマチスに手をひかれひたすらに走った。走って…走って…気を失った。



  *  *  *  *



「…ごめん、ごめんなさい…僕のせいで…。友達だったのに…本当に…本当に…ごめん…。」


 誰かが…泣いている…。この声は…クレマチス?


「ク…レマチ…ス?」


 真っ白な天井がみえる…ここは、どこだろう?

 

「リナっ!!!!…よかった!!よかった!!!やっと目を覚ました!!!2年間…ずっと眠りっぱなしだったんだよ!!!!本当に…本当にごめん…!!!!」


 クレマチスは目覚めた私の姿をその瞳にとらえると、その場で崩れ落ち号泣し始めた。

 泣かないでといいつつ、クレマチスを抱きしめるために立ち上が、


「…え?」


 立ち上がれない。右足が、右足の膝から下に力が入らない。


「リナ……?」

「足が…使えない…。」

「どういう、こと…?」


 

  *  *  *  *



 それから、私は色々な検査を受けた。その結果、私は右足の膝から下の自由を失っていることが判明した。しかも、肉体的な異常はなく…それ以外のなにかが原因らしい。

 その話をお医者さんから一緒に聞いているとき、クレマチスの顔色はみるみるうちに悪くなっていった。携帯を手に部屋から飛び出していき、しばらくして戻ってくるとひたすら謝罪の言葉をつぶやきながら私の足元に崩れ落ちた。


 そして、お医者さんが部屋から出て行ったあとぽつりぽつりと自分のことを語りだした。


 自分の正体が太古の昔、封印されたはずの四大精霊であること、クレマチスという名前は偽名でサファイアが本名であること、四大精霊以外の精霊が封印されているパンドラの箱…を体に封印されている誰かを探していること、そのパンドラの箱をあけるには絶望させなければいけないこと、パンドラの箱があるかないかは絶望させるまでわからないこと…などなど。そして、私は絶望させられている途中にそれを見ていることに耐え切られなくなったサファイアに助け出されたらしい。


「…ごめんなさい…。ごめんなさい…。僕のせいで…。」

「もう、大丈夫だから…。」

「…リナの人生をめちゃくちゃにしちゃった…。ごめん…ごめん…。僕たちの事情に…勝手に巻き込んで…。」


 …たしかに、私の人生はめちゃくちゃだ。この足だと、私は…きっと夢を叶えることはできない。


「…いつか治るかもしれないし…。」


 これは、私への慰めでもある。いつか、いつかを信じよう。


「…でも…そんなの…。」

「…じゃあ、それまでクレマ…サファイアが私の足の代わりになってくれればいいよ。だから、気にしないで。」

「…わかった。」


 その言葉がサファイアを縛りつけ、のちの私を苦しめることになるだなんてその頃の私は考えもしなかった。



  +  +  +  + 



 それからしばらくはずっとリハビリとかセラピー三昧だった。

 そういえばサファイアはクレマチスの名でいつの間にかルレザン家の養子になっていた。そんな偉い人になってなにをするのかと思ったら、特に変わらず…私と一緒に高校に通いはじめたのと本格的に歌手活動を始めて有名人になったことぐらいだ。あとは…恋人ができたことぐらいか。…にもかかわらず、本当になにも変わらず甲斐甲斐しく私の世話をしようとする。恋人よりも私を優先しようとする。私はその事実もその恋人の存在もすべてが息苦しい。


「…あのさ。」

「…なんだ。」

「…べつに。」


 今、私の目の前にいる男は友人でもなんでもない。私が金で買った男だ。…こういうと誤解を生みそうだが、性的なサービス云々ではない。時間を金で買っているのだ。ここは指名した人間と個室でおしゃべりとか、ゲームしたりとか、お茶とかを飲みながら過ごすお店だ。全室VIPルームの派手じゃないホストクラブみたいなもんだ。ここにくるのが何度目かはもう忘れた。セラピーとか受けすぎて面倒になってた時期に初めてきたのは覚えている。この中からご指名ください、と言われ手渡された紙には様々な人間の顔が並んでいてその中からこの男を指名した。ただ、私の好みドストライクの色っぽい顔立ちと死んだ魚のような真っ青な瞳が印象的だった。つまり顏で選んだ。


「あ、そうだ。」

「…なんだ。」

「新しい洋服買ったんだ。ちょっと着替えるから後ろむいて。」

「…。」


 嫌そうな顔をしつつもシャラはなにも言わずに後ろを向いてくれた。

 …えっと、まずはスカートで…次は上でチャックをしめ…


「ぎゃあっ!」

「…なんだ?」

「…ああ、なんか、近くで怪鳥がないたみたい。」

「…。」


 …肉を挟んだ…。痛い…。いつのまにかデブってたようだ…。


「よし、きれた!!こっち見て!!」


 シャラはいかにもけだるげにこちらを向いた。

 …特に表情に変化はない。ただの真顔。死んだ魚の眼。


「どう?かわいい?」

「…ムカデよりは。」


 イラっとくるがスルー。スルースキルって大事だ。


「店員さんに言われた通りに買ったんだけど…色合いとかおかしくない?大丈夫?」

「…知らん。」


 知れよ!!なんなんだよ!!


「まぁ、地味人間に聞いても仕方ないよね。センスなさそうだし。」


 …さすがにムカついたか?と思ったが、特に表情に変化はなく、まったく気にしておりません、といった表情でシャラは気だるげに私から視線をそらした。


「…ところで時間はいいのか?」


 指摘されて自分の腕についた時計を咄嗟に見ると、そろそろ帰らないとサファイアがおかんむりな時間になっていた。

 こういうところは変な風に気が利くから、このシャラという男はつかめない。たださっさと帰ってほしいだけかもしれないが。


「だめだからそろそろ帰るわ。」


 机に広がっていたトランプなどを回収し、畳の上のもともと着ていた洋服を拾う。


「じゃあね。」


 …挨拶ぐらいかえせやごらぁ!!!


「…じゃあね!!!」

「…。」

「…。」


 …本当にムカつく男だ。

 イライラとしながら部屋を出て、勘定をすませる。そして、店をでると雨はいつの間にかやんでいた。


「…サファイア、心配してるかもな。」


 砂利の中に杖が軽く沈んだ。晴れた空が綺麗でサファイアの瞳の色を思い出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。