第二十六歩 共にいく理由
今回の作業用BGM
テイルズオブファンタジアより
FOREST OF THE TREANT
「材料、基本的な物はあるんじゃな」
食材や調味料は調達できたので早速初めよう。てかりんご酢が普通に売ってたんだが・・・。
野営地には他のプレイヤーもいるので邪魔にならないように目立ちにくいが何かあったときに直ぐに伝えられるように広場の隅で料理を行うことにした。
服装をラフに整えてエプロン、三角巾を装備。髪も毛先の方で纏めておく。え?ゲームだから服装は別にいいだろって?すまんな、こうしないと気合はいらなんだ。
「シオンさんの料理・・・どんなのでしょうか・・・!」
「あーちょいとまてな。先にこっちからじゃ」
まずはリンゴの皮と芯、へたを取り除きすりおろす。そこに何故か売っていたリンゴ酢、オリーブオイルを加えて塩で味を調整。
はいリンゴドレッシング完成。
後は水洗いし、手で千切った葉野菜と適当な大きさに切った根菜を山に盛ってドレッシングをかける。
「・・・美味しそうですね」
「申し訳ないがこれはわっちらのではない。付け合わせで作っちゃるから待て。ほれ、お疲れじゃったな。また縁があったら頼むぞ?」
今回の功労賞の一人、いや一匹のウィンドランナーに切った果物と共にサラダを置く。ドレッシングを恐る恐る口に入れると猛然と食べ始めた。取り敢えず俺から正当な報酬だ。遠慮せずに食って欲しい。
今度はこっちのやつ。と、その前に。
「お主、洋食はパンか米。どっちじゃ」
「そうですね・・・パン、ですかね」
「わかったのじゃ」
じゃ炭水化物は後回し、先におかずを作ってしまおう。普段俺だけだとあんまり時間をかけて料理は出来ないのだが、ここはゲームだ。煮炊きなど時間がかかる行程は時間設定でカット可能なので二時間三時間余裕の料理も直ぐに出来るので正直練習にもってこいなのだ。
という訳で調理開始。まず取り出すのは最後の塊のロックリザードの肉、使いきってしまおう。こいつに塩、胡椒をまんべんなく馴染ませて脂身に軽い切り込みをいれて一時間放置・・・せずに時間短縮。次に玉ねぎを半割りして繊維に沿って切っていく。フライパンの底が見えなくなるくらいの量を切り終えたら、ニンジンを乱切りに、ブロッコリーを小さくほぐして、ニンニクを潰して先の固い部分を切り離しておく
フライパンに油をひかずに肉を塊のまま脂身から焼く、良い絵面だなぁ。全ての面を確りと濃いきつね色になるまで焼いたら一旦皿に移して、そのフライパンで潰したニンニクと玉ねぎを飴色になるまで炒める。飴色玉ねぎは大事な甘味、ソースに足すだけで旨味が増す。これ、最強。飴色みじん切り玉ねぎ、これだね。
飴色になったらそこに白ワインを玉ねぎが浸る少し前まで入れ、焦げ付き防止及び煮るための水分として水を適量。先程の肉塊、ブロッコリー、ニンジンを並べる。蓋をして玉ねぎが焦げ付かないように様子を見るために一時間、一時間、三十分に分けて時間飛ばし、適量の水も合間に足していった。
では盛り付け。あらかじめお湯で暖めておいた皿に、肉と野菜の旨味が溶け込んだソースとトロトロの玉ねぎを敷き、肉は豪快に塊のままで。脇にニンジンとブロッコリーを添えて・・・あとはさっきのサラダと切ったバゲットを盛って完成!
