28 天に昇る白亜の塔
『まもなくサンク海洋上です。乱気流にご注意ください。……まもなく――』
「さて、聞いたところによるとそろそろ見えるはずだぞ。エカルタス大陸東沖に停滞する消えない嵐が」
――エカルタス大陸を南のエドナ王国と北方、中央部の近隣諸国とに隔てる長大な山脈。平均標高四万三千メートルの山々が連なるその頂上からの景色を見た人類は未だ存在しないと言われ、中でも他の山とは一線を指す山がある。
霊峰サドディオリ山。現地の言葉で「天へと至る山」という意味を持つこの山は他の山々の森林限界より遥かに低い高度から高木はおろか雑草すら一本たりとも生えなくなり、険しい岩肌が覗く。
古くから死後にこの岩肌を登って天へ辿り着くと言い伝えられており、低い場所から草が生えないのは先祖の英霊が頂上を目指して岩肌を歩み続けているからだと言われている。山の麓に古くから住んでいる者達は死後、頂上の見えないこの山を登る肉体を手にするために日々健康に気を遣い、鍛えているという。
だが世界でも有数の巨大さを誇るこの山が霊峰と呼ばれ、世界からも注目を浴びる理由はもう一つ。
「ほぅ……これは確かに荘厳な光景だな」
「おぉ……すげぇ」
「すっご……」
「綺麗ね~」
「もしかしてこれがオセアンサイクロン? 一節中ずっと消えない嵐って本で見たことある」
――オセアンサイクロン。観測以来一瞬たりとも消えたことのない巨大な台風。いつからそこにあるのか、どうやってできたのか、なぜ動かないのか。あらゆることが謎に包まれたそれはこの地この場所のみで見られる稀有な自然現象であり、星の雄大さを肌で感じられる猛威の顕現である。
エドナ王国の北側からはサドディオリ山の影になり見えないが、高すぎる山脈を迂回するときだけ船の側面からその姿を見ることができる。
その直径は五千キロとも一万キロとも言われ、周囲の環境や回転を続ける分厚い雲から実測値を得るのは困難であるが、高度二千メートル付近から見える雲が渦を巻いて上へ上へと昇って行く様は白亜の陶器よりも美しいとしばしば語られる。
最新の研究では海に接する部分で巨大な竜巻が発生しており、海水をまるで上に伸びた渦潮の如く吸い上げることにより莫大な体積の雲を維持し続けていることが確認されている。時には大型の水棲魔獣すら抗えずに天高くに放り出される様子も観察されており、大きく広がる上空の雲内部や付近は、供給され続ける水分を外へ逃がそうと湿った猛烈な風が吹いているせいで激しい乱気流を生んでいる。
生物が踏み込むことを拒み、時に呑み込む様子から冒険者や探検家の間では巨大な竜の巣があるだとか古代の秘宝が眠る天空の城があるという噂が絶えない。
「――というものらしいな」
「長々と説明ごくろうさん。それにしても古代の秘宝か……いいね! 夢があるな!」
「そんなのあるわけないじゃーん。メレクはバッカだなー」
「リア、お前は頭いいけどホントバカだな! ロマンを求めないでどうする!」
「どうせ一月もしたら興味も失せるくせによく飽きないわね。男って本当にアホばっかり」
「相棒、サビロスに馬鹿にされてるぞ~」
「俺は男として見られていない。残念だったなメレク」
「しかし飽きぬ絶景ですな。素晴らしい眺めです」
「ホントね。こんな景色が色々な場所で見られるのなら飽きずにすみそうだわ」
「み、みんなこんな揺れの中でよく平気だね」
「ちょ、お姉ちゃん服引っ張らないで」
「なんですかこの揺れ。休めもしませんよ……」
『お客様にお伝え致します。当機はこれより、魔物を避けるために雲の中を航行いたします。揺れが苦手なお客様は水平ブリッジか、お近くの寝室にてお休みください……お客様に――』
「だそうだぞ。その水平ブリッジか寝室で休むんだな」
