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塀の上、綱渡りのハッカーズ  作者: 風風風


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最終回

平穏な日常は、かつての組織の残滓ではなく、全く別の場所から噴出した地殻変動によって打ち砕かれた。


オフィスに響いたのは、相沢からの震える声だった。「久保さん、金庫から……いえ、当時の『裏のネットワーク』の記録が、全てダークウェブ上に流出しました。それも、ただのデータじゃない。我々が今の生活を維持するために行っている、現行の資金還流ルートまで……すべて」。


久保の背筋に、氷柱が突き刺さるような感覚が走った。かつて太田黒が命を賭して守り切り、久保が「日常」というヴェールで隠蔽したはずのシステムが、何者かの手によって剥き出しにされたのだ。


もはや逃げ場はない。警察の捜査など比較にならない。これは、市場という猛獣に餌をやり続けてきた「飼育員」たちが、餌を奪われた猛獣そのものから報復を受けるという宣告に等しい。


久保は書斎の隠し棚を開け、あの日、シュレッダーにかけることを躊躇し、唯一手元に残していた「二通目の封筒」を取り出した。震える指で封を切る。そこには、太田黒の筆跡で、彼が最期まで隠し通した「真実」が記されていた。


『久保へ。権限をすべて、次の世代の首領に譲れ。お前は、手紙を二通書け。そして、それぞれを封筒に入れろ』とだけ、記されていた。


久保は、モニターに映る相沢の焦燥しきった顔を見た。彼らは、もう戻れないところまで来ている。太田黒は最期まで、久保を試していたのだ。塔という物理的な箱から解放してもなお、彼自身の哲学という牢獄から逃がすつもりなどなかった。


「……相沢、後は任せたぞ」


久保は呟いた。その声は驚くほど冷静だった。彼は便せんを折りたたみ、ライターの火を近づける。青い炎が太田黒の筆跡を舐め、灰へと変えていく。


久保はオフィスの照明を消した。外の街並みは、相変わらず平和な夜景を見せている。


数日後、警察に一通の手紙が届いた。太田黒からのものだった。

「金庫のカギは、関東近郊にある、牛舎と養豚場と有機栽培を育てている農園の、牛糞を貯めて肥料を作る為の小山の中に捨てた。探せるものなら、探してみろ」


太田黒は、組織にも連絡を入れていた。

「全員、撤収」

                                            (完)

©2026 [風風風]. All rights reserved.


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