10 力と絶望
指が痛くなっちゃった&ネタがそろそろ思い付かん
という作者の超自分勝手な都合により不定期投稿に致します
(´・ω・`)ゴメンナサイ
シンと三人娘は食堂に下りてダムルの作ったボリュームのある昼食を食べると再び部屋に戻った。
ちなみに昼食は『ソフトスネークのテイルスープ』、『連鳥の炭火焼き』、『チーズトースト』というメニューであった。
料理の選択が可能なのは夕食のみらしい。確かに毎食選択制にしたらダムルが過労で倒れる事は目に見えているので正しい判断だろう。
部屋に入ったシンは再び眷属召喚にてメレクとカロメウェ、ロフォカレ、そして8才位の小さな少女と15歳位の少女が現れた。
三人娘は早くも慣れたのか、それともシンの非常識に諦めたのか特に反応は見せなかった。
「あ! おにぃ! 久しぶりー!」
わーい! とシンに飛び付いてコアラの様になった小さな少女に
「あ~。主様だ~。おひさ~。」
と間延びした言葉遣いののほほんとした雰囲気を持つ少女がシンに小さく手を振った。
「そうか、お前達も起きていたんだったな。丁度良い、現状の確認をしたいと思っていたところだ。そこにいる三人娘に自己紹介でもしておけ」
そう言いながらシンは自分に引っ付く少女を剥がして宝物殿を開く。
「うーんと、お姉ちゃん達とは初めまして、だよね? リアはね、ロワリュアレっていうの! リアって呼んでね!」
「私の名前はリガウロス~。呼びに難かったらリロって呼んでね~」
「私の名前はクローディアと言います。宜しくお願いしますね、リアちゃん、リロさん」
「うん! 知ってるよー! こっちのお姉ちゃん達がフェニーチェとディアーチェって名前なんだよね?」
「主様の中で聴いてたからね~、知ってるよ~。でも主様は私達のものだから~、簡単には渡してあげな~い」
そう言ってシンに抱き着こうとするも、シンが宝物殿から取り出した大きな袋をリガウロスの前に出したため、袋に抱き着く形になった。
「さて、自己紹介も済んだことだ。現状の確認と今後の予定を立てようじゃないか。」
シンがそう言うと皆椅子に座ったり、ソファーに腰かけたり、窓枠に座ったり、壁際に寄りかかったりと、各々リラックスした雰囲気になる。
「よし、先ずは現在の所持金の合計額だ。違法奴隷商の全財産だった金だ。ロワリュアレ、どの金が何枚あるか数えてくれ」
そう言ってシンはテーブルの上に袋の中身をぶちまけた。
出てきたのは様々な色をしたコインの数々。
ジャラジャラと音を立ててテーブルの上に出された大量のコインを見て、シンから数えてくれと言われたロワリュアレはしかしその問いに即答した。
「半銅貨13枚、銅貨28枚、半青銅貨23枚、青銅貨41枚、半銀貨7枚、銀貨56枚、半金貨35枚、金貨163枚、あと何か白いやつが11枚に黒いやつが6枚、キレイな赤いやつが4枚あったよ。全部で387枚だね!」
「なるほど、ではその白いやつを白金貨、黒いやつを黒金貨、綺麗な赤いやつを紅貨として計算すると合計いくらになる?」
この問いにもロワリュアレは即答する
「997万と43G! わぁ、いっぱいだぁ!」
ロワリュアレは無邪気に喜んでいるが三人娘は驚いた表情でロワリュアレを見、次いでシンを見た。
「ロワリュアレは地図の悪魔だ。そしてその力は『測定』、ありとあらゆるものを測る事ができる。能力の性質と宿った物の性質が混ざったのか、演算能力や視力が高くてな。今の様に見た物を一瞬で数えたり、計算したりできる。」
つまりスーパーコンピューターが頭の中に入っているようなものだ。
但し、面倒な操作など必要無く、即座に結果を叩き出す特別仕様だが。
「そんなことより今は現状把握が先だ。今手元に有るのは約一千万G、そして場所はエカルヌス大陸の要塞都市バルガド。海が近いらしい事から内陸ではなく、アリアの言からして内陸に街か都市、首都と呼べるようなものがある。問題はここ以外の地理を知り得ていないことだったが・・・」
シンがロワリュアレを見ると、
「任せて、おにぃ! 三日あれば作れるよ!」
と笑顔で返す。