「寝室は後ろの通路を通ってすぐに専用のものがあるそうだ。サビロスかリガウロスに付いてもらえ」
「リロ、ほら起きなさい。あなた達も揺れに慣れないなら寝室か水平なんとかに行った方がいいわよ」
「ん~…………分かった、起きる。……あと少しで起きるから~…………」
「うっぷ……なんかお腹の中がぐるぐる回ってるみたいで気持ち悪い…………」
「お姉ちゃん、水平ブリッジに行ってよう? この先ずっとこれだと疲れちゃうよ」
「リアもこの揺れ嫌いだから一緒に行ってあげる~」
「んじゃあ、各自自由行動ってことで! 面倒事は起こすなよ~?」
「一番起こしそうなあんたに言われたくないわよ。さ、二人とも、寝室に行くわよ」
軋む音などはしないものの、不規則に揺れる船体は酔いを引き起こすのに十分なありがたくもない環境を提供してくれていた。
そこから一日ほどかけ、船は魔獣が縄張りにしない乱気流と雷が轟く雲の中を抜けてエカルタス大陸北部を通過し、世界最北の大陸であるアストレア大陸を眼下に収める場所までやってきた
「…………やべぇ、つまんねぇ。景色は大陸がデカすぎて代り映えしないし、船の中は探検しつくしたし、魔獣が襲ってくるとか、他の乗客とのトラブルとかのイベントも無し。ていうか完全に区切られてて普通の乗客と会わねぇし。暇だ……超絶暇だ……」
地平線から昇る太陽を拝みながらブツブツと呟くメレク
「そんなに暇ならゲームでもすればいいじゃない。カロメウェと賭けでもしなさいな」
「……カロメウェどこ?」
「さぁ。どこかしらね」
「呼んだか?」
「なんだあっちに戻ってたのか。ダイスで賭けやろうぜ」
「ほぅ? いいだろう。何を賭ける?」
「そうだな……あっ、俺が買った回復薬を飲む権利とかどうだ?」
「断る。吸血鬼には毒なのだろう? なら俺達の体にっても恐らく毒だ」
「ものは試しだろ、やってみようぜ」
「断ると言っている。賭けに勝てば賭けをする権利をくれてやるだと? 賭けをするまでもなくくれてやる」
「んじゃ~何にすっかな~。普通に金でも賭けるか?」
「碌な額も賭けられないだろう?」
「別に一世一代の勝負するわけじゃないんだし、いいだろ? どうせ何回戦もするんだし」
「……まぁいいだろう。どうせ碌な勝負にならんからな」
「そりゃお互い様だ」
互いにもはや使い道のない古びた硬貨とサイコロをテーブルの上に置く
「さて、何のゲームをしようか?」
「ここでできるのは用意のいらない単純なものだけだろう」
「んじゃ表なら21で裏なら丁半かね」
そう言うとテーブルの上に置いた硬貨をコイントスで飛ばす
「21か……」
結果は表。トウェンティワンに決定。
「あれ? 二人で何してるの?」
「お~、ディアーチェか。おはようさん。ちょっくら大人の遊びをな?」
「大人の遊び……? 面白いの?」
「どうだろうな。こればかりはやらねば分からんだろう」
「単なる賭け事だけどな~」
「ふーん……私もやってみていい?」
「いいぞ~。ルールは至ってシンプルだからな」
――21。ダイスを一つ使った単純なゲームで出た目の合計が21に最も近いものが勝ちというルールだ。当然一回では21に及ばないため一人につき複数回サイコロを振ることができる。ただし合計が21を超えたら強制的に負けとなる(バーストと呼ばれる)。
何度でも振ることができるが、どこで止めるか見極めるのが難しいゲームである。
「へ~、簡単なんだね」
「初期は何枚にすっかね?」
「手持ち三十枚、リミット五枚が妥当だろう」
「そんなとこか。んじゃ……ほい、これがディアーチェの分な」
ジャラジャラと三十枚の古びた硬貨を渡されたディアーチェは呆けるばかりである
