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04 吸血鬼の名前

今回少し長いです

ムカデがヤツメウナギもどきをバリバリと咀嚼する。ひび割れた地面に着地した吸血鬼はムカデを見てその巨大さに改めて感嘆する。

今地上に出ている分だけで目測二十メートルはありそうな巨体だ。精々全長六メートルのヤツメウナギもどきではどうしようもないだろう。


「ゲ……ゲタグルス……?」


ディアーチェが震える声で、その名を告げる。


「知っているのか?」


「ゲタグルス……毎年どこかの村はあいつに襲われて壊滅するの」


「お兄さん! 逃げなきゃ!」


震えるディアーチェと取り乱すフェニーチェ。だが一人だけ違う反応をした者がいた。


「あ……あぁ……お前が……私の村を……家族を……皆を…………ぁぁああああアアアアアァァァ!!!!!!」


クローディアだ。絹のような艶やかな金髪を振り乱し、眼――海のように深い蒼色だった瞳は吸血姫化の影響で鮮やかなワインレッドなっている――を見開きながら絶叫した。


彼女の村は蛇――ヨルガリウス――に襲われた。これは間違いない。

だがヨルガリウスは知能の高い魔物だ。いくら食料が在るからといって、単独で村を襲ったら死ぬか深手を負う。そんな無謀なことはしない。通常ならば(・・・・・)


だが自分よりも明らかに上位の捕食者……死に物狂いで逃げて、運良く深手で済む。そんな相手に追われていたとしたら?


そう、ヨルガリウスはゲタグルスに追われてクローディアの村に入ったのだ。他の逃げる魔物と共に。


そして彼女は見た、見てしまった。ヨルガリウスによって大混乱に陥った森の中に自然と同居するように作られた村の木々の隙間から黒光りする縄のように這いずりながら悠々と人々を喰らっていくムカデ――ゲタグルスの口が、ヨルガリウスを誘導しようと魔法を放っていた祖父母を背後から襲い、一噛みで祖父母の上半身が無くなった瞬間を。


恐らく精神的負担が大きすぎると無意識下で判断した脳が記憶を封じ込めたと思われるが、それが再びゲタグルスを見てしまったことで記憶が甦ったのだ。


そしてクローディアが考え無しにゲタグルスに向かって突撃しようと足を曲げ、身体全体をしならせ前進しようとした瞬間、彼女の視界が暗転した。


――――――――――――――――


クローディアが絶叫し、ゲタグルスに向かって無謀な特攻を仕掛けようとした瞬間、吸血鬼は彼女の黒く、武骨な首輪がついた白く細い首を――より正確には耳の直ぐ下を下から掬い上げるように鷲掴みにした。


親指と中指が頸動脈を完全に絞め、脳への血流が完璧に遮られたクローディアは一瞬で絞め落とされる。

アッサリとやってのけているが凄まじい絶技である。


そしてクローディアの絶叫に反応して吸血鬼の方を見たゲタグルスに対して吸血鬼は何もせず、ただ静かに佇むだけだ。


対するゲタグルスは吸血鬼に襲いかかろうとするも、直前で動きを止める。いや、止められた。吸血鬼の発する赤黒い霧のような魔力(・・)に、本能が全力で待ったをかけたのだ。


血の霧のような魔力を纏わせた吸血鬼は、目の前にいる絶対捕食者と呼ばれる存在に対して問う。


「お前は獣か? それとも獣以下の蟲か? それとも別の何かか?」


この問いに含まれた真意を知るのは吸血鬼ただ一人のみ。


少なくともゲタグルスに分かることは、自分を煉獄の炎ような色をした紅い瞳で見るこの人の形をした化物に、攻撃の意思が無いことを示さなければその瞬間に自身の命が終わるということだけであった。


故にゲタグルスはその身を引き、再び地中深くへとその巨体をうねらせながら潜り、吸血鬼の前から姿を消したのであった。


そしてゲタグルスをその身の魔力と威圧のみで退かせた吸血鬼はというと――――(わら)っていた。

まるで退屈していた幼子が玩具を与えられたかのような、それでいて愉悦を含んだかのような、そんな表情(かお)を浮かべていた。


(だがあいつを狩るのは俺ではない。残念だが、今は彼女を焚き付けるための餌として必要な存在だ。)