「三日か………その144時間でカロメウェと俺はこの世界の常識や細かい情報を修正して覚えよう。カロメウェの力を使えば比較的早く覚えられるだろう。他はそうだな、メレクとロフォカレ、リガウロスは俺の中で待機。クローディア、フェニーチェ、ディアーチェはどうするか自分で決めろ。」
そう言われた三人娘は暫くの間考えている様子だったが、ほぼ同時にシンを見た。
果たしてその瞳は前の世界では最近見ることの無くなった、生きるための覚悟と決意が混ざったような歪で、しかし見るものに畏敬を抱かせる宝石の如く澄んだ色をしていた。
その凪いだ湖面のような、燃え盛る焔のような瞳を見たシンは僅かに、本当に僅かに、しかし確かに眼を見開いた。そして三人の言葉を待つ。
実際には一瞬だったであろう長い長い刹那の後、三人娘はシンにこう言った
「「「私は強くなりたいです」」」
「だから、力の使い方を教えて下さい」
「だから、稽古を付けて下さい」
「だから、強くなる方法を教えて下さい」
三者三様の答え。
しかし目的が同じこの願いに、様々な人の、獣の、人間の眼を見、様々な在り方を聞き、あらゆる末路を知った最古の吸血鬼はその紅い眼を細めて三人にこう問う
「それが、その生き方を選んだ結果が、苦痛と苦悩に塗れ、他者を蹴落とし、傷付け、憎まれ、後悔に溢れる最期になったとしてもか?」
シンのその自分の心の奥底を見透かすような、試すような、咎める様な眼差しを受けて、三人娘は言葉を詰まらせる。詰まらせてしまう。
しかしシンはそんな三人娘に向けて言葉を続ける
「人は誰もが一度は死ぬまでにどうしようもない世界の理不尽にさらされる。死の理由がその理不尽だった者なんぞごまんといた。そして誰もが理不尽にさらされた時、こう思う。『自分にもっと力があったら』とな。」
『力とは何か?』
この問いに答えられない者などいないだろう。誰しも産まれてから現在までにどんな形にしろ『力』を見た事があるはずだ。
そしてこの問いに対する回答は無数にある。筋力、財力、武力、社会的影響力、権力、体力、集中力、精神力、諦めない心、等々。これらはどれも正しい。力とは様々な姿があり、その種類と強さは膨大だ。
なればこそ問おうではないか。
『そも、力の原点とは何ぞや?』
何故に人は力を求め始めたのか?
その原点とは一体どこにある何なのか。
それは恐らく途轍もなく強大で、人が持つ力では解決不可能な事象だった事だろう。
理由すら無く突然発生し、対処不可能な、己の無力さを尽きる事無く感じさせる様な存在であった事だろう。
その原点を、人はこう呼んだのだ、―――『理不尽』と。
そして今回三人娘が得る事を望んだのは力。理不尽をもはね除ける為のただただ純粋な強い力だ。
そしてここで言う『理不尽』とは何なのか。現代日本における理不尽は大きく三つ。
すなわち地位、権力による理不尽と自然災害による破壊の理不尽、そして多数による理不尽だ。民主主義を掲げる先進国では数がものを言う。
それは正しく『数の暴力』という言葉を体現する社会であり、あらゆる数を大きくするために策を講じ、学び、考え、己が命を削って腐心する。
ではこの世界の理不尽はどのような理不尽なのか。
彼女達が体験し、恐怖し、はね除ける事を望む『理不尽』とはどのようなものなのか。
言うまでもない。それは『暴力』だ。魔物という破壊力の塊が生み出した絶大な暴力だ。抗う事を赦さず、逃げる事を赦さず、生きる事すらも赦さない。
圧倒的な破壊の暴力こそが彼女達が力を求める原点。そして『力』の中でも世界に生物が産まれたその瞬間に誕生したであろう暴力は、他の力とは違って同じ暴力でしか防ぐ事も、抗う事も、はね除ける事もできない。
故にシンの前に居るこの三人娘が力を求め、欲した原点が暴力であるならば、その理不尽をはね除ける為には自らも理不尽と並び立つ程の暴力を手にしなければならない。
しかし、しかしだ。
その力を得る為には、理不尽と言われる程の絶大な力を手に入れるにはそれ相応の犠牲を払う。
それが暴力という力ならば尚更だ。
故にシンは問う。言い聞かせるように、諭すように。