「お前の持ち金はそれで全部だ。賭けられる枚数は下限が一枚、上限五枚。互いに賭ける額はテーブルに出した賭け金の中で最も高い者の額になる。出した賭け金はそのゲームで勝った者の総取り。勝者がいない場合は次回に持ち越し、勝者が二人以上の場合はそいつらが賭けた枚数だけ本人に戻され、負けの分は持ち越しだ」
「…………うん、なんとなく分かったけど……これ、いつ終わるの?」
「持ち金がゼロになった者が出るまでだな」
「まぁやってみようぜ。一回目のベット額(賭け金)はいくらかな? 一、二の三で出せよ? 一、……二の、……三ッ!」
メレクの掛け声で出した額はカロメウェが三枚、ディアーチェが一枚、そしてメレクが五枚。
「初めから五枚か……飛ばすな」
「賭けは楽しくなくちゃな」
テーブルに出た中で最も高い額を賭けるため三人共五枚ずつ出してゲームは始まっていった
『まもなく着陸態勢へと移行します。席にお座りの上、お近くの手すりにお掴まりください。当機が着陸を終えるまで、座席から立ち上がらないようお願いいたします。繰り返します――』
こうして一行は何事もなく無事にアデルニクスへと到着した。
「そこのご一行! 占いで旅の思い出作りなんていかがですか?」
コンクリートに近い石のような質感をした平らな素材で作られた四角い家が立ち並び、それでも家の壁から飛び出すように生えている植物や壁を這うように育っている蔦のおかげで緑あふれる景色となっている街中の通りを歩いているとそのような声を掛けられる
「占い?」
「えぇ、うちの占い師のは当たりますよ。これまでの事も、これからの事も、ね」
くすんだ灰色の髪をした若い男が含みのある言い方をして誘う
「ちょっと気になっちゃうな……」
メレクがポツリと言う
「あら、珍しい。あんたがまだそんなのに興味を持つなんて」
「こっちの占いがどんなんだか興味あるじゃん。マジもんの色が変わる水晶とか見れるかもしれないし」
「まったく……そんなことしてる場合じゃないでしょう? 私たちはまず時間までに――」
「いいんじゃないか? 時間はまだある。少しこの国を見ておくのも悪くないだろう」
「占いかぁ」
「興味ないの? お姉ちゃん」
「んー、まぁみんなが行くなら行こうかな」
「行ってみましょう? これからの事で何かアドバイスがもらえるかも」
「ディア姉がそう言うなら」
「よし、そんじゃあ行ってみよう! あ、料金は?」
「そうですねぇ……では、一人200でいかがでしょう?」
「200ね。……あ、換金すんの忘れてら」
「では無理だな。やめにするか」
「換金所まで戻るか?」
「いえ、その必要はありませんよ」
灰色の髪の男が背を向けていた建物の中から出てきた少女が言う
「エリ、どうした?」
「外にたくさんの人がいて動かないから何かあったのかと思って。でもいい人たちみたいだから安心した。あなたたち、占いを聞いていきたいんでしょう? どうぞ入って。私達もあなたたちの事、占ってみたいの」
「可愛らしいお嬢さんね。あなたが占ってくれるの?」
中に入るとサビロスが早速質問をする
「はい。エリといいます」
「エリちゃんね。早速だけどあまりゆっくりとしてはいられないから占ってもらえるかしら?」
「はい、えっと……どなたから占いましょうか?」
「メレク、やってもらいなさいよ」
「え、オイラ? いや、それはちょっと……」
「何、あなた? 自分は占ってもらうの嫌なのにあんなこと言ってたの?」
「いや~ほら、占ってるとこは見たいけど占ってもらうのはちょっと……っていうか……」
「はぁ……じゃああたしが見てもらうわ」
「い、いいですか? それでは……えーと、お名前の方は……?」
「あら、ごめんなさいね。サビロスよ」
「サビロスさんですね。では……」
大きな水晶玉も紫色のローブもない、簡素なテーブルと椅子が置いてあるだけの部屋。
