第二章 マイ・フレンド・パーマネント
「おかえり~!リナ!」
寮の部屋に入るドアを開ければ、サファイアはいつも通り可愛らしい笑顔で迎えてくれる。
「今日もちょっと遅かったけど・・・どっかいってたの?」
サファイアの顔にはなんの勘繰りとかもなくて、ただひたすらに心配の色が宿っている。その純粋な心配に安心すると同時に少しだけ心が痛む。
「服をちょっと買ってたんだ。」
「あっ!本当だ!!洋服が変わってる!!かわいい~!!似合ってるよ!」
「ありがと。」
サファイアはぎゅっと私に抱き着く。なすがままに任せていると、サファイアがじぃーとこちらを見つめていることに気が付いた。
「…どうしたの?」
「ショッピングだったら僕も行きたかったなぁ~…って思って。」
「…今度は誘うね。」
…彼女は本当に私を友達としか思っていない。私にとって彼女は…
「…それに、一人じゃ歩きにくいでしょ。僕がいたら楽だったのに。…僕がいたら、
「サファイア、今日はサクラカガミとデートだって朝いってたじゃん。」
「そんなの、僕は
「責任なんか感じなくていいんだよ。」
「…でも…。」
私にとって彼女は間違いなく友人だ。だけど、友人で親友で…恋敵だ。私はあの日、一年間眠って目覚めた一週間後に…サファイアにサクラカガミと恋仲になってもいいかという話を聞かされた。私のお見舞いをきっかけに二人は出会い、愛を深めていったらしい。だけど、私のことを不幸にしておいて自分が幸せになっていいのかわからない…だから自分はサクラカガミの告白を断り続けてきた。でも…もし、リナが許してくれるというのだったら恋仲になってもいいだろうか…そういわれた。これを…やめろとなんて言えるだろうか。
もちろん私はそれに笑顔でもちろんと答えた。そして世界を呪いたくなった。だけど、お似合いの二人だな…とそう思った。本当に二人が並んでる姿は絵画のなかの世界みたいで…私が入り込む余地なんかなかった。もしかしたら背景の木の役ぐらいだったらできるかもしれないが。
「…そういえば、今日の晩御飯はなに?」
「…ラーメンだよ。」
「インスタント?」
「失礼な!手づくりだよ!!僕の愛をたっぷり感じてね❤」
「はいはい。」
私は…サクラカガミとサファイアの恩人。…それでいい。
* * * *
食事が終わって私はお散歩にでかけることにした。べつに皿洗い当番をサボるためとかではない。べつにやらなくてもサファイアがやってくれるしいっか、とか思ったわけでもない。サファイアがトイレいってる間に逃亡するか!とかでもない。ちょっと申し訳ないかなと思ったりもするから、やらなかったぶんはちゃんとかわりにどっかでやろうと思う。思ってるだけでやらないような気もするけど。
杖をカツカツとつきながら歩いていると、私の前方方向に細身で長身な影が出現した。
「…リナリア。」
薄桃色の綺麗な髪をポニーテールにした「武士です!!」といった雰囲気のこの男は珍しく、苛立ったような顔をしていた。そう、この男がサクラカガミ。サクラカガミは私に若草色の瞳をまっすぐむけてさっぱりそらさない。これは彼の幼い頃からの癖で、彼の純粋さと痛いほどの潔白さをよく表した癖だと私は思う。…見られるこっちとしてはなかなかに照れるしなんだか気まずいのでやめてほしいが。
「こんばんは。」
「…こんばんは。」
これは果たして偶然の遭遇だろうか?私にはとてもそうは思えない。いや、運命とかそういう話ではなく。だからといってここでずっと私が来るのを待っていたとは思えない。あまりにも不確実すぎるし、だとしたらサクラカガミはもうどうかしてしまっている。
…いや、だけど私はサクラカガミがもっとどうかしてしまっている可能性を考えなくてはいけないかもしれない。
「…能力使った?」
「…ああ。」
やっぱりそうか。彼の能力は地球上のありとあらゆる鏡に映ったものを見ることができる。細かい指定がなくても「ここらへん」とか、「この人がいるところ」、「こういう場所」みたいなざっくりした感じで見たい鏡を決めることができる大変便利な能力である。世界中の変態とストーカーが歓喜しそうな能力であるが、清廉潔白をそのまま人間にしたような彼は滅多なことではこの能力を使うことはない。どうせだったら女湯とか覗けばいいじゃんとか思ったけど、女湯を覗いてるサクラカガミを想像するとだいぶ気持ち悪いので彼が真っ当な人間であることを神に感謝した。
…と、女湯を覗いたりはしない彼であるが、私たちの部屋および私たちの部屋の周りの鏡でどうやら私たちのことは監視していたらしい。まぁ、サファイアを見ているっていうんだったら・・・いや、気持ち悪いな。その場合なに?浮気対策?