「お前たちが求めている力は、暴力と言われる相手を傷付け、恐怖させ、殺す為の力だ。どう言い繕おうと、これは変わる事の無い事実だ。ましてお前たちが求めている力は生きる為に必要な小さな暴力等ではない、見つかれば自分の命を諦めろと、そう教えられる様な理不尽に対抗し、確実にその命を奪い取る事が叶う様な、そんな圧倒的かつ絶大な力だ。違うか?」
シンが三人娘を見ると三人は力無く首を横に振る
「強い力というのはな、持っているだけで恐れられ、忌避される。何故か?それはな、誰もが求めて止まないものだからだ。何故強い力を『強い』力と呼ぶのか? それはな、弱い力しか持ち得ない者が大半だからだ。まして理不尽をはね除ける様な絶大な力を持っている者は強い力を持っている者の中でも一握りもいない。ひとつまみいるかいないかの世界だ。そうでなければ、理不尽は理不尽とは呼ばれないからな。」
そこまで言うとシンはいつの間に出したのか、水の入ったコップを口元に持っていき、一口飲んだ。
「そして、理不尽を打ち倒す程の力を持つ者は理不尽と同じように恐怖され、避けられ、忌み嫌われる。その在り方がどうあれ、だ。お前達はそれに耐えられるか?他の者達から向けられる嫌悪にも似た拒絶の目を、強大な力を得たが為に孤独に満ちた人生を歩む事を。お前達が力を得たいと言うならば問おう、お前達に力を得る覚悟は本当にあるのか?」
そう問われた三人の目は、しかし未だに、否。先ほどよりも尚強い光をその瞳に湛えていた。その瞳を見たシンは一瞬固まるが、三人娘の言葉を待つ。
「兄さんの眼がどこか寂しそうだった理由が、少しだけ分かったような気がします」
「うん、アタシも少しだけどご主人様がどんな気持ちだったのか、分かった気がする」
「………? お前達、何を言って「後悔………してるの? お兄ちゃん」……。」
シンが三人の言ってる意味が分からないと問おうとした時、ディアーチェがシンの言葉を制する様に問う。
僅かに眉を上げたシンが、しかしその動揺をそれ以上表に出す事は無かったが、この三人にはそれで十分な反応であった様だ。
「やっぱり……。お兄ちゃんが寂しそうな眼で話す時の話って、お兄ちゃんが自分で体験した事じゃないの?」
「寂しそうな眼? 俺が寂しそうだと? 何を馬鹿な事を。俺は不老不死に近い真祖の吸血鬼で、悪魔すら眷属にする化け物だぞ。そんな感情があるはずが無いだろう」
そう口にするシンの瞳は、凪いだ海の底の様に静かで、しかしどこか冷たさを持った無機質な光を宿していた。
それは人を人とも思わず、命を奪う事に何の痛痒も感じず、ただ機械の様に数百万、数千万、数億という膨大な数の人の命を刈り取った男だけが見せる化物と呼ぶに相応しい、見ているだけで背筋が凍る様な眼差しだった。
だが、そんな眼差しを向けられた三人娘は、その瞳に涙を滲ませながらも強い光を湛えた瞳でシンを見ながら言う
「私、他の人にどんなに怖がられても、嫌われても、強くなる理由ができました」
「アタシも。ご主人様と同じくらい強くならなきゃいけなくなった」
「私も。人類を敵に回しても絶対に守りたい人ができちゃった」
そう言うが早いか、三人はシンを抱き締めた。
「な………お前達………一体何を」
している、とシンが言う前に、三人はそれぞれの理由を話す
「私、どんなに人に嫌われても兄さんの傍に居ます。兄さんの傍で、ずっと力になれるように、もうこれ以上、兄さんが寂しい思いをしないで済むように。だから私は強くなります。誰に何と言われようと、絶対に。」
「アタシも。ご主人様がこれ以上独りぼっちで生きて行かなくてもいいように、ご主人様と同じ場所を歩いて行ける位に強くなってやる!」
「お兄ちゃんがもう苦しまないで良いように。誰からも傷つけられない様に。自分の事を許せる様に。化物何かじゃないって、思える様に。お兄ちゃんの事、守ってあげられる位に強くなる」
「「「だから強くしてください!!」」」
そう言って頭を下げた三人娘に、シンは眼を閉じて言う
