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超機械生命体アストライア  作者: 獅子王子(元桂ヒナギク)


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44/44

44.有栖がアテナでアテナが有栖で

 地球より遥か彼方の惑星マゼリア。

 かじき座の方角16万光年先の大マゼラン雲に位置する星である。

 マゼリアの生命には恐ろしい能力があった。

 彼らは生物の細胞に入り込み支配をする。

 グループで生命のいる星に突入し、その星の生命体を乗っ取って繁殖活動を行なっていた。

 今、マゼリアが地球を発見し、生命の探索を開始した。

 地上に降りると、たくさんの生命が生息していた。

 マゼリア人のアテナは、単独行動をする女性を狙い、その体に侵入する。

 女性は疑問の表情を浮かべた。

 そして、ニヤリと笑みを浮かべる。

 女性は思った。

(私、なんで笑ってるんだろう?)

 女性は歩き出した。

(足が勝手に? そうか、私は夢を見ているのか)

 女性はマゼリア語で呟いた。

「まずは番(つがい)を捜さないとね」

(……? 外国語かしら)

 女性は人通りの多い場所へと向かう。

「うーん、誰を選ぼうかしら」

 女性はすれ違う男性たちの品定めをしていた。

 男性たちは不審に思い、自ら離れていく。

(私何やってんだろう?)

「有栖さん」

 背後から女性にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。

(今の恭子の声よね?)

「有栖さん!」

 背後から大きな声。

「……?」

 女性、もとい有栖は振り返った。

 その先には、端正な顔立ちをした白銀の長髪の女性が立っている。

 服装はどこかの制服のようなものだ。

「有栖さん、約束すっぽかしてどこへ行こうっていうのよ」

(約束……? あ! って、これは夢よ?)

「それより、警察官が不審な行動をしちゃダメじゃない」

(夢だから)

「で、何してたの?」

 女性の問いに有栖はキョトンとしていた。

「有栖さん?」

(恭子、こっちの私は外国人の設定なのよ)

 恭子というらしい女性に有栖は言った。

「何を喋っているかわからない」

 恭子は真面目な顔をしてマゼリア語で答える。

「お前は誰だ?」

「……!? アテナよ」

「マゼリア語を話すと言うことは、マゼリア星人か?」

「そうよ。あなたもそうでしょ?」

「……。ええ、そうよ」

「仲間に会えてよかったわ。私、今は繁殖のために番になる相手を探してるの。あなたは?」

「番?……ああ、一人だけいるわ」

「そっか。もう見つけてあるのね。ところで、さっきの言葉の意味がわからないんだけど、あなたこの星の言葉に詳しいの?」

 有栖は思った。

(何を喋ってるんだろう? ちょっと気になるわ)

「半年くらいはいるわよ」

「そうなんだ。名前は?」

「……アリス」

「そっか。アリス先輩、私にこの星の言語を教えて?」

「そのぐらい私が通訳してあげるわよ」

「さすが先輩! 頼りになるわ!」

 その時、恭子のポケットから着信音が鳴り響いた。

 恭子はポケットからスマホを取り出して応答する。

「今川さん、どうしたの?」

 もちろん日本語だ。

「アリスさん、有栖……いや、由美さんに忘れ物を届けたいんだけど」

「忘れ物? わかった。取りに行くわ」

 恭子はスマホをしまい、転移装置を取り出した。

「アテナ、一緒に来て」

 恭子はアテナを路地裏に誘い込む。

 転移装置で二人で新宿北交番に飛んだ。

「今川さん、忘れ物って何?」

「アリスさん。あ……本人も連れて来たんですね」

「いや、この子はただのそっくりさんよ」

「へ?」

「マゼリア星ってところから来たみたいよ。私も詳しくは知らないんだけど」

 その様子を俯瞰していた有栖の意識は思った。

(へえ。私、宇宙人になった夢を見てるのね)

「これ」

 春人は有栖の忘れ物である車の鍵を恭子に渡した。

「それ、由美さんに届けてあげて」

「わかった」

 恭子は有栖と共に有栖の家へ飛んだ。

 チャイムを鳴らすが、有栖は出てこない。

 恭子はスマホで有栖への連絡を試みる。

 しかし。

「この電話は電波の届かないところにあるか、電源が入っていないためお繋ぎできません」

 と、電子音声によるガイダンスが流れる。

「しょうがない。郵便受けに入れとこ」

 恭子は郵便受けに車の鍵を突っ込んだ。

(私、留守なんだ……。私?)