彼の言う『彼女』が誰を指すのか、それは明白だ。

しかし彼女はまだ弱い。

吸血鬼としては幼児も同然だ。


(だが、それでこそ育て甲斐がある。喜べ、クローディア。自らと対等な、闘争に足る存在がいることを。)


と、そこで彼に飛び付く影。


「お兄さーん!」


フェニーチェである。

吸血鬼の首元に背後から両腕を回し、そのまま抱き着く。


「格好良かった~! ゲタグルスが逃げるなんてスゴすぎるよ!」


フェニーチェの興奮度合いを表すように彼女の尻尾もピンッと立っていた。


「あれはそんなに高い脅威なのか?」


「そうだよ。冒険者協会の脅威レートで四級に指定される位だもん。ここら辺にはあの一体しか居ないって言われてるけど、出会ったら諦めろって教えられるの。」


そこで吸血鬼は朝からのゴタゴタでこの世界の情報やステータスについて聴くことができていなかった事を思い出す。


とはいえそれは移動しながらでもできる事だ。

故に吸血鬼は何故か先ほどから背中にくっついて離れないフェニーチェと、ゲタグルスを見て腰が抜けたのか座り込みながらも頬を上気させ、潤んだオッドアイの瞳を向けているディアーチェの元まで行く。


まだ気を失っているクローディアを地面に下ろすとディアーチェが姉と同様に抱き着いてくるのも構わずに、吸血鬼はディアーチェの頬を軽く数回叩く。


「うぅ……あれ? 兄……さん? ……あいつは!?」


意識を取り戻した途端、ガバッと起き上がるクローディア。


「あいつは退いた。まだ死にたくはなかったようだな。」


「格好良かったよ~、お兄さん。鳥肌たったもん。」


「お兄ちゃんの魔力、凄かった」


三人の言葉を聞いたクローディアは、俯きながら


「何で……どうして、止めたんですか?」


と、吸血鬼に問う。

敬語に変わっているのは吸血鬼だけが見える世界で感じ取った、自身とは比べるのも烏滸(おこ)がましい程の力を有した吸血鬼に対する畏敬の表れだろうか。


対する吸血鬼の返答は――――


「お前が弱いからだ。」


下手な誤魔化しを一切しない短く、そして明確な事実を突き付けるものだった。


だが以前とは違い今のクローディアは吸血鬼だ。脳のリミッターが外れた事で力の上限が上がり、あの色褪せた世界を見ることもできるようになった。

今なら勝てる筈だとクローディアは思っている。それが間違いだらけの考えだとも知らず。


そしてそう思考しているのが手に取るように分かっている吸血鬼はクローディアの考えを一蹴する。


「自分が強くなったと思ったか? 吸血鬼になって力が増し、吸血鬼にしか知覚できない世界を見ることもできたから、あのムカデに勝つ事ができると? ――思い上がるなよクローディア。本気でそう思っているのなら、試しにその腕を全力で降り下ろしてみろ。」


吸血鬼の言葉の意味することがわからなかったクローディアではあるが、負けず嫌いな気がある彼女は三人から十メートルほど離れた所で右腕を降り下ろす。


「見ててくださいよ。――――フゥー……ハァ!!」


短い精神統一の後に放たれる、彼女の全力の降り下ろし。

空気が裂け、それなりの風圧を纏った手刀が地面に向かって振り下ろされた。


クローディアを中心に巻き上がる砂煙。

吸血鬼がその腕を横に一閃させると砂煙が吹き飛ばされる。そして見えたのは――――――――振り下ろした右腕の肘から先を無くしたクローディアであった。


彼女自身も砂煙で自分の腕の状態がわからなかったのだろう。肘から先の無くなった腕を見ると、その激痛から悲鳴を上げた。


「え……? いっ!? ああああ!? 腕が! 腕がああぁぁぁ!!!?」


吸血鬼だからといって痛みが無いわけではない。ある程度は緩和されるがそれでも痛みは痛みだ。戦士でもない少女が腕を無くした事などあるはずもなく、産まれてから最も大きいであろう肉体的な痛みにのたうち回る。


