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02 プロローグの終わり

一人称で書くのはまだ私には早かったようです( ノД`)…

吸血鬼は自分の腕の中で血を刃のように変化させ吸血鬼の体中を切り裂き続ける少女――クローディアを包むように抱き締める。


下等な吸血鬼――ヴァンパイア――では血を分けたところで良くて動く死体――グール――になり、最悪体の腐敗さえも止める事が出来ず、腐っていくだけの動く死体――ゾンビ――になるのが落ちだ。


だが原初の吸血鬼、初めの一体。真祖たる彼が自ら新鮮な血を口移しで飲ませた彼女は、吸血姫となる。今は死に行く身体に吸血鬼の、彼の再生能力が加わり、命を繋いでいる状態である。


だがそれは未だ彼女の身体が人間のものであるからだ。今は拒絶反応により吸血鬼の力が暴走しているが、あと1時間もすれば力も馴染み、目を覚ます筈。


それまで彼は彼女に安心するように語りかけながら待ち続ける。新たな同族の誕生に頬を弛ませながら。


―――――――――――――――



クローディアは意識が途切れる寸前で、何かが口のなかに流れ込んで来るのを感じ、反射的に飲み込んだ。


(何だろう? よく分からないけど、さっきまで感じてた味と同じ感じの、でもどこか暖かくて、甘くて、安心するような味がする。あぁ、もうこのまま眠りたいなぁ)


そしてクローディアの身体が生存の為の機能を停止させようとした瞬間、脳裏に過るのは自分に向かって生きろと叫びながら蛇の怪物に向かって槍をつき出す父の姿。


どうせ追い付かれるからと、わざと派手な魔法を連発して自分達の方向へと蛇の怪物を誘導したおしどり夫婦だと有名だった祖父母の姿。


それでも小さな怪物達に追い付かれそうになった時、自分と怪物達の間に入り「あなたが生きていてくれれば、私達は幸せだから、生きて」と言いながらその体を生き餌とすることで娘を守った母の姿。


(だめ。このまま死んじゃったら、みんなに合わせる顔が無いじゃない!!)


再びクローディアが生きる気力を振り絞り、生きる意志を取り戻したと同時に――――それは起きた。



(ッッグウ!? なっ何これ? 身体が! お腹の中が……熱い!?)


ドロドロと……まるで煮えたぎるマグマのように赤く熱を帯びた奔流がクローディアの身体中を蝕んでいく。


そして彼女は思い出す。霞みがかかった意識の中で、「生きたいか?」と問われたことを。それに「生きたい」と答え、「化物に成ってもか?」と再度問われ、脳裏に家族を、村を襲った怪物が浮かぶも、それでも家族から遺された言葉の通りに生きることを優先したことを。それに対する賛辞も。血を飲めと言われ、吐血し、そのまま意識がうすれたことも。


意識が無くなる直前に見た人の目が、どこか慈しむような、寂しそうだったことも。


そこまで思い出したところで、熱さが消えていることにクローディアは気が付く。しかしその代わりにやって来たのは身体中が破裂しているかのような激痛。


(ウグッッッッァァアアアア!! ア゛ア゛ア゛ア゛!!!)


身体の中の細胞が人間のものから吸血鬼のそれへと変化させるのはとてつもない激痛を伴う。全身の細胞が臓器に至るまで破壊と再生が繰り返されるのだ。だがこれによって吸血鬼特有の高い再生能力、血液を食事にも回復剤にもする特性を得る。


ただし、細胞の破壊と再生による激痛に精神が耐えることができたなら、という但し書きが付くが。

そして当然と言うべきか、クローディアにも精神の限界が近付いていた。


(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!)


――もう諦めろ。諦めれば楽になれるぞ――と、心の中の悪魔が囁きかける。


(嫌だァ!! 絶対に、絶対に勝って生きてやるんだ!! もう一度、あの人に会ってやるんだ!!!!)