ガラス板がついたサッシも、開閉できる木製の窓すらはめ込まれていない壁をくり抜いたような採光口と言うべき部分から陽射しが差し込む立方体のその部屋の中で、エリと名乗った少女はその明るい茶色の瞳を大きく開いてサビロスを見る
「サビロスさんは赤……褐色? 色が混ざっていますね。自分の中で様々な感情が混ざってしまって結局伝えられない事が多いのではありませんか? 現実的な考えを持っていて堅実な思考をする一方で、感情面では情に厚く人のために動こうとする人ですね。ただ頑固なところもあって欲張りさんでもあるのでは?」
「あら…………」
サビロスは少し驚いた様子でしばし沈黙。思い当たることがあったのだろう
「あ……あの、はずれていたらごめんなさい」
「……いいえ、そんなことないわ。そう、そうね。自分の事を客観的に見るいい機会だわ。頑固と欲張りは直さないとね?」
「そう……ですかね? それがあなたを助けてくれることもありませんし、無理に変えようと意識しなくてもいいと思いますよ?」
「あら、ありがとう。それにしてもすごいわ。本当に当たるのね……さて、頑固で欲張りな女の次は誰が占ってもらう?」
「カロメウェを占った内容が気になるぞ」
「メレク……貴様自分を棚に上げる気か?」
「あまり無駄遣いはできんから占ってもらうとしても三人ほどにしてもらうぞ。食事と宿の事もあるからな」
「あと二人か……じゃあ三人娘から一人と相棒だな」
「何故そうなる……」
「面白そうだから」
「…………。」
メレクが教えたジャンケンによって三人の中で占ってもらうことになったのはフェニーチェ。
少し緊張した面持ちでエリと向かい合う椅子に腰かける
「フェニーチェさんは……珍しい色をお持ちですね。失礼かもしれませんが魚の程よい焼き色のような……茶色というほど濃くはなく、黄色というほど明るくもない。粘土のようにのっぺりとした色とも違う……とても綺麗な色ですね。この色をお持ちということは、あなたは嫉妬したことや妬まれたり恨まれたりといった経験があまりないのでは? 誰とでも仲良くなれる人ですし、あまり人の悪口を言いませんね。自分がやりたいと思ったことはどんなに高い壁があっても挑戦して乗り越えてしまうような人だと思います。ただ、思ったことを口に出してしまうので意図せず反感を買うこともあるかもしれませんのでそこは気を付けた方がいいと思います……」
「すごい……当たってる」
そう言うのはフェニーチェではなくディアーチェだ。誰よりもフェニーチェと長く過ごしているであろう彼女が言うからには今回の占いも当たっているのだろう
「じゃあ最後は……」
「俺だな」
シンがエリの前に座る
「お名前は……?」
「シンだ」
「シンさんですね。では…………」
エリが先の二人を見るのと同じ瞳をシンに向け、その後僅かに目を細め、無言で目を瞑る。
それはまるで何かを迷っているような、瞑想しているような、相手の事を考えられる人柄だからこそ生み出したであろう熟考の時間。
そんな時間を破ったのはそれを作らせた者であった
「迷わなくていい。思ったことを素直に話してくれないか」
「……分かりました。……あなたの色は黒です。純粋な黒ならば迷いませんでした。あなたの黒は……まるで元から黒いわけではなく、色々な色が混ざった結果黒に見えているように思えます。今まで見たことがない色なので、そういう意味でも迷いました……。私の経験則に従ってお話しするなら、色々な経験をされて、価値観や倫理観を変えていくうちに何か……ある種の哲学的な答えに辿り着いた感じがします。あなたに何を言っても、何をしてもそれは変わらないでしょう。黒はどんなものと混じっても黒のまま。ただそれは、あなたの内側がどれだけ揺らいでも気づかれにくいという諸刃の特色でもあります。