「理解できたか? 馬鹿者め。まだお前の身体は弱い。自分の力にも耐えられん程にな。それと再生能力もだ。今のお前の再生能力は元々身体に備わっていた自然治癒力を幾らか強化するに留まっている。そんな再生力では俺達の(・・・)戦闘では役に立たん。

それとお前が見たあの世界もだ。俺達が血界(けっかい)と呼ぶあれを、お前は自分の意思で見ることができるか?」


クローディアは痛みに呻きながら自分を見下ろす吸血鬼の言葉を反芻する。その一分の隙もない正論を。


(なんて思い上がってたんだろう。大きな力を手に入れても、扱い切れなかったら意味がないって父さんに教えられたから分かってた筈なのに。

私にはどうやってもゲタグルスには勝てない。分かってた……分かってたんだ……家族や村の皆の仇を取れない事も…………)


血が止まり、痛みも和らいだ筈なのにクローディアのワインレッドの瞳からは後から後から涙が溢れてくる。


声を押し殺して大粒の涙を流しながら泣く彼女にフェニーチェとディアーチェの二人が駆け寄り、心配そうにクローディアに声をかける。


「クローディア、大丈夫か!? あたしの包帯使え! もう治ったから!! ええと、どう巻けばいいんだっけ?」


「クロお姉ちゃん、大丈夫? 傷が痛むの? 泣かないで」


と混乱するフェニーチェと気遣いながら落ち着かせようとするディアーチェ。

対照的な二人を見ながら吸血鬼はフェニーチェが骨折していた筈の右足の包帯を解き、クローディアの右腕に巻こうとするのを止め、亜空間宝物殿からナイフを取り出すと、自らの左手首を切りつけてナイフが手首の血管を切り裂き、血がドクドクと流れる場所でナイフを止めた。


彼の場合、ナイフで切り裂いても直ぐに塞がってしまうのでナイフを刺したままにしなければならないのだ。そして血が伝う手をクローディアの前に出す。


「飲め。傷が癒える。」


最初は躊躇していたクローディアだが、血の匂いに抗えなかったのか指先を舌先でチロチロと舐め、血を口に含むと驚いたように目を見開くと、吸血鬼の指をくわえて垂れてくる血を飲んだ。


二人分の視線を感じるので吸血鬼が顔を上げるとフェニーチェとディアーチェがなぜか羨ましそうな目を未だに美味しそうに血を飲むクローディアに向けていた。


時間にして一分程だろうか。

吸血鬼がクローディアの口から指を引き抜き、手首からナイフを抜く。クローディアの舌先が名残惜し気に指を追うが、額に仰け反る程の威力が込められたデコピンがとんできた。


ズビシッという非常に痛そうな音を立てた額をクローディアは再度呻きながら両手(・・)で押さえる。


「うぅ~、痛いです~。私が兄さんに何をしたって言うんですかぁ」


「やはりお前はまだまだ青いな。血に酔って今の攻撃を避けられないなんぞ話にならん。」


「血に酔う……ですか?」


初めて聞くその言葉をクローディアは聞き返す。


「今のお前のように血の香りや色、味に吸血鬼としての本能が刺激されて周りが見えなくなる事を指す言葉だ。それが過ぎれば理性も失う。

吸血鬼になったばかりのひよっこか元から理性なんぞ持っていない(けだもの)くらいだぞ、血に酔ったりするのは。」


「獣……ですか……」


「安心しろ、お前を獣になんぞこの俺がさせはしない。お前を一人前の吸血姫に育てるのが今の俺の楽しみの一つだからな。」


「じゃあ、一人前の吸血姫になるまで、ずっと兄さんの傍にいても良いですか?」


「ああ、俺はそのつもりだ。ひよっこのお前を手放して何か問題を起こしたら俺の責任だからな、一人前になるまでは俺の目の届く所にいろ。」


ニュアンスに若干の差があるが、傍に居ろと言われたクローディアは子供の様に喜んだ。そして二人をジトッとした眼でみる目が四つ。言わずもがな、フェニーチェとディアーチェである。