ロックリザードのブレゼ:品質7
ロックリザードの肉と野菜を少ない水分で煮た料理。
効果:防御力+5% 状態異常耐性+5%
リンゴドレッシングのサラダ 品質6
リンゴを用いたドレッシングを使ったサラダ。
「ほーれ出来たぞ・・・」
後ろを向くとフォークとナイフを持ったまま、俗に言う椎茸の目をした朧ちゃん・・・いや、言っちゃ悪いが獣と化してる。よだれ拭きなさい。
「・・・」
「シオンさん、どうしましたか?」
「・・・よだれ拭きなさい」
「・・・っ!?た、垂らしていませんよ!?」
ダウト、顔が正直過ぎる。諦めろ・・・ふむ。
「あーすまぬーきのせいじゃったわー。それよりウィンドランナーが完食したようなので、先に返して来ようと思うんじゃが」
「は、はい」
「それで、ちょいとここの場所キープしといてくれんか」
「あ、はい。わかりました」
「あ、料理置いてくからの」
「・・・うぇ?」
そう言い残し、ここのウィンドランナー貸出店へと向かう。端の方とはいえ、プレイヤーも多いし厄介ごとにはならないだろう。きっと、多分、メイビー。
そんなこんなでウィンドランナーを返しに来た。少し名残惜しいな。というかお前、他のウィンドランナーと比べて色味濃くね?てか、最初からこの色だったっけ?まぁ、いいや。あれでしょ、個性じゃろ。という訳で受付の男と話す
「邪魔するぞ」
「いらっしゃいませ。ウィンドランナーを連れているということは返却ですね?」
「うむ」
「・・・おや、その子の色が・・・どうやら貴女になついてますね」
「・・・ほ?」
え?なつくの?てっきりそれライダーの特権だと思っていたけど。
「どうです?ここではウィンドランナーの個人契約もやっております。お高いですが」
「個人契約?」
そう考えているといきなり目の前にテロップが出る。あ、チュートリアルですか?
NPCの契約について
このゲームのキャラクターには親密度が設定されており、一定値に達すると特定の条件で契約が結べます。
契約したキャラクターはそのキャラクターのいるエリアで「メニュー」→「パーティー」→「契約」からパーティーにいれるとこが出来ます。
しかし、そのキャラクターは一人しか存在しないので既に契約を行っているキャラクターは親密度が撤廃され、契約できなくなります。
また、上記の内容とは異なる仕様のキャラクターも存在するので、契約する前にステータスで確認できます。
・・・前のアップデートで言っていたのってこれか。ウィンドランナー、て言うか一応モンスターでも契約出来るのね・・・。あと多分こいつの特定の条件って、購入、なんだろうな・・・恐らくそれになついているかって言うのもあるんだろうけど。だって選択肢に借りる、返すの他に明らかにさっき無かった購入って増えてるし。
「因みにおいくら?」
そう言うと店員は耳打ちをして教えてきた。その額は、うん、今はちょっと無理。
「いかがですか?」
「・・・無理」
「そうですか・・・」
うん、すまない。本当に悪いと思ってるからウィンドランナー、こっち見ないでくれ。そのつぶらな目で見ないでくれ。でもお前さんが確実に色変わったの確認できたの飯の後じゃん。飯目当てじゃん・・・確かにこれから先、絶対使うしなぁ。はぁ、しょうがねぇなぁ・・・。
「・・・キープ、しときます?」
「はい・・・」
「わかりました、シオン様の名前でキープしておきます。で、この子に識別のために名前を決めて頂きたいのですが・・・」
名前か因みにメスらしい。うーーむ、どうしたもんか。ウィンドランナー・・・漢字で風走者・・・風は使いたい。メス、女の子か・・・そう言えば実家の近くの同級生の名前が琴音、だったな
・・・申し訳ないが少し借りよう。あいつは元気だろうか・・・。
「・・・風音」
「はい?」
「風音じゃ!お主もそれでよいか?」
わりと安直ではあるがこれ以上良い名前が正直思い付かないので、これがダメだったらもうドストレートな物にするしかないと覚悟していた。
すると俺の前でしゃがんで同じ目線にしてきた。そのあと額を俺の額に当ててきた・・・そうか。
「もう少し待たせることになるがよろしく頼むぞ、風音」
風音は頷くように高い笛のような声をあげた。
「では、お待ちしております」
頑張って金貯めないとなぁ・・・。
「・・・」
朧ちゃんのところに戻ったら死体もどきがひとつ。料理はそのままだった。犬か。待てもしていないのに。食ってて良いとも言ってないが。
「あはは・・・VRって・・・すごい・・・」
何か言ってる・・・流石に酷なので起こすか。おもむろにフライパンとお玉を・・・出そうとしたが引っ込めて普通に起こす。普通口調でいいか。
「ほら、起きなさい。ご飯ですよ」
「んぅ・・・」
むぐ、まだ意識が朦朧としてるのかな?ほーれ、おーきろー。
「・・・お母さん?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハッ!?