「……俺はかつて、力を求めた。理不尽を知り、理不尽を嫌い、理不尽を打ち倒す為に。そして悪魔は、そんな俺に理不尽を克服する力を、今尚全人類の悲願と言われる程の絶大な力を与えた。絶大な対価と引き換えにな。別に俺はそれに対して思う所は無い。ただ………ただ、かつて俺の抱いていた理想と現実が余りにも………そう、余りにも乖離していた。俺の願った理想は間違っていたと、そこで初めて理解した。俺がいくら世界を肯定しようが、世界は俺を否定する。分かるか? 地獄何てものはな、死後の世界には存在しない。地獄とは、人が、大勢の人々が個人に対する悪意の塊をぶつけた時に生まれるものだ。力を手にすればする程、それは大きくなる。ある程度までならば良いだろう、強くしてやる。だがな、俺と『同じ場所を歩く』だと? まして俺を『守る』だと? ふざけるのも大概にしろ。お前達の様に弱く、矮小で、何も知らん小娘が! 何かを守るだのと、救うだのと、簡単に口にして良い事ではない!!」
話す内にシンの身体から魔力が漏れ出す。
それは紅い霧の様な魔力ではなく、泥の様にドロドロとして、光すら飲み込む闇の様に黒い魔力。足元に垂れたその魔力は、徐々に広がっていく。
瞬間、ロフォカレが動いた。
「完全管理空間。その魔力には触れない方が良いですよ、お三方。」
ロフォカレが黒い魔力を膜の様に広げて部屋を包み、三人娘に声を掛ける。
だが三人娘は動かない。ここでシンから離れれば、何か大切なものを見逃してしまう気がしたから。
そして泥の様な魔力は三人娘を包み、三人の意識はそこで途切れた。
黒い魔力に包み込まれ、彫像と化した三人を見ながら、シンはその眼を細め、
「馬鹿共が………過ぎた力を求めた愚物の末路を、しかとその眼に焼き付けろ」
そう言って寝室のドアを荒々しく開け、戻っては来なかった。
残された悪魔達がそれぞれ顔を見合せる
「さーて、今回力を求めた嬢ちゃん達は正気で帰ってこれるかな~?」
メレクがおちゃらけた風にそう言うと、
「さぁな、賭けでもするか?」
と、カロメウェが賭けを提案する
「はい、はーい! じゃあ、私『ちゃんと戻って来る』に魂二十個!」
そうロワリュアレが元気に宣言すると、悪魔達が唖然とした。
「おいお~い、リアっちマジか~? 魂二十個ってざっと二百年分だぜ~?」
とメレクが確認し、
「しかも大穴に賭けるとはリアらしくもない。俺は『死ぬ』に魂5だ」
カロメウェがそう言うと
「じゃあ~、私は『発狂』に五個で~。流石に死ぬに賭けるのは~、悪い気がするもんね~。」
リガウロスがそう言ってカロメウェをチラッと見る
「あの嬢ちゃん達があれを見て耐えられると? 俺にはそうは見えんがな。」
「いえいえ、一見そうは見えない者が大成したというのは案外よくある話ですよ? という訳で、私も『正気で戻って来る』に二十賭けましょう。」
ロフォカレが未だに魔力を維持したままそう言う。
「マジか~、計算得意な二人がそう言っちゃうか~~。うーん、どうしよっかなー。……………よっしゃ! 決めた! 大穴も大穴、『三人とも正気で戻って来て、更に相棒にもう一度力を求める』に四十!」
今度こそ悪魔達は固まった。
「正気か?」という視線をメレクに向けるが、当のメレクは楽しげに笑いながら
「だってさ? 今まで相棒の所に大した覚悟も決意もなく、ただ楽して力を貰おうとして来た馬鹿なんて数えるのも馬鹿らしい位に見てきて、『苦しんでいる人々を救いたいんです』~なんて現実も見えてないゴミも沢山見てきたけどな? 『誰か一人の為だけに強くなりたい』なんて、そんな事言い出す奴居なかったじゃん。ましてその理由が自分が相手にもならない化物みたいな強さの奴が『寂しそうだったから』だぜ~? 面白いよ。だから賭けてみる。『万に一つも無い可能性』ってやつにさ。」
そうメレクが言うと
「確かに、今まで聞いたことの無い理由でしたな。ですが誰か一人の為に強くなるという事は、他の一切を顧みないということに他なりませんぞ。その事に彼女達は気付いておられるのですかな?」
「いんや~? 気付いて無いと思うぜ? だから相棒はこうしたんだろ。力を求めた亡者達の生涯と、その苦痛と絶望を教える為にな~」
「でもやっぱり、あのお姉ちゃん達はちゃんと戻って来るよ。今までおにぃの傍にいて、一番楽しそうで、一番悲しそうな眼をさせてたもん。あのお姉ちゃん達。」
「さて、どうなるのか。見物だな。」
カロメウェがそう締めくくると、ロワリュアレはシンがいつの間にかテーブルに置いて行った大きな紙とペンで何かを紙に描き始め、他の悪魔達はロフォカレを残して戻っていった。
