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逆転楽土の眷縁主義者  作者: 椋之 樹
Act2 センチメンタル《人ではない人》
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再来─権力を振りかざす者



 楽土の北亀エリアと東龍エリアの間の壁には鬼門。南雀エリアと西虎エリアの間には裏鬼門と呼ばれる、出入り口が設置されている。奴隷登録をする者達は住居エリアが近い裏鬼門から入らせ、商人希望や主人登録する者達、または各国の要人は商店エリアが近い鬼門から入らせる決まりになっていた。

 登録関係を担当するのは主に、北亀エリアと南雀エリアの総督会だ。

 今日も、北亀エリア総督会である真武は、とある要人をエリア管轄塔に招いていた。

「二カ月ぶりだな、総督会幹部の」

「まさかもう一度来るとは思いもしませんでしたよ、偉華坂様」

 長机を間にして、互いにソファに座して向かい合っているが、両者は強張った顔で相手を睨み合っていた。

 スーツ姿の下のブクブクと豊富な体付きは相変わらずだが、その首はコルセットらしき物で固定されている。恐らくは二カ月前に、あの琉星にやられた反動が未だに残っているのだろう。

「ふん、相変わらずの表面上だけの愛想が良さだな、薄気味悪い女だ。貴様のような者が幹部ならば、他の連中もどうせ、ろくでもなし共ばかりなのだろう。流石は世のはぐれ者を束ねるだけのことはある。性根腐った連中だことよ」

「……燕」

「何かな?真武?」

 真武の座るソファの後ろには、後ろで腕を組んで直立する燕の姿があった。

 その顔は何やら楽しそうに笑っている。

「この男の首、あと百八十度ぐらい回らないだろうか?」

「本人の目の前で遠慮がないのは凄まじいことだが、少し抑えた方が良いと儂は考えるのぉ」

 燕の発言にも遠慮の欠片も感じないが、真武に至ってはこめかみをピクピクと動かしながら、明らかに不快さを滲み出していた。

「何か言ったか?」

「いえ何も?」

「敢えて忠告しておいてやるが、ワシはかの日本国の防衛大臣だ。貴様も人の上に立つ者ならば、礼儀を弁える意味ぐらいしておろう?」

 権利云々を口にする偉華坂を相手に、真武は敢えて強気な姿勢を見せる。

 これ以上調子に乗った姿を見ていると、こちらが発狂してしまいそうだったからだ。

「……笑わせるなこの山猿。楽土では他国の権利が主張出来ないことを忘れたか?貴様が他国でどれだけ偉かろうが、楽土に来た以上私の前ではただの客人でしかない。それに今回は国の命もなく、お忍びの来訪らしいな?一国の大臣が楽土に一体何の用だ?」

 各国と楽土は、現在複雑な関係上、互いに干渉することは避けている。

 その為、元々偉華坂の様な役人本人が楽土に来ること自体が珍しいことだった。

「何の用……それはそちらが一番分かっているだろう?二ヶ月前はそちらの奴隷に随分と世話になった。だからそのツケを払って貰いにきたわけだ」

「二ヶ月前……」

 一瞬、偉華坂の目つきが更に鋭くなる。

 彼の変化を見た真武も同じく、眉がピクリと動いた。

 偉華坂の言っているのは、楽土において汚れた記憶となったあの、紫姫リュアと鳴継琉星の混血決闘のことだ。どうやら、あの時紫姫の主人だった彼は、アジア帝国一派日本国の議員様であるらしい。

 今までのだらしない顔つきとは取って代わり、スイッチが切り替わった別人であるかのように、偉華坂は卓越した口調で話し始める。

「別に事を荒立てせるつもりはない。ただ、あの“戦争物質”はヨーロッパからの借り物だ。そもそもが戦争用に作られた兵器だからな、そこらの戦隷士相手ならば負ける要素はなかった。ほんの戦闘データの搾取ついでに、小遣い稼ぎをしていたが……結果、たかが戦隷士負けた上に、強奪されたとなったら笑い物にすらならない。最早これは国家問題に値する事態だ」

 戦争物質とは第二次大戦後にヨーロッパが製造した、人型の戦闘兵器のことだ。

 人間の内にあるルダを極限にまで高める、血束器に似た技術を用いて、人ならざる化け物を生み出す。同時に副作用が発生する恐れもあるが、その潜在能力は計り知れず、核兵器を上回る新たな切り札として世界に姿を現したのである。

 どういう経緯があったのかは知らないが、ヨーロッパ産の第一人者であるリュアを、現在はアジア帝国の日本が所有しているらしい。

「……なるほど、つまりヌシはあの紫姫を改めて強奪する為に、楽土に来たということ?」

 すると、偉華坂は手を振りつつそれを否定。

「強奪するつもりならば、楽土と戦争を起こす覚悟で来てなくてはおかしいだろう。そもそも、本来のワシはそういった強引なやり方は好かんのだよ。ワシらは政治家。常に国民の為に働き掛け、お国をより良くする為に動き続けなければならん」

「それなら何故……」

 真武が口を開いた瞬間、再び偉華坂の気迫に変化が起こる。

 口角を大きく上げ、彼の言う鬼畜染みた笑みが浮かび上がったのだ。

 それは、二カ月前に見せた偉華坂の本性そのものだった。

「でも結局のところは金、権力、力がある者が主導権を握り、全てを掌握する。世の中には金では買えない物がある?権力では動かせない心がある?良い言葉だ、だけどそれだけのことだろう?強者が弱者が導いてやらないと世界は回らない。楽土の信条が主従主義(マスター・アンド・サーヴァント)なら、ワシらは封建主義(フューダリスティック)。国を統治する身として、もっと現実的な主義を心がけた方が良いぞ?」

 封建主義。

 家来が主人に貢献する代わりに、主人は家来に褒美を与える。御恩と奉公の関係性のことだ。

 少数派として民主主義を採用している国も存在するが、殆どの国の信条はこれに値している。現実的とは言うが、そのせいで他国の侵略を狙う役人の意思ばかりが尊重され、戦争存続を引き起こす問題点の一つとされているのだ。

 つまり、こいつは変わらない。

 政治家と名乗っていても、理に適ったことを口にしていても……その本性はどこまでも人を見下し、自分の為に全てを利用する。

 それが、偉華坂國彦の人間性なのだ。

「人の領土の信条にケチを付けに来たのか?」

「前置きが長すぎたか。だが心配はするな、本題はすこぶる簡単なことだ。現在、我が国に所有権が置かれている戦争物質被験体一号、管理名リュアの返還を求める。言っておくが、これは日本国天皇陛下直々の命令だ」

「……国の最大権力を持ってしての要求か……!」

「聞かざるを得ないだろ?お前らが戦争に巻き込まれたくないなら、なぁ?」

 楽土内では、他国の法律は通じないという前提がある。

 だが、国家とのいざこざが発生してしまうとなると話は別だ。今は他国の戦争等と、面倒ごとに巻き込まれている暇はない。

「……チッ、面倒な案件を引きずって来やがった……」

 かなり横暴な話だが、彼の言う通り、この要求は聞かざるを得なかった。

 一人の人間の命と、自分達と楽土の全ての命。

 どちらを取るかは明白な話なのだから。

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