「有栖さん、どこに行っちゃったのかしら……」

 恭子は小さく呟いた。

(本当ね。どこに行っちゃったのかしら)

「アテナ。言葉がわからないと何かと不便でしょ? 私のところに来なさい」

「ありがとう、アリス先輩」

 恭子と有栖は公務員官舎を出た。

(夢なのに細部まで忠実に再現されてるのね)

 ティン……リーニアの通知。

 光一からのメッセージだ。

 新宿駅前に怪獣が現れたとのことだ。

 駅の方角を見ると、確かに怪獣の頭が見える。

「アリス先輩、あの巨大生物は?」

「怪獣よ。ここ最近、よく出るのよ」

「怪獣?」

「いい? アテナ。危険だからここから動いちゃダメよ」

 恭子はそう言ってブレスレットを操作してアストライアに変身した。

(恭子がアストライアに変身した? 夢ってもうなんでもありね)

 アストライアは怪獣に向かって飛び立つと、巨大化して飛び蹴りを浴びせた。

 怯む怪獣に容赦なく乱打を叩き込むアストライア。

 怪獣を圧倒し、トドメのヴァルシアブラストで爆破した。

 アストライアは光に包まれると、恭子として有栖の前に降り立った。

「アリス先輩、すごいね。私、感動しちゃった」

「アストライアって言うの」

「アストライア。なんだか神々(こうごう)しさを感じるわ」

「さあ、行きましょう」

 恭子は有栖を自宅に連れ帰った。

「アリス先輩、その部屋はなに?」

 有栖は脱衣所の先の浴室を指差した。

「お風呂だけど。入る?」

「いいの?」

「いいわよ。タオル用意するわね」

 有栖は脱衣所に入ると、浴室のシャワーを見て疑問符を浮かべた。

「シャワーが気になるの?」

「シャワー? マゼリアには湯船しかないわ」

 有栖はそう言いながら服を脱ぐ。

 すると重量のある何かが床に当たって音を立てた。

「……?」

 恭子が有栖の服を調べると、警察手帳が出て来た。

「アテナ、これはどうしたの?」

 警察手帳は有栖のものだ。

「知らないわ」

「あなたの服から出て来たのよ。知らないわけないでしょ?」

「知らないの。本当に」

 恭子はリビングへ行き、スマホを取り出して春人に電話をかけた。

「今川さん、お願いあるんだけど、新宿北署からの有栖さんの足取りを防カメで追ってくれないかしら」

「由美さんに何かあったの?」

「うん、ちょっとね」

「わかった。調べてみるよ」

 春人が大急ぎで有栖の足取りを調べた。

 結果がわかるまでの間、恭子は有栖から事情を伺う。

「それじゃあ、その体は有栖さんのもので、あなたは有栖さんに入り込んだマゼリア人のアテナってことね?」

「はい」

「なんで入り込んだの?」

「子孫を残すため。マゼリア人は他の生命の体に入り込まないと子どもが産めないの。同じマゼリア人なら知ってるでしょ?」

「ごめん。私はマゼリア人じゃなくてヴァルシア人なんだ。ただ言葉を知ってるだけ」

「そんな!?」

 有栖はショックを受けた。

「アリス先輩のこと憧れてたのに……」

(私、ショックを受けたみたいだけど、相変わらず何を喋ってるかわからないわ)

「騙すつもりはなかったのよ。ただ正体を知られるとって思って。それに私、アテナと有栖さんが同一個体だって疑ってたから。まあ……とりあえず、事情はわかったわ。有栖さんを返してくれる?」

「でも繁殖は?」

「繁殖に拘る理由は?」

「繁殖をしないと種としての存続が途絶えてしまうわ。マゼリアが滅んでしまうの」

「……………………」

「だからこの体から出るわけにはいかないわ」

「……一つだけ解決方法があるわ」

「え?」

「倫理的にどうかはわからないけど、その体の複製を作る。その複製の中に入ればいいわ」

「そんなことできるの?」

「ヴァルシアの科学力ならできるわ。ヴァルシアに行きましょう」

 恭子は有栖をヴァルシアに同行させた。

 ヴァルシア有機体研究所で、研究員に恭子は相談をする。

 研究員は二つ返事で了承し、有栖の体を複製した。

 皮膚組織。

 脂肪。

 筋肉。

 内臓。

 血液。

 骨。

 脳。

 全てが完全にコピーされていた。

「これに入れば、有栖さんを自由にできるし、アテナも子孫を残せるはずよ」

 有栖の体内からアテナの本体が出てくる。

 その姿は細身の人型で、陰部がなかった。

(体から何か出て来たよ?)

 有栖は脱力して倒れ、顔面を床にぶつけた。

「痛!?」

 アテナは有栖のクローンの体に入り込んだ。

 むくりと起き上がるアテナ。

「ごめん」

 恭子は有栖の頸に手刀を当てて気絶させ、アテナと共に地球へと帰還した。

 その後、有栖は自宅のベッドの上で目を覚ました。

「夢……だよね? すごくリアルな夢だったわ」

 何も知らないということが究極の幸せなのかもしれなかった。

 一方で、春人は有栖の足取りを捜査していた。

 それを思い出した恭子は思った。

 防カメの件をすっかり忘れていた、と。


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