彼女の脳裏に浮かぶのは、自分に生きたいかと問うた男の顔だった。


何故か焼き付いて離れない、自分を素晴らしいと評した長年見付からなかった探し物をやっと見つけられたかのような、とても優しいあの紅い瞳が。意識が途絶える直前に見た慈しむような寂しそうなあの紅い瞳が。

そしてどこからか、声が聞こえた。


『堪えろ。あと少しで終わる。生きたいのだろう? ならば耐えてみせろ』


命令するような、挑発するような口調だが、その声色は、泣きじゃくる赤子をあやす聖母のような優しく、自然と心に安堵が広がるような声だった。


自然、彼女も何かに包まれるような温かさを覚え、安堵し、気が付けばあの激痛は消えていた。


かくして、新たな吸血姫は目を醒ます。


そしてその目に映るのは、血塗れであらゆるところが裂けたボロ切れと化したオーバーコートに赤黒く染まり同じくボロ雑巾となったシャツ、血が滲み、所々裂けた跡がある黒のズボンに茶色だったであろう血塗れの革靴を履いたまま胡座をかき、クローディアを膝の上に乗せながら子供をあやすように抱き抱える黒髪紅目の吸血鬼。


そして吸血鬼は口を開く。


「おめでとう。お前は今日、新たな命を手に入れた。吸血姫、クローディア。死する時まで人の誇りを失わなかった汝を真祖の吸血鬼たる俺は歓迎しよう」


こうしてクローディアは吸血姫となった。本人は体勢やら距離感やらで顔や長い耳まで真っ赤になっていたが。


そしてその頃、馬車の生き残りである二人の少女も意識を取り戻した。吸血鬼は彼女達の元へと行くとどこかから包帯を取りだし添え木を使って骨折の応急処置をした。


自分達に近付いてくる血塗れの男に最初は尻尾を逆立てて威嚇していたが自分達が骨折と打撲で動けないのも理解しているのか、頭を優しく撫でると若干警戒心が薄れ、応急処置が終わる頃にはじゃれついてくるようになっていた。


なんとも緩い警戒心である。


応急処置も済んだ所で蛇――ヨルガリウスを亜空間宝物殿に収納する。そこでふと吸血鬼は自分の腕を見る。そこにはボロ切れになったコートの残骸。


ようやく自分の格好を思い出した吸血鬼はさっさと服を脱ぎ出した。当然三人の少女から上がる悲鳴。だが吸血鬼はそんなことなど意に介さず、靴もズボンも脱ぎ捨て、先程の包帯と同様に亜空間宝物殿から新たな服を取りだそうとしたその時


――装備の最適化が完了。即時装着が可能な為、即時装着を実行します――


頭の中に直接響くような機械音声のような声。そして気付いたら服装が変化していた。


黒を基調として紅色と金色で細々とした装飾が施されているオーバーコートに

紺色に銀色の糸が編み込まれているシャツ。

心臓部だけを保護する大きさの艶消しの黒、闇のような色の胸当て。

黒の無地のパンツ。

シャツと同じ素材であろう紺色の布に翠色の縄模様が縦に描かれた長ズボン。

黒い革に金色の留め具がついたブーツ。

ベルト代わりに使えそうな腰の後ろにさげて体の前面て固定するような黒のポーチ。

更にはズボンの両足には紅いホルスターが付けられ、二丁のセミオートマチックと思われる大口径銃がホルスターに収まった。


これらが瞬きの間に行われたのだ。最も驚いたのは吸血鬼本人である。


「なっ…………」


しばし硬直し、絶句する吸血鬼。しかし伊達に永年生きてはいない。すぐに装備させられたものを確める。確認したら次に行うことは当然の如く自身への鑑定である。


突如聞こえた謎の声、自身の変化。物理法則に従わないまでもある程度は常識の範疇を広げれば対応できると吸血鬼は考えていた。


事実、毒を吐く巨大な蛇や首輪を付けられた(恐らく)奴隷その他は全く問題無かったがこれは無理だ。


神か、恐らくそれに近い存在の声、そして突然現れた装備類。しかも誂えたかのようにピッタリときた。何かしらのデメリット等があってもおかしくはない。それ故の鑑定だ。そしてその結果は――――


