第1話 学校一可愛いギャル姫
青春とはよく、友情や恋愛、決して忘れることのない美しい思い出など、色とりどりに彩られたページのようなものだと言い表される。
だが、もし誰かに青春を表現しろと言われたら、俺はたった一言でこう答えるだろう。「面倒くさい時期」だと。
俺の名前は、宇佐美 秋穂うさみあきほ。ここ埼玉県のはずれにある高校の、一年生だ。
入学式の日から、俺は自分の人生において一つの絶対的なルールを設けている。
そのルールとは、『絶対に誰とも友達にならないこと』だ。
いかにもスカしたぼっちの宣言に聞こえるだろう?
だが、これには極めて合理的な理由がある。俺は小学生の頃から、ずっと転校を繰り返してきた。今は東京で忙しく働き、月に一度しか帰ってこない両親の仕事の都合で、俺は常に新しい環境への適応を強いられてきたのだ。
友達を作り、親しい関係を築いても、最後には必ず別れが来て、距離のせいで忘れ去られてしまう――そのサイクルにはもううんざりだった。
俺にとって、友達を作ることはただの時間の無駄だ。どうせ最後にはまた転校するんだから。それなら、もっと確かなものに時間を費やした方がいい。例えば、洗濯機とか。衣服の清潔さのほうが、人間関係なんかよりよっぽど信頼できる。
―――そう思っていた。少なくとも、先週末に奇妙な出来事が起こるまでは。
「おっ、おい……見ろよ! 白川さんだろ? 今日もめっちゃ可愛いな」
「マジでうちの学校ナンバーワンのギャル姫だよな。あの気品あふれるオーラ、他の女子とは全然違うぜ」
「隣を歩いてる天海さんも超可愛い! はー、朝から目の保養になるわー」
正門を通り抜けた途端、男女問わず生徒たちの感嘆のざわめきが俺の耳に飛び込んできた。
俺は少しだけ足を止め、魅了されている生徒たちの群れをやり過ごしてから、遠くの騒ぎの中心へと視線を向けた。
そこに、ひときわ優雅に歩いているのは、白川 円香しらかわまどかだった。
彼女の輝く金髪が、春の朝陽を反射している。制服はギャル特有のおしゃれな着こなしに少しアレンジされているが、不思議とだらしなさを感じさせない。
むしろ、その真っ直ぐな姿勢、柔らかな微笑み、そして歩き方は、まるでヨーロッパの貴族の姫君が、たまたま埼玉の高校に通っているかのように見えた。
「まどっち! 今日、放課後に駅前の新しいカフェ寄っていこ! 期間限定のパンケーキがあるらしいよ~!」
白川の腕にぴったりとくっつきながら、ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねているピンク色の髪の女子は、彼女の親友である天海 葵あまみあおいだ。
「ふふふっ。葵ちゃんは朝から甘いもののことばかり考えているのね。でも、いいわ。あなたがそう言うなら、喜んでお供するわね」
白川の声はとても上品だった。その話し方には丁寧な響きがあり、周りの生徒たちの彼女への崇拝をさらに深めている。
「やばい、白川さんマジ天使……」
俺は長いため息をつきながら、校舎に入って上履きに履き替えた。
この学校の連中はみんな、あの女が作り出した幻想に見事に騙されている。
学校一のギャル姫? 貴族のような気品?
誰も知らないのだ――親友である天海でさえも。その優雅な『お姫様』の裏側が、ただの口うるさくて、強引で、母親のコインランドリーの客の文句ばかり言っている普通の女子だということを。
「「「ブーッ、ブーッ」」」
ズボンのポケットの中でスマホが二回振動した。俺は他の生徒の視線がないことを確認してからポケットを探り、スマホの画面を見た。
メッセージアプリからの通知。差出人の名前には【偽ギャル姫】と書かれている。
『宇佐美くん! 今週末も絶対にうちに来てよね! 絶対だよ! 昨日の夜、3番の乾燥機を使ったらまたギシギシ音が鳴ったの……直して、ね? ね? ねっ? その代わり、お母さんが作ったカレーを好きなだけ食べさせてあげるからさ!』
『あ、それから2P用のコントローラーも忘れないでね! 昨日のRPG、絶対にクリアしなきゃいけないんだから!』
感嘆符だらけのメッセージを読んで、俺は少し頭を抱えた。数秒前の彼女の話し方を思い返すと、天海さんの前で見せているあの優雅な話し方とは天と地ほどの差がある。
俺は素早く返信を打ち込んだ。
『3番の乾燥機はモーターのベルトが緩んでるんだよ。先週から、お母さんに新しい部品を買ってもらうように言っただろ?』
『それに、俺はお前に機械の修理をさせられるために友達になったわけじゃない!!』
ほんの数秒でメッセージに『既読』がつき、すぐに彼女からの返信が届いた。
『えー、ひどーい! 私たち、もう友達じゃん! 友達は助け合うものでしょ? だいたい、宇佐美くんが機械の修理が得意すぎるのがいけないんだからね。とにかく、土曜日の朝10時に待ってるから。以上!』
このすべての秘密は、先週末に始まった。俺がたまたまこの町のコインランドリーを訪れたとき、学校が誇る『ギャル姫』が、洗濯機の一つが激しく故障してパニックになっているところに遭遇してしまったのだ。
手入れされていない機械を見るのに耐えられず――ちなみに、何よりも清潔さが第一だ――俺は思わず、直してやると申し出てしまった。
その時から、友達を作らないことを目標としていた俺の平穏な日常は、完全に崩れ去ってしまったのである。