「君、男をかっているだろう。」
「特にオヤジ狩りを行った記憶はないけど…。」
おっと、サクラカガミくんがおっかない顔で睨みつけてきた。
「戯れるな。」
「はいはい。」
いやさ、逆にここで「男買ってましたぁ!!楽しかったでぇす!!」っていう方がだいぶ頭おかしくない?男の幼馴染相手に、しかも恋とかしちゃってる相手に対して。
「…それで?」
それで?ってそりゃ私が聞きたいよ。なにを話せばいいの?シャラのこと?それとも私があそこでなにやってるか?そりゃあ、トランプとかですけどなにか?あ。それとも感想か?
「楽しかったでぇす!!」
「ふざけるな。」
ヤバいな。サクラカガミ完全に目がイッちゃってるよ。こりゃマジギレしてますね。というかなにが悲しくて私は幼馴染の男(恋人有)に謎に尋問されなきゃいけないんだ?
それともこの男は周りにも清廉潔白さを求めているのか?人が人を買うなど許されないと?別にいいじゃんか、やってることはガールズバーレベルなんだし。違いといえば、ごくたまにそういう色っぽい行為にもつれることもあってそれが許されてるっていうだけじゃん。
「…どうして知ってるのさ?」
「見かけたのだ。」
「ああ、クレマチスとのデート中に?」
サクラカガミはここで初めて私から目をそらした。そしてなにやらもごもご言っている。照れているのだろうか。…ああ嫌だ。こんな光景みたくない。
「…とにかく!!!
「だったら鏡で見てたんじゃないの?」
「…見てない。私にはそんな破廉恥な趣味はない。」
へぇ、ふぅーん、そう。破廉恥、ねぇ。自分は綺麗で私は汚いと。もしかしてそう糾弾したいのだろうか、この男は。
…まぁ、どうでもいっか。なにを私が主張したって私に勝ち目はないし、この状況が変わるわけでもない。はやく部屋に帰ろう。
「じゃ、部屋に帰るね。」
「待て!」
「バイバーイ。」
というか、そもそもなんでサクラカガミはここにいたのか。ここは一応学園の寮だから、学園をもう卒業したはずのサクラカガミがいる理由が謎すぎる。
「頼む!!待ってくれ!!」
「…なに?」
あー、なんで止まってしまった私の杖。馬鹿すぎる。足は必至で動こうとしているのに、その足に私の手も杖も応えてはくれない。勝手に応えちゃった私の口も馬鹿だ。やっぱり私はサクラカガミに甘い。激甘だ。これが幽霊だったら私は絶対に杖も止めないし、口も動かさない。…いや、幽霊相手だったら誰でもそうか。
「あの…その私は…
彼が言いよどむなんて珍しい。さらに視線もうろうろと私の周りを彷徨っている。
「サクラくぅん♪♪」
タタっと軽い足音が聞こえたと思ったら、いつの間にかサファイアがサクラカガミに張り付いていた。そりゃあもうピタッと。ああ、なんて幸せそうな顔なのだろう。可愛らしい顔を赤く染めて、いかにも恋する女の子って感じだ。
「…クレマチス…。」
「…じゃあ、私帰るから。」
「えっ、
サファイアの鮮やかな瞳に影が帯びて、私とサクラカガミを交互に見つめる。大方、恋人と会えて嬉しくてしばらくそばにいたい気持ちと私に付き添っていなければならないという責任感で板挟みになっているのだろう。・・・私のことなんか放置してくれていいのに。むしろそっちの方が惨めじゃない。
「…クレマチスはここに残ってサクラカガミと話してなよ。」
「…でも…
「私は全然大丈夫だから。」
私のことなんか全然気にしなくていい。本当に。心の底からそう思ってる。
「…ううん、僕もリナと一緒に帰るよ。…バイバイ♪サクラくん♪」
どうして彼女はいつもそういう決断をしてしまうのだろう。
「…ああ。気をつけて帰るのだぞ。」
「うん♪サクラくんも♪」
…まぁ、ともかくとして私はサクラカガミとサヨナラバイバイすることができたのであった。
精霊には性別は一応なし…です。