名 無し

レベル 8962

種族 吸血鬼(真祖)

状態 通常 (残魂160070243 ↓2)

HP 68800

MP 74000 ↓200

称号 真祖の吸血鬼オリジンブラッド 国崩し 太古の英雄 悪魔殺し 神に装備を送られし者

技能 鑑定 吸血 完全再生 黄泉帰り 思考加速 身体完全制御 亜空間宝物殿 全言語完全理解 眷属召喚


――――残魂というのが2つ減っている。


これは吸血鬼にも容易に理解できる。クローディアの暴走時に二度ほど頭を吹き飛ばされた事が原因だとすれば、死んで再生するたびに吸血鬼の中の魂が減るのだろう。


だがその魂の数自体が凄まじい。一億六千万である。


「……昔は俺も若かったな」


と若気の至りで済ませようと現実逃避気味になり、


「いや、外見は若いから今でも若気の至りですむのではないか? 肉体年齢に精神年齢は引っ張られるから……」


などとブツブツと呟き始めた


他の変化といえば精神力の200低下である。

だが何に使われたかは定かではない。これは吸血鬼の中で検証することが決定された。


残った変化は称号の欄である。まず間違い無く『神に装備を送られし者』が先の現象の答えであろう。状態も装備最適化中から通常になっていることからほぼ確定であり、現在のこの装備が彼にとっては最適であるという事だろう。


何故隠していたのかと神を問いただしたかった吸血鬼だが、たとえそれが叶ったとしても『汝に問われなかったが故に』という様な返答が返ってくるのを想像してそれ以上考えることを辞めた。


ほんの数時間前まで神を信じていなかった彼がこんなにもアッサリと神を受け入れてしまうなどと誰が想像できたであろう。だがそれも仕方がないのかもしれない。世界自体が神で、感情すらも神だと言われては最早どうしようもない。


世界に生きる以上神の掌の上で踊るしかないと宣告された様なものだからだ。ただ、たとえそうあり続けるしかないのだとしても彼は『この世界は前より刺激がありそうだから』という理由で受け入れてしまうのだが。


(さて、今必要なのはこの鑑定結果――ステータス画面とでも呼ぶ事にする――に対する知識だ。目下この知識を得られる有力な情報源はあの三人娘のみ。どうやって情報を引き出すのが最も効率的だろうか………)――――


と、永い時を孤独に過ごしてきた吸血鬼は一度思想に耽ると意識がかなり散漫になる。今まではそれでも常に独りだったから全く問題は無かったが、この時ばかりは油断していた。


「お兄~さん♪ 何考えてるの?」


と三人娘のうちの一人、――名をフェニーチェという――が吸血鬼に背中からひしっと抱き着く。彼女は右足の単純骨折と脳震盪のみだったため三人娘のなかでは最も軽症であった。


そのフェニーチェは何の警戒心も無く吸血鬼へとそのしなやかな体をすり寄せる。


その事には全く反応を見せず、吸血鬼は思考をしながらぽつりと答える。


「いや、少し鑑定結果についてな…………ん?」


この時ようやく吸血鬼はフェニーチェの方へと振り向く。

かくしてそこには幼子が初めて絵本を読んでもらったかのように眼を輝かせたフェニーチェがおり、


「お兄さん鑑定使えるの!?」


と、とても興奮した様子で吸血鬼に詰め寄るが、


「ちょっと、落ち着なきゃだめじゃないフェニーチェ。兄さんが困ってるでしょ?」


クローディアが興奮したフェニーチェの襟首を片手でむんずと掴み、持ち上げた。


「あ、あれ? フェニーチェってこんなに軽かった?」


とはクローディアの言。本人は引き剥がすだけのつもりだったようだ。しかし彼女はもはや人ではなく吸血姫。肉体的にはアンデッドに近いため脳のリミッターなどとうの昔に外れている。