「お兄さんはクローディアに甘くないか? ずっと一緒にいろだなんてプロポーズと変わらないじゃないか。」


「やっぱり同族の女性には甘いんだね、お兄ちゃん。もういっそ私も吸血鬼になりたい位だよ。」


「そうか? 俺は基本的に来る者拒まず、去る者追わずだからな。お前たちが居たいなら俺の傍に居てもいいんだぞ?」


「それでも女は好きな男に『傍に居ろ』って言われたい生き物なんだよ!! 少なくともあたしはそうだもん!」


「そうだよ、強い男に必要とされたら私達は尽くしたくなっちゃうの。まぁそれはいいとして、「良くない!」……お姉ちゃんちょっと黙ってて。お兄ちゃん、魔力使えたよね?」


「あぁ、使えるが? それがどうかしたのか?」


「うん、お兄ちゃんの魔力の色と形状が珍しかったからもう一回見たいな。」


「そうか? ほら。」


そういって吸血鬼は紅い霧のような魔力を全身から発する。


「うん、やっぱり珍しいね。普通はね、その人にあった属性の色とか形になるはずなんだ。まぁその話は後でするとして、もっとよく見せて?」


そう言ってディアーチェは魔力の属性云々について考察を始めてしまった当人を置いてきぼりにして、魔力を纏った吸血鬼の両手を取ると左手を左にいる姉に渡した。


「はい、お姉ちゃん。首輪。」


「首輪? ……! ――おう!!」


フェニーチェはディアーチェの放った『首輪』という言葉に込められた意味がわからず首を傾げたが、吸血鬼の腕を見ると何かに気付いたのかハッとした顔をしてから実に良い笑顔で返事をした。


「ん? もういいのか?」


その大きな返事で意識が引き戻されたのか、吸血鬼はフェニーチェまで自分の手を掴んでいる事に疑問を覚えつつディアーチェに訊く。


「ちょっと待ってね、お兄ちゃん♪ これで最後だから。」


そう言いつつ二人が未だ魔力を纏った吸血鬼の指先を自分の首に付いている黒の武骨な首輪に触れさせた。

その時、昨日聞いた無機質な声が再び吸血鬼の頭に響く。


―――奴隷の首輪の発動を確認。フェニーチェとディアーチェ両名を奴隷にしました。―――


(……何だと?)


彼は確かにサブカルチャーにも手を出していたがそれはゲームや漫画などに向いており、ライトノベルやネット小説などはあまり読んでいなかった。

そのため昨今の奴隷が登場する作品によく出る奴隷ないし隷属の首輪というものを知らなかった。彼にとっての奴隷とは、どこかの国が従属させたか蹂躙した国の捕虜か生き残りを、体の良い輸出入出来る労働力として使う制度及び法律だ。


故に彼にとって奴隷とは個人が所有するようなものではなく、また触れるだけで契約できるようなものでも無かったのだ。実際にその目で見た事があるからこそ余計に前の世界の常識に捕らわれた。


その事をしてやったりとニンマリ笑うディアーチェに伝えると、


「そうだったんだ、騙すような真似してごめんなさい。でも奴隷が所有者の居ないまま町に入ったりしたら間違いなく逃亡奴隷として扱われちゃうからどうしてもお兄ちゃんと契約したかったんだ。

だから、これからよろしくお願いしますね、お兄ちゃん♪」


ときちんと謝罪したあとに嬉しそうに言ったのであった。

その後フェニーチェの吸血鬼の呼び方が「ご主人様」になったり、対抗したクローディアが吸血鬼の奴隷になる事を望んだので仕方無く全員奴隷にした吸血鬼は三人娘を連れて歩き出す。