「頑張れよ、嬢ちゃん達」
メレクが最後にそう言い残して融けるように消えた後、残されたのは黒い彫像と化した三人娘と、黒い魔力を維持しているロフォカレだけだった。
―――side フェニーチェ―――
何が起きたのか最初は分からなかった。
ご主人様が怒った様に声を大きくしたと思ったら、ご主人様の身体から多分魔力だと思うんだけど、水みたいな、泥みたいな黒いやつが流れ始めたんだ。
害意感知が小さく反応したけど、アタシは動かなかった。ううん、動けなかった。ここで逃げたら、もう二度と取り返しがつかない様な気がしたから。
ロフォカレ? さんが触らない方が良いって良いながら何か魔法みたいなのを使ってたけど、あんな魔法見たこと無い。
アーチェなら知ってるかな? と思ったけど尻尾がピーンッて立ってたから何か凄い魔法だったのかもしれない。
そんな事を考えていたら足にその黒い泥が触れて
(あ、ひんやりしてちょっと気持ちいいかも)
とか思ってら目の前が真っ暗になっちゃった。
「良し! 現状確認終了! ……………で、結局ここどこだー!?」
とアタシが叫ぶと声が反響した。
あれ? 反響するってことはどこかに繋がってる?
洞窟みたいな閉じた場所だと声が反響するって村の大人達が言ってたのを覚えてる。
なら後は動くだけ。
そう思ったアタシの頭の中に映像が流れ込んでくる
「な………何? ………これ……………記憶?」
それは、ある男の記憶――――――――――――
男は子供の頃、両親と共に幸せな毎日を過ごしていた。
朝は早く起きて、父と一緒に広い畑を耕して野菜を育て、朝食を食べたら昼まで近くの家の友人達と追いかけっこなどの遊びをして過ごし、夜まで働く父の代わりに体の弱い母と家の中で保存食や編み物を作り、たまに塩漬の材料にするための獲物を狩りで獲って来る。
そんな穏やかで平和な日々を過ごしていた。
そして男が12歳となったある日、男は出逢う。少し離れた家に住むという可愛らしい少女に。
一目惚れだった。少女は男に気が付くと穏やかに笑い、手を振る。
それを見た男は動悸が高鳴って行くのを感じ取りながらも辛うじて手を振る。
それを見た少女は花が咲いた様な可憐な笑みを見せた。
時が経ち、男が16歳となった日に、遂に男は意を決して少女に告白をした。
少女は涙を見せながら男に抱き着き、自らも一目惚れであった事を告白する。
そして男と少女は結婚し、幸せな家庭を築き、老いて死ぬ。
そんないくらでもあるような、平凡で、平穏で、平和な人生である――――筈だった。
森から出た男が見た光景は、焼ける様に赤く染まった空。
もうすぐ日暮れという時間。何もおかしな事などない。
ただ、街中が火の海と化し、もうもうと立ち上る黒煙と、人々の悲鳴と怒号が鳴り響き、遠目に見えるまだ幼い子供が、他国の兵が降り下ろした剣によって頭を落とされる様な地獄絵図の様な光景で無ければ、の話だが。
次に男が見たものは、火を吹き上げる自分が産まれ育った家。
脳裏に過ったのは、体の弱い母が倒れ、灼熱の炎を生きたまま焼かれる光景。
男は一も二もなく炎を上げる家に飛び込んだ。
そして男が見たものは――――――――――――――――引き裂かれ、破かれて、布切れと化した服を身体の周囲に散乱させ、身体中を白濁と紅に染め上げられて、まるで潰されたカエルの様な体勢で床に打ち捨てられた――――――母の無惨な姿であった。
そしてその傍らには、愛を誓い合った少女の姿もあった。
その身体はやはり白濁と紅に染め上げられ、四肢には剣がまるで床に張り付けにされるが如く突き立てられていた。
何があったかは明白だ。語るまでも無い。
男は思い出す、少女が昨日に今日家に来る事を話していたことを。
狩りから帰って来た自分に温かい料理を食べさせてあげたいからと、自分に向かってはにかむ、その幸せそうな表情を。
男は見る。
一体何人に相手にされれば、こんな酷い有り様になるのか想像もつかない惨状の中心にいる、少女の顔を。
白濁と涙で塗れた、絶望したその表情を。
光を失い、濁ってしまったその瞳を。
――――誰だ?
