秘めたる想い
「…………わぁ」
ある休日の昼下がり。
鏡の前で、思わず声がこぼれ出る。自分の部屋の鏡の前で、薄桃色を基調としたフリル付きの衣装を纏う自分に対してで。
……なに、してるんだろうなあ、僕は。男なのに、可愛い服を着て一人でウキウキして。……うん、分かってる。気持ち悪いってことくらい、自分でもずっと以前から分かってる。
いつからか、可愛いものが好きだった。きっと、物心つく以前からだったと思う。服も、ぬいぐるみも、キーホルダーも、文房具も、とにかく何でも可愛いものが好きだった。
だけど、小学一年生の春――正確には、入学した次の日のことだった。
『えっ。お前、男のくせにそんなん使ってんの?』
『……うっわあ。女の子だったらいいけど、男の子がそういうの使うって……ちょっと、気持ち悪い』
一限目の授業中、近くの席の男の子と女の子から言われた言葉。理由は、僕が可愛いキャラクターのプリントされた鉛筆を使っていたからのようで。そして、このような反応はこの二人だけでなく、他の多くの子達からも同じ感じで。だけど、最初は理由が分からなかった。なんで、可愛いキャラクターの鉛筆を使ったらそんなふうに言われるのか、この時はまるで分からなかった。
――だけど、そんなある日のことだった。一人でお使いをしていた帰り道、通りかかった公園で遊んでいたクラスの子達に偶然会って。それで、嬉しくなって公園の方へと駆け出して――
『――こっち来んな、変態!』
『…………え?』
ピタリと、足が止まる。……いや、足だけじゃなく呼吸も。……変態? どゆこと? なんで、急にそんなこと――
だけど、叫んだ男の子だけじゃなくて、他の男の子も女の子も、みんな僕を同じような――何ていうか、信じられないようなものを見るような目で見ていて。ずっとお気に入りだった、フリフリの付いたピンク色の可愛いお洋服を着ていた僕を。
そこで、流石に分かった。男の子の僕が可愛いものが好きだと、気持ち悪いと思われてしまうんだって。男の子の僕がこういう可愛い服を着ていると、信じられないような目で見られてしまうんだって。嫌悪、軽蔑、恐怖――後から思えば、この時の僕に対しみんなが抱いていたのは、きっとこういう種の感情だったんだと思う。
だから、止めようと思った。可愛いものを好きになるのは、もう止めようと思った。そうしたら、もうみんなから嫌われないはずだから。みんな、仲良くしてくれるはずたがら。
……なのに、できなかった。可愛いものが好きな気持ちも、可愛い服を着たい気持ちも、無くそうとすればするほど、いっそう強くなっていった。この気持ちを無くしてしまったら、もう自分じゃなくなるような気さえして。
――だから、諦めた。この気持ちを無くしてしまうことを、きれいさっぱり諦めた。そして、それ以降は他の人にはバレないように楽しんできた。可愛い鉛筆は家の中だけで使ったり、可愛い服は家の中、もしくは学校から遠く離れた辺りへの外出時だけで着たりと、そんな感じでこっそりと可愛いものを楽しんでいた。そして、それは高校二年生になった現在もずっと続いていて。