歩きながら吸血鬼は三人娘にかねてからの疑問を口にする。


「訊いておきたいんだが、鑑定した時に出る情報は誰でも見られるものなのか?」


応えたのはクローディア。


「はい。他人のものは鑑定の技能が無ければ見ることができませんが、自分か所有している奴隷のものであれば『ステータス』と念じれば誰でも見ることができたはずです。」


「ステータスを隠す事はできるのか?」


「はい。冒険者や国の上層部の方たちは情報が武器になるそうなので、鑑定では分からなくさせる『改竄の札』という魔道具が比較的安価に売られていたはずです。」


「そんなものがあるんだ、あたし今初めて知ったよ。」


「私も初めて聞きました。」


「余り知られていないのか? その……魔道具? とかいうのは。」


魔道具がどんな物か分からなかった吸血鬼であるが、恐らく科学と神秘が混ざりあった副産物だろうと当たりをつけた。だがフェニーチェとディアーチェが知らなかった事からそんなに知られている物では無いのだろうかと考えたのだが、


「いえ、魔道具自体は世界中で使われていますが……何と言えば良いんでしょう、フェニーチェ達の場合はお国柄といいますか、種族柄と言いますか、強さを隠すことを嫌うので改竄の札が余り普及していないんです。」


「そりゃあ、獣人にとって強さっていうのは自分の存在を主張するものだからな、隠そうとは思わないだろ。あたしらの村は辺境にあったから尚更だ。」


「村の中でも最も強い者が村長に代々なってたから、強さを隠す人は居なかったよ。」


「成る程な、因みにクローディアの村ではどうだったんだ?」


「私達の所は少し秘密主義な気があるので国民の殆どは改竄の札を持っています。私は奴隷商に捕まった時に没収されちゃいましたけど……」


「そういえばさっき奴隷の所有者は所有している奴隷のステータスも見ることができると言っていたな、いい機会だし見てもいいか?」


そう吸血鬼が問うと、三人娘は驚いた顔をした。


「ん? 何をそんなに驚いた顔をしている?」


すると三人娘は声を揃えてこう言った。


「「「まだ見て無かったの(ですか)!?」」」


「俺は他人の情報を無断で覗くような下衆ではないからな。無論、戦闘をするというのであれば遠慮はしないが。」


余談だが彼がヨルガリウスやヤツメウナギもどき、ゲタグルスと戦った際に鑑定を使わなかったのはその存在を忘れかけていたのもあるが、一番の要因はその戦いが吸血鬼にとっては暇潰し程度にしかならなかったからだ。


ヤツメウナギの時は武器である二丁拳銃を使用したが、あれは二丁拳銃が使い物になるかどうかのテストであり、もし使い物にならなかったとしても吸血鬼ならば素手でヤツメウナギを両断することも可能だった。


故に鑑定を使う機会が無かっただけなのである。

とはいえ三人娘から許可はもらったので吸血鬼は遠慮無く三人のステータスを見る。




名 クローディア

レベル 21

種族 吸血鬼(エルフ)

状態 通常

HP 208/210

MP 580/580

称号 真祖の吸血鬼の加護を受けし吸血姫

技能 精霊魔法 吸血 血操術 精霊弓術



名 フェニーチェ

レベル 37

種族 獣人(人猫(ヒューマンキャット)

状態 通常

HP 816/820

MP 80/80

称号 

技能 害意感知 半獣化 短剣術 体術




名 ディアーチェ

レベル 19

種族 獣人(人猫)

状態 通常

HP 428/430

MP 170/170

称号

技能 気配操作 部分獣化 真偽眼 




(……何だ? 何か違和感があるな)


ステータスを見た吸血鬼はその表示に違和感を覚えた。そしてその違和感の正体に気付く。


(生命力と精神力に上限が記載されている……だと? それにクローディアのステータスには残魂の表示がない。……何故だ?)