誰がこの地獄を生み出した?
誰が母と愛する恋人を絶望の中で死なせた?
俺か? 俺が狩りに出なければ………いや、もっと根本的な原因がいる。
――――敵国の兵だ。
敵が攻めてさえ来なければ、皆幸せに暮らせていた。
じゃあどうする?
――――敵ならば、殺さなければ。
相手は敵だ。殺しても誰も咎める事はない。
どんな風に殺す?
――――当然絶望の中で殺す
産まれて来た事を後悔する様な、苦痛という地獄の中で殺してやる
その為には何が必要だ?
――――力。
そう、力だ。他を圧倒する絶対的な力。相手を絶望させる様な圧倒的な力が必要だ。
だが……………
俺にはそんな力は無い。
いくら鍛えた所で、圧倒的な力など………
「ならば、圧倒的な力を持っている者から分けて貰えば良い。そうは思わんかね?」
そこで男は気付いた。
自分の前に貴族の様な上質な服を着た男が立っている事に。
涙で霞む視界のせいか、顔は見えない
そこで家の支柱が限界を迎えたのか、とうとう崩れてきた。
炭と化した天井が炎と共に落ちてくるのをゆっくりと進む意識の中でどこか他人事の様に感じながら、男は腕の中で眠る恋人だった死体を抱き抱え、誓う。
今度産まれ変わったら、君と母を殺し、辱しめた全てを壊し尽くすと。
「そうかそうか。ならば、君に良いものを見せてあげよう」
圧縮された意識の狭間で、貴族の様な男がそう言うのを、男は確かに聞いた。
貴族の様な男が腕を天井に向かって一閃。
それだけで、天井は冗談の様に吹き飛んだ。
何が起きたのか正しく把握できない男に貴族風の男は言う
「こんな力が欲しくはないかね? 君から全てを奪った奴等の全てを奪いたくはないかね? ――――――『復讐』を、したくはないかね?」
そう言いながら服の内ポケットから細長いガラス菅に入った血の様に紅い液体を取り出し、男に差し出した。
こうして、一騎当千と謳われた英雄が生まれた。
童話や物語では英雄はお姫様と幸せに暮らして話は終わる。
――――では、現実では?