恐らく今の彼女は腕力はシンが元いた世界にいる人の成人男性のそれを上回っているだろう。


その事を吸血鬼はクローディアに話すと彼女は脳のリミッターうんぬんは理解しかねる様子だったが最後の部分だけは理解したようだった。


その間のフェニーチェはと言うと……


「うにぁ~~離してにゃぁ~」


借りてきた猫のように大人しかったそうな。


さて、ここまでは吸血鬼の策はとても上手く行っていた。しかしこの後、彼の策は瓦解することになる。彼の背後から忍び寄せる、小さな影によって。


その影は吸血鬼がクローディアとフェニーチェの方へと視線を向けている内に反対側からいそいそと彼の胡座をかいている膝の上に上半身を乗せ、頭を膝に乗せて、気の抜ける声を出しながら彼が最も避けたいであろう話題を振ってきた。


それすなわち――――


「うにゅぅ~。で、鑑定が使えるって本当? お兄ちゃん」


ということである。


吸血鬼は鑑定結果の事を意図せずフェニーチェに言ってしまった際、彼女の反応から『鑑定は何かしらの特別な、或いは曰く付きの技能である』とあたりを着けた。彼女の反応から推測しるに前者でほぼ間違いないのだが、どちらにしろ面倒なことになると考えた吸血鬼は何とかしてフェニーチェの関心を別の何かに反らし、先ずはレベルやHPなどの共通項目の説明を受け、その上で記憶喪失等を理由にしてその他諸々の情報を収集してしまおうというのが吸血鬼の策であったのだ。


そしてフェニーチェはクローディアに捕まり、クローディアと脳のリミッター云々などの小難しい話をする事でフェニーチェの意識は完全に鑑定のことから逸れた筈だった。


だが二人に気を取られたことによって三人娘の最後の一人、――名をディアーチェという――に接近を許し、最もして欲しくなかった質問を最悪のタイミングでされてしまった。


この質問によってフェニーチェの意識が再び鑑定へと戻り、クローディアも鑑定の下りは聞いていなかったのかフェニーチェを放してチラチラとこちらを見ている。


吸血鬼の策が完全に瓦解した瞬間であった。


今更だが三人娘の吸血鬼に対する接し方は兄であるらしい。本当に今更だが。


ともあれ、これはもう自身の事を一切合切話してしまった方が後々楽だし面倒なことにも成りにくいだろうとこれまでの無駄に圧倒的な人生経験から統計した吸血鬼は


(仕方がない。これも何かの縁だろう)


と吸血姫となったクローディアだけではなく、フェニーチェとディアーチェにも自身の身の上話をすることにした。


大昔に吸血鬼に成ったこと、多くの人を殺したこと、ここ二千年ほどはほとんど知識を貪る事しかしていなかった事、神に会って異世界から来たことなどを全て話した。彼は彼女達から化物と恐れられ、逃げ出すかと予想していたが――――――――彼女達は、誰一人としてその場を動く事は無かった。


吸血鬼は、誰も何も喋らないのを見て


(流石に少し突拍子もない事を話し過ぎてしまったな)


と考えた。人間だった頃の感覚はもう遥か昔に置いてきてしまったが、もしも自分が何も知らない一般人だったとして、


「私は異世界から来た何万年も生きている吸血鬼です」


なんてどう見ても二十代前半の男が言って来れば明らかに異常者として通報するだろう。


とても信じられる話ではない。故に吸血鬼は謝罪の言葉を口にする。


「済まん。とても信じられる話ではなかったな。許せ、そしてこの話は忘れろ」


そう言って吸血鬼は腰を上げようとするが、その手を透き通るような白く、折れてしまいそうなほど細い手が掴んだ。


吸血鬼がその手の持ち主に顔を向けると新雪のような輝く銀髪と美少女と言って差し支えない美貌を持ち、澄んだ湖のようなスカイブルーの右目と、それ自体が高貴な空気を産み出しているかのように錯覚させられるほどの金色の左目を持った少女――ディアーチェが何故かその瞳に涙を溜めて吸血鬼の事を()ていた。