「お兄ちゃん、難しい顔してどうしたの? もしかして、何か問題でもあった?」


百四十五センチあるかどうかという身長の為、自然と上目遣いで吸血鬼に尋ねるディアーチェ。世の男達が一撃でノックダウンされるであろうその姿に、しかし吸血鬼は動じずに自分が見付けたステータスの相違点を三人娘に話す。すると反応したのはクローディア。


「確か前に本で読んだ事があります。親からステータスの表示がどんなものかを教えてもらった子供と、そうじゃない子供だと、前者の場合は親と同じ表示の仕方になって、後者は基本的な項目は変わらないのに細かい表示に差異が出るそうですよ。

今はもう世界中で『ステータスとはこう表示される』という見本のような物を見せられて育てられるので誰でも同じ見え方になっているんだと祖父母は言っていましたが。

あ、あとステータスの表示は思い込みで変えることも可能だとその本には書いてありました。」


「ほぅ、思い込みで変化する……か。」


吸血鬼は三人娘と自分のステータスを見て細かい違いまで確認していく。


(まずはHPとMPの上限表示。それと技能にその者が会得している技術も含まれる……と。)


吸血鬼は自身に自己暗示の要領でステータスの表示の仕方を刷り込んでいく。そして聞こえる神(仮)の声。


―――ステータスの表示方式の変更申請を受諾。変更点が適用されました。―――


どうやらうまくいったらしいと、吸血鬼は口元を緩ませる。そして三人娘が吸血鬼のステータスを見てみたいと言うので見せる方法を聞いて全員で見ることにした。方法は簡単。ステータスを見せる相手の体に触れながら「ステータス」と口にするだけだ。そして変更された吸血鬼のステータスはというと……


名 無し

レベル 8962

種族 吸血鬼(真祖)

状態 通常(残魂 160070243)

HP 68790/184600

MP 74600/158100

称号 真祖の吸血鬼(オリジンブラッド) 国崩し 太古の英雄 悪魔殺し 神に装備を送られし者

技能 鑑定 吸血 完全再生 黄泉帰り 思考加速 身体完全制御 亜空間宝物殿 全言語完全理解 眷属召喚 剣術 槍術 刀術 射撃術 総合格闘術 魔力精密操作 魔纏 気配操作 超速読解 完全記憶




というものであった。このステータスを見た三人娘は絶句し、暫く呆けていたがバッと息ピッタリに吸血鬼の方を見ると同時に三人揃って同じことを言った。


「「「名前が無いってどういう事(ですか)!?」」」


「どういう事かとは?」


「そのままの意味だ! 名前が無いなんて認められる事じゃない!! 名前はその人がここに居るって事を表す大事なものなんだぞ!!」


フェニーチェが叫ぶ。当然大声なんか出したら森に居る魔物が寄ってくるが、吸血鬼が魔力を辺りに流し、威圧代わりにすることで魔物の侵入を拒んでいた。


「この世界では名前というのは、その人の存在の証明であり、名前が長いほど身分が高い傾向にあるんです。だから名前が無いというのは身分がない、奴隷よりもなお下の死刑囚などの人達を指すんです。」


「ねぇ、お兄ちゃん。名前、私達で考えても良い? ご主人様の事、好きになっちゃったから……名前で呼びたいな。」


サラッと告白したが三人娘が吸血鬼に恋愛感情を抱いているのは彼も分かっている事なので、焦る事もなく返答する。


「名前か……ではこうしよう。俺は名前を考えるからお前達は名字を決めてくれ。」


「名字つけるの?」


「ああ。前の世界では誰でも名字を持っていたからな、その名残だ。」


「でも名字を着けると貴族からいちゃもん付けられるかもしれませんよ?」


「構わんよ。向かってくるなら踏み潰すまでだからな。」


その言葉に三人娘は渇いた笑い声を上げる。自分達の主人が冗談ではなくそう思っているのが分かるからだ。そしてそれを実現させるだけの力を持っている事もその目で見ている。


では考えるか、と吸血鬼が言おうとしたその時、ぐぅ~~という音と、くぅ~きゅるるという可愛らしい音がセミロングの茶髪とストレートロングの銀髪をもつ双子の姉妹の胃袋から発せられた。