それと……色々な色が混ざっているということは、あなたの中には様々な価値観や観点が他のものに消されることなく残っているということではないでしょうか? もしまた迷って、そのことに誰にも気付かれなかったのなら……自分の中にあるものと向き合うと何か見えてくるかもしれません。」
「……って、すみません! 私みたいなのが偉そうなこと言って……」
「いや、身に染みる良い事を聞いた。黒は何と混ざっても黒のままか……しっかり覚えておこう。それにしてもエリ、君の占いは本物だな。これなら占ってほしいと思う者も多くいそうだが……いや、俺が言うべき事ではないか」
占いは気軽にできる娯楽。そうでなければ誰もやらない。
自分の思考傾向や選択基準は興味があるが、他人にさも自分の事を本人より知っているかのように語られるのは気分が悪く、それが当たっていると驚きよりも気味悪さが先に出る。
傲慢極まる我儘から出る矛盾。そういうものをシンはよく知っていた
「気にしないでください。お金をもらってすることですから」
金を受け取っているから――それは受けたものと貰うものが釣り合っているからというある種の言い訳。つまりはそういうことなのだ
「そうか。換金していないもので悪いが代金だ。俺たちはそろそろ出なければならん」
六百G分の硬貨を机に置いて椅子から立ち上がるシンにエリは何か思い付いたように立ち上がる
「あっ……ちょ、ちょっと待っててください! すぐ戻りますから!」
そう言って部屋の奥にある扉の奥に入って、すぐに戻ってきたエリが手にしていたのは木でできた鎖のような物であった
「これ……よかったら……」
「これは?」
「皆さんに良い事が起きるおまじないです。体のどこに付けてもいいのでもし良かったら……」
シンが木の鎖をまじまじと見ていると気に入らなかったと思ったのかエリは焦りだす
「あ、あの! 別に無理にというわけではないので――」
「――いや、貰っておこう。腕のある占い師が是非にと言うのだから貰っておいて損はあるまい」
そう言いながらシンはさらに硬貨を机に置く
「えっ……あの、ダメですよこんなに……」
「悪いが俺の価値観ではこれに対する正当な値が付けられそうにない。これでは多かったと思い直したら俺が直接金を取りに来る。悪いが今はこれで収めてくれ」
そう言いながら足早に外への扉に向かうシン。一同もそれを特に見咎めることなく続く
一行が建物を去った後、残された二人は嵐が去った空を見るようにポツリポツリと会話をする
「いいのか? まじないを込めた物を一般人に渡して」
「んー? あの人たちは違うよきっと。それにあたしの話を聞いても全然怖がらないんだもん。マウと一緒だね」
そういってどこか気持ち良さげな表情をするエリにマウと呼ばれた灰色の髪をした男は小さくため息をつく
「あの男……危険だ。これまで多くの人を見たがあんな雰囲気の奴はいなかった」
「でも話の分からない人じゃないでしょ? いい人だったよ」
「どうだろうな……そろそろ本業の時間だ。俺たちも行かないと」
「そうだね。そうしよう。あの人がお金取りに来るかもしれないしね?」
「話の分かる奴じゃなかったのか?」
「そういう時もあるし、そうじゃない時もあるでしょ? みんな一緒だよ」
「…………確かにな」
扉が閉まった後、建物の中に音はなく、音を立てるものは何も無かった
「んで、相棒は何をそんなに急いでんの?」
「大事な事を思い出した」
「換金? 昼飯? それとも今晩の宿?」
「それもそうだが……俺たちはあの組織の連中とこの国のどこで落ち合うのか指示されたか?」
「…………あっ、えっ? ちょっとまてよ、そういえば…………されてない。あれ? これちょっとまずくね?」
