表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改訂 【 塀の上、綱渡りのハッカーズ 】  作者: 風風風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/93

本編 2

 昼時の、隅田川沿いの遊歩道。ベンチに座る若い男がいる。

 ぶらぶら歩いてきた白髪交じりの中年男が、ベンチの前で立ち止まり、隣に座った。

「俺には、無理でした。すみません」

 気弱そうな、せいぜい二十歳と見える瘦せ型の男が、中年男に謝っている。

「気にするなよ。初めに言ったように、嫌になったら、いつでも辞めて構わないんだ」

「いや、嫌になったという訳じゃ、……」

「兎に角、何も気にしなくていいから」

 中年男の名は、久保という。

「色々お世話になったのに、自分の無能が情けないです。……」

「深刻に考えるなって。また、やる気になったら、連絡してくれ」

「はい」

「困った時でもいい。連絡しろよ」

「はい。ありがとうございます」

「あっ、ところで」

「はい。……」

「あんた、畑仕事なんか、興味ある?」

「いえ、……」

「そっか。あのさ、気が向いた時に、トマトとか大根なんかの世話したりしてくれたら、狭くて不便な所だけど、安心して寝るくらいのことはできる部屋、あるから」

「はい。……」

「何かあったら、そんなこと言ってたオヤジがいたこと、思い出してくれ」

「……」。若者は、黙って頷いた。

 久保は立ち上がり、若者に「じゃあ」というように手を振り、去って行った。


 次に久保が姿を見せたのは、 河川敷の野球場だった。

 外野の芝生に座り、子供たちの練習を眺めている風の二人の男。一人は久保だった。彼らに注意を払う者はいなかった。

「この一年近くで、いくら稼いだ?」。ボソっと、短く久保が言う。

「はぁ、……」

「会社からの給料以外で、ン千万の副収入があったんじゃないのか?」

「ええ、……」

「気を付けることだ。大きな買い物をしたり、派手な身なりをしたり、……」

 二人の、はるか後方を、人が通り過ぎた。久保は話をやめる。

「まぁ、そういう馬鹿はやらないだろうが、知らず知らず、立ち居振る舞いに出てしまうものだ」

「はい。……」

「端した金の揉め事で、命を落とす奴もいる」

「……」

「ましてや、千万単位なら、危険はすぐ近くに潜んでいる」

「はぁ。……」。若い男が、しょげた風に項垂れた。

「公権の目もあれば、闇の目もある、ということを肝に銘じておけ」

「はい」。二十代半ばに見える男が、頷いた。

 彼の名は、真田幸太郎。注意を与えている久保は、下の名を篤志アツシという。

「アツシさんの、言う通りにします」

「『アツシさん』なんて呼ぶな。俺は、お前のケツを拭かんぞ」

「はい。……」

「いつも注意するように、『アッチャン』と呼べ」

「はい、すいません」

「目上のように接するな、と言っているんだ。ダチか、それ以下のように接するように注意しろ。いつも言ってるのに。……」

 真田は、黙って頷くだけにした。

「今やっている仕事は、一時のものだと思え。お天とう様の下を、堂々と歩ける生活を、生涯したいと思うなら、ものには潮時ってものがあるってことも、覚えておけ」

「……」

「今は上手くいってるようでも、どこかで綻びの元が蓄積していると、想定しておくことだ」

 それは、かつてアツシが、太田黒から受けた戒めの言葉だった。

「ことを始める時には、事態の収束の方法と時期も、考えておくことだ」

「はい。……」

「稼いだ額を考えれば、まともな仕事の報酬じゃないことも、分かるはずだ」

「……」

「潮時は近いと、想定していろ」

「はい」

 アツシの観察では、真田は、育ちと環境に恵まれていた。社会人になって、多少は苦労をしているだろう。しかし、言葉は悪いが、所詮はアツシたちの駒にすぎない。駒として使い続けるには、素養に欠ける点がいくつかあった。そうであるならば、彼を真っ当な社会に戻す、段取りを考えておかねばならない。太田黒の指示であり、アツシもそう思っていた。


©2026 [風風風]. All rights reserved.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