赤面する二人をフォローするようにクローディアが


「お腹空きましたねぇ~」


と言うと、吸血鬼は魔力の放出を止め、左手でホルスターから銃を抜くと腕を真っ直ぐに伸ばして構え、撃鉄を倒した。

そして眼を閉じて、集中すること約三秒。目を開いた吸血鬼は銃を僅かに右に方向修正して引き金を引く。


二時間前と同じ様に魔力が取られる感覚。そして今回撃ち出す弾で五発目。前の世界には無い正に規格外の直径十五ミリという超大口径のこの弾丸、銃の弾倉のサイズから考えて装填限界数は五発か六発のはず。にもかかわらず、銃の重さには一グラムの変化も無い。さらに魔力が吸い取られるような感覚。


最初、吸血鬼は魔力が取られるのは神化祝福儀礼の聖句を起動するためだと考えていたが、ステータスを見ながら発砲した所、一発で五十ほどMPを消費した。聖句を発動するだけならもっと少なくても、多くても十程度のはずだ。では残りの四十はどこに消えたのか、銃口から銀の弾丸が撃ち出され、普通の人間なら腕が千切れ飛ぶほどの衝撃を左手ひとつで受け止めながら吸血鬼は思考する。

弾丸が撃ち出された一瞬後に()の火を銃が吹く。銃身がスライドし、薬莢が排出される。軍や警察で制式採用される銃のような乾いたパァンッというような銃声ではなく、爆発するような腹に響くドオォンッという銃声がなる。


(成る程な、薬莢に籠められた火薬すら爆発の聖句で代用するか)


吸血鬼の脳裏に浮かぶのは火炎瓶に聖句を刻み、放り投げた中年の痩せぎすな男が、蒼の炎が上がるのを見てこちらに笑顔を向けながら小躍りしている姿だった。


(あの小僧、面白いものを創ったじゃないか。神も吸血鬼に吸血鬼を殺すための武器を最適装備の名で贈るとは、いい趣味をしている。後は弾も聖句で撃ち出す度に生成しているのだろう。)


そこまで考えたところで血界を切る。撃ち出された弾丸は百四十メートル程先の一本の樹の幹を貫通すると、更に六十メートル先の樹の幹を跳弾し、そこから七十メートル先の鹿のような動物の頭を吹き飛ばした(・・・・・・)後に距離にして更に百五十メートルはある直線上にいたもう一匹の鹿の頭に命中。軟らかい銀の弾丸ゆえに体内で乱回転し、脳をかき回された鹿は死んだ自覚もないまま絶命した。


吸血鬼が狩った鹿は器用なディアーチェによって瞬く間に解体され、思えば昨日の昼から何も食べていなかった三人娘は吸血鬼の意外に高い調理スキルにより焼き肉パーティー状態となった鉄板の上から脂の少ない赤身の鹿肉を口に入れ、存分に楽しんだ。

吸血鬼も随分と久し振りな食事に舌鼓みを打っていた。


「済まないな、もう随分と食事なんてしていなかったから忘れていた。」


「食事を忘れるって……どんだけ食べなかったらそうなるのさ?」


焼き肉を軽く七キロは食べたフェニーチェが吸血鬼に呆れたような声で尋ねた。


「そうだな……最後に食べたのは600年程前か」


鉄板を亜空間宝物殿(以下宝物殿)に仕舞いながら吸血鬼は何でもないように言う。


「六百……年?」


唖然とするフェニーチェ。


「何も食べないで600年も何をしていたんですか?」


「お腹減らなかったの?」


「知識を貪っていた。ありとあらゆる知識をな。」


そう言いながら吸血鬼は銃をホルスターから外し、分解し始めた。


「そんなに知識を集めて覚えられるものなんですか?」


クローディアが吸血鬼が銃を分解する様子を興味深そうに見ながらそう問うた。


「俺の技能の中に完全記憶というものがあっただろう? あれはな、記憶を本だとすると一日毎に新しく創られる本を収納して置ける本棚を無数に作ることができるような技能だ。他の人が要約したあとに捨ててしまわないといけないような本(記憶)も仕舞っておくことができる。そういう技能だから一度見聞きした知識を俺が忘れる事はない。」


