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逆転楽土の眷縁主義者  作者: 椋之 樹
Act2 センチメンタル《人ではない人》
9/22

開発者「ダグラス」




「……ちくしょう……あの開発者もこんな無法地帯に家を構えないで、もう少し住み易い場所に暮らせってんだよ……」

 決死の大脱走が終わり、すでに意気消沈気味の琉星はリュアと共に、廃れた家並みの陰に立っていた。

「うぅぅ……苦労掛けてしまってスミマセン……」

「それはそうとさ。さっきの力を出せれば決闘に苦戦することなかったのじゃないか?多分だけど、ここ二ヶ月の間で一番凄かったよな?」

「そ、そうですか……?でも、さっきは無我夢中でしたから……流石に決闘中となると同じ様な戦い方は出来ないかと」

「ま、確かに酷な話か……」

 本人でも自覚が出来ない能力の不調となると、尚更厄介だ。

 体調や病気と同じ様に、身体の異変を一番感じられるのは、本人しかいない。

 血束器の不調となると、また変わった例になるのかも知れないが……そう言えばよく考えると、リュアの持つ血束器って見たことがなかった。

 琉星の腕輪と同じ様に、衣類に隠れているのだろうか。

「それでご主人様、その血束器開発者は何処に住んでいるのですか?幾らこんな無法地帯と言えども、それはとても豪華な建物に住んでいるのでは?」

「あぁ、ここ」

「……え?」

 リュアが少し興奮気味に言っていたが、次に琉星を指差した場所を見て固まった。

 彼が指差す先にあったのは、廃れた建物の地下へ続く、今にも崩壊しそうな石造りの階段だったのだ。

 とっぽどのことがなければとても降りようとは思えない階段を、琉星は躊躇なく降りていく。

「ほら、行くぞ。足元気を付けろよ?この前誰かが足踏み外して大怪我したらしいからな」

「流石はご主人様のお知り合い……考え得る予想を簡単に越えることが多い様な……」

「ん?何か言ったか?」

「い、いえ!何でもありません!今行きます!」

 リュアは一度大きく深呼吸してから、石階段を降りる琉星の後に続けて歩いて行った。

 降りた先にあったのは、木製の扉。

 簡単に壊れそうなボロボロな見た目であり、ドアノブを持って引くと、軋む不快な音が響き渡る。

 辿り着いたのは薄暗い空間だ。

 金属製の資材や、様々な加工道具が錯乱し、一昔前の鍛冶屋を思い出させる。既に廃棄された部屋と見間違いそうな場所で、初めに声を挙げたのは……。

「────誰だ?」

 部屋の奥から聞こえてきた、女の人の声だった。

 初めからあまり関心なさげに発せられた声だったが、琉星は中に足を運びながら返事を返す。

「自己紹介しても直ぐに忘れるんだろ?数ヶ月前に来た、鳴継琉星ってもんだ。覚えているか?」

 すると、また直ぐに声が返ってきた。

「何処かで聞いた名前だが、知らんな。私が興味あるのは血束器とルダだけだ。冷やかしならば今直ぐに出て行ってくれ」

 この声の主は言葉通り、血束器とルダの研究と開発に興味がない変人だ。それ以外のことは一日経てば、綺麗さっぱり忘れるらしい。

 ちなみに楽土の奴隷達に提供する血束器は殆ど彼女が開発し、総督会経由で奴隷に送られている。開発資金は楽土が提供しており、楽土における身分は奴隷以上と考えていいだろう。