敵国の軍勢を単騎で薙ぎ払い、敵の総大将の首を取るその姿を、敵であれば一切の容赦無く追撃し、戦場を地獄絵図へと変貌させるその姿に、人々は畏怖し、英雄と讃えた。
だがそれはつまり、一人で軍勢と同じだけの戦力を保有し、自国が敵だと見なされれば、クーデターも起こりうるという事に他ならない。
当然国の上層部は面白くない。どうにかしてその力を制御しようとする。
そして他国を悉く打ち倒した男は、国が成長を遂げ、安定し始めた事で食事をする為の戦争が無くなった事に気付いた。
そして、血を飲む事ができずに渇き、飢えた男は闇夜に紛れて人々の血を啜った。
その事実が上層部に知られ、男は身体中を拘束されて地下に幽閉された。
だが飢えた吸血鬼はその本能を押さえる事ができずに自らの身体を八つ裂きにする事で拘束を外し、城の外に出た。
徐々に再生していく肉体を引き摺りながら城を離れ、郊外へと出た男は墓場へと辿り着いた。
果たしてそこには一人の老人が墓の前で祈っていた。
男は久しぶりの食事に我を忘れ、老人に襲い掛かると首筋を噛み千切り、流れ出す血を犬の様に啜った。
渇きを潤した男は血で汚れた口元を拭い、殺した老人の顔を見て動きを止め、膝をついた。
「と………父さん?」
そう、男が殺したのは男の父親。
あの日、街を守る為に騎士として戦い、重傷を負って一月後に目覚め、妻と息子、それに息子の恋人を亡くした哀れな男だ。
怪我の後遺症から戦う事は無理と諦め、墓守として妻と息子の恋人の墓を見守っていた男だ。
遺体すら残らなかった息子がまだどこかで生きているのではないか、母と恋人の墓参りをしに自分の前に現れるのではないかと、日に日に老いて行くのを感じながら待っていた、家族に置いて逝かれた男だったのだ。
そして昔の面影を残す老人の死体を前に、男は泣き、哭いた。
自分は憎悪に囚われ、殺意に塗れ、盲執に浸かり切った化物だったのだと、男は初めて理解した。
そして、十数年前と同じように自分の前に立ったのは、黒い髪に黒い服、黒い眼鏡を掛けた、死神の様な男だった。
死神が問う
「どうした? 何故泣く、化物よ。あの雑魚に変えられた哀れな犬よ。お前は望んで成ったのだろう? 進んで殺したのだろう? 求めた力を得たのだろう? 父親の血を啜る事を選んだのだろう? ならば何故哭く? 願ったものになり、求めたものを得て、望んだ事をしてきたのだろう? ならば喜べ。ならば笑え。それらは全て、お前が望んだ事だ。」
「違う!」
「いいや、違わない。お前が成した結果だ。」
「違う! 俺は………俺はただ「復讐をしたかった」!?」
「だろ? 何が違う? お前はただ、復讐がしたかっただけだ。別に悪い事ではない、他人に何かをしてそれが自分に返ってくる事はよくある。気にするな。」
「俺は………もう………死にたい。」
男の力ない懺悔に死神は問う
「何故だ?」
「守る者が居なくなってしまった。生きる意味を、失った。もう彼女の所へ逝きたい。頼む、俺を殺してくれ。俺を変えたあの男を雑魚だと言ったあんたなら出来るだろう?」
「そうか、もう死にたい………か。良いだろう、ならば殺してやる」
「ありがとう、これでやっと俺も彼女の所へ逝ける。」
安らかな顔で死を待つ男を前に、しかし死神は踵を返してこう呟いた
「亡者共、黄泉の河に引き摺り込め」
「? ………何をッ!?」
男の足元、否。目に見える範囲が全て紅い大地に変わった。
そして現れる無数の死を具現化した様な亡者達。
血の湖から這い出るそれは、正しく地獄からの遣い。
「な、何だこれは!? よせ! 止めろ! 離せ! 離せえぇぇぇ! 死神! どういう事だ!!」
「どういう事かとは? 言っている意味が理解できないぞ、犬よ。」
「これは、これは怨念だらけの亡者共だ! 俺は彼女の所に逝かなければならないんだ!! 彼女にもういちd」
そこまで言った所で男の記憶は無数の血塗れの手足に埋め尽くされて途絶えた。
最期に見た死神への怨念を募らせながら………
残された彼は老人の墓を作って死体を埋めた後、一人呟く
「『守る者が居なくなった』だと? 自分で殺した化物が、今更愛した者と同じ場所に逝ける等とよくも考えられたものだ。獣の道に堕ちた犬畜生め、貴様は未来永劫天に召される事等ありはしない。俺達化物は、そういう存在なのだからな」
ここで映像は切れた。
同時に胸を押さえてうずくまるフェニーチェ。
その瞳からは大粒の涙がポロポロと流れていた
(何? これ………心が、痛い。記憶の持ち主の痛みなの? それにこれ………心が悲鳴を上げるようなこの感覚………これが………絶望? これが力を得た代償なの? こんなの………力が無い方がよっぽど………!?」
ここでまた新たな記憶が流れ込んで来る
一人目の記憶は終わった。だが力を手にした結果が絶望などよくあること。
フェニーチェの、三人娘の絶望を知る長い旅は、まだまだ始まったばかりだ。
こんな切り方にしちゃって続きどうしよう・・・
だ、大丈夫!「俺達の冒険はこれからだ!」的な事にはならない(筈)だ!
あ、後さっき久しぶりに見たら7000PVと1800ユニーク越えてました。
ありがとうございます!