その余りに便利で絶大な能力に三人とも唖然とする。


「で? 俺の名字は決まったのか?」


しかし吸血鬼の言葉で我に戻ると三人で集まって相談し始めた。

実のところ吸血鬼は名前を持っていた(・・・・・)だがその名はとうの昔に捨てた名だ。

ここは異世界。もう使う事もないだろうと、ここで出会った既に大切な者として見てしまっている少女達に自分の名を考えてもらうことにした。

そう考えている内に三人娘がこちらを見ている。


「決まったか?」


と吸血鬼が問うと、


「「「決まった!!」」」


と元気に声を揃えて言う。自分の故郷が魔物に蹂躙されるのを見たというのに、明るく笑う彼女達に


(ああ、強いな。人は。)


と憧憬とも羨望とも慈愛ともつかぬ紅い瞳を向けた吸血鬼を見た三人娘が頬を赤らめる。それに微かな疑問を感じつつも


「では聞かせて貰おうか。お前達が考えた、俺の新たな名を。」


「「「(兄さんの)(ご主人様の)(お兄ちゃんの)名字は…………『クロノス』!!」」」


瞬間、吸血鬼が固まった。


『クロノス』と、彼女達は確かにそう言った。それは彼がかつて捨てた名と同じであり、彼が認め、仕えた少女から貰った名と同じであったからだ。


『お前は私に着いてきてくれた、私にとっての英雄だ。お前は黒が良く映える、だからお前は黒の英雄――そうだな、クロノスと名乗れ! お前の家名はクロノスだ。名と同じ数の音で覚えやすかろう? それになんとはなしに響きが格好が良いではないか! 気に入っただろう?』



ドラキル・クロノス。それがかつての彼の名だ。

ドラキルが訛ってドラキュラと呼ばれ、ドラキュラ伯爵と呼ばれ蔑まれた国を滅ぼす前に、彼女以外にその名を呼ばれる事に耐えられなかった彼が彼女が逝くと同時に捨てた名が『クロノス』という名だ。


それがなんの冗談か、異世界で救った少女達に再び同じ名を付けられた。

偶然だろう。偶然なのだろう、だが吸血鬼は聞かずにはいられなかった。


「なぜ……その名にしたんだ?」


「だって、兄さんは私達を助けてくれた、私達にとっては英雄ですから。」


「そうだよ! それにご主人様黒い服とか髪とか似合ってるし黒繋がりで!」


「あと何となく響きが格好良さそうだったから……かな?」


この問答で彼はかつての少女の面影を、少女達に見た気がした。


「ククク……フッハハハッ」


突然笑いだした吸血鬼に驚きながら初めて見る吸血鬼の、子供のような笑顔に乙女心を鷲掴みにされ、赤面しながら悶える三人娘。


「フッフッフ…………あぁ、良いだろう。ならば俺の名はシン。シン・クロノスだ」


彼が己が名に選んだ字はシン。

かつて自分に名付けた少女と同じ理由で同じ名を付けた少女を達を守らんとする、誓いの名である。


シンの名に賭けて、神により召喚された彼は、その身をもって自らの新たな真名を森で告げた少女達を守護し、心の臓腑がその鼓動を止め、真に逝くその時まで己が加護を授けんと、その身に芯まで染み付けた。




こうして彼はシン・クロノスとなり、自己の存在を異世界の地に埋め込んだ。





だが彼女達はクロノスという名にしたもう一つの理由を彼には話さなかった。

彼女達が奴隷である事を示す黒い首輪。奴隷としての貫頭衣以外に持ち得る、彼との繋がりの証。彼がいるその場所こそが彼女達が帰る場所であり、彼が行く場所ならばどこへでも着いていくだろう。

親のような、兄のような、恋人のような温かさを持つ彼に自分達はまるで雛鳥のようにどこまでも。

だから彼女達は自分達の黒い主人にこの名を贈った。












黒の巣、と。

名前が大切だという話だったのに唯一名前が出てきていないヤツメウナギもどき・・・。


HPは生命力を表しているのでお腹が減っても減ります。


ちょくちょくヒロインの種族の伏線張ってました。え?気付いてた?デスヨネー(;´д`)

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