 そう言えば、以前にレジダプアの紹介で共に彼女を訪ねたことがあったが、その時も今回と同じ様な会話をしたことを覚えている。

 ただ、話が血束器とルダのこととなれば、変化はあるはずだ。

「多分不調を起こしている血束器を見てもらう為に来たんだ。少しは興味を持ってくれねぇか?」

 すると、部屋の奥でガタンと音が響き、暗闇の中から一人の女性が姿を現した。

「……何?今、何と言った?不調を起こしている血束器、だと?まさか、“不調”、と言ったのか?」

 名前は“ダグラス”。

 所々油で汚れた、灰色の工場従業員の様な作業服をだらしなく身に付け、ボサボサで長い灰色の髪を腰辺りまで下ろした、比較的長身な女性だ。

 彼女は目を見開いたまま二人に迫ってくる。

「何だか……亡霊みたいです……」

 その姿に、リュアは何処か恐怖心を感じている様子である。

「……誰のやつだ?」

「あぁ、こっちのリュアの奴なんだけど……」

 すると、突然ダグラスがリュアに急接近してから肩を掴んで、鼻先でおぞましい表情を向ける。

「詳しく、話を聞かせてくれるか?」

「ひぃぃぃぃぃっ!?」

 薄っすらと涙を浮かべて怯えるリュアだが、ダグラスは一切遠慮するつもりはなさそうだ。それより、相手の感情など全く気にならないという様子だった。

「聞・か・せ・て・くれる……よね?」

「ご、ご主人様ッ!!助けてください!!何故か分かりませんが喰われそうです!!初対面の人に鬼の形相で睨まれつついきなり喰われそうですッ!!私こんな訳分からない状況で死にたくありませんんんんッ!!」

 すると、琉星は顎に手を当ててつつ、致命的に空気が読めない発言を一つ。

「お前ら、少し顔近くね?」

「そこですかぁッ!?」

「怯えなくていいよ、ちょっと確認するだけだからねぇ。まぁ、私が興味あるのは血束器だけだから、装着者の身がどうなろうと知ったことじゃないけど」

 そんなことをしていると、リュアは首根っこを掴まれて部屋の奥へと引き摺られ始める。

「ちょっとぉッ!?今この人さり気なくとんでもないこと口走りましたよ!?ご主人様!!そんな所で金槌弄ってないで助けて下さいよ!!お願いしますから見捨てないで下さいぃぃッ!!」

 ジタバタと足掻くリュアだったが、まるで見えない力に引かれるようにドンドン奥へと入って行ってしまう。

 その姿を見て、琉星は冷静にリュアヘ向かって声を掛けた。

「リュア心配すんな。そんなこと言いつつ、やる事はちゃんとやる人間だからな。健康診断でも受けるつもりで気楽に行ってこい」

「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 そして、リュアとダグラスは黒いカーテンの向こう側へと消えていった。



 この場に来ると、日常的に見られる光景だったが、琉星の心配はそれとは別のところにあった。

「ダグラスでも聞いただけで分からない症状……ってことだよな?」

 彼女の開発者としての経歴は詳しくは分からないが、楽土において血束器について分かる者はダグラスの右に出る者は居ない。人間の中にあるルダの存在を確認したのも、それを力として発現させる技術を生み出したのも彼女という話だ。

 そんなダグラスが、首を傾けた現象がリュアの身体、もしくは血束器に起こっている。

 何やら胸騒ぎを感じずにはいられなかった。

「ほら、もう少し力を抜け。私に全てを委ねろ」

「や、やめて、下さい……!そんなところ……見ないでっ……」

「恥ずかしがっていてはよく分からないだろう。さぁ、お前の素直な意見を聞かせろ」

「あっ……!ダメで、す……!やっ……やぁ……!」

 やっぱりヤバいかも知れない。

 診察の筈なのに、布一枚隔てた向こう側から聞こえてくるのは、不思議と卑猥なやり取りだけだ。

 いや、そう考えるからいけない。

 あくまで彼女らがやっているのは診察だ。

 平常心を持つのだ、平常心を、平常心……平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心……。

「おい!」

「へッ!?別に変なこと考えてねぇよ!?」

「……何言ってるんだお前は?」

 突然出てきたダグラスを見て恥ずかしげに咳払いしてから、何でもないと返す琉星。

 幾ら主人といっても、琉星も一人の男子。少しばかり妄想をしてしまうこともある。

 そう、あると思う。

「いや、そんなことはどうでもいい!」

「は?」

「説明しろ!!何故お前が、あの『戦争物質ウォーマター』を連れているんだ!?」

「……ウォー、マター?」

 聞き覚えのない単語に、首を傾ける琉星。

 ダグラスの背後には、不安げな表情を浮かべるリュアがベッドに座っていた。

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