いかんいかん危ない危ない危ない!やッべぇ!べぇッ!!いやいやいやいやいやいや!今ヤバい感情が出てきた!え?俺男だよな?だよな?あれ、でも今女だ。つまりわっちは女なんじゃろうか。まてまてまてまて、現実だと男ですよ!?つまり俺は男でわっちは女でつまり父さんと母さんに・・・なれねぇし!どっちかしかなれねぇし!・・・ちがうわ!?一択しかねぇわ!
「あ・・・戻ってきたんですね。どうしたんですか?」
ハッ!?いかんいかん。完全に脳がオーバーヒートしていた。冷静になろうそうしよう。
「う、う、うむ。無事に返してきたぞ!というか食ってても良かったんじゃぞ?」
「流石に悪いですよ。それでもお腹が空きましたけど・・・」
「じゃあ、食べるとするかの」
早速、肉にフォークを・・・おお、上手くホロホロに仕上がってる。うむ、醤油は使っていないが味はついているな。うむ旨い。最低限の味付けだけでここまで旨味があるのは凄い。現実でも作ってみたいが、時間がね・・・。サラダも良い案配。リンゴドレッシングは普段作らないから久々の味だ。
「美味しい・・・!」
「やはりその言葉を聞けると嬉しいのぅ」
うむ、ご馳走さま。今さらだが、ブレゼの方にやはり効果がついていた。普通材料のサラダは何もついていない。つまりモンスターからゲット出来る食材を使うと食事にも効果が付くのかもしれない。こうなってくると他のも気になってくるな。
腹ごしらえも終え、いよいよメラルド大森林に突入した。現在入り口なのだが、道が3つ別れている。整備された大きめの道がひとつ。明らかに獣道な道がふたつだ。看板には整備された道がウォクエリス周辺のフィールド「積命の砂浜」に最短で行けるルートらしい。ご丁寧に所要時間まで書いてある。この道だと10分で抜けれるらしい。
「ではゆくぞぅ!」
「はい!」
今回は速く行きたいので整備された道を進んだ。メラルド大森林はまた今度探索しよう。
さてメラルド大森林はかなりの広さをしているが、実はそんなに暗くはない。理由としてはメラルド樹の葉は薄く透過率が高い。更に太陽光を吸収して軽く発光しているので夜中もそこまで暗くない。むしろ夜中来ると幻想的な風景が広がるらしい。今はあいにくの昼過ぎの時間帯なので普通に明るい森、といった感じだ。そして勿論ダンジョン扱いなわけで。
「プルファング!!」
『ギシャァアアアアアア!!』
「ファイアボム!」
「ギヂィッ!?」
整備されていてもモンスターは出てくるわけで。今複数の真っ白な花カマキリと戦闘中だ。
リリーシックルLv17
マンティス種でも小型のモンスター。白い甲殻は軽く強度もそれなりで扱いやすい人気の素材。
「終いじゃ!」
プルファングで怯んでいる隙に横に回り薙刀で腹を一突きし、倒すことができた。
「スラッシュ!」
向こうも片付いたようだ。さて素材はっと。
百合蟷螂の甲殻
白く汎用性が高い素材。加工もしやすい。
百合蟷螂の鎌腕
小さめの鎌。切るよりも鋭いトゲで押さえ込む用途に使われている。
百合蟷螂の羽
薄い羽。飛ぶのには少し向かないが、装飾や下地としてはそれなりに優秀である。
次に出てきたのは中型の熊。周りに合わせて淡い緑色をしており、休憩中だったので接近を許していた。鉤爪が振り上げられるが朧ちゃんがあらかじめ「バインドファング」・・・まぁトラバサミみたいなものを予め設置してあったため降り下ろした先に「バインドファング」に引っ掛かった。そのあとは即座に鎮圧した。
メラルドベアLv17
メラルド大森林の固有種。戦闘能力は他のベア種と比べ、劣る。なので体色を生かした待ち伏せ、不意討ちで狩りを行う。
緑玉熊の毛皮
淡い緑色の毛皮。強度があるためマントやカーペットに用いられる。