そして少女は言葉を紡ぐ。それは彼女の吸血鬼に対する言葉であり、この場にいる皆に対する独白でもあった。


「私はね、生まれつき体があんまり強くなくて、体力も同世代の村のみんなよりも無かったから皆から『弱虫アーチェ』って言われて仲間外れにされたりして苛められてたの。」


ここでフェニーチェが心配そうな顔でディアーチェに言う


「アーチェ、その話は」


話さなくてもいい、と言おうとした所でディアーチェは首を振る。


ここで考えられるのは

フェニーチェがディアーチェの心労を気遣って話を止めようとした場合と

ディアーチェが話すその苛めにフェニーチェも加わっていて口止めをしようとした場合だが、


今回は言わずもがな前者である。フェニーチェのあの顔は人を脅したり揺すったりする心根の暗い者の表情ではない。


吸血鬼の考えを肯定する言葉が再びディアーチェの口から語られる。


「ううん、いいの。お姉ちゃん。それに、お姉ちゃんがあんなに鑑定の技能に反応した理由もお兄ちゃんに教えなきゃ。」


「無理に話さなくても良い」と言いかけて、辞める。ディアーチェの表情が、自分の過去を話そうとするその顔が、あまりにも真剣で、あまりにも真摯でこの覚悟を汚すのは無粋だと、吸血鬼にしては珍しく何百年来のある種の感動を覚えてしまった事に心のどこかで納得しつつ、吸血鬼は彼女の言葉の続きを聞く。それほど今の彼女の、ディアーチェの心根は美しかった。


かくして少女は己の過去を語る。


「苛められる度にお姉ちゃんに助けて貰ったんだけど、双子なのにお姉ちゃんは村の皆の誰よりも強くて速いのに、何で私だけこんな体で産まれたんだろうって、お姉ちゃんに助けられたり、皆から笑われる度に思ってた。それでも少しでも強くなろうとしてたんだけど、やっぱり強くなれなくて……そんな日が続いたある日にね、村では中の上くらいの強さの男の子たちが三人組で私の所まできたの。

『強くなる方法がある』って言われたからその時の私は何も考えずにホイホイ着いていっちゃって、森の中まで入ったところで散々虐められて、『お前は顔だけは姉に似て良いから使うだけ使ってやる』って言われて乱暴されそうになったんだけど、間一髪の所でお姉ちゃんが助けてくれたの。

その男の子達は牢屋に入れられたけど『男達がそこそこ強くて私が弱いから』って理由で二週間もしないで釈放されたの。私もうお姉ちゃん以外誰も信じられなくなっちゃって……本ばっかり読んでたある日にね、魔獣討伐の依頼を受けたっていう冒険者のお姉さんが私を見て『真偽眼なんて珍しい技能を持っているのね』って言ったの。

最初は何の事か分からなかったんだけど、お姉さんが鑑定のスキルで私の技能に真偽眼があるのを見たって聞いて、慌てて自分のプレートをみたら本当に真偽眼の技能が増えてた。

真偽眼はこの左目で見た相手が言っている事が真実か嘘かが判る技能なの。だから犯罪や揉め事が起きた時に誰が悪いのかが簡単に分かるから村の皆から頼りにされるようになったんだ。

まぁ結局大型の魔物に襲われて村は全滅。命からがら逃げ延びたけど奴隷商に捕まって商品として売られる予定だったんだ。その途中でヨルガリウスに襲われて逃げる為の生き餌としてクロお姉ちゃんとお姉ちゃんと一緒に馬車から投げ捨てられる寸前だったの。