「まずいな。最も可能性の高い空港からしらみつぶしに探すしかないか。間抜けな話だ」
ケートス公務官から宣告されたリミットは百六十八時間、移動と依頼内容の確認、さらに遂行も含めての時間だ。
どんな内容か知らされていない以上、遂行にかかる時間の逆算すら不可能。削れる時間はできるだけ削った方がいい。
そんな占いに貴重な時間を割いた者と同一人物とはとても思えないことを考えながら一行は換金所に辿り着いた
「どうするんですか!? もう四十分も前に到着してるってことですよね!? 完全に僕達のミスですよこれ!?」
「まぁまぁ、落ち着いてください。彼らも馬鹿ではないでしょうからそのうち会えますよ」
「船によって時間規律がまちまちなのが玉に瑕ですね。まぁ、そんなことを言ってるうちに合流できましたね」
「おや、あれですか。黒髪紅眼の男が束ねる新設部隊は」
三人の男がそれぞれ身分証明となるカードをシン達一行に向ける。一応の確認としてシン達もそれぞれカードを見せ合う。
「ケートス公務官、直々に来るとは思っていなかったぞ」
「えぇ、私もまさかこちらに来るとは思ってもいませんでしたよ」
「やはり左遷か」
「また辛辣な冗談ですね。あなたの保護者みたいなものですよ私は」
「組織で初めに接触し、特に反抗的な態度をとられていない事、人質に取られても問題ないことから上層部に命令されて俺の監視役になった生贄か。悲惨だな」
「本当に酷い言い方しますね。その通りですけども」
「それで? 例の件はどうなった?」
「例の……? あぁ、あの事ですか。条件付きで何とかなりました」
「条件とは?」
「選択肢は三つです。この案件終了後、馬車をこちらに帰属させるというのが一つ目。馬車の所有権を保持したままの場合、それが必要であるとこちらが判断した案件……つまりは対人ではなくより危険な方の任務に主軸を置いてもらうというのが二つ目。三つ目はあなたが出した要望そのものを取りやめる事。以上三つの選択肢の内、要望取りやめ以外の条件を満たせば馬車本体と馬の費用、計五千六百七十万を経費に計上、全額給付になります」
「質問が三つある」
「はい、どうぞ?」
「馬車に馬は含まれるか?」
「含まれます」
「帰属した後に俺たちが使用する事は可能か?」
「可能です。ただしアズ・ナレプセを脱退するかそちらの不手際に対する何らかの処罰によって使用権が剥奪されることは当然あります。また、非常時などには馬車の借用令が出る事もあるでしょう」
「なるほど……最後だ。経費計上されるのは購入時の費用のみか? それとも諸々の維持費もか?」
「それについては二通りあります。所有権保持の場合は計上されません。あくまで個人所有の物ですので。帰属する場合は計上されます。ただし毎月の計上限度額を超過しない事、購入を証明できるものを提出する義務が発生しますが」
「ほぅ……。悪いが最後にもう一つ、計上限度額を超過した場合はどうなる?」
「場合によりますが大抵は不適切所持として所有権剥奪の処分ですね」
「厳しいな」
「当然です。それで、どうします? といっても急がなくていいですよ。この仕事が終わるまでに決めていただければこちらとしてはそれで結構です」
「……そうだな。先に任務の内容を聞いておこう」
「分かりました。ではお二人も付いてきてください。まずは場所を移しましょう」
そう言って歩き始めるケートスを先頭に人通りの多い空港前から移動し始める一行を道の陰から橙色の瞳が覗いていた
諸事情により新年のご挨拶ができない状況にあり、またその関係で更新が滞ってしまったこと申し訳ありません<(_ _)>
これからも不定期ではありますが更新するつもりです。
お待ちいただいた読者様、本当にお待たせしました




