転移と焦り
「は?」
「やった!勇者召喚成功しましたよ聖女様!」
「・・・うん」
ちょっと待って。さっきまで僕はお布団で寝転がりながらスマホのMMORPG『Knights Of Legend』をやっていたところなのだ。
ここどこ?
そして誰?
「あっ、ごめんなさい。突然のことで驚いていると思いますが貴方様は魔王とばっこしている魔物を滅ぼす勇者として異世界から召喚されました。このあとはお召し物と勇者様の専属メイドをこちらでご用意させていだだます。勇者様をメイドが勇者様のお部室に案内しますのでそちらでお着替えください。こちらでご用意したお召し物に着替えて頂いた後に国王陛下との拝謁をしていただきます。その後、勇者様の旅に一緒に行って貰うお仲間をこちらで-」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
あ、緊張して噛んだ。
だって目の前の女の子かわいいんだもの。しかもアイドルとか比にならないくらい。
「なんでしょうか?」
「いやあの、すいません・・・まずはあなたの名前を聞かせてください」
「これは失礼しました。私はミッドガルド大聖国第三王女のリリアーナ・アストレアと申します」
「僕は矢岳裕一郎っていいます!よろしくお願いします!」
目の前のプラチナブロンドの髪をした十三歳くらいの女の子、リリアーナに対し僕は噛みつつ自己紹介を済ませる。
リリアーナはこちらこそよろしくお願いしますわ、とドレスの端を摘み優雅な動作でおじぎをした。
というかミッドガルド大聖国に第三王女のリリアーナってもしかして…いや、そんなまさかね・・・。
「あの、それでそちらの子どもは・・・?」
僕は少女・・・幼女?っていうくらい幼い女の子(九才くらいだろうか?)を見て言った。
「こちらはミッドガルド大聖国の聖女様、エスペト様です・・・聖女様。」
「・・・エスペト。よろしく。」
金髪緑眼で聖職者の様な格好をした(身長のせいかコスプレにしか見えない)幼女・・・聖女エスペトは少し顔を顰めむくれつつも手短に挨拶をする。
子どもと言ったのが気に触ったのだろうか?少し失礼なことを言ってしまったかも知れない。
「・・・聖女様、だったのですか。不敬な態度をとって申し訳ありませんでした」
「・・・別にいい。慣れてるから」
そう言いつつも少し頬を染め目をこちらから逸らしている。
・・・聖女様扱いやすいなあ・・・それでいいのか聖女様。
それより聖女エスペトって、まさか・・・いやでもこんな幼女じゃ無かったし。特徴が似てる別人とかだろう。
「そろそろ説明の続きをしますね?」
おっと忘れてた。リリアーナは早く説明を済ませたいのか若干、命令口調で話しかけてくる。
「あっ、すみません」
「いえ、大丈夫です。こちらも余り時間の余裕が無くてですね。申し訳ありません。
ええと、それでですね、勇者様の旅の仲間ですがこちらで準備はしておきました。その他にも勇者様の過酷な旅路を少しでも楽にして頂ければと思い、こちらで準備出来るだけのものは一通り揃えてあります。勇者様がこの後陛下と拝謁した後、すぐにでも出立できるようにしてありますので勇者様のお心構えが出来ましたら私に声をお聞かせください」
「は、はい。わかりました」
勇者の仲間達は既に決めてあるようだ。勇者の仲間達は酒場に行って見つけて来なくてもいいようだ。
だからかな・・・すごいレールの上を走らされるような気がする。ありがたいけど少し味気ないなあ・・・。
「ではこれから勇者様は陛下と拝謁する予定ですので・・・メイ」
「こちらに」
「えっ?あれっ?」
おかしいな、さっきまでリリアーナの隣にエスペト以外誰もいなかったのに。
瞬きしたらサリーと呼ばれた給仕服を着ている銀髪の少女がリリアーナの右斜め後ろに立っていた。
どういうことだろうか?・・・瞬間移動とか?
「こちらは勇者様の専属メイドになるメイです。メイド歴は十二年とまだ若いですが仕事の品質についてはこちらが選び抜きましたメイドの中では最も優秀です。きっと頼りになるでしょう」
「リリアーナ王女様からご紹介に預かりました通り、ユウイチロウ様の専属メイドを務めさせていただきますメイです。ユウイチロウ様の給仕から夜のご奉仕まで何なりと申し付けくださいませ」
・・・・・・・・・・・・はっ!?えっ今、清楚系銀髪セミロング美少女メイドのメイさんからトンデモナイ発言があったけど聞き間違えかな。
いやでもほら聞き返すなんてすっごい恥ずかしいし確認取れないなら無かったこととかにできるよね、まだ。
あ、エスペトが顔真っ赤にして俯いてる。
言ったメイ本人は表情筋一つ動かしてないし、それが逆に怖い。
リリアーナ王女はにっこりと微笑んでいる。
「ちなみに私は純潔を保っているので優しくしていただけると幸いです」
今そういう発言要らないから!
エスペトとかしゃがみ込んで耳手でふさいでプルプルしてるから!
リリアーナ王女は相変わらずにっこり微笑んでいる。実は楽しんでないだろうなこの状況。
「い、いやそういう別にいいですそういうのはメイさん本人が本心で望んだ上でした方がいいと思うので僕は-」
「なら私は本心から望んでいるのでもらっては頂けませんでしょうか?それとも私じゃ不満ですか?」
不満なわけないだろ!と反射的に答えてしまいそうになり慌てて言葉を呑み込む。
僕は少し非難の意を込めた眼差しをにっこり微笑んで傍観しているリリアーナに向ける。
ちょっとこの状況どうにかしてくださいよ大体貴女がメイさん選んだからこんな状況になってるわけじゃないですかすいません本当に助けてくださいお願いします魔王倒したり魔物倒したりもなんでもしますから
「メイ、勇者様も困っていますしそこまでにしてあげて下さい」
「承知しました」
えぇ・・・あんなに問い詰めて来たのにあっさり引いたな・・・主人からの命令だったからだろうけど、もしかしたら僕の器量を試されていたのかもしれない。
危ない・・・王女様には油断できないな。
「それではこれから国王陛下への拝謁になりますので、メイ、勇者様を部屋にご案内しなさい」
「承知しました。ではユウイチロウ様こちらです」
僕は専属メイドのメイと共に僕の部室に向かった。
部屋でメイとイチャイチャした展開は無かった。
・・・別に期待してたわけじゃないけどね。本当。