マントか・・・考えていなかったな。使うかはわからないが作ってはおきたいかもな。元々は背後からの攻撃を防ぐ物だったりするが、威厳を示すものでもあるのでただの鎧と合わせるだけでも結構雰囲気は出る。まぁ後々、というかリリーシックルの素材で鎧がいけそうなのでそれに合わせてみよう。
そしてもうそろそろ森を抜けようとしたところで、地面に乾いた白い砂がちらほらと目にはいるようになった。風で積命の砂浜の砂が飛んできたのだろう・・・ってこれ。
「星砂じゃのう、これ」
よく見ると五つの突起が出ており、ただの砂ではないことがわかった。
「星砂?」
「うむ、とある生き物の殻や骨格じゃな。形からそう呼ばれており、物によっては太陽の砂とも言われておる。有名なのは沖縄のビーチじゃな。土産とかで瓶詰めが合ったりするぞ」
「・・・これ一つ一つが、生きていたんですね。それも砂浜を作り上げるほどに多くの生き物が」
「じゃな」
「そう考えると、私達は命の上に立っているんだなぁって」
「モンスターだってそうじゃからな。ゲームの中とはいえ軽んじてはいけないじゃろう。かといってみすみす殺られるわけにはいかんし、素材だって重宝される。せめて感謝、しなければな」
「・・・そうですね」
「まぁ・・・重く考えると何も出来なくなるからの。食事の際にちゃんと「頂きます」と言うような感覚でええんじゃ」
「はい・・・わかりました」
「まあ、少々重い話は置いておくとして「積命」ってそういう意味かの」
沢山の星砂が、命の脱け殻が永い刻をかけて積もったから。かもしれないな。実際はどうだか知らないけどな。
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私は、シオンさんの言葉を聞いた。私は過去にお父さんとお母さんを亡くしてしまっている。他の人たちも。だから私は思うのだ。沢山の「死」を見たはずなのに、それを覚えていない私は。
生きていて良いのだろうかと。
あのときの事を調べてみてもかなりの人が死んでしまったのがわかる。わかってしまう。でもその死に目も覚えていない。その事件の惨劇の生き残りの私は。彼らの死の上に立っているようなものだ。
今だってそうだ。ゲームをやっていて忘れていたが私は本来こんな風に歩けない。走ることも、ジャンプすることも。最初だって思ったことを今想っている。
まるで、「夢」を見ているようだと。
だから、覚めるのが怖い。
覚めてしまったら、主治医さんがいるとはいえまた四角で、白くて、冷たい部屋だ。鮮やかな、この世界ではない。
今まで私にとっての世界は白い色づいていない病室だけだった。
そして今は仮想の色彩に富んだ狭く、広い世界もできた。
でも、始めたばっかりの時は改めてこの世界の広さに恐怖を覚えた。私という存在はこの世界では、いていいものなのか。
「どうしたんじゃ?」
「いえ、何でもありません!」
「うむ、わかった。そろそろ森を抜けるぞ」
「いったいどんな景色が広がっているんでしょうか?」
「百聞は一見にしかず、じゃ。いくぞ」
「はい!」
あのときに私は思った。
シオンさんのようになりたい。
実は何故そう思ったのか、わからないのだ。
本当に反射的にそう思った。
私はそれを知りたい。
かっこよかった、助けてもらったから。
ううん、違う。
私には無いもの。
ぽっかりと無くなっている私には無い何か。
それを私は突き止めたい。
この夢から覚める前に。
この幻想が終わる前に。
シオンさんがいなくなってしまう前に。
いろいろ話して、やって、調べて。
私が求めているものは何かを見つけ出してやる。
それが、私が、生きていてもいいという証になるのなら。
やがて私達は森を抜けて、真っ白で広大な海岸へと出ました。