だからお姉ちゃんと私は鑑定の技能に感謝してるしお兄ちゃんにはもっと感謝してるんだ。」


(成る程。確かにフェニーチェとディアーチェは名前が似ているし二人とも美少女だ。目鼻立ちも改めて見れば似ている。フェニーチェはかわいい系、ディアーチェは綺麗系の美少女だな。)


と、吸血鬼は一人でうんうんと納得する。


だが――――


「でもね……」


――――ディアーチェが涙した理由が、未だ語られてはいない。

吸血鬼がそれに気付くと同時に、ディアーチェは白状するように言葉を口にする。


「お兄ちゃんが話してる間、私ずっとお兄ちゃんのこと真偽眼で視ていたの」


その言葉にクローディアとフェニーチェは驚愕した顔をする。


この世界では人の感情を読み取る類いの技能ば相手の同意を得るか犯罪摘発などのやむを得ない場合のみに使用するのがマナーだ。無闇矢鱈と感情を読む人を好く人など何処にもいない。


人は誰しも、後ろ暗い事や隠しておきたいことの一つや二つは必ず持っているものだ。


だがディアーチェは吸血鬼に対し、命を助けて貰い、尚且つ応急処置とはいえ治療を受けた身でありながら真偽眼を使用したという。


本来ならばマナー違反どころの話ではなく、礼儀知らずや恥を知れと罵られても文句の言えない行為である。


だが彼はそれを許した。礼儀よりも相手の事を知ることの方が大切な時があると。

そして彼は少女の言葉の先を促す。


「それで? お前が泣いた理由は何だ? 真偽眼を使ったから怒られるとでも思ったのか?」


言いながら有り得ないと自分自身で否定する。もし仮にそうだとするならば黙っていれば良いだけの話だ。他に何かしら理由があるはず。


そして彼女は堰を切ったかのように泣きながら言葉を続ける。


「だって! ……だってあの話が全部……全部本当だってことは……グスッ……お兄ちゃんは何年も何十年も何百年も何千年もずーっと独りぼっちだったって事なんだよ!? …………家族だって友達だって……ヒック……うぅぅ……グスッ……知ってる人達だって皆お兄ちゃんを置いてきぼりにして行っちゃうんだよ? ……そんなのが永遠に続くなんて……お兄ちゃんが可哀想だよ……グスッうぅ……」


そう言ったままポロポロと涙を零して泣き出してしまった少女を前に、吸血鬼は何故か胸が締め付けられるような温かいような、忘れてから随分と久しい感覚を味わっていた。


(まさかこんな化物のために涙を流す者が居るとはな。この世界は存外捨てた物ではないらしい)


泣きじゃくる少女を見て、彼女がさっき言った言葉を吸血鬼は思い出す。


(孤独なのが可哀想、か……)


人間でいることを辞めてから、何時からか感じなくなっていた感情。


(寂しいか……。ずっと傍に居てくれる者を……本当は求めていたのかもしれないな……)


ふと泣き止まぬ少女の声が大きくなっていることに気が付く。いや、音は確かに大きくなったがそれは泣き声が大きくなったからではない。


泣き声を出す少女が増えただけのことだったのだ。

吸血鬼が左右を見るとクローディアもフィアーチェも泣いている。


仕方無く真祖の吸血鬼は三人娘を抱き寄せて頭を撫でて落ち着かせる。


どんな攻撃もものともせずに再生し、単騎で国すら落とす最強最古の吸血鬼も、どうしようもなく優しい心を持ち、化物のために眼から涙という名の清い心を映す雫を止めどなく溢れさせる少女達には、慈しむような紅い瞳を向けながら、ただ安心させるように頭を撫で続けるしかないのであった。


彼等の旅は、ここから始まる。場所は草原、風は北西、季節は不明。だが空には、綺麗な星空が瞬いていた。

まだまだ続く(予定)です。ヒロインの三人娘、まだ一人しか細かい描写してないけど徐々に出していきます。「こんなクソみたいな描写で分かるかよ!」という人と「テンポ遅ーんだよくそが!」という方はブラウザバック推奨です


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